ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第八十九話です。




第八十九話 ※

 

 

「天羽々斬、オートスコアラー・ファラとの戦闘を開始しました! …救援が到着するまではおよそ半時間です。司令、翼さんへの指示をお願いします」

 

「司令、クリスちゃん達からも報告が。施設内にてガリィによるものと思われる破壊痕を複数発見したようです」

 

「そうか。 クリス君達は引き続き捜索を、翼には慎重に対応するようにと伝えてくれ」

 

「「はい」」

 

 S.O.N.G.本部司令室は現在、各所で対応している装者達からの報告が次々に届いていた。その中で最も早く戦端が開かれたのは翼がいる風鳴邸であり、弦十郎は既にマリアを救援に向かわせるなどの対応を行っていた。

 

「弦十郎さん、翼さんは…」

 

「なーに心配するな! この程度の逆境、あいつはきっと乗り越えてみせるさ」

 

「…そう、ですよね! 翼さんなら、きっと…!」

 

「ああ、そうだ(不安要素はあの剣に施されていると思われる手品( ・・)の種が不明な事か…翼、頼むから無理だけはしてくれるなよ!)」

 

 不安気にモニターを見つめるエルフナインを安心させるため声を掛ける弦十郎だったが、彼は内心では翼が苦戦する事を予感していた。そして、残念ながらその予感が正しかった事はすぐに証明される事となってしまうのだった…。

 

 

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「(はああああっ!!!)」

 

「あら、勇ましいのね。切り札無しでは勝てない事を貴方自身が一番分かっているでしょうに…」

 

「(…否定はしない。だが私の剣を粉砕した手品の種が分からぬ以上、迂闊にモジュールを起動するわけには…!)」

 

 翼とファラの戦い…その序盤は果敢に攻め続ける翼に対し、それを軽々といなすファラという形だった。しかし明らかに実力差を感じる翼が何故イグナイトモジュールを起動しないのか…それには二つの理由があった。

 

 一つ…ファラの手品によって剣が粉砕される理由が不明であるため、それが判明するまでは時間制限のあるイグナイトを迂闊に起動できない事。

 

 二つ…救援が駆け付けるまで司令部から慎重に戦うように指示が出されているため。

 

 …という二つの理由により、翼は戦いを慎重に運ばざるを得なかったのである。…とはいえ救援が到着するのはおよそ半時間後であり、ファラを相手にそれだけの時間を稼ぐことが現実的ではない事にも翼は気付いていた。

 

「…装者と戦闘を行う際に困るのは、貴方達が歌っている間は会話ができない事ね。…私の手品を警戒している事くらいは分かるのだけれど、それだけなのかしら?」

 

「(マリアの到着を待つのは現実的では無い…つまり今、私がすべき事は手品の種を見破り憂いなくモジュールを起動できる状況に持ち込む事!)」

 

 ファラへの攻勢を強めながら翼が出した結論は、最大の一撃を繰り出すために必須であるイグナイト状態へ移行するための道筋を作る事だった。そのためにはまず、彼女の手品を見破る事が必須であり、翼は戦闘を続けながらそのための方法を模索していた。

 

「…一人で話し続けるのも寂しいですし、そろそろこちらも攻めさせてもらいましょうか」

 

「(っ!?――来るっ!)」

 

 翼が思考を続ける中、遂にオートスコアラー・ファラが動き出す。彼女は剣をその場で構える…事はせず、何故か翼に向けて手を翳した。すると…。

 

「まずは機動力を奪わせてもらいますね(ガリィちゃん、貴方が最後だからと限界まで注いでくれた想い出…贅沢に使わせてもらうわ)」

 

「っ!?(竜巻が、私を囲むように…!?)」

 

 突如、翼の周囲に六つの竜巻が発生する。それを発生させたのは勿論ファラであり、彼女は翼の逃げ道を塞ぐように竜巻を展開するのだった。

 

「ふふ、退路を塞がれた貴方に残された道は前進のみとなりましたが…どういたしますか?」

 

「これ程の力をまだ隠し持っていたとは…!?」

 

 自身の周囲を竜巻が塞ぐという衝撃的な光景に翼は歌う事も忘れ驚愕していたが、それに対しファラは余裕綽々といった様子で翼の出方を伺っていた。

 

「別に隠していたわけではないのだけれど…私は余り戦闘に参加していませんでしたから、結果的にそうなってしまったわね」

 

「くっ…ならば!(どうやら覚悟を決めなければいけないようだな)」

 

「あら、ようやくその気になってくれたのかしら? それではこちらは迎え撃たせて頂きましょうか」

 

 退路を塞がれた翼は覚悟を決めたかのような表情でファラに向けて構えを取る。それを迎え撃とうとファラも構えを取り、僅かな静寂の後…

 

「~♪(絡繰りさえ分かればモジュールを使い、奴を討ち果たせるはず! 故に、この一撃でそれを見破る!)」

 

「…以前よりも更に鋭くなっているようね。さて、貴方の研ぎ澄まされた刃は私に届くのでしょうか」

 

 翼は歌い始める。そして…。

 

 

「(はあああああっ!!!)」

 

 

「…ソードブレイカー」

 

 

 翼が選択した剣技…それは『風輪火斬』であった。彼女は剣に炎を纏わせ、目前の敵を討ち果たさんと疾走する。

 

 

 そして次の瞬間、両者の剣が甲高い音を立て激突した。

 

 

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「なんだ、あれは…!?」

 

「…恐らくオートスコアラーによるものでしょう。ガリィさんが水を支配するのと同様に、彼女が風を使うことが出来てもおかしくはありません」

 

 翼の父・八紘を避難させるため戦場から離脱していた緒川の視線の先には、突如上空に現れた複数の竜巻が見えていた。

 

「慎次、翼は…」

 

「…今は避難を急ぎましょう」

 

 翼が窮地に陥っている可能性も考えられたが、慎次はまず八紘を避難させてから彼女の救援に向かうことにしたようだ。

 

 

「――慎次、私は戻る」

 

 

「そちらに車を待たせ――――――えっ?」

 

 

 しかし次の瞬間、慎次は信じられない光景を見て思考が停止してしまう。なんと…八紘が屋敷の方へと走り出してしまったのである。

 

「…(私に翼の父を名乗る資格など無い…だが、それでも今動かなければ翼は…!)」

 

「――お、お待ちください! そちらは危険です、避難を!」

 

「断るっ!!!」

 

「っ!?」

 

 八紘が走り出した後、思考停止から復活した緒川が慌てて彼を制止するのだが…最早彼には止まる気など一切無く、更に速度を上げ屋敷への道を走り続けるのだった。

 

 

 風鳴翼、ファラ・スユーフ、そして風鳴八紘…これより僅かに後、遂に役者は揃う事となる。その時…翼に絡み付いた呪縛を断ち切り、彼女は大空に羽ばたく事となるのだろうか。結末は果たして…。

 

 

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「くっ…(またしても私の剣が…いや、私自身が砕かれるとは…!)」

 

「ふふ、当然の結果ですわ。私の手品の前では、貴方がいくら心の刃を研ぎ澄ませようと無駄な事…」

 

「…(結局絡繰りは分からぬまま…ならば、残された手は一つ!)」

 

 翼とファラ…両者による剣技の激突の結果は、以前と同様に翼の剣が粉々に砕かれるというものだった。倒れ伏す翼に残された手は一つ…イグナイトモジュールを起動し、最大火力でファラを斬り伏せるのみだった。

 

 最早彼女の心を支えているのは切り札が残っているという想いのみであり、彼女はそれに縋りつくかのようにギアペンダントに手を伸ばす。しかし…。

 

 

 

「良いのですか? 呪いを纏った所で、貴方の剣は絶対に届きませんわよ」

 

 

 

 翼がペンダントに手を掛けると同時に、ファラは彼女に無慈悲な現実を突き付けた。

 

「――なんだと…?」

 

「哲学兵装、という言葉を剣ちゃんはご存じかしら?」

 

「哲学、兵装だと…?」

 

 ファラの挑発的とも取れる言葉を聞き、反射的に言葉を返す翼。そしてファラは遂に、手品の種を明かし始めるのだった…。

 

「…知らないみたいね。哲学兵装…それは貴方達のシンフォギアのような歌の力を宿しているものではなく、言葉の力を宿している兵装の事を指すのよ」

 

「言葉の、力…」

 

『言葉の力』…簡単に言えば人々の信じる心や思い込みから発生する力である。そしてその力が積み重なる事で不思議な能力を宿したものが哲学兵装…ファラのソードブレイカーもその一つだった。

 

「…例えばそうね、多くの人に『この盾はどれ程強力な矢でも貫く事はできない』と信じられていた盾があったとしましょう。そして盾の逸話が数十年、数百年と消失せず受け継がれて行き――いつの日かその盾には言葉の力が宿り…矢と定義されるものに対する絶対的な防御の加護を得ていた。…というおとぎ話のような事象が現実に起こる事があるのです」

 

 何故かトドメを刺さず懇切丁寧な説明を続けるファラなのだが、実は彼女の目的は時間稼ぎである。彼女はとある人間の到着を待ちわびており、内心では必死で時間配分を計算していた。⦅なお、待ち人が来なかった場合はガリィの考えたプランBに移行する予定である⦆

 

「それが哲学兵装…っ!――まさか、貴様の持つ剣は!?」

 

「ええ、私の持つ剣殺し…ソードブレイカーは剣と定義される物に対して絶対的な破壊の力を得ている。故に、呪いを纏ったところで貴方の剣は私に届く事は絶対に無いのです(今の内にプランBに移った場合のシミュレーションをしておかなくちゃ…!⦅使命感⦆)」

 

 翼が纏うシンフォギア…天羽々斬は斬撃を主体としているが、それだけならばファラに勝利する事はできないまでも対抗する事は可能だろう。しかし、本当に致命的なのは彼女が自分自身の在り方を剣と定めている事だった。

 

 ファラの持つソードブレイカーは剣と定義されたものに対し無敵に近い戦闘力を発揮することができるのだ。つまりそれは、自身を剣と定義している翼の攻撃に対しても絶対的な力を持つという事である。

 

「――――」

 

「貴方の闘志は鋭く、まるで剣そのものだと錯覚するほどに研ぎ澄まされていました。ですが、その事が結果的に貴方の敗北を決定付ける要因となったのです」

 

 自身の剣が砕かれた理由を知り呆然とする翼だがそれも仕方ないだろう。何故なら、ファラの言葉を簡単にすれば『剣である事を止めない限り、貴方の剣は届く事は無い』という事なのだから…。

 

「…(夢を捨てた私に唯一残されたもの…それが無駄だと…捨てろと、言うのか…?)」

 

「…少々お喋りが過ぎましたわね。これで終わりとしま――(時間切れね…プランBに移行しましょう)」

 

 顔を俯かせたまま震えている翼を見下ろし、ファラはこれ以上の引き延ばしは不可能だと判断した。そして彼女はプランBに移行するために動き出すのだが…次の瞬間、予想外な事態が起こったのである。

 

 

 

「…ふざけるな」

 

 

「…? 何か言ったかしら?」

 

 プランBの事ばかり考えていたファラは、翼が小さく呟いた言葉を聞き逃した。そして…。

 

 

 

「ふざけるなっ!!! 私は…私は夢を、奏から受け継いだ歌を捨てたのだ…なのに、それさえも否定されてしまった私に…私が存在する意味など…!」

 

 

 

「っ!? 剣ちゃん、いきなり何を…?」

 

 

 次の瞬間、風鳴翼は悲痛な叫びを上げた。両目から大粒の涙を流し続ける彼女を確認したファラは、事態が予想外の方向に向かった事に気付き近寄るのだが…それは逆効果だったようだ。

 

 

「い、嫌だ…! これ以上私から奪わないで!私は…うああああああっ!!!」

 

 

「っ!?」

 

 ファラが近寄った事で翼は発狂し、涙を流しながら上空へと跳躍する。そして次の瞬間にファラが見た光景…それは自身に高速で迫る巨大な剣と、それを蹴り下ろす翼の姿であった。

 

 

 

 

 ファラにとって想定外の事態が起こった理由は三つ…翼の精神がこの場所、風鳴邸に訪れた事で不安定になっていた事。以前ファラに剣を砕かれた際の心的ダメージが残っていた上で無慈悲な現実を突き付けられた事。そして…。

 

 

『お前が娘であるものか…どこまでも穢れた風鳴の道具に過ぎん』

 

 

 それでも認められたいと願った結果…道具にすらなれない事に気付いた…いや、気付かされたことだった。

 

 

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「(…そうか)」

 

 倒れ伏す翼は、自身の末路を悟っていた。

 

「(私は、負けたのか…)」

 

 そう、自身の剣が…彼女の全てが敗北したことを悟ったのだ。

 

「諦めは、ついたかしら?(つい反射的に迎撃してしまいました、ソードブレイカーで…⦅白目⦆)」

 

「…ああ、全てを砕かれた私には何も残されていない」

 

 翼の目は、完全に死んでいた。それを確認したファラは自身が致命的な失態を犯した事に気付いたが、本心を曝け出すわけにもいかず表面上は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「…そう(た、助けてガリィちゃん! この状況を覆す策を私に授けてお願い!⦅届かぬ願い⦆)」

 

「…皆、済まない…私はどこまでも中途半端で、弱い人間だったようだ…」

 

「…(と、とりあえず剣ちゃんを気絶させてこの場を離れましょう! そして他の装者に破壊をお願いしに行くのよ!⦅大混乱⦆)」

 

 内心とは裏腹に、表面上は無表情のままゆっくりと翼へと近付いて行くファラ。そして、彼女は翼を気絶させるため武器を――

 

 

 

「待てっ!!!」

 

 

 

 振り上げようとした時、それは起こった。

 

「っ…貴方は…?」

 

「お止めください!」

 

「どけっ…!」

 

 彼は制止する緒川を押しのけ、翼の前で両手を広げ仁王立ちの恰好を取った。そして…。

 

 

 

「貴様にはこれ以上、私の娘には指一本触れさせん!!!」

 

 

 

「――おとう、さま…?」

 

 

 

 凄まじい怒気を放ちながら彼は…風鳴八紘はそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

「…そう。わざわざ死地に赴いて来るなんて貴方、娘さんが余程大切なのね」

 

(や、やった…間に合ってくれたわ! ガリィちゃん、ありがとう…!⦅ヘブン状態⦆)

 

 

 なお、土壇場で待ち人が現れた事でファラの内心はなんだかすごい事になっていた模様⦅遠い目⦆ 何故かガリィへ感謝をしている時点でその混乱ぶりは伺えるのだが、彼女は果たして当初の目的を果たす事ができるのだろうか…⦅不安⦆

 

 





プランBってなんだよ⦅真顔⦆

※火矢威 様よりまたも支援絵を頂きました!ありがとうございます!
今回はキャロルの食事を見守るガリィちゃんの様子を描いて頂けたとの事です!


【挿絵表示】


これは新規の人を騙せそう…じゃなくて呼び込めそうな素晴らしいイラストですね⦅満面の笑み⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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