ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第九十一話です。




第九十一話

 

 

「突如通信妨害が解除されました! これは…イ、イグナイトモジュールの起動を確認!」

 

「翼さんのバイタル、安定しています。 これよりセーフティダウンまでのカウントダウンを開始します!」

 

 S.O.N.G.本部潜水艦内、司令室…そこは現在、ファラによって妨害されていた電子機器による映像と音声がようやく回復し、オペレーターの二人が慌てた様子で現状を報告していた。

 

「…ふむ(敵は何故、翼に止めを刺さず通信妨害を…? それに、翼の気配が先程までとは明らかに変化している)」

 

 弦十郎はモニターに映る映像の不可解さに困惑していた。彼が困惑する理由の一つ、それはファラが翼に止めを刺す時間は十分にあったにも関わらず、翼が依然健在な事である。

 

 そしてもう一つ…それは翼の雰囲気が、気配が明らかに変化している事だった。

 

「…まさか、彼女の目的は翼を…(俺はこの変化に覚えがある…そうだ、これは切歌君に調君…そしてマリア君と同じ…!)」

 

 弦十郎はこの感覚に覚えがあった。そう、これまでガリィコーチにより強化された装者達を見たものと同じだったのである。

 

「っ! 天羽々斬、オートスコアラーとの戦闘を開始しました!」

 

「そうか、翼の通信機に繋いでくれ」

 

「了解です――通信、繋がりました」

 

 色々な思考を重ね、やがて弦十郎はその答えを翼へと伝える。その答えとは…。

 

 

「翼…今の状況は俺達よりお前の方が理解しているだろう、故に俺からは一つだけだ。 後の事は心配せず、お前の好きに戦って来い! 以上!」

 

 

 その答えとは、翼に全てを託すこと。 弦十郎がこの答えを選んだ理由…それは相性最悪な相手を前にして尚、翼の雰囲気にナニカを感じたからだった。

 

 

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「(何故だ…?)」

 

 イグナイトモジュールを起動した風鳴翼、彼女は今…困惑していた。

 

「(何故、動かない…?)」

 

 その理由…それは、彼女の視線の先に立つ敵が突然動きを止め無防備な姿を晒した事にあった。これに翼は困惑し、その意図が分からず攻めあぐねていたのである。

 

「(攻める好機である事は分かっている、だが…!)」

 

 そして翼が動けない理由はもう一つ存在した。それは…。

 

「(あの目…あの爛々と輝く視線が私の本能に警鐘を鳴らしている! 決して近付いてはならぬ、危険であると…!)」

 

 翼を真っ直ぐに見つめ、爛々と輝く目…それが翼の足を地面に縫い付けていたのだった。なお、翼が危険を感じているのはある意味では正解な模様⦅遠い目⦆

 

 

「………」

 

 

「(くっ、背筋に悪寒を感じる…これがオートスコアラーの本当の力だというのか…!)」

 

 

 それから十秒ほど経ってもファラは動かず、彼女の視線を受け止めている翼の頬には冷や汗が流れていた。…ちなみに今、翼が斬りかかればすぐに決着は付く模様⦅悲しみ⦆

 

『翼…今の状況は俺達よりお前の方が理解しているだろう、故に俺からは一つだけだ。 後の事は心配せず、お前の好きに戦って来い! 以上!』

 

「っ…! 了解しました!(そうだ、怖気づいている場合では無い! これが罠であるならば真正面から食い破るまで!)」

 

 

 

『コツンっ』

 

「――――はっ、私は何…を!?」

 

 硬直する戦場を動かしたのは本部から翼へと届けられた激励、そしてファラの後頭部に当たったナニカであった。

 その衝撃⦅人形なので痛みは無い⦆によりどうにか意識を取り戻したファラだったが…。

 

 

「(推して参る!!)」

 

 

「っ!?」

 

 

 意識を取り戻してから彼女が最初に見た光景…それはこちらへと向かい突撃する翼の姿だった。

 

 

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≪起きなさいよこのアイドルオタクっ!⦅憤怒⦆≫

 

(ファラ姉さんまさかの棒立ちィ!⦅白目⦆⦆)

(し、死んでる…⦅遠い目⦆)

(でも翼さんも動いてないんだけど…一体どうなってるのさこの状況…?)

 

 ガリィの視線の先には棒立ちで目だけを爛々と輝かせている仲間、そして何故か隙だらけの相手に攻撃を加えない装者の姿が映っていた。そして次の瞬間、ガリィは躊躇無くファラの後頭部に小さな氷塊をぶつけるのだった。

 

≪…あっ、立ち直った。 …それじゃ計画通り、タイミングを見てファラちゃんを回収した後に帰還するわよ⦅真顔⦆≫

 

(ここでガリィ、今見た光景を華麗にスルー)

(…多分だけど、歌の威力⦅意味深⦆に耐えられなかったんだろうなぁ…⦅遠い目⦆)

(ファラ姉さん、翼さんの歌が大好きだから…⦅遠い目⦆)

 

 ファラが意識を取り戻した事を確認したガリィは、計画を実行するため動き出した。なお先程の光景は見なかった事にした模様。

 

≪まずは翼ちゃんがどれくらい強くなったのかを確認するわよ。 …アタシを唸らせる程のものだといいんだけど、流石にそれは望み薄かしら?≫

 

 何故か上から目線のガリィだがこの後、翼の力を見た彼女が唸る事は無かった。…何故なら唸る余裕すらない程のとんでもないものを見せられるからである。その時は、近い…⦅悲しみ⦆

 

 

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「っ!? くっ…!(突然剣ちゃんが目の前に…!? な、何が起こっているの!?)」

 

「…!(なっ、二刀流だと!?)」

 

 ファラへと斬り掛かった翼の初撃は二本の剣( ・・・・)によって受け止められ、彼女に届くことは無かった。そう、二本…ファラはソードブレイカーをもう一本隠し持っていたのである。

 

「…ふふ、それで私を斬り伏せる事ができると思いましたか?(これ程近くで翼ちゃんの歌声を聴けるなんて…⦅感動⦆)」

 

「(先程の姿は私を誘い込むための罠だったという事か! だが、今の私ならば!)」

 

 お互いの剣がぶつかり、鍔迫り合いの形になった翼とファラ。しかしファラの力に押し負けていた以前とは違い、今の翼にはかなりの余裕が残っていた。そして…。

 

「(はああああっ!!)」

 

「っ!? 押し負けている、ですって…!?」

 

 二本目のソードブレイカーを投入したにも関わらず、ファラは翼のパワーを受け止める事ができずに徐々に押し込まれ始めていた。このままでは押し切られる事は必至…そう判断したファラは、躊躇無く自身の剣に施されている能力を起動した。

 

剣殺し( ソードブレイカー)…!」

 

「(剣が…!?)」

 

 ファラが剣殺しの能力を起動した瞬間、翼の剣にゆっくりと(・・・・・ )亀裂が走り始める。その光景を見せられた翼は一旦ファラから距離を取り、両者は再び睨み合いの状態となるのだった。

 

「…驚きましたわ、先程までとは力も、速度までもが段違いですのね(ああ…歌が遠くへ行ってしまいました…⦅悲しみ⦆)」

 

「…私の剣を簡単に破壊しておいてよく言うものだ(あの能力を突破する事が私の勝利に繋がる…ならば私が取る手段は一つ!)」

 

 大きく跳ね上がった翼の身体能力に驚くファラ。それに対し翼は、内心で一つの決意を固めていた。その決意とは…。

 

「っ!? そう、まだ諦めていないのね…ならば貴方の心が折れるまで、何度でもその剣を砕いて差し上げましょう(そう…私の剣殺しを突破できない以上、貴方に勝機は無いのです)」

 

「…剣砕けども、我が心は砕けず! 何十何百何千の剣が砕けようとも、再び立ち上がって見せよう!」

 

 翼が決意したもの…それは剣が、自身が何度砕かれようとも攻め続ける事だった。先程までの彼女であれば、剣が砕かれるのは全てを失う事に等しいものだった…しかし今の彼女には友から、そして父から授けられた翼が存在している。故に彼女は剣を、自身を何度砕かれても立ち上がることが出来るのだ。

 

「そうですか。でしたら私は何千、何万と剣を砕き貴方を地に伏せさせて見せましょう。ファラ・スユーフ、参ります!」

 

「いざ、勝負! ~♪」

 

 闘志を露にする翼に対し、それを捻じ伏せると豪語するファラ。そして翼は再び旋律を奏で、それを合図に両者は激突した。

 

 

 

「(はぁっ!)」

 

「(全く、馬鹿げた手数ね…!) 剣殺し( ソードブレイカー)!」

 

 その後の展開は…攻める翼、防ぐファラという図式だった。力と速度で上回る翼が遠距離から無数の剣刃⦅千の落涙⦆を放てば、ファラがそれを剣殺しで相殺する。しかしその差は徐々に表面化し始めており…。

 

「(これで終わりと思わないでもらおうか!)」

 

「追撃っ!? ですがっ!」

 

 ファラが無数の剣刃を全て砕いた隙を狙い、翼が巨大な剣刃⦅蒼ノ一閃⦆で追撃を放つ。それを見たファラは剣殺しの再起動は間に合わないと判断し、竜巻をぶつける事で相殺を狙うのだった。その結果は…。

 

「(今が好機っ!)」

 

「馬鹿なっ!? くぅっ!」

 

 その結果はファラの竜巻が全て巨大な剣刃に薙ぎ払われるという一方的な結果だった。それを確認した瞬間、慌てて回避行動に移るファラだったが、当然その隙を逃す彼女では無い。

 

「(覚悟っ!)」

 

「っ!? 砕きなさいっ!(速度が、そして力が違い過ぎる…!翼ちゃんの歌を聴く余裕が全く無い程に…!)」

 

 回避したことで態勢を崩したファラに翼の追撃が襲い掛かる。彼女は脚部からブレードを形成し、空中で身体を半回転させ逆立ちのような態勢を取る。そしてそのまま横回転をしながらファラへと襲い掛かったのだった⦅逆羅刹⦆

 

「(くっ、僅かに届かないか!)」

 

「見事な流れですが、防ぎ切りましたわよ!(剣殺しが無ければ相手にすらならない程の力量差ね…まさかこれ程のものだとは夢にも思わなかったわ…!)」

 

 襲い来る刃に対しファラは再び剣殺しを起動させ、間一髪翼の脚部ブレードを粉々に破壊する。そして、自身の攻撃が届かなかった事を確認した翼は少し悔しそうな表情で後方へと下がるのだった。

 

「確かに貴方の力には驚くべきものがありますが…しかし私にこの剣殺しがある限り、貴方の剣が私に届く事はあり得ません(そう、貴方が自身を剣と定める限り私の敗北はありえません…つまりそれは、まだまだ貴方の歌を堪能する事が出来るという事…!⦅迫真⦆)」

 

「…確かに貴様の言う通りなのだろう。 だが先程も言ったはずだ、どれだけ剣を砕かれようとも私の心が砕ける事は無いと! ~♪」

 

 再び睨み合う形となった事で両者は僅かに言葉を交わすものの、すぐに翼は旋律を奏で再び剣を構える。対するファラもそれを察して再び構えを取るのだった。

 

「(手数を増やしても全て砕かれてしまう…ならば、この一撃に全てを乗せて切り伏せる!)」

 

 攻撃を重ねても対応されてしまうと考えた翼は、最大威力の一撃を繰り出す事を決断する。そして彼女が選んだ剣技とは…。

 

「っ…青い炎、ですか? その剣技、以前見せて頂いた事がありましたわね(確か、高速で接近しながら繰り出す斬撃だったかしら…今の翼ちゃんの能力を考えると真面に受け止めれば終わるわね)」

 

「(風輪火斬・月煌…! この技を選択したのは私の意地!それだけだ!)」

 

 剣を構えるファラが見たもの…それは翼が青き炎を纏う姿だった。そう、翼が選んだ剣技は『風輪火斬・月煌』…そう、以前ファラと相対した際に繰り出しいとも容易く砕かれた剣技である。その技を翼が敢えて選んだ理由、それは語らずとも良いだろう。

 

「…剣殺し( ソードブレイカー)

 

 真面に受け止める事はできないと判断したファラは即座に剣殺しを展開する事を決断する。そして次の瞬間、青き炎を纏う翼はファラに向けて突撃を開始した。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!(奏、お父様…そして皆、私にどうか力を!)」

 

 

「来なさ…っ!?」

 

 

 迫り来る翼を迎撃するため、二振りの剣を構えるファラ。しかしその姿を見た彼女は、そこにあり得ないものを見た、いや見てしまった。

 

 

「幻覚…? っ!とにかく迎撃を!剣殺し( ソードブレイカー)!」

 

 

 彼女が幻視したもの…それは翼の背後に突如現れた青い翼だった。しかしその翼は一瞬で青い炎に戻り、気を取り直したファラは慌てて迎撃を行う。そして…。

 

 

『ガキィィィィィン!!!!!』

 

 

 激突した瞬間、甲高い音が周囲に響き渡った。

 

 

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「っ…」

 

 擦れ違いざまに一撃を叩き込んだ翼は、突撃の勢いを弱めながら自身の剣が粉々に砕けていく光景を見つめていた。

 

「…思う一念、岩をも通す」

 

 しかし彼女の表情、そして呟いた言葉はその光景とは裏腹に堂々としたものだった。その理由とは…。

 

 

 

「っ…馬鹿なっ!哲学の牙が何故っ!?」

 

 

 

 その理由はファラの持つ剣の片割れ…その状態にあった。彼女が持つ剣は所々にヒビが刻まれており、その亀裂は今も広がり続けていた。そして…。

 

 

『ガキンっ!』

 

 

「っ!?(そんな…翼ちゃんの剣が砕けた以上、剣殺しの能力は発動しているはず…なのに何故!? )」

 

 

 剣殺しの片割れはその痛みに耐えきれず、やがて完全に砕け散った。

 

 

「…相打ち、だな。だが…それは私が待ち望んでいた結果だ」

 

 

「…貴方は一体、何をしたというのですか!?(剣である自分自身を捨てた…? いえ、人間にそのような事ができるとは思えません…それにもしもそうなのであれば翼ちゃんの剣が砕けはしないはず…分からない、一体何が起こっているのかが全く理解できない…!)」

 

 ファラは信じられない光景を前に激しく困惑していた。もしも自身の剣だけが砕けていたのならばまだ理解する事ができたのだが、しかし砕けたのは両者共の剣だった。

 つまりそれは翼の武器がいまだに剣であるという事、そして剣と定義されるものに対し絶対的な力を持つはずのソードブレイカーがそれに砕かれたという事を意味しているからである。

 

 

「私は剣である自分自身を捨ててなどいない。それが事実だという事は、剣を砕いたお前が一番理解しているのではないか?」

 

 

「だからあり得ないのです! 貴方の剣が砕かれた上で私の剣殺しが砕かれるなどという事は絶対に!」

 

 

 翼の返答は…自身が以前のまま変わっていない、というものだった。…ちなみに彼女が言っている事は全て真実であるが、ただ一つ付け足すとすれば…。

 

 

「そうか。 つまりお前の剣は剣以外の何かに砕かれたという事なのだろう」

 

 

「剣では無い、何かですって…? ですがそんなもの、何処に――っ!?(待って…私は先程、何を見た? そう、あの光景は――)」

 

 

 そう…剣殺しが剣と定義されるものに対し絶対的な力を有する上で砕かれたという事は、それは剣以外の ナニカ( ・・・)に砕かれたという事である。

 そして、その言葉を聞いたファラは先程見た光景を思い出すのだった。

 

 

「つばさ…剣ちゃんの背後に見えたあの青い翼は、幻想では無かったと言うの…? つまり、今の剣ちゃんの持つ武器には二つの意思が混在している…?」

 

 

「…そう、翼だ。 今の私は自分自身で手に入れた剣、そしてお父様と奏…二人から授かった翼と共に戦っている」

 

 

 そう、翼…先程ファラが翼の背後に見た青い翼は確かに存在していたのだ。つまり、今の翼の剣戟には二つの力が宿っており、それが剣殺しの攻略に繋がったのである。

 

 

「そ、そんな…これが、貴方の本当の力…そして本当の、心…(…どうやらここまでのようね。剣殺しが破られた以上、私の敗北は揺るがない…)」

 

 

 能力差は歴然、そして頼みの綱の剣殺しも破られたこの時点でファラは自身の敗北を受け入れた。最早彼女に残された仕事はただ一つ…呪いの旋律を回収する事のみである。

 

 

「最後に問おう…投降するつもりはないか? そして私達と共に、お前達の主の凶行を――」

 

 

「申し訳ありませんが、その提案を受け入れる事はできません。最後まで抵抗させて頂きます(…最後を翼ちゃんの歌を聴きながら迎える事ができるなんて、ガリィちゃんには感謝しないといけませんね)」

 

 

 ファラの表情を確認し、勝負が決した事を確信した翼は彼女に投降を促すのだが…それがファラに受け入れられるはずも無かった。

 

 

「…そうか、残念だな」

 

 

「ふふ、私が勝つ可能性もある事を忘れてもらっては困りますよ?…さて、勝負を決すると致しましょう」

 

 

「…この歌に、そして剣技に私の全てを賭けよう…! ~♪」

 

 

「っ…!(なんて力強い歌なの…意識を強く持たないと今にも引き込まれてしまいそう…!)」

 

 

 そして翼は歌い始める…決着の時は、近い。

 

 

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≪…ねえ、前から思ってたんだけど…アンタ達、ガリィに過少申告してない?≫

 

(いや、そんな事は…)

(私達が知ってるのより翼さん強い、強くない?)

(畜生人形が一体増えるだけでこんな事になってしまうのか…⦅白目⦆)

 

 二人の戦いを見守っていたガリィは、前々から抱いていた疑問を声達に投げ掛けていた。

 

≪いやいやどう考えてもおかしいでしょ! マリアといい翼といい何よアレまるで別人じゃない! アンタ達から聞いてたのと全然違うんですけど!ぜんっぜん違うんですけど!⦅憤怒⦆≫

 

(ソッスネ⦅他人事⦆)

(そんな事言われても…)

(それはこっちが聞きたいくらいなんだよなぁ…⦅遠い目⦆)

 

 ガリィが怒っている理由…それは視線の先に立つ風鳴翼が、ガリィが声達に聞いたものより明らかにパワーアップしていたからだった。しかしそれについては声達もガリィと同じ状態であり、そんな事を言われても困るというものである。

 

≪はぁ、とりあえずそれは後にしましょうか…剣殺しも攻略されたし次で決着になるわね≫

 

(後にしても分からないものは分からないんだよなぁ…⦅遠い目⦆)

(力の差を考えたらファラ姉さんは絶望的だよね…)

(だから私達が助けるんダルルルルォ!)

 

 いまだに不満な様子のガリィだが自身の出番が近い事を察し、その話については先送りする事にしたようだ。そして、炎を纏った翼がファラへと斬り掛かり…。

 

 

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「(炎の、翼…? …これは、止められそうにもないわね)」

 

 上空から自身へと迫る炎の翼…それを見つめながら、ファラは自身の敗北を確信していた。

 

「(…良い歌ね、これで思い残す事は何も――ああ、でも…)」

 

 ファラはこれまでの事を思い返し、そして…。

 

 

 

「(もう少し、一緒にいたかったなぁ…)」

 

 

 

 最後に仲間達の事を想い、そして静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「(あの剣を破壊し、両腕を斬り落とす!)」

 

 炎を纏い、ファラへと迫る翼…実は彼女は、ファラに止めを刺さずに捕縛するつもりだった。

 

「(羅刹零ノ型…これは、夢に向かって羽ばたく翼! 二人から授かったこの翼でお前達の凶行を止めて見せよう!)」

 

 炎を纏い回転する姿はまるで炎の翼…彼女はその剣技でファラの戦闘能力を奪おうとするのだが…。

 

 

 

 

「悪いんだけど~、ファラちゃんはやらせないわよ♪」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 次の瞬間、それは思わぬ乱入者によって阻止される事となった。

 

 

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「アタシにできる最高の強度まで練り上げた氷の盾…突破できるものならやってみなさいよ!⦅慢心⦆」

 

「――ガ、ガリィちゃん…?」

 

(早くファラ姉さんを回収して離脱しろ!⦅半ギレ⦆)

(こういうパターンは大体碌な結果にならないっていい加減に気付けよぉ!)

(何故ガリィの盾で止められると思うのか、これが分からない…⦅遠い目⦆)

 

 思わぬ乱入者、それはもちろんガリィであった。彼女はファラの前に躍り出ると事前に練り上げておいた氷の盾を展開、それで翼の攻撃を止めるつもりのようだが…。

 

「(はああああっ!)」

 

「ふぁっ!?」

 

(知ってた⦅白目⦆)

(何の役にも、立ちませんでしたね…⦅悲しみ⦆)

(あのさぁ…)

 

 そんな事はもちろん不可能である。ガリィが苦労して作り上げた盾は、翼の突撃を僅かしか止める事ができずに砕け散ったのである⦅悲しみ⦆

 

「い、一体何が起こって――」

 

「――っ! ファラちゃん、こっち!」

 

 ガリィの盾が稼いだのは一秒にも満たない程のものだったが、その僅かな猶予でガリィはファラを抱えその場を離れようとする。そして…。

 

 

「(あれは、ガリィ…!?)」

 

 

「嫌あああああっ!!!」

 

 

 先程までガリィが立ってた場所に翼が放つ必殺の一撃が突き刺さり、その余波でガリィとファラは吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「…やって、くれるじゃない。余波だけでこれとか…直撃ならファラちゃんと合わせて二枚抜きされていたかもしれないわね…⦅戦慄⦆」

 

「ガリィ、お前が何故ここに…!?」

 

「そんなのファラちゃんを助けに来たに決まってるでしょうが!…というかアンタはアタシに感謝しなさいよ!アンタの大ファンを一人助けてあげたんだから!⦅半ギレ⦆」

 

(いらん事を言うなぁ!)

(あかん、頭に血が上ってる…)

 

 強烈な余波で吹き飛ばされたガリィだったが、相変わらずの悪運により汚れてはいたものの無傷だった。ちなみに吹き飛ばされた事にイラっとはしていたので、困惑する翼に意味不明ないちゃもんを付けるのはお約束である⦅呆れ⦆

 

「私のファン、だと…?」

 

「ガガガガリィちゃん! それは言っちゃ駄目!絶対だめぇ!!!」

 

「ああもううっさい! とにかくファラちゃんは連れて帰るから! それじゃさよーなら!」

 

(ファラ姉さん可哀想、せっかく秘密にしてたのに…)

(これは後で怒られる⦅確信⦆)

 

 ファラが秘密にしていた事をよりによって本人の前でバラす畜生である。これにはファラも思わず声を荒げるが、それが真実である事を認める様なものである事を焦る彼女は気付く事ができない。

 

「ま、待て! お前達には聞きたい事が…!」

 

「帰るって…ガ、ガリィちゃん!? 待って、ちょ――」

 

 そして、場が混乱に支配されているのを好機と見たガリィは、すかさず転移結晶を掲げファラとともに姿を消すのであった。

 

「逃げられたか…」

 

 そして唯一その場に残った翼はギアを解除すると、先程のガリィの発言の意味を考えていた。

 

 

『やっぱり! 私のお姉ちゃんがファンなんです。 前のライブにも一緒に行ってたんですけどあんな事になっちゃって…でもまた見に行きますから、応援してます!』

 

 

「彼女は…ファラ・スユーフはまさか…」

 

 

 彼女が考えていた事、それは秋桜祭でガリィが語っていた言葉だった。もしも彼女が言っていた事が真実だとすれば、ファラ・スユーフは…。

 

 

「…いや、今はそれよりも果たすべきことがある…。 本部、聞こえますか」

 

『ああ、聞こえている。状況は?』

 

「こちらにガリィが現れ、ファラを連れて撤退しました。 他の場所はどうなっていますか?」

 

『そうか、ガリィ君が…。 クリス君達はキャロル達と交戦中だ、響君達については…その、後で本人達に聞くと良いだろう⦅目逸らし⦆』

 

「…? りょ、了解しました(立花達に一体何が…)」

 

『オホン…とにかくお前が無事でよかった。マリア君と合流し、指定の場所に向かってくれ』

 

「はい、お父様に報告した後帰投します。それでは」

 

 しかし翼はその思考を打一旦ち切り、本部へと通信を繋いだ。そして彼女はこの後マリア、響、未来の三人と合流した。なお、響達に何があったかは誰も教えてくれなかった模様⦅悲しみ⦆

 

 

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「ミカちゃん!」

 

「? お~!お帰りだゾ!」

 

「ミカ、ちゃん…? どうして貴方まで…それに、そこの男性は…」

 

(よし! まずは一つミッションクリア!)

(ウェル博士、まだ寝てるんだね)

(…なんかおでこの所、赤く…というか紫になってない?)

 

 シャトーへと強制連行されたファラは目の前の光景に困惑していた。隣にガリィがいるのは元より、響と交戦し呪いの旋律を回収しているはずのミカが、そして謎の男性が地面に転がされていたからである。

 

「あの、ガリィちゃん? この状況を説明してほし――」

 

「悪いけど時間が無いからアタシは行くわね! ミカちゃん、マスターは!?」

 

「多分帰って来てるけどここには来てないゾ? 自分の部屋にいるんじゃないのカ~?」

 

「よし、それなら好都合ね…それじゃアタシはレイアちゃんを拾って来るから、ファラちゃんへの説明は任せたわよ」

 

(その人選で大丈夫なんですかね…?⦅不安⦆)

(他にできる人がいないからね、仕方ないね⦅諦め⦆)

 

 意味不明な状況に思わずファラはガリィに対し状況説明を求めるのだが、生憎ガリィには時間の余裕が皆無なのである。そのためガリィはミカに後を託し、再び転移結晶を使いどこかへと転移して行くのだった。

 

「うん、アタシに任せるんだゾ! …ってもう行っちゃったゾ」

 

「…ガリィちゃん、ミカちゃん…貴方達は何を――」

 

「それは今から説明するんだゾ! えっと~…」

 

 そして姿を消したガリィに代わり、ミカの説明が始まるのだが…。

 

「? えっ、ガリィちゃんは世界を自分の手で壊したいって事…? なにそれ怖い⦅戦慄⦆」

 

「? どうしてそうなるんダ? アタシはそんな事言ってない…あれ、言ったっケ?」

 

「ええ…⦅困惑⦆」

 

 

 声達の予想通り致命的な人選ミスだった模様。この後たくさん説明した⦅正しく伝えられたとは言っていない⦆

 

 





やっと終わった…次からは深淵の竜宮編です。こちらはそんなに長くするつもりはありません(短いとは言っていない)

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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