第九十二話です。
「…どうやらあちらは決着がついたようだな」
「っ!? クソッ!!!」
深淵の竜宮内部、そこで現在行われている戦闘の情勢は…キャロル陣営の圧倒的有利であった。
「いくらなんでも強すぎデス…!」
「切ちゃんと二人掛かりなのに、全く歯が立たないなんて…!」
クリスの視線の向こう…そこには膝を突いている後輩達の姿が、そして…。
「ふむ、貴様等のその力…ギアの親和性が原因か、それとも貴様等の相性によるものなのか……」
後輩達を冷たい瞳で見下ろす、ダウルダブラのファウストローブを装備したキャロルの姿が映っていた。
「どうして、どうしてこんな事をするんデス!? そんなに大きな力を持っているのに、どうしてそれを平和の為に使おうとしないんデスか!?(こんな事なら最初からモジュールを起動しておくべきだった…痛恨の失敗デス!)」
「その力があれば沢山の弱い人を、虐げられている人を救えるかもしれないのに…!」
自分達を見下ろすキャロルに対し二人は必死に言葉を投げ掛けるのだが、それは既に戦闘中何度も繰り返された事であった。
「何度も言ったはずだ…俺は最早止まれぬ、聞く耳など持っておらぬと! 故に力で俺を止めて見せろと…だが貴様等はこうして俺の前に膝を突き屈している!それが結果だといい加減に理解せよ!」
「…だったらイグナイトモジュールを起動してリベンジデス!」
「…まだ、私達の心は折れていない…!」
二人の言葉を一蹴するキャロル。その言葉を聞いた二人はイグナイトモジュールの起動を決断しギアペンダントに手を掛ける。しかし…。
「敵を前にして悠長な事だ。残念だが俺はガリィとは違う」
「「っ!!うあっ!?」」
それはキャロルの攻撃によって防がれ、無防備な状態で吹き飛ばされた二人は少なくないダメージを受け倒れ伏してしまう。
「お前等っ!? 待ってろ、今助け――」
「戦闘中に余所見とは、派手に致命的だな」
「――っ!? チィッ!」
「…今のを躱すか。ガリィが言っていた通り、地味に直感が優れているようだな」
それを見たクリスは二人の救援に向かおうとするのだが、それを許してくれるレイアではない。彼女はクリスが目を逸らした隙に多数のコインを射出し、クリスをその場に釘付けにするのだった。
「うっ、うう…」
「これは、まずいかもしれないデス…!」
仲間の救援も望めず、倒れ伏したまま立ち上がる事ができない二人。そして、静かにその姿を見つめるキャロルは二人に止めを…。
「…レイア、後は貴様に任せる。 俺は帰還し、最後の準備に取り掛かるとしよう」
刺すことなく、キャロルは撤退の言葉を口にするのだった。
「「「っ!?」」」
「了解しました。…お元気で」
「…ああ」
キャロルが予想外の言葉を口走った事に驚愕する装者の三人…しかし一方、レイアはそれを当然のように受け入れその僅か後、キャロルは転移結晶を掲げ姿を消すのだった。
「…おい、どういうつもりだ、あたし達を舐めてんのか!?」
「…そんなつもりは毛頭無い。マスターには早急に成し遂げなければならぬ使命があるというだけの事…」
「ちっ、話す気は無いって事かよ…! お前等、無事か!?」
「…身体は痛いデスけど、それでもクリス先輩の弾除けくらいなら…!」
「私も、切ちゃんと同じ状態です…だけど、まだ戦えます」
キャロルが去った事で残る敵はレイア一人のみだが、切歌と調はまだダメージが残っているため戦闘に参加するのは難しいようだ。しかしそれでも戦うと言う二人に対しクリスは…。
「なら隅の方に避難してろ! こいつはあたし一人でやる!」
「デ、デスけど…それじゃクリス先輩が…!」
「今の私達だって、盾くらいには…!」
「そんな状態のお前らがいても気が散って邪魔なんだよ! 分かったら下がってろ、これは先輩命令だからな!(足が震えてるのが見え見えなんだよ…! そんな状態で戦えば、下手すればこいつらが死んじまうだろーが!)」
クリスは二人を戦闘に参加させる気は更々無かった。何故なら二人には明らかに先程のダメージが残っており、戦闘に参加するのは危険だとしか思えなかったからである。
「っ!…了解、デス…」
「分かり、ました…」
クリスの剣幕に押され渋々といった様子で後方へと下がっていく二人。そして、二人がある程度離れた事を確認したクリスは再びレイアの方へと視線を向けるのだった。
「はっ! あいつらが下がるのを待ってくれるなんざ随分お優しいこった!一応感謝しておいてやるよ」
「既に死に体の相手をお前から目を離してまで追撃する必要は無いと判断したまでの事…私に感謝する必要は無い⦅マジレス⦆」
「クソ真面目な奴だなお前…あの馬鹿人形とは大違いじゃねーか…」
「…さて、再開といこうか⦅スルー⦆」
「露骨に話題を逸らしやがったな…まあいい、掛かって来いよ!(勝負の分かれ目はいつ切り札を使うかに掛かってる。 どうする…今すぐ使うか?それとも…)」
いくつか言葉を交わした後、再び二人は武器を構え対峙する。恐らく現状のままではクリスが不利だが、彼女にはイグナイトモジュールという切り札が残っており、それをどのタイミングで使用するかが勝負の鍵となりそうだ。
「クリス先輩…」
「せ、先輩ならきっと大丈夫デスよ!それにあたし達が動けるようになるまでの辛抱デス!」
そして勝負の鍵はもう一つ…それはクリスの後輩である二人、切歌と調が握っているのだった。しかしその事をまだ、クリスも、レイアも、そして彼女達自身も知る由も無かったのである。
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「…」
レイアと離脱しシャトーへと帰還した後、キャロルは一人自室に籠っていた。
「…(呪われた旋律、ヤントラ・サルヴァスパ…これでチフォージュ・シャトー起動の為の全ての鍵は揃った)」
既にキャロルの中ではすべての準備が完了しているようだ。…まさか人形が全部生き残っているなんて事は絶対にあり得ないので当然の判断だろう⦅目逸らし⦆
「…(ようやく、ようやく終わるのだ…そして、俺は…)」
机に座る彼女はいつの間にか船を漕ぎ始めていた。その原因は恐らく昨日の夜、
「…(パパ…ガリィ…私は…)」
それから僅かの時間が経過した後、彼女は夢の世界へと旅立った。そして…。
「あらら、マスターったら気持ちよさそうに寝ちゃってるじゃない…仕方ないわね~、風邪を引かないようにして、と…ではではマスター、また後で~♪」
それから数十分後…優しく肩に掛けられたブランケットの重みにキャロルが気付く事は無かった。
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「クソっ! 離れろぉー!!!」
「後方支援型のシンフォギア、イチイバル…その弱点は当然、至近距離での戦闘のはずだが…」
「ちぃっ!」
「…(捌くので精一杯とはいえ、いまだに一撃すら入れれずとは…雪音クリス、大した目を持っているな)」
再開されたクリスとレイアの勝負は先程までとは違い至近距離での戦闘が繰り広げられていた。現在の戦況はレイアが両手にトンファーを持ち攻め続けており、クリスがそれを受け止め、躱しながらなんとか直撃を避けているという状況だった。
「っ!?――ぐあっ!」
「…まずは一撃、だが(手応えが浅い…直撃する前に後方に飛んだか、雪音クリス!)」
「へっ…! やーっと距離を取れたってわけだ! そして…ここからがあたしの本気だ!」
激しい攻防の最中、レイアのトンファーが遂にクリスへと届く。しかしそれはクリスがわざと受けたものであり、彼女は後方へと下がるとギアペンダントに手を掛けるのだった。
「呪いを身に纏うつもりか。…いいだろう、ここからは私も
「はっ!そんなものあたしが返り討ちにしてやるっての! イグナイトモジュール、抜剣!!!」
前回はなんとか起動に成功したクリスは躊躇なくイグナイトモジュールの起動を行う。そして…。
「ぐっ、うわああああああああっ!!!」
「「クリス先輩っ!?」」
再び、彼女の呪いとの戦いが始まった。
「どうやら克服したようだな。だが、その状態で戦えるのか?」
レイアの視線の先…そこには黒赤色のギアを纏ったクリスが膝を突いていた。
「はぁ、はあっ…うるせーよ、あたしは全然余裕だってのっ、はっ、はあっ…!」
なんとかクリスは呪いを跳ね除けたものの、額には大量の汗が浮かび顔色は蒼白だった。この様子ではレイアに勝てるかは疑問なのだが…。
「クリス先輩!」
「私達も、手伝います」
「っ!?――おまえ、ら…」
そこに駆け付ける二人の声…そう、なんとか戦闘が行えるまで回復した切歌と調が合流したのである。
「…私は別に三人相手でも構わない。どこからでも掛かって来るがいい」
「言われなくとも! あたし達を侮った事を後悔させてやるデス!」
「クリス先輩、私と切ちゃんで隙を作ります。だから先輩はそのタイミングで――」
三人相手でも一切表情を変えずにレイアは片手にトンファーを構え、もう片手にコインを持つ。そして切歌達も戦闘態勢を取るのだが…。
「ふざけんなっ!!!」
「「っ!?」」
「ほう…」
その時、戦場に鳴り響いたのは叫び声…そう、雪音クリスの怒声だった。
「クリスせんぱ――」
「お前等は引っ込んでろって言っただろ! なんでアタシの言う事を聞いてくれないんだよ!(そうだ、そうやって皆あたしの前から消えていくんだ…さっきあたしが見た光景そのままに…!)」
クリスが突然叫び声を上げた原因…それは彼女がモジュールを起動した時に見せられた光景が原因だった。彼女が呪いに見せられた光景…それは『喪失』 自分の両親が、仲間が、友達が傷つき、消えていく光景だった。そして…。
「だ、大丈夫デスか!?」
「先輩落ち着いて、何があったか話してください」
「そうやってお前等もっ!?――…悪い、取り乱した。 とにかくあいつはあたし一人で倒す、お前等は休んでろ(そんな事は絶対にさせない…! こいつらはあたしが守って見せる…!)」
その中には当然、目の前の二人も入っていたのだ。故に今のクリスには二人を戦わせる事は絶対に許容できず、彼女は二人から目を逸らすようにレイアへと視線を向けるのだった。
「…ガリィの危惧していたことが現実になったか。 ギアの性質と矛盾するようなお前の挺身…その歪さが生むのは敗北のみだと教えてやろう…!」
「…今のあたしは虫の居所が悪いんだよ…悪いけど八つ当たりさせてもらうからな!!」
「せ、先輩っ!?」
「行っちゃった、デス…」
明らかに様子のおかしいクリスだが、彼女は心配する二人を無視してレイアへと突撃を開始する。それを迎え撃つレイアは、ガリィの言葉を思い出しながら構えを取るのだった。
「…来い、雪音クリス(一見呪いを跳ね除けたように見えるが、これは……)」
迫るクリスを見つめながらレイアは過去の光景を思い出す。それは彼女が深淵の竜宮に訪れる少し前…シャトーでの一幕であった。
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「雪音クリスが派手に暴走する可能性がある、だと?」
「ええ、そうよ。 あの子と当たる可能性が高いのがレイアちゃんだから一応伝えておこうと思って☆」
レイアが深淵の竜宮に向かう前…彼女はガリィと最後の会話を行っていた。
「…それはつまり、呪いを克服する事ができないという事か?」
「う~ん、それも心配なんだけど…一番の問題はその後だと思うのよねぇ」
「…ガリィ、続きを頼む」
どうやらガリィはクリスについて心配事があるようだ。レイアはそれを聞きながら続きを促すのだった。
「は~い♪ えっと、これはガリィが気付いた事なんだけど~、呪いを克服する方法っていうのは一つじゃないみたいなの☆ 響ちゃんと切歌は気合で跳ね返しちゃうでしょ?でもマリアは呪いを受け入れたし…調も若干こっち寄りね」
「ふむ…では、雪音クリスは…」
呪いを克服する方法が人それぞれであると説明するガリィ。それを聞いたレイアは、クリスが呪いを克服する方法をガリィに問いかけるのだった。
「クリスが持つ負の感情は両親を目の前で失っている分、他の連中より明らかに重いでしょうし…現実的には気合で跳ね除けるしか選択肢は無いでしょうね」
「…そうだろうな」
その答えはレイアが予想したものだった。装者達の個人情報についてはミカ以外のオートスコアラー全てが把握しているため、ガリィとレイアは同様の答えを出したのだろう。
「そう、そしてここからが問題。呪いというのはその性質上、その人間にとって目を背けたい過去の光景が浮かぶはず…では雪音クリスが目を背けたい光景とは何でしょ~か♪」
「…テロによる両親の死、『喪失』か」
「ピンポンピンポンだいせいか~い♪ …それにプラスして、あの子は重度の人間不信のコミュ障なの。そんなあの子が、呪いにより過去の喪失を見せ付けられれば…どうなるんでしょうねぇ☆」
一番彼女にとって思い出したくない光景…それは間違いなく両親を失った時の記憶だろう。そして呪いは間違いなくその光景をクリスに直視させるはず…その時クリスは正気でいられるのだろうか…。
「…そして、その答えはお前でも分からない、か」
「あらら、レイアちゃんってば察しが良くてつまんないわねぇ…ま、その通りよ。あの子が普通に乗り越えるかもしれないし、取り乱して敵味方構わずに拒絶するかもしれないし…それは見てみないと分かんないわね」
ガリィの結論…それはまさかの『分からない』であった。…恐らく彼女はレイアに『何が起こっても不思議ではないから注意して』と言いたかったのだろう、そうに違いない⦅目逸らし⦆
「了解した。それで、雪音クリスがモジュールを起動できなかった場合に私は何をすればいい?」
「…本当に察しが良すぎてガリィ怖いんですけど…う~ん、それじゃあ――」
無表情でガリィの思考を読むレイアは、彼女の言いたい事がこの先にあると考えていた。そしてそれは大当たりであり、ガリィはレイアに本当に伝えたかったことを語り始めるのであった。
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「がはっ…!」
「せ、先輩をよくも…!」
「今度は、私達が…!」
「ギアの力が向上しているとしても、肝心のお前自身がそれでは私に勝利する事は不可能だ。そして――」
イグナイトモジュールの起動に成功したクリスだが戦況は芳しいものでは無かった。だがイチイバルの能力が遥かに上昇しているはずなのに何故…? そう、それはクリス自身が原因であった。
確かにクリスの攻撃威力自体は遥かに上昇している…しかしそれを使うクリス自身の動きが明らかに精彩を欠いており、今もレイアの放つ巨大なコインに身体を弾き飛ばされたところだった。
「そのままでは、お前の大事な仲間もいずれ散る事になると知れ…!」
「っ!? きゃあっ!!」
「切ちゃ――っ!?」
倒れたクリスを庇うように前に、レイアへと攻撃を仕掛ける二人…しかし全力を出しているレイアを前に、二人は呆気なく返り討ちにされるのだった。
「っ!?――や、やめろ…! お前の相手はあたしだろーが!?」
「…耐久力も向上しているというわけか。 ならば雪音クリス、お前の心が折れるまで何度でも地面を舐めさせてやろう(流石にこれが最後では私も納得できないのでな、お前の目が覚めるまでは付き合ってもらうぞ…!)」
「クソっ、まぐれ当たりで調子に乗りやがって…! いくぞっ!!」
レイアの言葉に、そして後輩の二人が傷つけられた事に激昂したクリスは再びレイアへと攻撃を開始する。しかし弾幕は全てレイアのコインに弾かれ、叩き落された。これでクリスのギアが変化してから三回目の攻撃、その全ては同じようにレイアに叩き落されたのだった。そして…。
「落ちろ…!」
「ぐあっ!?」
強烈な衝撃がクリスの腹部を襲う。それはレイアのトンファー…そう、クリスは懐に入られて一撃を入れられてしまったのである。
「うっ、うう…くそぉっ、なんで、どうしてなんだよ…!」
しかしクリスは再び立ち上がろうとしていた。しかしその表情は絶望と焦燥感に染まっており、切り札を使ったのにも関わらず続く劣勢、そして傷ついて行く後輩達にクリスの心は折れる寸前である。
「あたしは…あたしはこいつらを、皆が死ぬのを見たくないだけなのに…どうしてイチイバルは力を貸してくれないんだよ…!」
「…それはお前が気付いていない…いや、呪いにその身を支配され忘れているからだ。そう、お前を繋ぎ止める者達の存在を――」
身体を引き摺るようにしてレイアへと近づいて行き悲痛な声を上げるクリスだが、そんな彼女に対しレイアは冷静に指摘する。
「行かせない、デス…今のクリス先輩は、危なっかしくて放っておけないデスから…!」
「っ!?――お前、何やって…!」
その時、クリスを引き留めたもの…それは切歌の手、彼女の手がクリスの手を強く、強く握り締めていた。
「…ガリィからの伝言だ。『過去に失ったものから目を背ける事は良い。だけど今…アンタの側にいてくれる人達からは絶対に目を逸らすな』…以上だ」
レイアは語る…『今』から目を逸らすな、その温もりを手放すな…と。
「あの馬鹿からの、伝言…? そっ、それより離せよ! あたしはお前達を守るために――」
「…駄目、です…! 今の先輩、ちょっとおかしいですから…」
「お前もかよ…!」
「あたし達を守りたいなら、あたし達から目を逸らさないでほしいデス…!」
その言葉に一瞬耳を傾けるクリスだったが、すぐに切歌の手を振りほどこうともう片方の手を振り上げ…る前にその手は調によって握られるのだった。
「はぁ!? お前ら…いい加減に――」
「いい加減にするのは先輩の方デス! 調、こうなったら実力行使で先輩の目を覚ますしかないデスよ!」
「うん、こうなったら仕方ないね」
それでも取り乱し続けるクリスの説得を諦め、とうとう二人は実力行使に出る事を決意した。そして…。
「「せ~のっ!!」」
「っ!? おい待て、お前等何やブフッッッ!? イタァァァイ!!!」
「…良い音だ。この音が目覚ましになるといいのだが…」
二人の全力ビンタが、クリスの両頬に致命的なダメージを与えた。
「なっ、いきなりなにすんだお前ら! あたしは先輩だ――」
「「クリス先輩っ!!!」」
そしてまだ二人の気付けは終わらない…二人はクリスの顔を強引に引き寄せ、目と目が合う状態にし、そして…。
「あたし達は死なないし、何処にもいなくならないデス! だから早く正気を取り戻して、いつもの先輩らしく戦ってほしいデス!」
「先輩が呪いに何を見せられたのかは、そしてその辛さは私達には分かりません。 だけど私達の大好きな先輩はそれに打ち勝つ強さを持っているって私は信じてます」
「っ…(…そうだ、あたしは呪いにこいつらを、皆を失う光景を見せ付けられて…そうか、またこいつらに助けられちまったのか…)」
クリスの正気を取り戻す事に、成功した。
「…よしっ!(アンタの側にいてくれる人達からは絶対に目を逸らすな、か…)」
「クリス、先輩…?」
「あ、あたし達も手伝うデスよ!」
正気を取り戻し、再び戦場へ向かうクリス。しかし、それに気付いていない二人はクリスを放って置けないと後を追うのだが…。
「後はあたしが片付けるからお前らは休んでろ。それと、その…助かったわ、サンキュな」
そう言い残し、クリスはレイアとの戦闘を再開した。
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「…確かこんな感じ、だったよなぁ!!!」
「なんだと!? お前、私の動きを派手に…!?」
戦闘が再開され至近距離での戦いを行っていた二人だが…押しているのはなんとクリスの方だった。その要因は二つ…一つは彼女が本来の力を発揮している事、そしてもう一つはレイアの攻撃が読まれ始め、更には模倣までされている事だった。
「あたしは昔から目が良いんだ、よっ!」
「成程、それは地味に羨ましい事だっ…!(こいつは、雪音クリスは…マスターとは違う系統の天才か…!?)」
至近距離から発射されたクリスの弾丸を紙一重で避けるレイア。しかし時間が経てば経つほどクリスに動きを見切られていく今の状況は、レイアを確実に追い込んでいた。
「へっ、今度は撃ち合いをご希望かよ! だけどそれは――あたしの距離だっ!!!」
「くっ、先程までとはまるで別人だな…!(全て叩き落とすには数が多すぎる…! ならば直撃コースのものを優先して落とす!)」
たまらず後方へと下がり射撃戦に持ち込んだレイアだが、残念ながらそこはクリスの距離である。すかさずクリスが発射した無数のミサイルはレイアへと襲い掛かり、そして…。
「殴るんだよぉ!!!」
「なっ…!?」
その全てが直前で明後日の方向へ軌道を変えた事にレイアが気付いた瞬間、彼女は何かに殴り飛ばされ壁際まで吹き飛ばされていた。
「これはさっきのボディブローのお返しだ。 で、まだ続けるか?降参するなら今しか受け付けないからな」
「…私に課せられた使命はこの身朽ちるまで戦い、そしてマスターの邪魔者を排除する事…故に投降はしない(まさか手にしたボウガンで殴りに来るとはな…)」
「…そうかよ(嘘だな…あいつの目的があたし達を殺す事なら、さっきあたし達が揉めてる時に殺せばよかったはずだ。それをしなかったこいつの本当の目的は何だ…?)」
翼と同じように投降を促すクリスだが、ファラと同じくレイアもそれを受け入れる事は無く彼女は再び構えを取るのだった。
「さて、地味に再開するとしよう」
「ああ、悪く思うなよ(こいつらには確実に何か秘密がある…それを聞き出すためにも、なんとか生かして捕まえないとな…!)」
そして二人の…レイアにとって不利な戦いが再開された。果たしてレイアは窮地を脱する事ができるのか…そしていまだに姿を見せない主人公は、果たして…。
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「これで…終わりだぁぁぁっ!!!(火力は抑えめにした…頼むからぶっ壊れてくれんなよ!)」
ガリィ・トゥーマーンは、その光景を…レイアに迫るミサイルを見た瞬間に駆け出した。そして…。
「レイアちゃあああああああん!!!!」
(レイアねえさあああああん!!!!!)
(やらせはせん、やらせはせんぞおおおお!!!)
(飛べぇぇぇぇぇぇっ!!)
ガリィは飛んだ…そしてレイアごと自身を思い切り突き飛ばした。そして…。
「っ!?――ガリィ…?」
「た、盾! 盾を展開しないと!!!」
(こんな事なら準備しておくんだったぁぁぁぁ!)
(準備しても翼さんに紙クズのように破られたんですがそれは…⦅悲しみ⦆)
大混乱に陥りながら周囲に盾を展開して行く。そして次の瞬間――
「なにやってくれてんのよ馬鹿クリス!アンタ、ものには限度ってのが――――――――」
ガリィの周囲で閃光と爆音が響き渡った。
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「ク、クリス先輩っ!」
「今、ガリィの姿が見えた気が…!」
「…ああ、あれは確かに馬鹿人形だった」
大量の煙が立ち込める中、クリスはレイアが立っていた方向を見つめ続けていた。そして…。
「ちっ…逃げられたみたいだな」
煙が晴れた時、そこあったはずの二体の人形は姿を消していた。どうやらガリィは煙幕に紛れてシャトーへと帰還する事に成功したようだ。…相変わらず運の強い人形である。
「ガリィは何しに来たんデスかねぇ…?」
「さぁ…?」
「…あの馬鹿人形の事も気になるけど、先におっさんに連絡しないとな。 おい、終わったぞ」
『そうか、その様子だと無事なようだが…何があった?』
ガリィ達の姿が完全に消えている事を確認し、クリスは通信機を起動し本部への報告を始めた。
「レイアって人形をあと一歩のところまで追い詰めたところで邪魔が入った。あの馬鹿人形の邪魔がな⦅半ギレ⦆」
『…そちらにもガリィ君が現れたか…まあいい、ご苦労だったな。お前達はそのまま帰投してくれ』
「りょーかい…あいつ、何処にでも出て来るな⦅呆れ⦆」
こうして三人は深淵の竜宮を後にした。しかし結局ガリィは何をしに現れたのか、そしてレイアの本当の目的は分からずじまいのままである。それが分かる日は来るのか、果たして…。
「お前ら、さっきあたしに思いっきりビンタした事については不問にしてやる。だからその代わりにあたしの晒した醜態については他言無用だ、分かったな?」
「…切ちゃんのうっかりについてはどうしようもないと思うんですけど⦅名推理⦆」
「分 か っ た な ? ⦅憤怒⦆」
「アッハイ」
なお数日後、切歌のうっかりで皆にバレました⦅お仕置き確定⦆
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「ガリィがレイアちゃんを無事に連れて帰ったわよ! さぁ褒め称えなさいよアンタ達!!!」
「…⦅状況に付いて行けてない⦆」
(や っ た ぜ ⦅威風堂々⦆)
(間一髪だったねぇ…)
(爆発が思ったより控えめだったから助かったな)
ミッションを完遂したガリィ、堂々の凱旋である。衣服はボロボロ、そして顔は真っ黒であるがガリィは成し遂げたのだ。
「お、お帰りなさいガリィちゃん…⦅目逸らし⦆」
「お~! レイアも生きてて良かったゾ!⦅満面の笑み⦆」
(ミカちゃんとファラ姉さんの出迎えだァ!⦅歓喜⦆)
(…あれ、なんかファラ姉さんの顔、引き攣ってない…?)
(ん~? あれ、ほんとだ)
それを出迎えるのは笑顔で拍手するミカ、そして何故か顔を引き攣らせているファラだった。しかし彼女は何故顔を引き攣らせているのだろうか…。
「ミカにファラまで…ガリィ、これは一体…?」
「それについては今からアタシが説明するから♪ ほらほら座って座って☆」
「あ、ああ…⦅困惑⦆」
(この時点で四人全員が生きてることが私達にとっては奇跡なんだよなぁ…⦅しみじみ⦆)
(なお、計画通りに行けばこの後最大のピンチがガリィに襲い掛かる模様⦅悲しみ⦆)
(ガリィちゃんなら大丈夫!ヘーキヘーキ!⦅適当⦆)
そんな事は露知らずガリィはいつぞやの立花親子とのお茶会を行ったテーブルを準備し、他のオートスコアラーを着席させ最後に自分も座った。
「それじゃ皆も座った事だし説明を始めまーす♪ ファラちゃんはミカちゃんから聞いてると思うけど、我慢して聞いていてね☆」
全員が着席した事を確認し、説明を始めようするガリィだが、しかし…。
「…あの、その前に少しだけ聞いてもいいかしら…?」
「? どうしたの、ファラちゃん?」
(ん?)
(ん?)
(なんだなんだ???)
それを遮ったのはファラだった。彼女は先程よりも更に浮かない表情をしており、それでいて何故か決意を固めたような表情をしていた。そんな彼女がガリィに問いたい事とは…。
「ガリィちゃん、貴方の目的がマスター以外の人類を自らの手で殺し尽す事だってミカちゃんから聞いたのだけれど…ごめんなさい、私にその手伝いはできそうにないわ…⦅震え声⦆」
「――――――――――ミカちゃ~ん♪ ガリィにも説明してくれるかしらぁ~?⦅満面の笑み⦆」
「いいゾ!⦅威風堂々⦆」
(いやぁ~、シャトーに帰って来たって感じの空気が心地よいですなぁ~⦅現実逃避⦆)
(ソッスネ…⦅遠い目⦆)
(ミカちゃんは精一杯頑張ったんだろうけど、不幸な擦れ違いが起きちゃったんだね…⦅フォロー⦆)
この後たっぷりファラに説明した。なお、それが終わるまでウェル博士は完全放置であった⦅悲しみ⦆
最後までもってくれ…私のモチベーションっ…!!⦅白目⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。