第九十五話です。
「…つまり、当時の怒りを思い出した衝撃と寝起きのテンションの所為であんな事を言ってしまったんですかぁ?⦅ジト目⦆」
「…否定は、しない⦅目逸らし⦆」
「『否定は、しない』じゃないですってば! 一人称まで変わっちゃっててガリィがどれだけ驚いたと思ってるんですか!もう少しで心臓が止まるところだったんですからね!⦅大嘘⦆」
(はぁ~⦅クソでか溜息⦆)
(そういうのはシャレにならないからやめて下さいよぉ~⦅精神疲労⦆)
(キャロルちゃんが何かに乗っ取られたのかと思ったけど、そんな事は無かったぜ!)
キャロルが最終決戦への参加を表明した後、キャロル陣営は玉座の間に集まり緊急の話し合いを行っていた。しかし世界に八つ当たりすると攻撃的な発言をしていたキャロルは現在、何故か気まずそうにガリィの視線から必死に目を逸らしていた。
「ガリィちゃんが慌てていると思ったら…そういう事だったのね」
「…昨日は色々あったからな。その上派手に記憶を思い出したとなれば、マスターが取り乱すのも仕方がないだろう」
「おっちゃんと将棋で遊んでたのに酷いんだゾ…⦅しょんぼり⦆」
(すまぬ、すまぬ…!)
(でもミカちゃん…既に詰んでたよね?)
(そうだよ⦅無慈悲⦆)
なお、混乱したガリィにより強制的に集合させられた面々はなんとも言えない表情をしていた。まあ主がおかしくなったと聞いて駆け付けた結果がコレでは仕方の無い事である。
「…早朝から騒がせてすまなかった。ミカ、貴様は戻って遊んでくるといい」
「いいのカ!?」
「ああ、これからの事は後でガリィから貴様に伝えさせるとしよう」
「…別にそれはいいんですけど、どうしてミカちゃんはあの博士になついてるのよ…」
「そんなの(ネフィリムと同化した)腕がかっこいいからに決まってるゾ!」
「ああ、そうなの…⦅無関心⦆」
(うーん、この)
(これは後で鬼ごっこさせられますね⦅悲しみ⦆)
(ウェル博士、頑張って!)
そして早くもミカが離脱し、これからの話は緊迫感が欠けたいつもの雰囲気で行われる事となったのだった。
「それで、マスターはどうされますか? 復讐をする相手は地味に全て死に絶えていますし、その者どもの子孫を滅するならば欧州全部を焼き払う必要がありますが…⦅真面目な意見⦆」
「なんだその恐ろしい発想は…いや、確かに俺は今、行き場の無い怒りを抱いてはいるが流石にそれは…⦅困惑⦆」
「レイアちゃんは真面目な性格なんだけど、だからこそ行き過ぎちゃうところがあるのよねぇ…」
「いやいや行き過ぎってレベルじゃないでしょ何よ欧州を焼き払うって!? 今のマスターがそんな事をするわけないでしょうが!⦅半ギレ⦆」
(え、何それは…⦅ドン引き⦆)
(ちょっと~、レイア姉さん物騒すぎんよ~)
(獅子機を使えば実際に焼き払えるんだよなぁ…⦅白目⦆)
ミカが欠けた会議はまず、クソ真面目なレイアの恐ろしい提案から始まった。恐らくレイアの中では
マスターが怒りと復讐心を思い出した→だが復讐相手は全て死に絶えている→なら子孫を殲滅して復讐を果たすしかない→特定が難しいため欧州を全て焼き払うしかない
という風な流れができてしまったのだろうか…それにしても真顔で恐ろしい事をいう人形である。⦅もちろん悪意は一切無い⦆
「確かに復讐を果たすと言う意味ではそれが最適解なのかもしれん。が、そのような手段を取ればパパはきっと悲しむに違いない…故にそれはできぬという事だ」
「…申し訳ありません、マスターの御父様の事を失念していました」
「全く、やめなさいよね…せっかくマスターを正気に戻せたのに、今度は物理的に世界を破壊するとか本当にシャレにならないんだから!」
「と、とにかくこの話は無かった事にして違う話をしましょう、ねっ?⦅軌道修正⦆」
(セーフ!セーフです!)
(イザークパパはこの瞬間、欧州を救ったのだ…⦅迫真⦆)
危うく世界絶対破壊するガールが再誕する所であったが、それはキャロルの父の人徳によって水際で阻止する事に成功したようだ。そしてファラがタイミングを見て話題転換を試みた事で、これ以降この話題が話される事は無かったのである。
「…確かにファラちゃんの言う通りね⦅便乗⦆ それより私達が知るべきなのはマスターが結局どうするのか、っていう事なんだもの」
「私もガリィちゃんと同じ意見ですわ。 マスター、どうなされますか?」
(そ、そうだよそれを聞かなきゃ!)
(ドキドキ…)
そして先程の話題を無かった事にしたオートスコアラー達は、キャロルの意思を確認するため彼女に問い掛けた。果たして彼女はこれからどのように行動して行くつもりなのだろうか。
「これから…か。 ガリィ、貴様は俺が立花響と邂逅する事に賛成のようだが…それに意味があると、何かが変わると思っているのか…?」
「――ふぇっ? いやいやガリィがそんなややこしい事考えてるわけないじゃないですかぁ!⦅大嘘⦆ ガリィはただ、大暴れしてマスターの気が少しでも晴れればいいなぁって思っただけです~!⦅大嘘⦆」
(まーた息をするように嘘吐いて~!)
(大暴れして気が晴れるとか子供かな…あっ、幼女だったわ)
(ビッキーとキャロルはフレンズになるんだよ!)
ガリィの本当の目的…それは響にキャロルの新たな支えになってもらう事、要は友達になってもらう事だった。数百年間たった一人で過ごして来た彼女の心は激しく摩耗しているため早急に癒す必要がある、と考えているガリィはこの機会を絶対に逃すわけにはいかないのである。
「成程、気が晴れれば…か」
「…立花響ならば、恐らく文句も言わずにマスターの呼び出しに応じるでしょう。昨日のマスターは地味に意気消沈しているように見えていましたから、ガリィの言い分も理解できます(ガリィの奴何か企んでいるな。 フッ…ここまで付き合った以上、私もガリィに乗るとしようか)」
「そうですよぉ、それに~マスターと痛みを共有できる響ちゃんと話をすれば~何か良い方向に向かうんじゃないかなぁってガリィは思うんです♪」
「ガリィちゃん…どうでしょうマスター、戦うかは別にして話だけでもしてみるのは如何ですか?(今の言葉…もしかしてそれがガリィちゃんの本音なのかしら…?)」
(ね、姉さん方ナイスアシスト!)
(…これ、もしかして気付かれてる?)
(だとしても援護はありがたいからOK)
ガリィの言葉を聞き迷う素振りを見せるキャロルに対し、追撃を仕掛けたのはガリィだけでなくレイアとファラもだった。どうやら二人はガリィが何か企んでいる事に気付き、そしてさり気無く協力してくれるつもりのようだ。
…二人とも本当にガリィにはもったいない程の仲間である⦅確信⦆
「ふむ、そうか…」
「ガリィ達にとっては最初で最後のお祭りみたいなものですし、マスターだけお家で留守番なんて言いっこ無しですよ♪ ほらほら~、さっさと首を縦に振らないと抱っこしちゃいますからね~☆」
(い つ も の)
(既に抱き上げているんですがそれは…⦅困惑⦆)
(シリアスさんはもう駄目みたいですね…⦅諦め⦆)
そう言いながらガリィは慣れた手付きでキャロルの身体を抱き上げた。その無駄のない動きを見ればこの行為が億度となく繰り返されている事は容易に推測できるだろう。
「…首を縦に振るだけの猶予すら無かったのだが?⦅半ギレ⦆」
「あっ、そうなんですか⦅適当⦆ そんな事より~、ほらほら早く参加するって言わないと次は頬擦りしちゃいますからねぇ~ウヘヘヘヘヘヘ♪⦅変質者⦆」
「だからその猶予すら無いと言って――や、やめんか馬鹿者!やめろ!!!⦅憤怒⦆」
「「…⦅遠い目⦆」」
(キャロルちゃんに元気が出て来て私…嬉しいよ⦅目逸らし⦆)
(さっ、これからの事を皆で考えるか!⦅現実逃避⦆)
(とりあえずマリアさんにどうやって対抗するかを考えよう!)
なお、この後すぐキャロルは首を縦に振ったが結局頬擦りされた⦅悲しみ⦆
「すいませ~ん、目にゴミが入っちゃって見えませんでしたぁ♪ と、いう事で次はどうしましょうかねぇ☆⦅悪魔の微笑み⦆」
「人形の貴様が何をふざけた事を…ま、待て、次は何をする気だきさ――」
「…私達はお邪魔みたいね⦅目逸らし⦆」
「…ああ、ミカの様子でも見に行くとしよう⦅緊急避難⦆」
(今日は一段と酷いっすね…⦅遠い目⦆)
(一つ大きな山を越えたからね、気が緩んでも仕方ないね⦅白目⦆)
(ガリィが悪いよガリィが~)
あっ、これは頬擦りだけじゃ済まない様ですね…⦅遠い目⦆
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その日、キャロル陣営による装者への一斉襲撃が行われた。
「探したぞ、雪音クリス」
「っ!? お前、なんで!? い、言っとくけどあたしは別にこの店に用があって来たわけじゃなくてその…あいつらに頼まれて来ただけなんだからな!⦅大嘘⦆」
「そ、そうか…⦅困惑⦆」
雪音クリスは街のファンシーショップにいる所を襲撃された⦅精神的ダメージ大⦆
『もしも~し! 中に入れてほしいんですけど~!お土産も持って来たわよー!』
「ガ、ガリィちゃん!?」
「…響かマリアさんに用事、なのかなぁ…?」
「あの子、本当に何を考えているのよ…⦅困惑⦆」
「…司令、どうしますか…?⦅遠い目⦆」
「仕方ない…俺が行こう」
立花響とマリア・カデンツァヴナ・イヴは本部で待機している所を襲撃…襲撃された!⦅強弁⦆
「…私に来客、ですか…? わ、分かりました…すぐに向かいます」
風鳴翼は父からの着信で実家が襲撃されていることを知り、慌てて救援に向かった⦅強弁⦆
「ただいま、デース!」
「今日もお疲れ様、切ちゃん」
「お帰り!!待ってたゾ!!!」
「「…んんっ?」」
暁切歌と月読調は敵に待ち伏せされ、安らぎの場を奪われた⦅強弁⦆
果たして、装者達は悪の組織による卑劣な奇襲を乗り超える事ができるのか…待て次回!⦅迫真⦆
これは卑劣な悪の組織ですね間違いない⦅確信⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。