ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第九十六話です。




第九十六話

 

 

「来たか、翼」

 

「はい、失礼しま――っ!?」

 

 ――風鳴翼が父の書斎へと到着しその扉を開けた先には…衝撃的な光景が映っていた。

 

 

「あら、お早い到着ですね。…剣ちゃんのこの反応、もしかして私の事を伝えておられないのですか?」

 

「無理に急がせ事故でも起こされては困るからな、翼には伝えていない」

 

 

 そこで翼が見た光景…それは自身の父と敵であるはずのファラ・スユーフが和やかに雑談しているというとんでもないものだった。

 

「お、御父様…この状況は一体…」

 

「…驚くのも無理は無いけど、とりあえず落ち着いてはどうかしら?」

 

「彼女の言う通りだ。茶でも飲みながら落ち着きなさい」

 

「は、はぁ…⦅困惑⦆」

 

 何故か父とファラの両者に諭され、翼は言われるがまま茶を飲み一息吐いた。そして…。

 

 

「ふぅ――じゃない! なんですかこの理解不能な状況は!?」

 

 

「まあ、そうなるわよねぇ…」

 

「…先に伝えておくべきだったか」

 

 その意味不明な光景に激しくツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

「先程の事は口外しないと約束する。それと、詫びとしてここの支払いは私がしよう」

 

「そ-かよ⦅ジト目⦆ …で、わざわざあたしを探し出して何の用だ?」

 

 精神に大ダメージを負ったクリスは現在…街の喫茶店でレイア・ダラーヒムと向かい合っていた。どうやらファンシーショップでの一件の後、ここに二人で移動して来たようだ。

 

「単刀直入に言うと派手な宣戦布告、だな。 雪音クリス、お前に一対一の決闘を申し込む」

 

「っ…! …どういうつもりか知らねーが、お前はあたし担当って事かよ?」

 

「察しが早いな。 そうだ、お前の仲間のいる場所には既に残りのオートスコアラーが向かっている」

 

 そう、既にクリス以外の装者達もオートスコアラーの奇襲を受けていた。なお、実害を被ったのはクリスだけの模様⦅悲しみ⦆

 

「…その喧嘩をあたしが素直に買うとでも思ってんのか?」

 

「勿論そんな事を思ってはいないが、お前達はこの提案を蹴る事はできない。何故なら――」

 

 レイアは提案を蹴った場合、どのような事が世界に起こるのかを話す。そして…。

 

 

「ふざけんな!!! そんなのはあたしが絶対に許さねぇ!!!」

 

 

 直情的な一人の装者が、釣れた。

 

 

 

 

 

 

「…これで終わりだゾ!⦅カンペを見ながら⦆」

 

「…なんだかとんでもない事を言っているのは分かるんデスけど…⦅困惑⦆」

 

「棒読みだから、いまいち緊張感が…⦅遠い目⦆」

 

「???」

 

 切歌と調は現在、ミカによる宣戦布告⦅棒読み⦆を聞き終えた所だった。二人はその内容をしっかりと理解してはいたが、ミカがカンペをガン見しながら読む姿の所為で緊迫感を抱く事はできなかったようだ。

 

「え~と、つまりあたし達は指定された日時、場所に向かえばいいって事デスよね?」

 

「うん!」

 

「発電所跡地…ここなら避難警報を出す必要は無い、のかな?」

 

「お前達が気にするからここがいいってマスター達が決めたんだゾ!!」

 

「「えぇ…⦅困惑⦆」」

 

 決闘に応じなければ世界中にアルカノイズをばら撒くと言いながら、何故かS.O.N.G.側の事情を考慮するキャロル陣営である。これには二人も困惑するのは仕方ないだろう。

 

「あっ、あとこれ!お土産にお菓子持って来た! ファラが二人にどうぞって言ってたゾ!」

 

「「え、えぇ…⦅困惑⦆」」

 

 困惑する二人を余所にミカは高級そうなお菓子をいくつか二人に手渡すと、ぶんぶんと手を振りながらシャトーへと帰還して行った。

 

 

「…ミカの言っていた事、多分嘘だと思う。誰も殺していないガリィ達がそんな事すると思えないし…」

 

「デース…⦅同意⦆」

 

 なお、残された二人にはガリィが適当に考えた嘘が速攻でバレている模様。⦅悲しみ⦆

 

「…でも、何か意味があるのかもしれないね」

 

「そう、デスね…とりあえず本部に連絡して、お菓子を頂きながら考えるとするデス」

 

 そして二人は本部へと通信を開始した。なお、本部にもお菓子を持った人形が襲来している模様。

 

 

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「――と、いうわけで他の装者達のところにもオートスコアラーが宣戦布告に向かっているはずよ。で、私はアンタ…マリアに宣戦布告しに来たってわけ♪」

 

「っ、成程ね…。大量のお菓子とウェル博士を抱えて現れた時は本当に驚いたけど、それとは関係の無い話だったのね…」

 

「あの男は深淵の竜宮で偶然見つけたのよ。で、戦闘に巻き込まれて死んだら可哀想って事で一時的に保護しただけ。 私達も持て余してたし、アンタ達に返しておくわ」

 

(宣戦布告⦅遠回しな自殺⦆)

(バカ野郎お前ガリィは勝つぞお前!⦅白目⦆)

(結局作戦が定まらないまま、今日まで来てしまいましたね…⦅諦め⦆)

 

 港に停泊している潜水艦…その内部のとある一室で響、マリア、未来の三人は予期せぬ来客を迎えていた。なお、弦十郎はガリィが連れて来たウェル博士を再度連行するために不在である。

 

「…ガリィちゃん、私の所には誰も来てないんだけど…もしかして私、いらない子なの!? うえ~ん!もぐもぐ!!⦅食事中⦆」

 

「ちょっと落ち着きなさいってば! ほら、ほっぺに食べかすついてるよ?」

 

(いらない子どころか君が一番重要なんやで⦅満面の笑み⦆)

(主人公VSラスボスのタイトルマッチだゾ)

 

 ガリィがマリアを指名したという事=自分が余ってしまう事に気付いた響はショックで思わずガリィの持って来たお菓子をヤケ食いしてしまう。しかし待ってほしい、彼女には出番が無いどころか超重要な役目を任せる予定であり、ガリィはそれについて説明を始めるのだった。

 

「相変わらず仲良いわね~アンタ達♪ でも響ちゃん、悠長にお菓子なんて食べていて大丈夫なのかしら~☆」

 

「ふぇっ?」

 

「…悠長って、どういう意味かしら?」

 

「そんなの決まってるじゃない♪ 響ちゃんには特別な相手と…マスターと戦ってもらうんだからお菓子なんて食べてる場合じゃないでしょ☆ はいこれ、日時と場所が書いてあるから遅れずに来なさいよね~」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

(…これ、響ちゃん単体じゃ勝ち目なくね?)

(マリアさんがガリィちゃんを瞬殺して駆け付けるやろ⦅適当⦆)

(他の装者のみんなもオートスコアラーを退けた後、救援に向かうはずだよね。そのために響ちゃんの所だけ少し遅めの時間に設定したんだし)

 

 そう、響の相手を努めるのは敵陣営のトップであるキャロル・マールス・ディーンハイムだった。これには三人も驚愕を隠せないようだ。

 

「ま、そういうわけだからよろし――」

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさい響一人でキャロルの相手をしろって言うの!? そんなの無茶苦茶よ!」

 

「そ、そうだよガリィちゃん!」

 

「私が、キャロルちゃんと…」

 

(ま、そうなるな)

(まだ奥の手⦅獅子機⦆が残っているという絶望よ)

 

 驚愕している三人を余所に話を勧めようとするガリィ。だがマリアと未来からすればそれは到底納得できるものでは無いため、彼女達はガリィに抗議の声を上げるのだった。

 

「無茶苦茶でもなんでもこれは決定事項なの、分かった? あ、でもそんなに心配ならアンタ達がアタシ達に勝てれば響ちゃんを助けに行ってもいいわよ♪ ま、勝てればの話だけど☆」

 

「そんな…」

 

「駄目よ危険すぎる! それならせめて、私達の決着がついてから響とキャロルの戦いを――」

 

(マリアさんは勝てる⦅確信⦆)

(あと、翼さんも圧倒的有利だよね)

(この二人はほぼ確定で駆け付けるだろうな)

 

 しかしその抗議はあっさりとガリィに切り捨てられ、それでも納得いかないマリアは食い下がるのだが…。

 

 

 

「――心配してくれてありがとうございます…だけど私、キャロルちゃんと戦います!」

 

 

 

 彼女は…立花響はキャロルと戦う事を決意した。

 

 

「な、何言ってるのよ響っ! 相手はあのキャロルちゃんなんだよ!?」

 

「未来の言う通りよ! 三人掛かりでようやく倒せるかどうかの相手なのに、一人でどうやって勝つつもりなの!?」

 

「…自分で言っておいてなんだけど、アタシも少し驚いちゃったわ。どういう心境でそうなったのかしらねぇ」

 

(さすがビッキーや!ワイは信じとったで!⦅歓喜⦆)

(…まさか響ちゃんには、私達の知らない奥の手が…?)

(なにそれ怖い)

 

 響の言葉にに驚いたのは未来とマリア…そしてガリィもだった。いくら響でもキャロルを一人で相手取り勝利する事は不可能に近いが、勿論そんな事は響自身も分かっているはずである。では何故彼女は一人で絶望的な戦場に赴く事を決意したのだろうか。

 

 

「ガリィちゃんの伝言…聞いたから。だからきっと、これには意味があるんだと思う…そうだよね、ガリィちゃん?」

 

「…ふぅん、珍しく察しが良いのね。 だけどこちらとしてはありがたいし、一応感謝してあげる⦅上から目線⦆」

 

 

(う~ん、この態度⦅呆れ⦆)

(ここはビッキーの男前な台詞に頬を赤らめるところダルルルルルォ!!)

(そんな機能、畜生人形には搭載されてないです⦅真顔⦆)

 

 響がキャロルとの戦いを決意した理由…それは先日、ミカから伝え聞いたガリィの言葉だった。

 

『マスターを響ちゃんに任せるわ。あの子の事、お願い』

 

 この言葉を覚えていた響はこの戦いに何か意味がある事に気付き、戦う事を決意したのだ。

 

「あの時の伝言…だけど響、本当に大丈夫なの?」

 

「うん、ガリィちゃんには今まで何回も助けてもらったし…だから今度は私がガリィちゃんの力になるって決めたから…!」

 

(これは主人公⦅確信⦆)

(ガリィも見習ってほらほら!)

(ガリィちゃんは主人公じゃないので無理です⦅悲しみ⦆)

 

 決意を固めた響に対し、最早止める事は不可能だと理解しながらも心配する未来。だが、やはり響の決意は固く、彼女は恩人であるガリィの力になる事を決めていた。

 

「…なによ、随分生意気な事言ってくれるじゃない。…助かるわ、ありがとう」

 

「うん! 任せてよ!⦅満面の笑み⦆」

 

「…こうなったらもう止められないでしょうし、私は響の救援に間に合うよう頑張るしかないわね」

 

「そう、ですね…ってマリアさんの相手はガリィちゃんですよね…?」

 

「そうよ…はぁ、こんなの見せられたらやりにくい事この上無いわね…⦅遠い目⦆」

 

(やっとちゃんとお礼言えたね)

(マリアさんやりにくいなら手加減して下さい⦅切実⦆)

(とりあえずイグナイトは禁止な!⦅畜生⦆)

 

 なにはともあれ、これで響をキャロルと引き合わせる事には成功である。後は弦十郎の帰還を待ち、説明をするだけなのだが…。

 

 

 

「ガ、ガリィが来ているって本当ですか!?」

 

 

 

「っ――はぁ、そう言えばアンタもいたわね。…あの砂浜以来ねエルフナイン、元気にしていたかしら?」

 

 

(エルフナインちゃんだ!囲め!)

(可愛い、可愛くない?)

 

 どうやら弦十郎が帰ってくる前に、もう一人追加で説明を行う必要があるようだ。

 

 

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 …所変わってこれは、風鳴邸で起こってしまった事件の一部始終を捉えた物語である。

 

 

 

「さて、今日はガリィちゃんのオススメでこんなものを持参して参りましたの」

 

 翼が落ち着いた事を確認したファラは、土産が入った紙袋から何かを取り出そうとした。そして…。

 

「あら、落としてしまいましたわね」

 

「これは、果たし状だと…?」

 

 ファラはそれを…果たし状を落としてしまう。彼女はそれを拾おうと身を屈ませ…。

 

 

 ドサッ

 

 

『風鳴翼プレミアムライブ~初回限定版Blu-ray Disc~』

 

 

 

 ここに来る前に購入したブツを、一番見せてはいけない相手の前で落としてしまった。⦅痛恨の失策⦆

 

 

 

「…⦅思考停止⦆」

 

「…なん、だと…⦅驚愕⦆」

 

「これは…」

 

 

 その後ファラは果たし状を机に叩きつけ、窓に向かって脱兎のごとく逃げ出した。 あ、勿論落としたブツは回収しました。⦅見られていないとは言っていない⦆

 

 

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「呪いを纏った装者にオートスコアラーを破壊させる事が、チフォージュ・シャトー起動のトリガーになっていただなんて…」

 

「そっ、アンタがドヴェルグ=ダインの遺産を持ち去るところから既にマスターの掌の上だったってわけ、理解したかしら?」

 

(全部ぶっちゃけちゃったよこの人形…)

(ま、まあバラしてもええやろ)

(ソッスネ⦅白目⦆)

 

 風鳴邸で悲しい事件が起きていた頃、弦十郎の帰還を待つ面々はボツになった世界分解計画の詳細をガリィから聞いていた。ちなみにこれはキャロルが正気に戻った今、最早ネタばらしをしても構わないというガリィの勝手な判断により行われている模様⦅呆れ⦆

 

「でっ、でもガリィちゃん達は皆生きてる…よね?」

 

「だからそれは計画が中止になったからってさっき言ったでしょうが。そうでもないとネタばらしなんかするわけないでしょ」

 

「あの…計画が中止と言う事はキャロルは、その…」

 

「ええ、マスターは正気を取り戻したわよ。…ま、その所為でかなり落ち込んじゃっているけどね」

 

(今は少しだけマシになったけど、まだあんまり元気ないよね)

(こればっかりはなぁ…)

 

 既にネタばらしを終えているものの、いまだ弦十郎が帰還していないため現在は質疑応答の時間のようだ。今更隠す事などほとんど無いガリィは彼女達の質問にあっさりと答えているようだが、一応まだ敵同士である事を忘れないで頂きたい⦅切実⦆

 

「それは、そうですよね…キャロルは計画を遂行する為に心血を注いでいましたから…」

 

「…つまりガリィ、貴方は響にキャロルを励ましてほしいのかしら?」

 

「そんなつもりは無いわよ。響ちゃんは余計な事なんて考えずに、自分の思うまま動いてくれて構わないわ」

 

「わ、分かったよ…!」

 

「響の自由にって…大丈夫かなぁ…?」

 

「ひ、酷いよ未来~! 私だってやる時はやるんだからね!」

 

(未来さんはビッキーの事を良く分かっているなぁ…⦅遠い目⦆)

(な、なんでや! ビッキーに任せれば問題無いやろ!⦅目逸らし⦆)

(響ちゃんは問題はあっても最後にはなんとかしてくれそうな信頼感があるよね)

 

 繰り返すが、最終決戦を前にした敵味方の会話である。…ガリィが悪いよガリィがー!⦅ナレーション放棄⦆

 

 

 

「すまない、遅くなった。…っと、ガリィ君も待っていてくれたのか」

 

 

「あら、ようやく帰って来たのね」

 

 

 それから五分後、帰還した弦十郎に説明を済ませガリィは帰還した。決戦は明後日…その時、世界の命運が決まる…決まるのである!⦅強弁⦆

 

 

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「落としたのは一瞬…なら見られなかった可能性もあるわよね?⦅希望的観測⦆ …でも、翼ちゃんのあの反応だと…でもでも落ちていた時間を考えれば――⦅以下無限ループ⦆」

 

 

「マスタ~、優秀なガリィがちゃーんとお仕事を済ましてきま――なにこの状況…ファラちゃんに何かあったの?」

 

(三角座り、してるね…)

(何かを延々と呟いていますね…)

 

 ガリィがシャトーに帰還した後、玉座の間で見た光景…それは皆が見守る中、ファラが一人でブツブツと何かを呟いている異様な光景だった。

 

「…戻ったか、ガリィ」

 

「ファラは私が帰還した時、既にこの状態だった」

 

「アタシが一番先に帰って来たけど、ずっとこんな感じだゾ!」

 

「ええ…⦅困惑⦆」

 

 …なお、決戦は明後日である。果たしてファラは明後日までに立ち直る事ができるのだろうか…⦅遠い目⦆

 

 





次回・それぞれの決戦前夜

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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