戦姫絶唱シンフォギアW   作:まだお

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ビギンズナイトとVシネエターナルを見てたら遅くなりました。
何というか京水さんて凄いですね。
あの人で笑って、大道に感動して、またあの人で笑いました。


感想を下さった方ありがとうございます。
いつも非常に励みになってます。


Cの捜索/新米探偵(仮)

リディアン音楽院の教室。

そこで響は机に顔を伏せがらため息を吐いていた。

 

「はぁ〜、全然見つからないよぅ」

 

先日受けた猫の捜索依頼。

あれから数日経ったが、未だに手掛かりを掴めていない。

翔太郎から出された課題は"本気"をみせること。

だが、響にはどうすれば本気をみせた事になるのかが、分からなかった。

故に最も正解に近いであろう、猫の発見を目標にしていたが、結果は芳しくない。

学校に行きながら、ノイズの対応と猫の捜索を繰り返しで、疲労も溜まっていた。

 

(うぅ、こんなんじゃ翔太郎さんに助手として雇ってもらうなんて、夢のまた夢だ。どうにかしないと…)

 

頭を悩ませていた響の首筋に、冷たい物が触れる。

 

「うひゃっ」

 

驚いて顔を上げると、そこにはジュースを片手に持った未来が立っていた。

 

「疲れてるみたいだったから、これ買ってきたよ。さっきの授業からずっと上の空だったけど、何か考え事?」

 

「未来!ありがと。…うん、この前言ったとおり、猫探しをしてるんだけど、それが中々見つからなくてね〜」

 

気を利かせてくれた幼馴染に、お礼を言いながら受け取る。

未来には翔太郎から許可をもらい、事情を説明していた。

最も、助手を志願した経緯については、シンフォギアや仮面ライダーなどを除いて、当たり障りの無い程度しか話していないが。

 

「この街、結構広いからね。聞いた話だと翔太郎さん達もまだ、手掛かりを掴めてないんでしょ?だったら、素人の響が見つけられなくても当然じゃない」

 

未来の言葉に顔を引きつらせる響。

そう、実は猫探しが得意と聞いていた翔太郎すら、未だ捜索に進展はない。

それ自体は助手を目指す響にとって、猶予が増えるという事でもある。

しかし、同時にこの依頼が難問であるということも意味していた。

依頼人を待たせて続けているというのも心苦しい。

 

「それはそうなんだけどさ〜。でも結構色々なところを探したんだよ?猫の気持ちになって屋根の上とか木の上とか」

 

両手を丸め猫のモノマネをする響。

未来はそんな彼女に苦笑しながら、席に腰をおろした。

彼女はこの間の件もあり、翔太郎達の仕事が、時に危険をともなう事を知っている。

だから響が、探偵の仕事を手伝うと聞いた時には、不安が大きかった。

無論、翔太郎達が響に危ない事をさせるとは思わない。

それでも幼馴染の性格上、もし困った人がいれば、自分の身を顧みずに首を突っ込んでしまうだろう。

あくまで助手にする、しないは当人同士の問題であるが、未来にはそれが心配だった。

だが、こうして猫探しに頭を悩ませる姿を見ると、少しだけ微笑ましいものもある。

 

「響はどっちかと言うと犬ぽいからね。上にいないなら下にいたりして」

 

からかうように言った未来だったが、それを聞いた響は、何かを思いついたように手を叩く。

そして彼女の方に向き直ると、思いっきり抱きついた。

 

「それだよ未来!さっすが私の幼馴染は頼りになるなぁ!」

 

「えっ?あの、響!?み、みんな見てるから…」

 

大喜びする響にに対し、未来は顔を赤らめて照れる。

周囲の目を気にしていたが、クラスメイトは既に「なんだ、いつものことか」と特に気にしていなかった。

 

 

 

 

 

 

一方、鳴海探偵事務所。

こちらでも捜索に進展が無いことに、焦りを感じていた。

 

「くそっ、どうなってやがる!こんだけ探してんのに野良猫一匹見つかりやしねぇ!」

 

「名探偵である翔太郎さんがここまで苦戦するなんて…これは、怪事件の可能性がありますね」

 

「…こういう時だけ名探偵扱いするなよ」

 

落ち込む翔太郎に、セレナは舌を出して「冗談です」と告げる。

だが、怪事件というのは強ち間違いではないだろう。

なぜなら、野良猫一匹見つからないというのは比喩表現ではない。

文字通りこの数日間、野外で猫を目撃していないのだ。

それだけでなく、聞き込みの結果、外猫として飼っていた猫が家に戻らなくなったり、ペットショップにいる猫が怯えてたりしている事が判明した。

 

「今回、響さんにとっては、酷な試練になりましたね」

 

「…おい、セレナ。お前の言うことも分かるけどよ、今は依頼のことを考えんのが先だろ。少しビッキーに入れ込み過ぎだ」

 

「それは…ごめんなさい。でも、響さんの頑張りを見ているとつい…」

 

セレナは注意されても、まだ、響にのことを気にしている。

そんな彼女を見て、翔太郎はため息を吐いた。

この依頼を受けてから、ずっとこの調子だ。

事件に集中しきれていない。

 

「はぁ…お前がそんな調子じゃ、事件解決までの道のりは遠いぜ。…まぁ、ビッキーがこの依頼に、異常な程やる気出してんのは間違いない」

 

「やっぱりそう思います?…依頼内容のせい、何でしょうか」

 

その言葉に翔太郎は以前、調査を思い出した。

響の父親、立花洸。

彼はかつて、一般商社に勤めるごく普通のサラリーマンであり、子煩悩で家庭を大切にする良き父でもあった。

あの事件までは。

あの事件以降、つまりツヴァイウィングのライブ後、生き残った人に向けられた謂れなきバッシングは、その家族にも向けられたのだ。

当初は娘の生存を喜んでいた父も、次第に会社での立場を失い、家でも投石などの嫌がらせを受け、完全に参ってしまった。

やがては、酒に溺れ家庭内で暴力をふるうようになり、そのまま姿をくらます。

家に残ったのは娘と母と祖母の3人。

翔太郎達が響と出会ったのはその時だった。

 

「…父親との思い出、ってとこが引っかかってんだろうな。あいつにとって、幸せな父親の思い出てのは特別だ」

 

「父親との思い出が特別…」

 

「だけどな、ビッキーは少なくとも依頼に本気で臨んでやがる。…なぁセレナ、あいつが助手を目指している以上、俺たちが情けねえところ見せられないだろ」

 

その言葉にセレナは何も言えなかった。

自分でも分かっているのだ、この数日間、精彩を欠いていたのは。

分かってはいたが、それでも考えてしまう。

この依頼、もし自分の予想が正しければ、響はまた、この街の汚い部分を見てしまうのではないかと。

だが、翔太郎の言うとおり、自分達は探偵の先輩として、響に情けないところを見せるわけにはいかない。

考えたセレナは、自分が響について悩んでいる理由を話すことにした。

 

「翔太郎さん、今回の依頼についてなんですが…」

 

 

 

 

 

 

響は放課後のチャイムが鳴ると、すぐに学校を飛び出していた。

 

(未来ってば流石だな〜。わたしじゃ(地下)なんて思いつかなかったよ)

 

今、彼女が目指しているのは河川敷。

正確には、そこから入ることのできる地下水路を目指していた。

響は未来の言った下という言葉を受けて、猫の入ることが出来そうな地下道を、しらみつぶしに回ることにしたのだ。

といってもその数は多く、回りきるにはかなりの時間を有する。

それに、猫が本当にそこにいるという保証もない。

だが、それでも響は友人の言葉に賭けた。

未来にとっては冗談混じりの言葉であったが、それ以外の可能性が思い浮かばなかったのだろう。

そして、それが間違っていなかったことは、彼女が地下を巡り始めて暫く経ってから判明した。

 

「いたぁ!やっと猫を見つけたよ〜。きっと、依頼対象(チャオ)もこの先にいるよね」

 

そう、響は遂にこの街で野良猫を見つけることに成功したのだ。

まだ、目的の猫を見つけた訳ではないが、今まで外で猫を見つけることすら出来なかった。

その分、今回の期待は大きい。

響はすぐ翔太郎に現在地と猫を見つけた旨のメールを送ると、野良猫の後をつける。

薄暗い道を奥へ進む彼女の耳に、複数の猫の鳴き声が聞こえた。

 

「あは!やっぱりこの先にいたんだ!」

 

喜びながら駆け足で音源へと近づく。

そんな彼女を出迎えたのは、暗闇に光る複数の目。

飼い猫、野良猫を問わず大勢の猫がそこにいた。

そして、その中の一匹は、響が懐から出した写真の猫と同じ、特徴的なハートマークの模様、豪華な首輪をしている。

今回の依頼対象であるチャオに間違いないだろう。

 

「やったぁ!これであの人も喜んでくれるよね!」

 

今朝までは、テストのためにもと考えていた響だが、いざ依頼対象を目にすると、そんな事よりも人が喜ぶ姿の方が嬉しいようだ。

彼女の頭の中には依頼人の喜ぶ姿だけが浮かんでいた。

だがそんな彼女に突如として、唸り声が聞こえてくる。

驚いて周囲を見回す響の目に映ったのは、人…ではない。

シルエットこそ人に似ているが、全身を覆う短い毛、猫のような足の関節、指先から伸びる鋭い爪と、よく見れば明らかに常人とは違う。

そこから導き出された答えは一つ。

 

「も、もしかしてこの人、ドーパント!?」

 

つい最近、彼女はモニター越しに別のドーパントを見たばかりだ。

響がその時見たそれとは、姿形が異なり過ぎて確信は持てない。

だが、装者の勘というものか何となく目の前の異形が、ドーパントであると理解できた。

節々で猫を思わせるドーパントは彼女を睨みつけている。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

このままでは、襲われるかもしれない。

そう判断した響は、素早くその身にシンフォギアを纏う。

両手を構え、戦いの姿勢を取るが、そこで響はあることに気づきいた。

 

(何だろう…この人、怒ってるんじゃなくて苦しんでる?)

 

変わらず唸り声を上げているが、それに怒りを感じない。

むしろ、どこか苦しげ気で助けを求めているようにすら思えた。

響は一度構えを解くと、ドーパントに向かって話しかける。

 

「あの、大丈夫ですか?どこか怪我をしてるんですか?」

 

相手からの返答はない。

響にはそれが、本当に苦しんでるからだと思えた。

少しずつゆっくり、ドーパントを刺激しないように近づく。

もし、本当に怪我をしているなら助けたい。

そう考えての行動だった。

だが、それによりドーパントは却って警戒を強めてしまう。

ドーパントが鋭い爪を長く伸ばし、響へと飛びかかる。

彼女は、それに虚をつかれ咄嗟に拳を握った。

しかし、唇を強く噛み締めると拳を解いて防御の姿勢を取る。

 

「くっ、うぅぅうぅ」

 

一切反撃をしない響に、容赦のない猛攻が続く。

それを歯を食いしばって必死に耐える響。

シンフォギアを纏っているため、致命傷こそ受けてはいないが、ダメージは確実に蓄積していった。

響の肌が薄っすらと赤みを帯びてくる。

このままでは、もうすぐ彼女の柔肌を、鋭利な爪が切り裂いてしまうだろう。

そう思われた時だった。

 

『バット』

 

眩いフラッシュが薄暗かった地下に広がる。

それを受けたドーパントはよろめき、響から距離をとった。

驚く彼女に2人分の足跡と聞き慣れた声が届く。

 

「おい、ビッキー!一人で突っ走ってんじゃねえよ!」

 

「…それ、翔太郎さんがいいますか?響さん、お待たせしました!」

 

駆けつけて来たのは、ドーパント専門家とも言える探偵達。

そんな2人が来たことにより、緊張が解けた響は尻餅をついた。

 

「あはは…ごめんない。依頼してくれた人の喜ぶ顔を思うと、待ってられなくて」

 

笑ってはいるが、彼女の顔には疲労が強く浮き出ている。

それを見た翔太郎は頭をかく。

そして、どこか困ったような顔をすると響の前に出た。

 

「少しは自分の事も考えやがれ。お前に何かあったらヒナもセレナも…俺も心配すんだろ」

 

そう言う翔太郎の耳は若干赤い。

ハードボイルドを目指す彼は、このようなセリフ、自分には合わないと思っているのだろう。

だが、それでも言わずにはいられなかった。

この少女の献身は、時として度を過ぎるのだ。

 

「翔太郎さん…」

 

響を心配する気持ちが十分伝わったのか、彼女の顔も照れで赤くなる。

2人に微妙な空気が流れるが、セレナが咳払いをして流れを変えた。

 

「あのドーパント、ネコ科のようですね…耳の特徴からするとカラカルでしょうか」

 

冷静に判断するセレナに、ドーパントが再び苦し気な声を出す。

今度は立っていられなくなったのか、片膝までついてしまった。

そして、周囲にいた猫はそんなドーパントに駆け寄ると、心配そうにその身を舐める。

 

「なるほど、理解できました。あのドーパントの方、人の姿に戻れなくなったみたいですね。それでこの場所で苦悶していた。その声が、街中の猫の耳に届いて、助けに来る猫と怯える猫に別れたんです」

 

「そういうことかよ。どうりで街中で猫を見かけないわけだ。セレナ、助けられるか?」

 

「はい、問題ありません。どうやら単なるメモリの不具合のようですし、ブレイクさえすれば元に戻せるはずです」

 

そう言ってドライバーとメモリを構える2人に、慌てて響が声かけた。

 

「ま、待って2人とも!今戦ったら、周りの猫ちゃんまで傷ついちゃうよ!」

 

響の言う通り、ドーパントの周りは多数の猫がいる。

その中にはチャオもおり、不用意に戦闘を行うことは危険に思えた。

それに口にはしていないが、ドーパントに変身している人の身も案じているようだ。

だが、2人は不敵に笑うと大丈夫だと響に言う。

 

「心配いらねぇ、一撃で決めてやるよ」

 

「ええ、周りの猫さんにも怪我は負わせません。私達には"幻想"の力がありますから」

 

ポカンとした響をよそに2人は、それぞれのベルトにメモリを装填する。

 

『ルナ』/『トリガー』

 

今回2人が選んだのは、幻想と銃撃手の記憶。

右半身は黄色、左半分は青色となったWは右手にトリガーマグナムを構えた。

それを見て、カラカルドーパントはよろよろと立ち上がる。

 

「そう警戒すんなよ、キャットウーマン。痛みは一瞬だ」

 

『今、あなたを助けます。ちょっとくすぐったいですけどね』

 

冗談めかしているように聞こえるが、2人の声音は真剣だ。

ゆっくりとマキシマムスロットに、トリガーメモリを装填する。

 

『トリガーマキシマムドライブ』

 

「『トリガーフルバースト』」

 

トリガーマグナムの銃口から放たれる複数の弾丸。

それに反応して、猫達が宙を舞う。

中には完全に射線を塞いでいる猫もおり、一瞬、惨劇が響の頭をよぎった。

だが、猫に当たる直前に銃弾は曲がる。

それも一度ではない。

猫に当たりそうになる度に、その軌道を変え、ドーパントの元へと向かっていく。

ルナトリガー、その特徴は必中の変則弾。

たとえ、相手が遮蔽物の多い場所に隠れようが、高速移動をしようが関係ない。

この姿のWが、狙った獲物を逃がすことは無いのだから。

 

「す、すごい…ってあわわ!セーフ!」

 

Wの放った弾丸により、カラカルドーパントは体外にメモリを排出して、元の女性に戻った。

響は最初こそ感嘆していたものの、倒れこむ女性を見て、慌てて走って支える。

変身を解いた翔太郎がそれを見て笑う。

 

「心配なかったろ?…ま、今回はビッキーのお手柄だ。よく頑張ったな」

 

「完全に響さんに出遅れてしまいました…お恥ずかしい限りです」

 

2人からの言葉に照れながら頭をかく。

その後、翔太郎が警察に連絡をして、女性を引き渡すと事務所へと戻った。

 

 

 

 

 

 

翌日、事務所には響、セレナ、翔太郎に加え依頼人の中条がいた。

響によって無事保護された猫を、引き渡すためである。

 

「お待たせしました!確認をお願いします!」

 

響はニコニコと笑いながら猫をケージから出す。

それを見た中条は一瞬喜んだ後、すぐに焦った様子に変わった。

じろじろと猫の姿を見回している。

 

「ひょ、ひょっとしてこの子、チャオじゃなかったりします?」

 

先程までの笑顔が一転、不安な顔になる響だが、翔太郎がそれを否定した。

 

「いや、この子はチャオで間違いない。…ですよね?中条さん」

 

「ええ…それは…そうなんですけど…あの、この子は最初からこの状態で?」

 

猫を見つけたというのに、依頼人の表情は暗い。

自体がまったく飲み込めていない響は、頭に疑問符が浮かぶ。

そんか彼女を見て、セレナは一瞬辛そうな顔をするが、すぐに口を引き締め中条に言い放った。

 

「マリーナエメラルド…それが答えですよね?」

 

マリーナエメラルド、その言葉を聞いた中条の顔が強張る。

 

「やっぱり、そうなんですね。中条さん…あなたが探していたのはチャオじゃなくて、首輪の方だった」

 

「な、何をおっしゃられてるのか…私は、ただ父との思い出を…」

 

「…私は捜査初日、翔太郎さん達に置いていかれて手持ち無沙汰だったので、あなた達家族について調べさせてもらいました。少しでも猫探しの手掛かりになれば、と」

 

翔太郎は、帽子で目元を隠しながら「まだ根に持ってやがる」と呟く。

そうやって、戯けなければ耐えられない。

響には彼の態度がそう言っているように感じた。

 

「残念ながら、あなた方の事を調べても、チャオについての有力な情報はありませんでした。ただ、一つ…あなたがチャオの飼い主であり、実の父親である中条巌さんが不仲であった事以外」

 

「今日、俺はこいつに言われてあんた達の家族について、より詳しく調べさせてもらった。残念だが、あんた達が巌さんと良い思い出だった、なんて言えるような話は一つとして聞けなかったぜ。巌さんの生前から財産分与の話で揉める一族、それを怒鳴りつける巌さん…今際の際に寄り添ってたのは、チャオだけだったらしいな」

 

「あなた方の動向をまとめると、父親の死後、最も高価な遺産がチャオの首輪についている事が判明した。しかし、一家は誰もチャオを気に留めていなかったため、居なくなったことに気づかなかったんですね。だから、私達を頼った…」

 

「焦ったあんたら一家は、それぞれが独占しようと動いてたわけだ。おかげですぐに情報が集まったがな」

 

セレナは、その能力によっていち早くこの事に気づきかけていたのだ。

そして、翔太郎に相談し、捜査してもらった事で確信を持った。

今回の件は、依頼人を信じていた響にとって、酷な現実である事を。

中条の体が震える。

だが、それは悲しみからではない。

図星をつかれたことによる焦りからだった。

 

「し、仕方ないでしょう…18億よ!父の遺産の中では最も高額なの!そんなのどんな手を使っても欲しがるに決まってるじゃない!」

 

その言葉に響はうつむく。

その表情は2人からはうかがえないが、少なくとも彼女が、傷ついている事だけは分かった。

しかし、中条はそれに構う事なく続ける。

 

「そもそも、そんな物をたかが猫の首輪に使ってるなんて、分かるわけ無いわ!」

 

「これは推測ですが…チャオの目はこの宝石によく似ています。きっと似合うから、それだけだったんでしょうね」

 

「正気じゃない…正気じゃないわ!父は、この宝石の価値を理解していなかったのかしら!なんて、馬鹿なの!」

 

ドン、と誰かが机を叩いた。

それに驚き中条は口をつぐみ、その人物を見る。

その視線の先にいたのは、先程まで沈黙を保っていた響。

彼女は、その目に溢れんばかりの涙を溜めて叫ぶ。

 

「本当に…本当に分かりませんか!?お父さんは、お金なんてどうでも良かったんですよ!ただ大変な時に、側に居て欲しかった…それをしてくれたのがチャオだけだった!だからこの子に贈ったんです!」

 

その勢いに気圧され、中条は言葉を失う。

翔太郎もセレナも、思いの丈をぶつける響を黙って見ていた。

 

「家族って辛い時、苦しい時に側に居てくれるものでしょう!?大変な時に、寄り添ってあげるものでしょう!?お父さんは…それをして欲しかっただけ、なんですよっ!」

 

ポロポロと大粒の涙が彼女の頬を伝う。

翔太郎はそんな彼女に、そっと帽子を被せて立ち上がった。

 

「中条さん、今回の依頼料はいらねぇ。首輪もあんたらに返す、相続争いでも何でも好きにしな。だが、チャオだけは渡せねぇ。こいつは中条巌さんの忘れ形見だ。あんたらには託せない」

 

帽子は響に預けた事で露わになった翔太郎の目許。

そこには中条に対する冷たさと、響を思う優しさがあった。

それに気圧された中条は、慌てて首輪を受け取ると、脱兎の如く事務所から逃げ出す。

 

「暫く、それ被ってろ。半熟のお前にはまだ早いが仕方ねえ。今日だけ特別だ」

 

「すぐ、鳴海荘吉さんの言葉を真似するんですから…響さん、少し私と一緒に休みましょう?」

 

そんな2人の言葉に黙った頷く響。

帽子の下からは、未だ雨が降り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは…すみません。翔太郎さん、セレナちゃん、勝手なことして依頼人さんに怒鳴ったりして」

 

そう言う響の目元はまだ赤い。

セレナはそんな彼女を痛々しそうに見ている。

翔太郎が以前言ったこの街の汚い部分、その一端がまさに響を襲った。

探偵という仕事は綺麗事ばかりではない。

もし、今後も探偵を続けるのであれば、再び、今回のような事になる時もあるだろう。

彼女は、その度に響を傷つけるよりは、助手を諦めさせた方がいいのではないか、と思った。

 

「ビッキー、一つだけ言っておくぜ。今後、俺が認めるまで仕事中に帽子は被るな。そいつは、一人前の証だ。お前にはまだはえーよ」

 

翔太郎の言葉を理解できずに、首をかしげる響。

彼はそんな彼女に嘆息すると、ゆっくりと告げた。

 

「キャットウーマンの件で、お前が探偵稼業の必需品を持ってるのは分かった。だが俺達は、今回みたいに汚い依頼を受けることもある。それでも、結果的に誰かを救えるのなら、依頼をやり遂げなきゃなんねえ。お前がチャオを救ったみたいにな」

 

そこまで言って翔太郎は、彼女の頭から帽子を取り、自分の頭に被り直す。

 

「お前がやった事は間違ってねえ。先代…俺のおやっさんもそう言うだろうよ。だから、半分くらいは認めてやる。残り半分は助手として学んでいけ、お前が知りたい覚悟ってやつと一緒に」

 

そんな彼の言葉に、響より先にセレナが反応した。

 

「ちょ、ちょっと本気ですか翔太郎さん?」

 

「あぁ、最初から汚いところを見せちまったんだ。だったら覚悟決めて、最後まで面倒見てやんのが責任だろ。この街にいるのは、醜い奴らだけじゃ無いってのを教えてやんねえとな」

 

セレナは頭を抱えて悩む。

たしかに、彼の言う事も一理ある。

だが、数日前まで絶対に助手にはしないと言っていた翔太郎が、手のひらを返したのが納得いかなかった。

いや、でも、とぶつぶつと呟くセレナを横目に、響がおずおずと口を開く。

 

「で、でもいいんですか?わたし、全然ダメダメで…」

 

「二度言わせるなよ。お前はダメダメなんかじゃねえ、ドーパントだろうが、猫だろうが他人の事を選べる優しい奴だ。…その心で、俺と一緒に街の涙を拭おうぜ」

 

その言葉は彼女の心に温かく溶け込んだ。

シンフォギアの力に目覚めた日から、響にとっては辛い戦いの連続でだった。

その度に自分の弱さを思い知り、涙しそうになった時もある。

だが、そんな自分の事を認めてくれる人がちゃんといたのだ。

そう思うと自然と笑顔になれた。

 

「は、はいっ!よろしくお願いします!」

 

「それなら、今日は響さんのお祝いしないといけませんね!未来さんも呼んで、ご飯でも食べに行きましょう」

 

「あん?セレナは反対なんだろ、じゃあ来なくていいじゃねえか」

 

「あー!どうしてすぐ、そういう意地悪を言うんですか!元々反対してたのは翔太郎さんのくせに!」

 

「まぁまぁ、落ち着いてセレナちゃん。わたしちゃんと分かってるから、セレナちゃんが心配してくれたってこと。美味しいお好み焼きのお店があるから、そこで一緒に食べよう?」

 

「うぅぅぅ…はい」

 

ほんの数分前までは、暗い雰囲気のあった事務所が今では嘘のようだ。

それはやはり、彼女が笑っているからだろう。

立花響、彼女の笑顔は人を温かくさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のチャオだが、優しい人に引き取られる事になった。

その人の名は蝶野真由、なんとあのキャットウーマンの正体だ。

彼女は結婚詐欺師に騙され、自暴自棄になってメモリに手を出したらしい。

だが、そのメモリが不調であったため、蝶野さんは地下で一人苦しむ事になった。

その影響なのか自分がドーパントになった時のことは、ほとんど覚えていないようだ。

それでも、苦しむ自分に寄り添った相手は何となくわかるらしい。

チャオを見せると涙ながらに、引き取りたいと言ってくれた。

悪事にこそ手を染めていないが、彼女の心の傷は大きい、それをチャオが癒してくれる事を願う。

まぁ、そんな心配も必要ない…か、仲睦まじく戯れていたし。

ビッキーはそんな1人と一匹を遠目に見ながら、幸せそうに笑っていた。

あいつにとっての一番の報酬はあの笑顔なのかもな。

 

「また変なのを作って…今回、報告書っているんですか?」

 

「つくらねーと落ち着かないんだよ。…なぁ、それより今回のガイアメモリの売人、また別のやつだったな」

 

「えぇ、粗悪品と知って売りつけたのだとしたら厄介、ですね。またメモリが不調を起こす可能性があります。早く見つけないといけませんね」

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い路地を慌てて駆け抜けるスーツの男。

時折、振り返るがそこには誰もいない。

男はある程度、 走ったところで、 物陰に隠れた。

 

「はぁっ…はぁ…こ、ここまで来れば逃げ切れるだろ」

 

「やぁ、そんなに慌ててどこに行くのかな?」

 

その言葉は、上空から聞こえてくる。

驚いた男が顔を上げると、そこには青い姿の異形が立っていた。

 

「不良品を押し付けたというのに、アフターサービスも無い。そんな君にはお仕置きが必要だろう?このガイアメモリは、人類がノイズに対抗できるよう進化する為に、必要な万能の小箱。軽々しく扱っていいものでは無い」

 

「ひっ、や、やめ!くるな…くるなぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、変態。どこ行ってたんだよ?」

 

「なに、少し街のゴミ掃除をね」

 

「ゴミ掃除だぁ?」

 

「あぁ、もうあのゴミがこの街を歩くことはない。…それよりクリスちゃん、美味しいお店があるんだがこの後、どうかな?ふらわーといってお好み焼きの店なんだが」

 

「一人で行ってろよ変態」

 

 

暗躍する街の闇。

会合の時は近い。




感想評価は随時募集してます。
一言でもくださるとありがたいです。

以下小ネタのような予告

「あっ!翼さんの防人プリンセスが始まるよ!」

「よくこんな仕事受けたな、あの侍ガール」

「ミリオンコロッセオ…そんなの本当にあるんでしょうか」

「私の家族を、姉を止めてください!」

「家族…姉…あ、あぁあぁああぁ!?」

《これで決まりだ》

仮面ライダーナスカてどう思いますか?

  • おう、アリだろ。あくしろよ
  • どMに尻彦さんは扱えねーよ、消えな
  • そんな事よりアクセルだろJK
  • エターナルまだかよどM

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