「すごい…」
ここは寂れた商店街の一角に立つ、小さなゲームセンター。
その中に眼前のモニタを食い入るように見つめる少女がいた。
目には舞うような機動で敵機を翻弄するジム頭の機体が映っていた。
先程から、相手…ガーベラテトラをベースにカスタマイズされた機体…の攻撃は掠りもしていない。
プレイヤーのタイガーはこの辺りで初心者狩をする、タチの悪いファイターだ。
それでも相当な時間をプレイし、機体をカスタマイズして、そこらの半端なプレイヤーに較べれば腕は立つ。
それを向こうに回して一方的な戦闘を展開している機体。
少女はジム頭のプレイヤーに興味があった。
先程、店内のコンシェルジュロボットに初顔だと聞いて観戦に来たのだ。
モニタの中ではタイガー機がマシンガンを牽制にして突進。
構えた長大な大剣≪グランド・スラム≫を振り抜く。
ジム頭はそれを上体を逸らして躱し様に右手に装備したGNソードで斬り上げる。
掬いあげるような斬撃により、空中高く打ち上げられたタイガー機を追って飛び上がるジム頭。
空中戦からの多段攻撃で息つく間もなく切り裂かれていくタイガー機。
「くそぅ!こんなのありかよ〜!!」
結局、タイガーは一発も攻撃を当てる事が出来ずに爆散してゲームが終了した。
『これは…チャンスかも!』
先程からモニタで観戦していた少女は呟くと、息を整えてシュミレータポッドから出てきた人物へ一歩を踏み出した。
──ガンプラバトル
今から遠くない未来──人類は宇宙エレベーターを建造し、宇宙への一歩を踏み出そうとしていた時代。
国民的名声を勝ち得たアニメ【機動戦士ガンダム】……及びそのシリーズに登場する人型機動兵器・モビルスーツを立体化したプラモデル、通称《ガンプラ》を用いたバトルゲームが空前の大ブームを巻き起こしていた。
「いやぁ〜キミ!結構やぁるねぇ!」
シミュレータポッドを出た人影は、突然掛けられた声にビクリとして振り返る。
声を掛けたのはもちろん、先ほどモニターで観戦していた少女だ。
「あれ…?それってぇ…もしかして…ちょっと見せて貰って良い!?」
少女はポッドから出てきた少年が手にするガンプラを見て勢い込んで詰め寄る。
その勢いに気圧された少年は物も言わずに自分のガンプラを手渡した。
「やっぱり!!これ素組だ!素組みの機体であの凄い機動(マニューバ)を…?」
少女は視線を上げて少年の顔に覗き込んで呟く。
「……マジで…?」
それが少年と少女の出会いだった。