ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 すいません。なんか物足りない感じがしたので少し手を加えて再投稿します。


第93話 狂乱に響く言の葉

 「ハジメ君………追跡ってできる?」

 「いや、無理だ。この嵐、魔力を纏ってるみたいでな……感応石有りならまだしも、ないとなると吹き荒れる嵐のせいでろくに探知ができない」

 

 ハジメが空を見上げながら悔しげに首を横に振ると、香織もそう、と小さく呟きながら目を伏せる。

 はあ、と息を吐きながらハジメは覇潰を解除する。赤い魔力の奔流が収まると同時にハジメの全身を倦怠感が襲い、体がよろめくが、ぐっと足に力を入れて踏みとどまると、半壊した義手を外す。

 

 「本格的に腕の再生を考えたほうがいいな……悪いが白崎、再生魔法を。覇潰の代償を少しでも癒したい」

 「うん、分かった」

 

 香織はすぐさまハジメに絶象をかける。覇潰の代償は通常の傷や損傷とは違うのか、それとも香織の練度不足かなかなか解消されない。だが、少しずつ体は軽くなっていく。

 その間にユエは吹き飛ばされたシアの元に向かっていた。地面に倒れ伏していたシアだが、緩慢な動作で何とか体を起こす。

 

 「ユエさん……すいません、油断しました」

 「大丈夫、気にしないで……体の方は?」

 「とっさに魔力を放出して相殺しましたがそれでも……結構きついです」

 「黒焦げにならなかっただけマシ」

 

 思う通りに動かない腕を持ち上げるシアにそう言うと、シアは小さく苦笑を浮かべる。

 

 「ユエさん。ティオさんの方を見てきたわ。何とか大丈夫そうで、奈々と妙子に任せてきた」

 

 そこにティオの様子を見てきた優花がずぶ濡れになりながらも近づいてくる。その報告を聞いて、ユエはある確信を得る。

 

 「そう……やっぱりあいつ、私たちを殺すつもりがなかったって事かな……」

 「そうなの?どう見ても本気で南雲たちに攻撃していたように見えたけど……」

 「あの使徒の能力なら私たちを殺す方法なんて幾らでもあったはず。それこそ、リリアーナの結界なんて軽く壊して貴方達を皆殺しにもできた。にも拘らず私たちを、貴女達含めて誰も殺さずにあの女子の回収を優先した。最初っから私達なんて眼中になかったって事だと思う」

 

 ユエの推測に優花の顔が引きつる。もしかしたら狙われていたかもしれないという恐怖もあるが、それと同時に異様な不気味さを感じたからだ。あの使徒はハジメ達の攻撃でかなりの重傷を負っていた。幾ら再生すると言ってもあれほどの攻撃を受けながらずっと手を抜き続けるとか異常極まりない。それほどまでに主の命とやらが大事なのか………

 

 「それよりも、血、少し分けてもらえる?流石にしんどくなってきた」

 「え?血って………」

 「……ああ、説明してなかった。私、吸血鬼。血を飲むことで魔力が回復するの」

 

 そう言ってユエは口元を指で持ち上げ、鋭い犬歯を見せる。それを見た優花は驚いたように目を丸くする。

 ユエが言っているのは吸血鬼と言う種族固有の能力、血力変換の事だ。他者の血を取り込み、それを力に変える事ができる。

 余談だが、この血力変換には血盟契約と言う吸血対象を特定の相手に定める事で他の者からの吸血効果は薄くなるが、契約相手からは数倍の効果を得られるという派生技能があり、ユエはそれに目覚めているが、相手を定めてはいなかった。激しい戦いが予期される中、補給は効率よりも安定性を重視したほうがいいと判断したからだ。

 

 「だからお願い。いつもはみんなにお願いしてるけど、今はあまり負担をかけたくない」

 

 優花は不安そうに視線を彷徨わせ、指をからませていたが、意を決したように頷く。

 

 「…………分かった。いいよ。でも、せめて結界の中に行ってからにしない?流石にいつまでも雨の中って言うのは……」

 「それもそうか……分かった。シアに肩を貸してあげて」

 

 断る理由もないので、ユエは提案に頷くと結界に向かって歩いていき、優花はシアに肩を貸しながらその後に続いていく。

 

 「ハジメ君、私達も結界の方に向かう?」

 「そうだな……ティオも結界に向かってるみたいだし、そうするか………」

 

 ハジメと香織はそろって結界の方に向かっていき、ハジメ達が結界にたどり着くと、リリアーナは結界に穴をあけてハジメ達を中に招き入れる。

 

 「皆さん、ご無事ですか!?って、南雲さん、腕が……!」

 「問題ねぇえよ。左腕は義手だしな……ま、思いっきり負けたけど」

 

 そう言ってハジメは自嘲するように口元を曲げる。クラスメイト達が呆然と視線を向けてくる中、メルドは安堵の表情を浮かべていた。

 

 「いや………よく無事に戻ってきてくれた。これ以上、犠牲は出したくなかったからな……」

 

 そう言ってメルドは視線を足元に向ける。そこにはメルドが身に着けていた鎧のマントをかぶせられた檜山の死体があった。

 そうかい、とハジメが頷く傍で、香織がシアとティオに絶象を使い、ユエが優花の首元に噛み付いていた。

 

 「って、ちょ、ちょっとユエさん!?優花っちになにやってんの!?」

 

 その光景を見た奈々が慌てて食って掛かる。他の親衛隊達も驚いたように目を丸くしている。

 

 「あ~~、宮崎、大丈夫だ。あれはユエにとって必要な事だから。多分園部も了承してると思う」

 「必要な事って……」

 

 頭を掻きながらハジメが親衛隊達にユエの事を軽く説明している間に、香織はシアとティオの治療を続ける。

 

 「はい、これで治療は終わり。完治したと思うけど……」

 「流石香織さんです。すっかり良くなりました」

 「すまぬのぅ、香織。助かったぞ」

 「ううん、気にしないで。これが私の役目だから」

 「香織、大丈夫なの?怪我とかしてない?」

 

 治療を終えた香織の元に雫が心配そうに駆け寄ってくる。それに気づいた香織は彼女を安心させるように小さく笑みを浮かべる。

 

 「うん、大丈夫だよ、雫ちゃん。直接戦ったわけじゃないしね」

 「そう……それならよかったわ。私達もみんな無事よ。でも………」

 

 顔を曇らせながら雫が視線を向けた先には蒼白の表情で、虚ろな眼差しをしながらぶつぶつと何かを呟き続ける愛子がいた。彼女の傍には永山パーティの面子が付き添い、懸命に呼びかけながら背中をさすっている。

 

 「香織、貴女の魔法で何とか……」

 「無理だよ。私の魔法は心にまでは作用しない。私じゃ、先生をどうにかする事は……」

 

 香織が小さく首を横に振っていると、小さな呻き声が聞こえてくる。

 

 「光輝!気がついたの!?」

 

 そちらに目を向ければ気絶していた光輝がゆっくりと上体を起こしながら首を横に振っている。雫はすぐに光輝に駆け寄る。

 

 「大丈夫、光輝?香織が治してくれたけど……」

 「雫……?いったい何が………確か俺は………」

 

 そこで光輝の脳裏に気絶する直前の出来事が蘇る。降り注ぐ銀光。そこに立つ銀と金の髪を持つ女性。絶命した檜山。そして斬り飛ばされた己の腕……

 

 「あ、あ、ああっ!?腕……俺の腕が……!?」

 「光輝!待って、大丈夫よ!香織が治してくれたわ!腕は大丈夫よ!」

 「そうだぜ、光輝!お前の腕は治ってる!ほら、聖剣もあるぞ!

 

 その瞬間、光輝は激しく取り乱したように騒ぎ出すが、雫が落ち着かせようとする。意識を取り戻していた龍太郎が回収された聖剣を抱えながら追従する。彼等の言葉に光輝は己の腕に目を向け、生身の腕がついていることを確認すると、落ち着きを取り戻す。

 

 「こ、これは……確かに、腕が切り落とされていたのに………香織……君が治してくれたのか?」

 「まあね」

 「そうか……ありがとう、香織。随分と頼もしくなったね」

 

 そう言って光輝は笑みを浮かべるが、香織はそれに答えず、冷めた視線を向ける。その視線に光輝は狼狽えるように声を詰まらせるが、直後に何かに気づいたように目を見開く。

 

 「そ、そうだ香織!檜山の治療を!これだけの力があるなら彼を助ける事だって……!」

 「……そこまで万能じゃないよ。この魔法は生きているならどんな傷も治せるけど、死んだ命を蘇らせる事はできないよ」

 「そ、そんな……くそっ、なんてことだ………俺がいながら………」

 

 光輝は悔し気に拳を握り、自分の太ももを叩くが、直後にはっと顔を上げるとせわしなく周囲に視線を向ける。

 

 「そうだ、雫。恵理は!?彼女はどうなった!?」

 「………残念だけど、連れ攫われたわ」

 

 雫が小さく頭を振ると、光輝は目を見開くき、

 

 「こうしちゃいられない、早く恵理を助けに行かないと!彼女は一体どこに!?」

 「分からないの。この嵐のせいでろくに場所が分からなくて……」

 

 雫が無念そうに首を横に振ると、光輝は息を詰まらせるが、即座に親衛隊パーティと話しているハジメに目を向けると、

 

 「南雲!お前なら恵理の後を追いかけられるだろ!?今すぐに恵理の居場所を探すんだ!」

 

 その言葉に雫がなっ!と言葉を詰まらせ、親衛隊パーティの面々が驚いたように目を丸くしていると、ハジメはうんざりと言わんばかりに深いため息を吐き、

 

 「出来ねぇよ。奴がどこに逃げたのかもう検討もつかないし、奴らにビーコンの類だってつけてない。そんなんで追跡できるわけがないだろ」

 

 なっ、と光輝が絶句すると、後ろから雫が慌てて割って入ってくる。

 

 「ごめんなさい、ハジメ君!光輝、無茶言わないで!彼はついさっきまであの女と戦っていたのよ!そんなことする余裕なんてなかったわ!」

 「だ、だが雫……このままじゃ恵理がどんな目にあわされるか……早く助け出さないと………」

 「バカなこと言わないで。ハジメだって万能じゃない。できる事とできない事がある」

 

 今にも飛び出しかねない光輝を雫は必死に宥めかそうとしていると、吸血を終えたユエの声が割り込んでくる。そばにいる優花も首元を押さえながら呆れたような視線を向ける。

 光輝はたじろぐように体を軽くのけ反らせながらも口を開こうとするが、直後に凄まじい激突音が響き、空気を揺さぶるような咆哮が轟く。その轟音に生徒たちは怯えたように体を震わせ、光輝達も驚いたように体を硬直させる。

 

 「っ………兄貴と奴の戦いがだいぶ激しくなってきたな」

 

 ハジメが顔をしかめながら呟くと、生徒たちが一斉にハジメに顔を向ける。

 

 「おい、南雲、テメェさっきから何訳分からねぇ事言ってんだ!何か知ってるならさっさと説明しやがれ!」

 

 近藤が唾をまき散らしながら詰め寄るとハジメは無言で宝物庫からオニキスを取り出して近藤目掛けて投げつける。眼前に迫る鳥型のドローンに近藤はひっ、声を詰まらせながら顔を腕で覆う。しかしオニキスはそのまま飛行するとリリアーナの結界から飛び出し、そのまま嵐の中をふらつきながら飛んでいく。生徒たちが困惑したようにオニキスが飛んで行った空を見上げている間に、ハジメは更に宝物庫から6m辺の巨大な板を取り出す。

 

 「……映像の精度がちょいと悪いか……ま、十分だろ」

 「南雲……一体何をするつもりだ?」

 「説明するより実際に見たほうが早いだろうと思ってな」

 

 ハジメが肩をすくめた直後、板の表面が突然光り輝きだす。何事かと生徒たちが思わずそちらに目を向け、釣られて愛子が蒼白となった顔を上げた瞬間、

 

 板に金色の三つ首の竜と漆黒の竜の激しい殺し合いが映し出される。

 映像の解像度は少し悪いが、それでも戦闘音と咆哮まで聞こえてきそうな壮絶な殺し合いに生徒たちは完全に固まってしまう。オニキスから送られている映像をテレビのように映し出しているのだ。

 

 「な、なんだこれ………え、映画……?は、はは……映画……映画……だよな………」

 

 顔を引きつらせながら清水が渇いた笑みを漏らすが、視線は目の前の映像から逸らす事が出来ていない。怪獣を見たことのあるはずの勇者パーティや永山組、小悪党組達も呆然とした様子で映像を眺めており、リリアーナに至っては顔を蒼白にしている。

 

 「映画じゃねぇよ。今王都の外で実際に起こってる戦いだ。さっきから衝撃音がすごいだろ」

 

 ハジメはそう言ってモニターに視線を向ける。ユエ達も同様にモニターに目を向け、その先で行われている死闘を見つめる。

 三つの黄金の首がゴジラに喰らい付こうと迫るが、ゴジラは両腕の爪を叩きつけて首を弾き飛ばし、逆に首の一つに喰らい付くとそのまま大きく振り回す。ギドラは雷撃を放ってゴジラを怯ませると巨大な翼を叩きつけ、ゴジラを殴り飛ばす。地面を抉りながらゴジラは押しやられるが、即座に熱線を放つと、ギドラは迎え撃つように雷撃を放つ。

 黄金の雷撃と蒼白の熱線が激突し、激しくせめぎ合ったのち、轟音と共に爆発を起こし、凄まじい衝撃が荒れ狂い、地面が吹き飛ばされる。

 それでもひるまずに両者は真っ向から再び激突する。

 

 「な、何よこれ……何なのこれ……って、ちょ、ちょっと待って……神羅君は……?確か、神羅君が戦っているって……」

 

 雫が混乱した様子でモニターを指さす。そこで生徒たちもようやく映像の中にいるのは空から現れた黄金の竜といつの間にか現れた黒い竜だけで、ハジメが戦っていると言っていた神羅の姿は影も形もない事に気付く。

 

 「雫ちゃん………あの黒い竜が神羅君だよ」

 「はっ………?香織……何を言っているの………?」

 

 雫が理解できないという表情を浮かべる。それは親衛隊以外の全クラスメイトが同じだった。

 

 「ううん。事実だよ。あそこで戦っている黒い竜……あれが神羅君の本当の姿……ゴジラだよ」

 

 香織の言葉は静かだ。動揺も、訴えも、何もない。淡々とした言葉。だからこそ、それは彼女が事実を言っているだけと否応でも分からせてしまう。あの怪物こそが南雲神羅なのだと。そう認識しても、誰もがその事実を受け入れられないのか、全員が呆然としていると、

 

 「……だ、騙していたのか……?」

 

 不意に光輝がぽつりと呟いた。その言葉に全員が光輝に視線を向ける。香織は訝しげに眉を寄せながら口を開く。

 

 「騙していたって?」

 「そ、そのままだ!つまり、南雲神羅は化け物だったって事だろう!?俺たちを騙して近づいて……一体何をする気だったんだ!?やっぱりあいつは敵だった、俺たち人類を皆殺しにする気なんだ!」

 「俺たちを殺すつもりなら偽王と戦ったりしないだろ……」

 「黙れ南雲!あの化け物と兄弟と言う事は、お前も化け物なんだろ!?化け物の言葉に耳を貸すと思うか!今ここで倒してやる!」

 

 そう言って光輝は聖剣を手に取り、南雲に斬りかかろうとするが、その前にユエ、シア、ティオが立ちふさがる。

 

 「なっ……みんな退くんだ!そいつは俺たちを騙していた化け物の仲間だ!そんな奴の所にいてはいけない!今すぐ俺たちの元に来るんだ!」

 「……確かに、神羅は怪獣。それは否定しない。でも、彼は私たちを騙したりしていないし、敵でもない。何よりも、ハジメを……私の最愛の人を傷つけることは許さない」

 「そもそも、神羅さんが私たちを害するつもりなら、とっくに私たちは死んでますよ」

 「そして、ハジメ殿がお主等を害するつもりなどない事も明白じゃ。そのつもりなら、すでにここにいる全員が死んでいる」

 「な……な………か、香織!君なら分かるだろ!?あいつは化け物。君を騙していたんだ!君の心を弄んでいたんだ!」

 

 光輝が引きつった笑みを浮かべながら香織に訴えるが、香織は小さく頭を振ると、

 

 「知ってたよ。そんなの。神羅君が人間じゃない事、怪獣であること、全部。でもね、全てを知ったうえで、私は言うよ。神羅君が好きだって」

 

 その言葉に光輝達が愕然とした表情を浮かべた瞬間、凄まじい轟音が響く。

 彼らが思わず視線をディスプレイに向けた瞬間、画面が真っ白な閃光に包まれ、ぶつんと画面が消える。それと同時に彼らの頭上を青白い熱線が駆け抜ける。周囲が青白く照らしながら熱線は神山を直撃し、轟音と共に炎が吹き上がる。

 

 「くそっ……巻き込まれたか……」

 

 ハジメがぎりっ、と奥歯を噛む一方で、生徒たちは炎が舐める山肌を見上げながらその場で腰を抜かしたように倒れ込んでいた。最初は呆然としていた彼らだが、次第に体が激しく震えだし、顔色が蒼白となっていく。

 

 「………終わりだ………」

 

 ぽつりと誰かが呟いた。だが、それはその場にいた大半の人物の心情を表していた。

 

 「はは……終わりだ……俺たちはもう終わりだ……ここでみんな死ぬんだ……」

 

 全てを諦めたような諦観の笑い声が響き、それに釣られるように多くの生徒たちからも悲嘆したような泣き声が漏れ出す。リリアーナも座り込んでこそいないが、心が折れた事を示すように結界が消失し、容赦なく降り注ぐ豪雨が全員の身を容赦なく叩く。

 だが、そんな中で倒れ込まない者達がいた。聖剣を杖のようにしている光輝に唇を強く引き結んでいる雫、そしてメルドと親衛隊のメンバーたちだ。

 光輝は体を震わせながらどうにか背筋を伸ばすと手が白くなるほど聖剣を握りしめ、

 

 「だ、大丈夫だ……あの化け物たちは、俺が倒す。俺は勇者だ。この世界を救う使命を背負っているんだ。今こそ俺が戦う時なんだ!そうだ!俺が、俺がみんなを守って見せる!」

 

 言っている間に昂ってきたのか声を大きくしながら光輝は聖剣を掲げる。その光景を目の当たりにしてユエ達が唖然としていると、

 

 「何を言ってるんですか………」

 

 不意に地の底から聞こえてきたと錯覚するような、温度が感じられない声が響く。その声を発したのは愛子だ。彼女はゆらりと立ち上がりながら光輝に幽鬼のような足取りで近づいていく。

 

 「先生……俺はこれからあの怪物どもを倒してきます。それこそが……」

 「何を言っているのですか!そんな危険な事させるわけがないでしょう!?」

 

 叫んだ瞬間、バチン!と言う音と共に光輝は倒れ込む。頬を襲う痛みでようやく自分が叩かれたと認識し、光輝は呆然と目を瞬かせるも、すぐに立ち上がりながら口を開く。

 

 「な、何を言ってるんですか先生!俺たちはこの世界の人々を救うために召喚されたんです!だったらどんな敵が相手でも立ち向かわないと!」

 

 その瞬間、周囲が水を打ったように静まり返る。

 

 「ふっっっっっざっけんじゃねぇぞテメェ!!」

 

 だが、直後に凄まじい怒声が響き、光輝は目を見開く。いつの間にか、クラスメイト達が忌々し気に光輝を睨みつけていた。

 

 「あんな、あんな化け物と戦えだ!?ふざけんな!俺達を殺すつもりか!?」

 「あんなのに挑むなんて馬鹿なの!?死ぬなら一人で死になさいよ!」

 「そもそも私たちを守るんでしょ!?だったら一人で戦ってよ!私たちを巻き込まないでよ!

 「お、おい!お前ら落ち着けって!」

 

 堪らず龍太郎が声を上げるが、そんな物聞こえていないと言うように生徒たちは罵声を上げ続ける。かつてない事態に光輝が呆然と立ち尽くしていると、それを聞いていた愛子が焦点の定まっていない眼でぶつぶつと呟く。

 

 「………そうです。私は教師なんです。私が皆さんを守るんです。皆さんを導かなきゃいけないんです。危険な事なんてさせてはいけない。近づけてはいけない………だから………そうです。私が皆さんを導けばよかった。皆さんが私の言う通りにしていればよかった……そうすれば誰も死ななかった!そうです!私が!私が皆さんを守る!もうこれ以上、誰も死なせないように!」

 「ま、待ってください先生!少し落ち着いてください!」

 

 危険を感じ取ったのか雫が慌てて愛子に駆け寄るが、

 

 「黙ってください!八重樫さん、先生に逆らわないでください!今から貴方達は私の言う事だけを聞きなさい!私の言う通りに動きなさい!」

 

 狂気的な光を宿した目で叫ぶ愛子は雨に打たれている姿も相まって狂気を描いた絵画のような悍ましさを纏っている。

 

 「ダメです、先生!その先はダメです!」

 「そうだよ、愛ちゃん先生、落ち着いて!」

 「先生!とりあえず聞いてくれ!」

 

 親衛隊のパーティは慌てて愛子を落ち着かせようと飛びつく。しかし、愛子はそれを振り払おうと激しく暴れる。メルドがどうにか彼らを落ち着かせようとするが、誰も聞く耳を持たない。

 マズイ、とユエ達が動こうとした瞬間、

 

 「………行くか」

 

 そんな声が漏れ出た。それは普通であれば雨の音に、響く怒声にかき消えてしまうような呟き。まるで自然とこぼれ出たようななんて事の無い言の葉。だが、不思議とそれはよく響き、その場の全員が声を発した人物に目を向ける。

 

 「行くかって……どこにだよ、南雲」

 

 淳史が問いかけると、ハジメは凪いだ湖面のように静かな表情を浮かべ、

 

 「兄貴を助けてくる」

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