ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 第2弾、投稿しますね。現状は後一話だけだが、コングをどうするかでまた変わってきますね……いっそ一からプロットを組みなおして作品そのものを投稿し直すのも手かもしれん……


第13話 王の背中

 咆哮を上げたギガヒュドラがぎろりと視線を3人に向けると、赤頭が口を開ける。

 来る、と思うのだが、ハジメとユエは文字通り蛇に睨まれた蛙のように動けない。動けたのは神羅だけだった。

 神羅は即座に二人を抱えるとその場から跳躍する。それと同時に赤頭の口から爆炎が吐き出され、神羅達がいた場所を薙ぎ払う。神羅が着地すると同時に炎が収まるが、着弾個所はマグマのように融解していた。

 それを見て神羅は舌打ちをし、それと同時にハジメとユエが再起動する。

 

 「ぼさっとするな!早く動け!」

 「え、あ、お、おう!」

 「う、うん!」

 

 その言葉に二人ははっとすると小さく頷くが、そこ目掛けて青頭と緑頭が首を向け、同時に爆風と極寒の冷気を放つ。

 それらは混ざり合うと刃を伴ったブリザードとなり、3人を凍り付かせ、バラバラに砕かんと襲い掛かるが、3人は即座に後ろに跳んで氷嵐を回避し、

 

 「舐めるなぁ!」

 

 ハジメは即座にドンナーを向け、発砲する。赤い閃光が容赦なくギガヒュドラの赤頭を直撃する。だが、

 

 「ちっ!」

 

 痛痒はほとんど与えられていない。せいぜい鱗を数枚砕いた程度だ。赤頭はブルりと震えるとハジメに目を向け、爆炎を吐き出そうとする。

 

 「砲皇!」

 

 だが、そこにユエが螺旋を描く真空刃を伴った竜巻を口の中に撃ち込む。口の中に飛び込んだ竜巻が容赦なく口内を蹂躙するが、風の刃は口の中を傷つけるだけだ。だが、吐き出されようとしていた爆炎が魔法によって暴発、轟音と共に赤頭が吹き飛ばされる。

 

 「兄貴!白頭を!」

 「分かっている!」

 

 だが、白頭が無事な以上、油断はできない。神羅は青頭と緑頭の攻撃の中を突っ切り、白頭を破壊しようとする。それがどこまで有効か分からないが、頭数は減らさなければならない。

 そして神羅が白頭目掛けて跳び上がった瞬間、ギガヒュドラは予想外の行動に出る。その場で巨体を反転させるとその勢いを乗せて尾を振り回してきたのだ。

 

 「っ!」

 

 神羅がうなりを上げて襲い掛かる尾に向き合った次の瞬間、轟音と共に尾が直撃、神羅を勢いよく吹き飛ばす。

 

 「兄貴!」

 「神羅!」

 

 吹き飛ばされた神羅はそのまま壁に激突、壁が砕け、瓦礫に埋もれてしまう。更に黄頭が咆哮を上げると、崩壊した壁がさらに轟音と共に剥がれ、無数の瓦礫が浮かび上がる。それらはそのまま神羅が埋もれた個所に凄まじい勢いで次々と襲い掛かり、着弾していく。更に青頭が冷気を放出。瓦礫を一瞬で氷漬けにしてしまう。

 

 「それ以上はさせるか!」

 「凍雨!」

 

 ハジメがドンナーを連射。更にユエも針のような形状の氷の雨を放つ。連続でレールガンが直撃し、氷の雨も直撃するが、ほとんどダメージはない。だが、注意は引いたのか黄色頭がユエに、白頭がハジメにぐるりと向けられる。そして白頭はそのまま口を開ける。

 予想外の行動にハジメが目を丸くした瞬間、白頭の口から無数の光弾が放たれる。

 ハジメは即座に縮地を使って空中に逃れるが、光弾が着弾すると、まるでクラスター爆弾のように破裂し、周囲を吹き飛ばす。

 

 「白は回復じゃないのか……!?」

 

 ハジメは空力で空中を駆け回りながら緑の風のブレスを回避し、黒頭の噛み付きを回避してそう考える。もしもそうならば先ほどよりも大分楽になる。そう思ったら今度は銀頭が口を開け、それと同時にその喉元が黄色と銀色の光を帯びる。その瞬間、ハジメの本能が尋常ではない警鐘を鳴らし、ハジメは即座にその場から飛びのく。

 瞬間、その口から尋常ではない威力の極光が吐き出される。かろうじて回避したハジメだったが、極光はそのまま天井に直撃すると轟音と共に抉り砕き、その瓦礫がハジメに襲い掛かる。更に銀頭はそのままブレスを放ちながら首を巡らして薙ぎ払ってくる。

 

 「くそっ!」

 

 ハジメは空力で必死に死の嵐を回避する。そのハジメ目掛けて白頭が再び光弾を放とうとするが、

 

 「させない!緋槍!」

 

 ユエが石の礫を回避しながら炎の槍を放って白頭の注意を逸らす。白頭がユエに視線を向けるが、不意にその視線を逸らす。何?とユエが訝しみながら目を向けて言葉を失う。赤頭の残骸。その首が未だに生きているように蠢いており

 そして、首が力を籠めるように震えた瞬間、断面から見る見るうちに骨や筋肉が伸びていき、頭部を形成、更に鱗も生えそろっていき、最終的には赤頭が復活し、咆哮を上げる。白頭どころかほかの頭が何かした気配はない。

 

 「自動回復!?」

 

 その事実にユエが思わず悲鳴じみた声を上げる。先ほどのヒュドラとは比べ物にならない攻撃能力、ハジメのドンナーでもほとんどダメージが入らない防御力に加え回復魔法も使わずに頭部を再生させる回復力を持っていると言うのか。でたらめもいいところだ。

 その赤頭がユエを憤怒を籠めながら睨みつける。どうやら自分を吹き飛ばしたのが誰か覚えているようだ。

 赤頭が口を開け、ユエがとっさに聖絶を展開しようとした瞬間、黒頭がユエを睨みつけ、その目を黒く光らせる。

 

 「あ……」

 

 瞬間、ユエの意識が途切れる。途切れたと言ってもほんの数秒。だが、それは致命的だった

 ユエが意識を取り戻したと同時に赤頭の口から爆炎が吐き出される。防御は……間に合わない。喰らう。そう思った瞬間、ユエと炎の間に影が割り込む。

 それはハジメだ。どうにか極光と雷光を回避した彼は赤頭がユエを狙っていることに気づいた瞬間、即座に飛び出したのだ。

 立ちふさがったハジメはリロードを終えたドンナーを全弾発射。レールガンは爆炎を突き破り、威力を減少させるが構わず襲い掛かり、二人を飲み込む。

 

 「あああああああああっ!?」

 「があああああああああああっ!?」

 

 二つの絶叫が轟く中炎が晴れる。地面は融解していなかったが、地面に倒れたハジメもユエもひどい有様だ。ユエはハジメが盾になったおかげか比較的軽傷と言えるが、それでも全身に大火傷を負っている。ハジメはもっとひどい。地面にはシュラーゲンの残骸が転がっている。恐らく、とっさに取り出して盾にしたのだろう。そして防御技能の金剛を使ったおかげで命は繋ぎとめた。だが、指、肩、脇腹がユエ以上に焼き爛れ、一部骨が露出している。顔も右半分が焼けて右目も潰れている。

 

 「ぐっ……つう……」

 「は、ハジメ………」

 

 ユエが必死にハジメの元に痛みをこらえながら這い寄っていく。傷は自動再生のおかげで回復していくが、ハジメはそうではない。意識はあるが危険な状態だ。ユエは急いでハジメに神水を飲ませようとする。

 だが、その前に黒頭が二人を丸呑みにしようと大口を開けて襲い掛かる。

 ユエは大きく目を見開くが、ぎりっ、と奥歯を噛みながらもハジメだけは守ると言わんばかりに前に出る。それを見たハジメがさせないとドンナーで黒頭を攻撃しようとした瞬間、

 轟音と共に氷漬けの瓦礫が吹き飛び、そこから巨大な瓦礫が凄まじい速度で放たれる。恐らくだが音速を超えていただろうそれはボバッ!と言う音と共に白い空気の膜を発生させながら黒頭を直撃、そのまま爆散させる。

 突然の事態にギガヒュドラは悲鳴を上げるが、即座に瓦礫が飛んできた方向に目を向ける。ユエとハジメも思わずそちらに目を向けた瞬間、

 階層全体が沈んだ。

 そう錯覚するほどの人知を超えたプレッシャーを感じ、二人の呼吸が止まる。それはまるでわずかな呼吸音ですらその相手の意識を向けるのではないか。そんな恐怖を感じた体の防衛本能だった。

 

 ズンッ………

 

 まるで階層全体が揺れたような地響きが響く。しかもそれは規則的に、まるで何かが歩いているかのように連続して起こる。

 地響きを伴いながら煙を突き破る様にして神羅が姿を現した。だが、その姿は大きく変わっていた。

 まず、両腕は以前見せてもらったゴジラの両腕となっている。鉄すら容易に切り裂けそうな爪を携えた4本指の手に黒い鱗と皮膚に覆われた異形の腕。更に背中からは巨大な樹木の葉のような形の大小様々な背びれが生えそろっている。そして黒く長い尾が生え、地面を強く叩いている。

 

 「………なるほど。どうやら、本気で行かねばならないようだな。ならば……たとえあいつの系統だとしても、容赦はできんな」

 

 低く唸りながら神羅がそう告げた瞬間、全てが圧壊した。そう錯覚するほどのプレッシャーが階層全体を呑み込む。それは大瀑布の如き……いいや。これに比べれば大瀑布などただの小さな滝だ。これは……これは……そう。大地その物が牙を剥いた。そうとしか思えないほどの重圧が襲い、ユエとハジメの体が、本能が、魂が理解した。あれはダメだ。あれにはどう足掻こうが絶対に勝てない。文字通り次元が違う。あれに比べればギガヒュドラなど、小動物も同然だ。だが、それと同時に感じるのは体が勝手に跪き、彼を崇めてしまいそうになる絶対的な覇気。この人ならば何者にも負けない、この人に一生ついて行こうと無条件に思ってしまう王者の圧。

 神羅のプレッシャーにギガヒュドラの体は怯えるように震えるが、次の瞬間、

 

 「「「「「「ルゥゥゥゥゥアァァァァァァァァァン!!」」」」」」

 

 6つの頭部が咆哮を上げながらギガヒュドラは地響きと共に神羅目掛けて突進を繰り出す。だが、その目には敵意以外の何かがある。それは……なんと表現すればいいのだろうか。もしも無理やりにでもそれに名前を付けるならば……待ちわびていた、だろうか。そんな感情が宿っている。

 50mを超える巨体はそれだけで一撃で城一つ吹き飛ばせる文字通りの破城槌。それが凄まじい勢いで突っ込んでくる。だが、神羅は微動だにせず、腰を落とす。

 そしてついに巨体が神羅に激突した瞬間、轟音と共に周囲に衝撃波が放たれ、ユエとハジメはそのまま吹き飛ばされる。

 ユエは地面に叩きつけられるが、慌てて顔を起こし、目を見開く。

 神羅はギガヒュドラの突進を真っ向から受け止めていた。胴体をその両腕でつかみ、踏ん張った足は大地を捉え、床を粉砕していたがその威力を完全に押しとどめていた。

 だが、ギガヒュドラは驚きの声もそこそこに黄色頭が咆哮を上げて砕けた床材を神羅に射出、次々と激突するが、その体は微動だにしない。

 すると、神羅はそのまま力を込めて上体を起こす。すると、あろうことかギガヒュドラの巨体が持ち上がる。

 ギガヒュドラが困惑の咆哮を上げて逃れようとするが、その前に神羅は体を勢いよく捻ってそのまま巨体を投げ飛ばす。

 投げ飛ばされたギガヒュドラはそのまま轟音と共に地面に叩きつけられる。

 ギガヒュドラは悲鳴を上げながらも青頭と銀頭が極光と雷光、そして冷気を同時に放つ。

 だが、神羅はそれに真っ向から突っ込む。神羅の体はあっさりと飲み込まれるが、神羅は何事もなかったかのようにブレスを突き破る。

 

 「その程度で我を止められるわけがないだろう」

 

 そう言いながら神羅はそのままギガヒュドラ目掛けて跳躍。そこから急降下し、白頭を床を爆散させながら踏み潰す。

 ギガヒュドラは即座に前足を叩きつけてくるが、神羅はそれを片手で受け止め、つかみ上げるとそのまま引きちぎる。

 すると、再生途中の黒頭が半分の顔を向け、その目を光らせる。神羅はその光を真っ向から見てしまうが……

 

 「そんなものは効かん!」

 

 そのまま黒頭の根本に蹴りをぶち込み、首その物を引きちぎる。

 その光景をハジメとユエは茫然とした様子で見ていた。圧倒的。そうとしか言えない。神羅はギガヒュドラを圧倒していた。奴の攻撃はほとんど通じず、代わりに神羅の攻撃は奴の鱗を突破している。

 

 「……すごい……」

 「ああ………」

 

 ユエの呟きにハジメも同意する。今までの自分の強さとか、そんなものが全てちゃっちに見える。自分がいかに小さく、弱い生き物か見せつけられたような気分だ。

 が、ギガヒュドラもさるもの。銀頭がぎろりと目を赤黒く光らせた瞬間、ギガヒュドラの破損部位から一瞬で新しい頭と腕が生える。先ほどとは比べ物にならない再生能力だ。

 神羅が唸り声を上げると同時にギガヒュドラは自分の体が巻き込まれるのも構わず極光と雷撃、更に爆炎と爆風を放つ。

 着弾と同時に階層を揺るがすような轟音が轟き、神羅が吹き飛ばされる。だが、神羅は即座に体勢を整えて着地する。その体には、やはり目立ったダメージはない。神羅は即座にギガヒュドラに向かって走り出す。

 

 「……ハジメ……神水……」

 「あ、ああ……」

 

 あまりの戦闘に呆然としていたが、ハジメは今重傷だ。ユエはハジメに神水を飲ませる。するとハジメの体は見る見るうちに癒えていく。だが、

 

 「くそ……右目はダメか……」

 

 どうやら右目は完全に消失したようで、治らなかった。ハジメは何とか立ち上がろうとするが、ふらつき、ユエがその体を支える。

 

 「ハジメ、無理しないほうがいい。ここは神羅に任せよう……」

 「っ………」

 

 ユエの言葉にハジメは悔し気に唇を噛むが、反論できない。あの戦闘はあまりにも苛烈だ。とてもじゃないが今の自分では割って入れない。それに神羅はギガヒュドラを圧倒している。ならばここは彼に任せるべきだ。自分よりも強い兄に……いつものように………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この奈落に落ちて、兄が死んだと割り切ってから、ずっと強く生きようとハジメは思っていた。もう自分を守ってくれる兄はいない。だが、その兄が心配しないように強く生きようと。ユエと出会ってからは自分が兄にしてもらったように守っていこうとも思っていた。だが、兄は生きていた。それも更に、次元違いの強さを取り戻して。それからはまた守ってもらったが……俺はそれでいいのか?

 兄が戻ったらまたいつも通りか?あの時、暗闇の中で、絶望の中で強く生きると決めたのに、戻ってきたから言ってまた兄に全てを押し付けるのか?あの巨大な背中をまた見続けるだけなのか?

 いいやいいや、いいや!断じて否だ!兄がさらに強くなろうが関係ない。背中を見続けるだけなど論外だ!追い抜くことなどできないかもしれない。だがそれでも、その背中に追いつかんと走ることはできる!その背中を守らんと戦えるはずだ!

 ハジメがガバリと顔を上げると同時に、

 

 「「「「「「「ルゥオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」」」」」」

 「オオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 ギガヒュドラが凄まじい咆哮を上げ、更に神羅が咆哮を上げる。その声にユエも、ハジメの本能も恐怖を覚える。

 怖い……ああ、怖い。怖すぎる!怖いに決まっている!だがそれでも、ここで立ち止まるな!恐怖しても……前に進め!

 ハジメは立ち上がると同時にドンナーに弾を装填する。

 

 「……ハジメ……?」

 「ユエ………俺は兄貴を援護する」

 

 その言葉にユエは目を見開く。

 

 「でも……危険すぎる……ここは神羅に……」

 「ああ、そうだな。兄貴に任せればそれで済むだろう……でもな。それじゃあダメなんだ。ガキの頃からいっつも俺は兄貴にいろんなものを押し付けてきた。兄貴はそれを苦も無く引き受けてきた……悔しいと思っても、俺はそうし続けてきた。今押し付けたら俺は兄貴の弟を……怪獣王の弟として失格だ。そんな資格、最初っからないとしても、俺は怪獣王の弟として、逃げるわけにはいかないんだ………!」

 

 そう言いながらハジメはギガヒュドラを睨みつける。その姿に、ユエは王の背中を見た。たとえどんな困難があろうと逃げず、立ち向かい続ける王の背中。

 ユエは茫然とその背中を見て、そしてふと自問する。

 逃げる。ああ、それは間違いではないだろう。神羅とて咎めないだろう。あんな相手に恐怖しないほうがおかしい。

 だが………それでいいのか?今目の前で愛しい人が大切な人のために戦おうとしている。なのに自分は逃げるのか?逃がすのか?彼の覚悟を踏みにじるのか?いいや違う。共に戦うのだ。共に戦い、そして勝ち、全員で生き残るのだ。

 そのために戦え。立ち上がれ。かの女王のように。共に生きるために!

 ユエは心に宿った火に押されるようにハジメの隣に立つ。

 

 「………分かった。だったら私もやる。一緒に戦う」

 「ユエ……」

 「でもどうするの?あいつは無策で勝てる相手じゃない」

 

 確かに。神羅だから戦えているが、はっきり言ってギガヒュドラは桁外れの力を持つ。そいつを圧倒する神羅。その戦いに何の作戦も無しに挑むなど自殺行為だ。

 

 「それなんだが………ちょっと試したいことがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギガヒュドラが力を籠め、勢いよく体当たりを繰り出してくるが、神羅はそれを真っ向から受け止める。轟音が轟き、衝撃波が吹き荒れるが神羅は微動だにしない。ギガヒュドラは青頭を伸ばして冷気を放出しようとするが、その前に神羅は体を回転させ、その勢いを乗せて尾を叩きつける。鈍い音と共にギガヒュドラが吹き飛ばされるが、地面に叩きつけられながらも起き上がり、冷気を放つ。

 神羅はすぐにそれを回避する。冷気はどうにも動きが鈍くなりがちだ。

 

 (しかし……これはいささか厄介だな……)

 

 攻撃力、防御力、スピード、全て彼女には及ばない。だが、回復力だけは大したものだ。これでは時間がかかる。

 完全開放は論外だ。そんなことしたらこの階層を完全に破壊しつくし、ハジメたちも巻き込む。せめて熱線を撃てればいいが……チャージの隙を中々見せてくれない。当然と言えば当然かもしれないが……

 神羅が考えた瞬間、緑頭が刃の爆風を放つ。神羅は真っ向から突っ込み、緑頭の眼前に飛び出すと蹴りつぶす。だが、すぐに再生しようとする。

 その瞬間、神羅の視界の隅に黒い球体が見える。次の瞬間、それを赤い閃光が貫き、爆発。中から紅蓮の炎がまき散らされ、緑頭の断面に降り注ぎ、焼く。ギガヒュドラは雄たけびを上げ、神羅は後ろに下がりながら顔を上げる。

 ギガヒュドラはブルりと体を震わせ、炎を振りほどく。その身体には火傷らしいものはほとんどない。だが、鱗に覆われていない緑頭の断面は別だ。剥き出しの肉は明らかに焼け爛れており、しかも再生しようと蠢いているがそれは遅々として進まず、明らかにその再生力は低下している。

 神羅が視線を動かせば、ドンナーを構えたハジメと魔力を練っているユエがいた。ハジメは神羅に顔を向け、

 

 「兄貴、どんどん潰せ!俺たちが傷を焼いて再生を遅らせる!」

 

 それがハジメの考え。うまくいくか分からなかったが、成功した。

 ギガヒュドラは再生の時なにかしらの魔法を使った形跡はない。つまり、それは自前の回復力と言う事だ。それで頭部を再生するのだから異常すぎる。まるで地球の神話のヒュドラだ。だが、だからこそもしかしたらと思った。神話のヒュドラは傷口を焼きつぶされてその再生を封じられた。ならばこいつにもある程度は効くのではと思ったのだが、その予想は当たっていた。鱗は耐えられるようだが、鱗ほど固くはないのか肉は焼くことができ、そして傷口を焼けば再生を大きく遅らせることができる。魔法を使わない再生が仇となったようだ。

 神羅は即座に飛び込む。白頭が光弾を放つが神羅は当然のようにそれを突っ切る。だが、抜けた先で黒頭が待ってましたと言わんばかりに大口を開けて迫ってくる。

 だが、その黒頭にレールガンが直撃、鱗が砕け、僅かに揺れる程度だが、それで十分。神羅は黒頭の下あごを掴むとそのまま体を捻り、力任せに頭を引きちぎる。更にその勢いで尾を繰り出し、赤頭に叩きつけ、圧し折る。

 

 「蒼天」

 

 それと共にユエの言葉が響く。現れたのは巨大な蒼い火球。それがギガヒュドラに襲い掛かる。その中神羅は巻き込まれるのも構わず赤頭に襲いかかり、粉砕する。

 すぐに再生しようとするが、その前に蒼天が直撃、周囲を青い閃光が包み込む。青白い炎が広がる中にあって神羅は平然とし、青頭を引きちぎり、その断面を蒼い炎が容赦なく焼く。ギガヒュドラは絶叫を上げて傷が焼かれる痛みに身をよじり、炎を消そうと極光と雷撃、光弾と石を乱射する。

 その隙に後ろに跳んで距離を取った神羅がチャンスと判断した瞬間、神羅の背中の背びれが青白い輝きを帯び、それに連動するように彼の両眼も青白く光り出す。それと同時に神羅の口元が変化。黒い皮膚に鋭い牙を備えた異形の顎。

 その光景をハジメとユエは思わず手を止めてみていた。それは恐ろしき力強く、恐ろしいほどに恐怖をあおり、そして幻想的だったからだ。

 それに気づいたギガヒュドラの銀頭の首元が激しく光りだす。更に他の首も同様に魔力をため込み、激しく輝きを帯びていく。

 そして神羅が何かする前に、ギガヒュドラの全ての口から極太の極光が放たれる。それは尋常ではない威力だ。その余波だけで床を砕き散らし、当たれば間違いなく対象をこの世から一変の細胞も残さずに消滅させる死の嵐。

 

 「兄貴!」

 「神羅!」

 

 思わずハジメとユエが叫ぶが、神羅はそれを前にしても怯えず、大きく息を吸い込む。胸部が大きく盛り上がり、神羅が口を開けた瞬間、その喉奥から青白い熱線が放たれる。

 それは森羅万象を焼き払う神の炎。かの存在をもってしても無傷では済まなかった王の一撃。それを紛い者が防げる道理はない。

 極光と雷撃は熱線と激突すると一方的に焼き払われ、そのまま熱線はギガヒュドラを直撃し、その身を呑み込む。

 

 「「「グルゥァァァァァァァァァッァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」」」

 

 残った三つの頭部が絶叫を上げる。それは誰が聞いてもはっきりとわかる断末魔の叫び。青白い炎は再生も許さずにその身を余さず飲み込み、焼き尽くしていく。

 そして神羅が熱線を吐くのをやめると同時に青白い炎も鎮火。そこにはもはや何も残っていない。射線上の地面は溶解し、ギガヒュドラがいた場所は完全にマグマになっている。ギガヒュドラの残骸は何一つ残っていない。

 その光景をハジメとユエはただただ呆然と見ていた。あまりにもその一撃は壮絶で、苛烈だった。最上級魔法など話にならない。まさに王の一撃。

 

 「オオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 ギガヒュドラが消滅したのを確認した神羅は勝鬨の咆哮を上げる。その姿に二人は目を奪われる。それはまさにすべての頂点に立つ王の雄姿だ。そしてあまりにも遠く、あまりにも巨大すぎる。そんな背に追いすがろうなど、それこそ不敬ではないのか?

 

 「………追いかけがいがあるな……」

 

 だが、ハジメの口元に浮かぶのは不敵な笑み。それは絶対に追いすがり、共に立ち、共に戦うと言う決意が籠った笑み。

 その笑みにユエはん、と小さく頷くのであった。

 




 ギガヒュドラ

 ある存在の手によって極限まで強化されたヒュドラ。その力は神獣に匹敵し、特に圧は怪獣に届くほどに強化されている。
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