ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 今回、ある意味最後が全部持っていくかも……

 ではどうぞ!


幕話 帝国と勇者達

 時間は少し戻る。

 神羅達がギガヒュドラとの死闘を制した頃、勇者一行は、一時迷宮攻略を中断しハイリヒ王国に戻っていた。

 道順のわかっている今までの階層と異なり、完全な探索攻略であることから、その攻略速度は一気に落ちたこと、また、魔物の強さも一筋縄では行かなくなって来た為、メンバーの疲労が激しいことから一度中断して休養を取るべきという結論に至ったのだが、それ以外にも理由はある。ヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来ると言う事で、迎えが来たのだ。

 元々、エヒト神による〝神託〟がなされてから光輝達が召喚されるまでほとんど間がなかったため、同盟国である帝国に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい、召喚直後の顔合わせができなかった。

 もっとも、仮に勇者召喚の知らせがあっても帝国は動かなかったと考えられる。なぜなら、帝国は三百年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、完全実力主義の国だったからだ。

 帝国にも聖教協会の教会は有り、国民は信徒なのだが、信仰心は低い。弱肉強食の掟の中生きてきた彼らからすれば、突然現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得はできないだろう。

 そんな訳で、教会を前に、神の使徒に対してあからさまな態度は取らないだろうが、召喚直後、帝国の上層部、特に皇帝陛下が興味を持っていなかったことからも内心どう思われるか想像に難くない。

 しかし、今回のオルクス大迷宮攻略で、歴史上の最高記録である六十五層が突破されたという事実をもって帝国側も光輝達に興味を持つに至った。帝国側から是非会ってみたいという知らせが来たので、王国側も聖教教会も、いい時期だと了承したのである。

 そんな話を帰りの馬車の中でツラツラと教えられながら、光輝達は王宮に到着した。

 馬車が王宮に入り、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けて来るのが見えた。十歳位の金髪碧眼の美少年である。光輝と似た雰囲気を持つが、ずっとやんちゃそうだ。その正体はハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒである。

 ランデル殿下は、思わず犬耳とブンブンと振られた尻尾を幻視してしまいそうな雰囲気で駆け寄ってくると大声で叫んだ。

 

 「香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」

 

 そのランデル殿下に視線を向けた香織は小さく鼻を鳴らした後に愛想笑いを浮かべ、

 

 「お久しぶりです、ランデル殿下」

 

 そう言うとランデル殿下は顔を真っ赤にするが、それでも精一杯男らしい表情を作って香織にアプローチをかける。これらから見て分かる通り、ランデル殿下は香織に気があり、召喚の翌日から猛アプローチをかけていた。当初は弟のように見ていた香織だったが、最近ではちょろちょろと纏わりつくネズミのような存在になっていた。本当は無視したいが、王族相手にそれは不味すぎる。なのでこうして最低限失礼の無い様にするだけだった。

 

 「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行ってる間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか? 余がもっと強ければお前にこんなことさせないのに……」

 「お気づかい下さりありがとうございます。ですが、これは自分で望んでやっていることですので」

 「いや、香織に戦いは似合わない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」

 「安全な………仕事ですか?」

 

 戦えと呼び出した分際で何を、と香織は苛立つが、どうにかそれを呑み込み、問い返す。

 

 「う、うむ。例えば、侍女とかどうだ? その、今なら余の専属にしてやってもいいぞ」

 「いえ、すみません。私は治癒師ですから……」

 「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線なんて行く必要ないだろう?」

 「いえ、前線でなければすぐに癒せませんので」

 

 みしりと杖が軋む。あの時、少しでも彼の傷を癒せていたなら……そう思い、香織の心の中が荒れる。そこへ空気を読まない厄介な善意の塊、勇者光輝がにこやかに参戦する。

 

 「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」

 

 光輝としては、年下の少年を安心させるつもりで善意全開に言ったのだが、この場においては不適切な発言だった。恋するランデル殿下にはこう意訳される。

 

 「俺の女に手ぇ出してんじゃねぇよ。俺がいる限り香織は誰にも渡さねぇ! 絶対にな!」

 

 親しげに寄り添う勇者と治癒師。実に様になる絵である。その実態が全くの別物だとしても彼は気づかない。ランデル殿下は悔しげに表情を歪めると、不倶戴天の敵を見るようにキッと光輝を睨んだ。

 

 「香織を危険な場所に行かせることに何とも思っていないお前が何を言う! 絶対に負けぬぞ! 香織は余といる方がいいに決まっているのだからな!」

 「………あ?」

 

 ランデル殿下の言葉に香織の中の何かが振り切れかける。こいつは何を言っている?何を勝手に私の居場所を決めている?何様のつもりだ貴様は………!

 香織が内心殺意をたぎらせ、杖を強く握った瞬間、涼やかだが、少し厳しさを含んだ声が響いた。

 

 「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 光輝さんにもご迷惑ですよ」

 「あ、姉上!? ……し、しかし」

 「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて……相手のことを考えていないのは誰ですか?」

 「うっ……で、ですが……」

 「ランデル?」

 「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

 

 ランデル殿下は自分の非を認めたくなかったのか、いきなり踵を返し駆けていってしまう。その背を見送りながら、王女リリアーナは溜息を吐く。

 

 「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」

 

 リリアーナはそう言って頭を下げた。美しいストレートの金髪がさらりと流れる。

 

 「ううん。気にしてないよリリィ。むしろありがとう。あのままだと手が出ちゃいそうだったから……」

 

 香織の言葉にリリアーナは小さく頬を引くつかせる。本当に彼女は変わってしまった、と

 リリアーナ姫は、現在十四歳の才媛だ。その容姿も非常に優れていて、国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女である。性格は真面目で温和、しかし、硬すぎるということもない。TPOをわきまえつつも使用人達とも気さくに接する人当たりの良さを持っている。

 光輝達にも、王女としての立場だけでなく個人としても心を砕いてくれている。彼等が関係ない自分達の世界の問題に巻き込んでしまったと罪悪感もあるようだ。 

 そんな彼女はクラスメイト達と仲が良かったが、中でも香織と雫とは特に仲がいい。だからこそ、香織の変貌に心を痛めているのだが。

 

 「それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

 

 リリアーナはそう言うと、ふわりと微笑んだ。

 その笑顔にクラスメイトの大半はぼーと見惚れているのだが、

 

 「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」

 

 さらりとキザなセリフを爽やかな笑顔で言う光輝。彼に下心はない。ただ生きて友人に会えたことがうれしいだけだ。自分の容姿や言動の及ぼす効果に病的なレベルで鈍感なのが致命的だが。

 その後、照れたリリアーナに促され、光輝達が迷宮での疲れを癒すことになった。

 なお、居残り組にベヒモスの討伐を伝え歓声が上がり、これにより戦線復帰するメンバーが増えたり、愛子先生が一部で〝豊穣の女神〟と呼ばれ始めていることが話題になり彼女を身悶えさせたりと色々あったが光輝達はゆっくり迷宮攻略で疲弊した体を癒した。もっとも、そんなの関係ないと言わんばかりに香織は己を鍛えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  それから三日、遂に帝国の使者が訪れた。

 

 現在、光輝達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

 「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

 「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょ う?」

 「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

 「はい」

 

 陛下に促され前にでる光輝。ベヒモスを倒した香織ではなく彼が出るのは彼が勇者、召喚者の中心だからだ。

 光輝を筆頭に、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

 「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

 使者は、光輝を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

 その視線に光輝は言葉に詰まる。何せあの戦闘で光輝は何もしていない。香織一人で倒したのだ。だが、後衛職である香織が一人でベヒモスを倒したなど、どう説明すればいいか。そして香織自身それを名乗り出るつもりはない。めんどくさい事になるだろうから。こういうのは他人に押し付けるに限る。

 光輝が頭を悩ませていると、使者の一人が提案をする。

 

 「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

 「えっと、俺は構いませんが……」

 

 この提案に国王とイシュタルも同意し、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 で、その結果だが……見事に敗北した。

 相手は高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔をした一見すると全く強そうに見えない平凡な男だったのだが、光輝は見事に手も足も出ずにやられていた。

 それを見て、香織はすぐさま興味を失い、その場を後にしようとするが、その背中を護衛の男は興味深げに見つめていた。それに気づいた香織は軽く振り返って男を睨みつける。自分に関わるなと言うように。その目に護衛はやれやれと言うように肩をすくめる。

 それ以上何もしてこないと判断すると、香織はそのまま去って行く。

 その後、雫から聞いた話では護衛の男はヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーだったらしく、一応彼らは勇者を認めたようだが、至極どうでもいい。

 その日の夜、香織が城の中を歩いていると、

 

 「よう、お嬢ちゃん」

 

 そのガハルド皇帝と出会い、声をかけられる。四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 だが、香織は特に興味を示さず、ちらりと視線を向けると軽く頭を下げ、そのままどこかに歩いていく。

 それを見て、ガハルドは気分を害するどころか面白そうに笑う。

 

 「知らないとはいえ、皇帝相手に大した態度だ」

 「へえ、そうでしたか。知らなかったことですので、申し訳ありません。それに………彼に比べてずいぶんと圧が弱いと思ったので」

 「彼……?まさか勇者の事か?」

 

 香織の言葉にガハルドが問い返した瞬間、香織の体から怒りが噴き出し、ガハルドを睨みつける。

 

 「天ノ河君………?ふざけないでください。あいつと彼を同列に扱わないで。彼って言うのは、南雲神羅君の事です」

 「誰だそれ?」

 「あいつよりもずっと強くて……貴方よりもずっと大きい人……」

 

 こうして対峙してみて分かる。あの時、香織が感じた圧に比べれば、この人のなんて軽すぎる。強者の圧はある。だが、彼のように引き寄せられる何かがない。その程度だ。

 

 「ほう、大きい人ねぇ………一体何処のどいつの事だ?」

 

 ガハルドが興味を惹かれたように問いかけると、

 

 「今はいません。だけど、必ず弟のハジメ君と一緒に戻ってきますので、その時に」

 

 では、と香織は頭を下げてその場を去って行く。その背を見て、ガハルドは女は恐ろしいな、と人ごとのように考えていた。

 その翌日、帝国に帰国するという皇帝陛下一行を光輝達は見送った。用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。本当にフットワークの軽い皇帝である。

 だが、早朝訓練をしていた雫を見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった。雫は丁寧に断り、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と不敵に笑いながら引き下がったので特に大事になったわけではなかったが、その時、光輝を見て鼻で笑ったことで光輝はこの男とは絶対に馬が合わないと感じ、しばらく不機嫌だった。

 雫の溜息が増えたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲に阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

 悲鳴と怒声が響き渡り、周囲の建物は全て倒壊し、炎に包まれている。

 その中を人々が逃げ回っているが、そこに巨大な影が巨体に似合わない速度で襲い掛かり、食らいつき、飲み込んでいく。そんな光景がそこかしこで繰り広げられている。

 少しして、小さな村の全てを喰いつくしたそいつらはそのまま各々別々の方向に向かって歩いていく。ある者は食い足りぬため他の餌を探しに。ある者は新たな縄張りを探しに。

 だが、一匹だけ村の残骸の中に残ると、

 

 キュァァァァァァァァァァァァァァァ!

 

 ここは己の縄張りだと言うように咆哮を上げる。




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