咆哮を上げ終えた神羅はふう、と息を吐くとハジメとユエの元に向かっていく。
「二人とも、大丈夫だったか?」
「ん、大丈夫」
「俺も一応……右目をやられたけどな」
ハジメの言葉に神羅は小さくうめき声を上げ、申し訳なそうに頭を下げる。
「すまない、ハジメ……」
「気にすんなって、兄貴。兄貴がいなきゃそもそもあれで死んでた。感謝はしても、恨んだりしない」
「だが……」
「気にしすぎだって。俺なら大丈夫。この程度、なんてことないからよ」
そう言ってハジメは神羅の肩をポンポンと叩く。その様子に神羅は小さくそうか、と呟き、顔を上げる。
その瞬間、広間の奥の扉がゆっくりと音を立てて開いていく。
新手かと3人が即座に構え、警戒する。だが、いくら待ってもその扉から何かが出てくる気配はない。
「……先に行けと言う事か?」
「そう……かもな」
「この先が反逆者の住処……?」
3人はちらりと顔を見合わせると、小さく頷いて、扉に向かい、くぐる。
まず、目に入ったのは太陽だ。もちろんここは地下迷宮であり本物のはずがない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず太陽と称したのである。
「こいつは……人工太陽と言うやつか?」
「マジかよ……もしそうだったらすごいぞ……」
「神に逆らった、と言うのはあながち間違いではなさそうだ」
「……水の音がする」
ユエの言葉に耳をすませば、耳に心地良い水の音がする。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。よく見れば魚も泳いでいるようだ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。
川から少し離れたところには大きな畑もあるようだが、当然何も植えられていない。そしてなんと家畜小屋もある。動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。
「住処であることに間違いはなさそうだな……」
「そうだな……何かあるとすれば、あの家だよな」
「ん……」
3人の視線の先にあるのは3階建ての白い清潔感のある建物だ。3人は慎重に油断なく建物に近づき、扉から中に入っていく。
扉の先のエントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っている。
取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。人の気配は感じないのだが、室内の管理維持はなされているのか埃が積もった形跡はない。
さらに奥に行くと、そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンっぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。
「まんま風呂か……何か月ぶりの風呂だ」
「流石に痒くなってきたからなぁ……」
神羅とハジメの二人が顔を綻ばせるのを見てユエが一言。
「……ハジメ、一緒に入る……?」
「……たまには兄弟水入らずで過ごさせて?」
「すまんな、ユエ。あとで一緒に入れるようにしよう」
ちょっ!?とハジメが目を見開く中、ユエの中で神羅の株が激増していた。
二階には書斎や工房らしき部屋を発見したが、どちらも封印がされているらしく開けることはできなかった。
そして三階。三階には一部屋しかなかった。扉を開けると、そこには直径七、八メートルの精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。
そして、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。
「こいつが反逆者か………」
「……こいつなんでこんなところでくたばったんだ?普通寝室とかそう言う所じゃないか?」
「……怪しい。どうする?」
苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようだ。
「……調べるしかあるまい。我が先に行く。ハジメとユエは待機だ」
「分かった。気をつけろよ」
神羅はそう言うと、魔法陣へ向けて踏み出し、魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ、部屋を真っ白に染め上げる。
まぶしさに神羅は目を細めるが、直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからの事、そして、前世の光景が走馬灯のように駆け巡る。
やがて光が収まり、目を開けた神羅達の目の前には、黒衣の青年が立っていた。よく見ればその青年は骸と同じローブを羽織っている。
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」
やはり反逆者だったようだ。それもこの迷宮の創設者。だからこそここで果てたのだろうか……
「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。そしてこのメッセージが流れると言うのなら、君たちは獣級試練をクリアしたと言う事。それはすなわち………いるんだろう。こことは違う世界を統べた、怪獣の王が」
その言葉にハジメとユエは目を見開く。それはまるで、オスカー・オルクスは神羅の事を……いや、より正確に言えばゴジラの事を知っているような口ぶり。
「この迷宮の獣級試練は解放条件の厳しさもさることだが、攻略難易度は人間と言う存在のみではほぼ突破不可能と言っていい。突破できるのは彼の王……もしくは怪獣の力が不可欠と言う難易度だ」
「どう言う事だ?なんで兄貴……いや、ゴジラの事を……」
「王ならばきっとあの魔物を見て、いろいろと察したかもしれない。だが、まず、安心してほしい。あの魔物は彼女の魔力を大量に分け与えられて生まれた存在。彼女の血肉は使っていない」
その言葉に、神羅は小さくほっと息をつく。彼女なら自分の血肉を分けるぐらいやりかねないと思ったが魔力だけだったようだ……
「もしかしたら、今の君は待ちわびているかもしれないが、その前に教えなければならない。我々に何があったのか……この世界に何が起きているのかを」
そして語られたのは狂った神とその子孫達の戦いの物語。
神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祀っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。
だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、解放者と呼ばれた集団である。
彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか解放者のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。解放者のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。
だが、それと時を同じくして、世界各地に並みの魔物よりも強大な力を持った獣が出現し、各地で猛威を振るった。彼らとも戦うその中で、彼らは彼女に出会った。その獣に匹敵する力を持つ者に出会い、共に戦う道を選んだ。
その言葉に神羅は大きく目を見開く。その脳裏に浮かぶのはただ一匹の姿のみ。
まさか、と神羅が呟いた瞬間、まるでその通りと言うようにオスカーは口を開く。
「ここから先の事は彼女から直接聞いてくれ」
そう言った瞬間、再び魔法陣が輝き、オスカーの映像の前に光が集まっていき、一つの姿が現れていく。
ハジメたちと同年代ぐらいの人間の姿と言う事は分かる。そして光が弾けたとき、そこにいたのは一人の少女。ユエと同じぐらいの背丈で、灰色の短髪にかわいらしい顔立ち。一見普通の少女のような姿だが、年齢と釣り合わない厚みとでも言うのだろうか。そう言うのを感じる。
その姿を見た瞬間、神羅の全身に電流が走る。見た目は人間。そう、人間だ。しかもここにはおらず、見ているのは映像のみ。だが、分かる。間違えるはずがない。間違えようがない。
そして少女がゆっくりと目を開いて、青い瞳で周囲を見渡し、神羅を見つけた瞬間、心からのものとはっきりわかるほどの嬉しそうな笑みを浮かべ、
「……姿かたちは全く違う。でも、間違えるはずがない……」
「……それは
神羅はそっと少女の映像の元に歩いていき、すっと身をかがめて目線を合わせると、見たこともないほどに穏やかで、嬉しそうな笑みを浮かべ、
「……ようやく会えたわね、ゴジラ……」
「ああ……モスラ………」
二人の言葉にハジメとユエは目を見開く。モスラ。神羅が前世から想い続けている相手。目の前の少女が彼女が人間に転生した姿だと言うのか……と、いうか、これは記録映像のはずでは?なんで普通に受け答えしているのだろうか……
「お前は……映像ではないのだな」
「ええ。私は今もちゃんと生きている。ただこことは違う場所で眠っていてね。その場所に魔法陣が設置されていて、それを使って私の思念を映像としてここに映し出しているのよ」
つまりモスラはこことは違うどこかに今も生きていると言う事に他ならない。それはつまり……
「お前……こっちの世界に転生していたのか……?」
「え?どう言う事?貴方もここにいるんだから貴方もこの世界で生まれたんじゃないの?」
モスラが首を傾げる中、神羅は自分は前世とは違う地球に生まれ、そこから神によってほかの者達と共にここに召喚されたことを説明する。すると、モスラは忌々し気に顔を歪め、舌打ちをする。
「あの野郎……またそんな事をしてたのね……なるほど。あの魔力はそう言う事だったのか……」
「どうやらお前は気づいていたようだな」
「ええ。でかい魔力反応を感じて、エヒトが大きく動き出したと思った私は万全の状態で事にあたれるように転生したのよ。その時は結構年食ってたから」
「転生は相変わらずのようだな」
「まあね。そのおかげで今はこの姿よ。まだ卵の状態だから仕方ないけどね。本当はもっと大人で、綺麗な姿なのよ?」
「ほう、そうなのか……お前がどんな姿であろうと、俺にとってはお前だが……まあ、その姿も見てみたいな」
「ふふ、見惚れても知らないわよ」
二人は今まで会えなかった時間を埋めるように互いに笑みを浮かべながら語らっていく。その様をハジメもユエも口を挟まずに見ていた。
神羅でさえ自分たちの事を忘れているかのように取り留めのない、雑談を交わしているが、不思議とそれを見ていても早くしろと急かす気は起きない。二人とも本当にうれしそうだったから。互いの声が、交わされる言葉の一字一句全てが、大切なものであるかのように耳を立てているその姿は、いっそ微笑ましいとすら思える。
そのまま久しぶりの逢瀬を眺めていると、ひと段落したのかモスラがひょっこりと神羅の後ろに目をやって、
「で?そっちの男の子がゴジラの弟?」
「え?あ、ああ。俺が南雲ハジメだ」
「私はユエ」
「ふ~~ん……双子っていうわりには似てないわね」
「根っこが違うからかもしれん……だがそれでも、俺の血を分けた家族だ」
神羅はそう言ってハジメの元に向かうと、わしゃわしゃと頭を撫でる。ハジメは恥ずかしそうにそっぽを向き、ユエとモスラは微笑まし気にその様子を見ている。
「さて……」
その瞬間、神羅の纏う雰囲気が研ぎ澄まされた刃のように一変し、ハジメたちは一斉に気を引き締め、モスラもまたふんわりとした雰囲気を霧散させる。
「教えてくれ、モスラ。過去に一体何があった?」
「ええ、話すわ……」
そしてモスラは語らいだす。
そもそもモスラは転生した直後に神の使徒と呼ばれるエヒトの先兵と戦っていた解放者たちと合流、使徒を秒殺し、その後解放者に参加した。理由は守護者として、エヒトを野放しにはできなかったからだ。そしてこの世界に迷い込んだのだろう怪獣や様々な組織と戦い、解放者の組織が大きくなっていったある時、彼らは神域と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。そして彼らはそこに解放者のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った7人とモスラを中心に、神々に戦いを挑んだ。
そこで予想外の事が起きた。なんと神エヒトがモスラの体を乗っ取ろうとしたのだ。どうやらエヒトは肉体を失っており、肉体を欲していたようだ。
マジか、とハジメが顔をゆがめた瞬間、ズンッ……と世界が沈んだ。呼吸が止まり、魂が屈服し、体が即座に、勝手に跪く。顔を上げられない。上げてはならない。ハジメと隣で同じようになっているユエが体を震わせている中、神羅は尋常ではない怒りを内包した声を出す。
「……本当か?」
その様子を嬉しそうに、だが少し呆れた表情で見ていたモスラは落ち着かせるように声を出す。
「落ち着いて。見ての通り、目論見は失敗したのよ。私の体を奪おうとしたのに指先一つ満足に動かせなくて、逆に私の力で吹き飛ばしてやったわ。神が聞いてあきれるわよね」
モスラが笑いながら言うと神羅はそうか、と殺気を引っ込め、ハジメたちは大きく息を吐き、大量の冷や汗を流す。それに気づいた神羅は申し訳なさそうにハジメとユエに手を貸す。
「すまん、二人とも。つい……」
「いや、仕方ねえよ。俺だってユエに同じことされたら……そいつを絶対に許さないからな」
そう言いながらハジメも殺気を放ち、それを見てユエがうっとりと目を細める。
それを見て、モスラは肩をすくめ、続ける。
「そして返り討ちにあったエヒトはある手段を使った。言ってしまえば、怪獣を召喚しようとしたのよ。貴方達を召喚したように、切羽詰まっていたのかでたらめにね」
それは悪あがきと言っていい行動だ。だが……
「その魔法によって……奴が呼び出された」
その言葉に神羅は目を細め、ハジメたちもまたある姿を思い浮かべる。話にしか聞いていない、神羅の宿敵。黄金の三つ首の竜。
「そこからは形勢逆転。解放者のほとんどが奴に殺された。私も頑張ったんだけど、ほとんど何も……生き残ったみんなの力を借りて、どうにか真ん中の首をちぎることはできたけど、それが限界だった。奴がちぎられた痛みで怯んでいる隙に、何とか私たちは生き残ったみんなと共に神域から撤退したわ。そのあと、私たちは何とか組織を立て直そうとしたんだけど、そこで追い打ち。エヒトは人間達を巧みに操って、私たちを世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人間達に相手をさせたの。彼らを相手に戦う事はできないから、数少ない私たちは次々と討たれていって、最後に残ったのは私を含めて8人だけだった。そして、私以外の7人はバラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏し、試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲ることにした。いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。そして私は、待つことにした。奴はその後姿を見ていないけど、奴がいる限りたとえ攻略者が現れても、神を討つことはできないと判断して、私が生まれたのならばきっといつかあなたもここに生まれると信じて、その時を待つことにした。念のためにこのオルクスにもう一つの判断材料を用意したけどね。そして、あなた以外の人間に関しても最低限怪獣と戦えるだけの力を持つ者を選ぶ必要があった。それが、規定時間内に最後の試練を突破したら挑める……獣級試練」
「なるほど……あの試練にはそう言う意味が……」
「はっきり言うけど、獣級試練に挑めないようじゃ、怪獣に殺されるのがオチよ。私たちはこの世界とはまさしく格が違うからなすすべがない。冷酷だけど、切り捨てるしかなかった」
その言葉に神羅も同意なのか小さく頷き、ハジメとユエは悔しそうに顔をしかめる。事実だからだ。神羅とは隔絶した差があり、
「……奴はまだこの世界にいると思うか?」
「いるわ。エヒトがあんなおもちゃを手放すわけがない。でも、流石になんらかの方法で封印してると思うわ。あいつでどうにかなる存在じゃないし」
「そうか………奴がいるか……」
そう呟く神羅の纏う気配が荒々しくなっていく。それを見て、モスラは口を開く。
「ゴジラ。貴方はこの世界の存在じゃない。私もそうだけど、私はこの世界で生まれた。だから神を許せなかった。異物であるあいつも。だけど、貴方はこの世界で生まれたわけじゃない。この世界に対する義理は持ち合わせてはいない。だから、無理に戦おうとしなくていいわよ。なんだったら、何とか私の方でケリをつけて、貴方は弟と一緒に地球に帰っても……」
「……見くびるな、モスラよ。確かに俺には関係ないかもしれん。正直に言って、この世界がどうなろうと俺には関係ない。だが、だからと言って奴を野放しにするつもりはないし、神自体も気に食わん。それだけで俺が戦う理由としては十分だ………神も、奴も、全て俺が焼き尽くす……!」
神羅は荒々しく鼻を鳴らし、それを見てモスラは少しうれしそうに微笑む。
神羅は息を吐いて落ち着くと、ハジメとユエの方に振り返り、
「で、二人はどうする?」
「「え?」」
「だから、二人はどうするのだ?我は奴らを殺そうとは思うが、無理に付き合う必要はないぞ」
それはきっと、彼の優しさだ。ここから先、神羅は怪獣との戦いに身を投じるだろう。それは想像を絶するほど苛烈だ。故に二人の身を案じてそう言っているのだ。
「……私の居場所はハジメのところ……他は知らない。ハジメが決めて」
どうやらユエはこの世界がどうなろうと関係ないようだ。ハジメはしばらく顎に手を当てて考え込み、
「……俺もこの世界がどうなろうが知ったことじゃない。故郷に帰る方法を探して、帰るだけだ……でも、モスラ……さん。ちょっと聞きたいんだが」
「なに?ああ、後、呼び捨てでいいわよ」
「それじゃあ……エヒトは盤上で予想外の動きをした駒を放置するか?」
「いいえ。どんな手を使ってでも排除するか、弄んでから叩き潰そうとするわ」
「なるほど………となると、たとえ帰還方法を見つけて、帰ったとしても戻される可能性が高いか……だったら、俺も兄貴に付き合ったほうがよさそうだ」
ハジメは頭を掻きながらそう言い、神羅は目を細める。
「いいのか?」
「ああ。そのほうが帰れる可能性が高そうだ。連れ戻される可能性があるなら神をぶっ殺したほうが確実だし、この世界にいる間も兄貴と一緒にいるほうが生き残れそうだしな」
勿論、寄生はしない。必ず兄の背中に追いつく、その努力も怠らない。だが、死んでしまっては元も子もない。
「そう……なら、全ての大迷宮を攻略して、神代魔法をすべて集めなさい。そうすれば、概念魔法って言うのが手に入る。詳細は省くけど、それなら世界を超えることもできるわ」
「概念魔法……それがあれば帰れるんだな…………分かった」
モスラの言葉に手掛かりが見つかったことに小さく笑みを浮かべながらハジメは大きく頷き、モスラは小さく息を吐く。
「それじゃあ………ねえ、ゴジラ」
「ん?」
ふいにモスラの表情に影が差すと、彼女は申し訳なさそうに顔を歪め、視線を逸らす。だが、すぐに意を決するように大きく息を吐いてゴジラと向き直る。その目には申し訳なさ、罪悪感、悲しみ、恐れ、様々な感情が入り乱れ、涙はたまっていないが、今にも泣きだしそうに見える。
「………ごめんなさい。人間をけしかけられた時、私は人間達を殺してでも神を殺すべきだった。貴方だったらその判断ができた。貴方がいなかったのなら、女王である私がするべきだった………でも、出来なかった……やらなきゃいけないことを……私はできず、いつ来るともしれない貴方に押し付けてしまった……本当にごめん「モスラ……」っ……」
ゴジラの言葉に彼女は軽く息を呑む。彼は優しげに目を細めていた。
「それは違う。お前は俺じゃない。なら、俺がいないからと言って、俺がやって来たことを無理にやる必要はない。確かにそうすれば何かが、この世界は少しはいいほうへ向かったかもしれない。だが、そうしたら、俺はお前に再会できなかった。それに、押し付けられたとも思っていない。俺は俺がやらねばならないことをやって来ただけだ。それを誰であろうと押し付ける気はない。だからもう自分を責めるのはやめろ」
前世で、自分は人間を大勢殺したことがある。その時、きっと願えば事態が事態だけに、彼女は手伝ってくれただろう。だがそんな事はできなかった。彼女の優しさに付け入る真似はしたくないし、恐らくあれは自分の不始末。だから自分でケリをつけると決めた。結局あいつに助けられたが。
「………それは、王としての命令?」
「お前への命令など論外だが、それでやめるのなら、そう言う事にしよう」
「……ずるいわよ。そんなこと言われたら、なんにしてもやめるしかないじゃない……」
その答えにモスラは申し訳なさそうに、しかしそれと同じくらい嬉しそうな苦笑を浮かべる。それと同時にその姿が薄くなっていく。
「それじゃあ、みんな、頑張ってね。貴方達の未来が、自由な意思の下にあらんことを」
そう言い終えるとモスラの姿は消えてしまう。
それと同時にオスカーの姿が現れ、穏やかに微笑む。
「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」
そう締めくくり、オスカーの姿は消えた。脳裏に何かが侵入してくる。痛みはないが気持ち悪く、神羅は軽く体を震わせ息を吐く。
「生成魔法……ハジメと相性がよさそうだ」
「俺と?どういう魔法なんだ?」
「魔法を鉱物に付与し、アーティファクトを作れるようだ。俺には無理だが……二人とも覚えるべきだろう。帰るためにも……今後のためにもな」
神羅の言葉に二人は頷くと、ハジメ、ユエの順番に魔法陣の中に入る。二人とも魔法陣で記憶を探られ、オスカーの話を聞き(モスラは出てこなかった)、生成魔法を習得していく。
「なるほどな……俺はだいぶ使えそうだ。ユエは?」
「……私も、無理かも……」
ハジメはそうか、と頷いてちらりとオスカーの骸に目をやる。
「一応、オスカーを埋めてやるか」
「うむ、そうだな」
「……ん」
オスカーの墓は畑の片隅に埋め、墓石を立ててやった。あと、せっかくだから鉱物で花を作ってやった。
「よし、それじゃあ、どうする?地上への脱出方法はここにあるだろうが……」
「……いや、俺たちの目的を考えると、すぐに出たりしないで、ここで準備を出来るだけ整えたほうがいいと俺は思う。兄貴にばかり戦わせるわけにはいかないしな」
「ふむ、それもそうだな。急いては事を仕損じる。俺は構わんぞ」
「……ハジメと一緒なら何処でもいいし、私もそうしたほうがいいと思う」
結果、3人はここを拠点に装備の充実と鍛錬に集中する。
それから2ヵ月が経過する。
「そう言えば、兄貴一人称変わってたな」
「ああ、前世では俺だったんだ。今生では新しい生だし、気分転換もかねて変えていた。まあ、さっきは懐かしくて使ったが、今後は我でいく」