ではどうぞ!
ガタゴトと馬車が揺れる音を聞きながら香織は窓から外を眺めている。その様子を雫と鈴と恵理は心配そうに見ていた。
「かおりん、大丈夫?」
「……うん、大丈夫」
「香織。焦る気持ちは分かるけど、放っておくわけにはいかないでしょう?」
「……分かってるよ」
そう言って香織ははあ、とため息を吐く。帝国の使者との面会から2ヵ月。今、香織たち勇者一行はオルクス大迷宮には向かわず、ハイリヒ王国の片隅にある村に向かっている。
事の起こりは一か月ほど前の事。辺境のとある村が魔物に襲撃されたのか壊滅していたという報告が冒険者ギルドに上げられた。報告主である商人が襲撃を直接見たわけではないが、無残に破壊された建物に飛び散った血などから魔物に襲われたと思ったらしい。当初は冒険者ギルドから冒険者たちが討伐に向かったのだが最初のメンバーは全滅したのか連絡がこず、ギルドは全滅と言う判断を下した。それを受け、今度はハイリヒ王国の王都を拠点にする金ランク、つまり冒険者最高峰の者が依頼を受け、パーティーで向かったのだが、これもまた音沙汰がなく、壊滅したと判断された。二度にわたる失敗から、教会が動き、中隊規模の騎士達を派遣したのだが、何とこれも壊滅したのか何の音沙汰もない。
これらを受け、王国上層部、及び教会は魔物を魔人族が使役する魔物であると断定し、光輝達に討伐を依頼し、彼らは現場に向かっているのだ。
「それにしても、未知の魔物か……ちょっと怖いね……」
「大丈夫だってえりりん!どんな魔物が来たって鈴たちなら勝てるって!」
「……でも魔人族が使役してるなら、魔人族とも戦わないといけないわ……」
雫は小さくそう呟き、自分の手に視線を落とす。そう、今までのオルクスでの戦闘はあくまでも戦闘訓練。もしかしたらこれが彼らの初の実戦になるかもしれないのだ。自然と体が強張る。
その様子を香織は静かに見つめ、
「……雫ちゃん、大丈夫?」
「っ、ええ……大丈夫よ、香織。とにかく、早く終わらせて迷宮に戻って、神羅君たちを探しましょう」
「……うん」
「これは………」
「ひどいな………」
光輝達は目の前の光景を見てある者は怒りを抱いたのか拳を震わせ、ある者は口元を手で覆っている。
彼らは道中の村に立ち寄って情報を集めようとしていたのだが、それは叶わなかった。村は壊滅していたのだ。建物はすべてどこかを破壊され、火の手が上がっていたようだが、今はもう鎮火しており、炭化した材木が散らばっている。人の気配はおろか生物の気配もまるでなく、不気味な気配が周囲を満たす。
「まさかここもやられていたとは………」
メルド団長が悔しげに顔を歪ませ、奥歯を噛み締める。
「許せない……罪もない人たちを……魔人族め……!」
光輝は拳を怒りで振るわせる。他の生徒たちは事の凄惨さに顔を青くしており、雫ですら表情を強張らせ、剣を握る力が強まる。
「ひとまず生存者を探そう。お前ら、村を隅々まで捜索しろ!」
メルドの指示に騎士たちがすぐさま村の捜索に散らばる。
すると、暗殺者の天職を持つ遠藤浩介がメルドに話しかける。
「あの、メルド団長。俺も行ったほうが……」
「うおぉ!?なんだ!?……って、浩介か……いや、お前らはここに待機していてくれ」
メルドの反応に浩介は泣き出しそうな表情になる。この男、恐ろしく気配が薄く、よく周りの者達から忘れられていた。ちなみにだが神羅は意外にも浩介によく気がついていた。障害物関係は意外にも気づくものだ。
それから少しすると、
「メルド団長!」
「おお、どうだ。生存者はいたのか?」
一人の騎士が息を切らせながら駆け寄ってくる。
「いいえ……生存者は見つかりませんでした……代わりに、見てもらいたいものが………」
そう言う騎士の案内に従い、光輝達は村の中を歩いていく。
「これです……」
「これは……」
少し歩いて案内された場所にあったのはぬかるんだ地面。そしてそこに刻まれた巨大な足跡だ。それは3本指で光輝達と同じぐらいはありそうなものだった。
「何だこの巨大な足跡は……ベヒモスと同じぐらいはあるぞ……」
「こんな巨大な魔物がいるなんて聞いた事がありません……」
メルドたちが顔をしかめながら足跡をなぞる。まさかとは思うが魔人族は新種の魔物を支配下に置いたのだろうか……
「大丈夫ですよ、メルドさん。俺たちはベヒモスを倒したんだ。例えベヒモスクラスが来ても、俺たちは負けません」
「おう、そうだぜ。何が来ようと、俺たちは負けねぇ」
光輝と龍太郎が自信満々な様子で告げる。確かに、彼らはオルクス大迷宮攻略中、三度ベヒモスと遭遇。今度は香織にはサポートに徹してもらい、他のメンバーの力でもってこれを討伐した。確かに、彼らにはそれだけの実力があると言えるだろう。だが相手は未知の魔物。警戒するに越したことはない。
メルドがこれからどうするか少し考えていると、
「だ、団長!こちらに来てください!」
別の探索に出ていた騎士が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「どうした!?」
「そ、それが………と、とにかく来てください。後……光輝達は……置いて行ってください……」
「何?どう言う事だ?」
「………あまりにも………見せられたものでは……」
そう言う騎士の顔は蒼白と言っていい色になっている。
それを見たメルドはいぶかしげな表情になるがすぐに頷くと、
「俺は少し見てくる。みんなはここで待機していてくれ」
「そんな。メルド団長、俺も行きますよ。何かあったら……」
光輝がついて行くと言い出すが、メルドは一人で大丈夫だと言い聞かせ、そのまま騎士の先導に従って歩いていき、村のはずれの農作業が行われていたらしき場所にたどり着く。
「これです……」
「これは………!?」
その光景を見て、メルドは言葉を失ってしまった。それはあまりにもおぞましい光景だった。
骨、骨、骨、骨骨骨骨骨骨骨骨。大量の骨が一か所に山のように廃棄されているのだ。しかも一部の骨はまだ肉がついているのか大量のハエが飛び回っている。その中には動物の物から人の頭蓋骨まである。
メルドは即座に理解した。ここは廃棄場だ。この村を襲った魔物がここで食べられないものを捨てたのだろうが、何よりも恐ろしいのはその量だ。この村は比較的小規模の村なのだが、明らかに村の人員を超える量の骨がある。しかもよく見れば中には鎧のようなものまで転がっている。恐らく、依頼を受けた冒険者や派遣された騎士たちの物。
やはり魔物はここにいる。そう考えてメルドはハエを手で払い、はっとした。
おかしい。もしも仮にこれが魔人族の襲撃だとしたら、なぜ奴らはこの辺境の村に何日もいついているのだ?そんな事をするぐらいなら他の村や町に魔物をぶつけるほうがいい。だが、この村に来た者達は皆ここに骸をさらしている。それはつまり、彼らを襲った存在はここを縄張りにし、居着いていると言う事だ。
まさか、魔人族ではないのか?とそんな可能性が脳裏をよぎる。何かが……それこそ本当に魔人族関係なく新種の魔物が現れ、この廃村を縄張りにしたのか?
そう考え、メルドは小さく舌打ちをする。金ランクの冒険者のパーティーを、騎士団を返り討ちにし、食らってしまう新種の魔物。いくら光輝達がベヒモスを倒したとはいえ、何が起こるか分からない。急いで合流して備えなければ。
「急いで戻るぞ!」
「っ……は、はい!」
メルド団長の言葉に騎士は頷き、すぐさまその場から移動する。
バギリっ
メルドたちが戻ってきたとき、生徒たちはみな嬉しそうな表情を浮かべる。それなりに戦闘を重ねてきたとはいえ、やはりこの村の状況は辛いものがあるのだろう。
「メルドさん、何があったんですか?」
「ああ……魔物の痕跡を見つけた。それもまだ新しい。恐らくだが、魔物はまだこの近くにいる」
その言葉に生徒たちと騎士たちに緊張が走る。
「敵は未だ未知数だ。お前たちなら大丈夫だと思うが、決して油断するな!気を引き締めろ!」
メルドが声を張り上げ、光輝達が頷いた瞬間、
クルルルルルルゥゥゥ………
どこからともなく唸り声のようなものが聞こえてくる。
「っ!総員戦闘態勢!前衛は前に!後衛は魔法の準備を!メルドさんたちは後衛の背後を!」
光輝の指示に全員が即座にフォーメーションを組み、周囲を警戒する。
「畜生!この村に潜んでいたのか!?」
「だがどこに!?捜索しても痕跡は……」
「気にしても仕方ない!今は周囲を警戒しろ!」
その場の全員が周囲を見渡す。ほんのわずかでも違和感があれば気付けるようにするが、少ししても何の変化もない。
「な、なんだ……?なにも出てこないぞ?」
子悪党組の近藤が思わず拍子抜けしたように呟き、他の生徒たちも訝し気に首を傾げ始める。
が、次の瞬間、
「あ!」
不意に遠藤が大きく声を上げる。
「どうした!?」
「今建物と建物の間を何かが……!すごくでかいぞ!」
その言葉に全員が一気に警戒心を引き上げて残骸を睨むが、そこには動く気配がない。
「……何も動かないが……」
「いや本当にいたんだよ重吾!確かに何かが動いたんだ!」
そうは言うが、やはり何かが動く気配がない。
気のせいだったのかと言う雰囲気が流れた瞬間、
「な、なんだ!?何かいたぞ!」
今度は騎士の一人が何かを見たのか声を上げ、全員が一斉に警戒する。だが、その方向を見ていても魔物が現れる気配はおろか動く気配もない。
思わず全員が疑問を覚え、それにつられるように肩の力が抜けた瞬間、
シャァァァァァァァァ……
今度は唸り声が上がり、全員が再び気を引き締める。
「くそ!いったいどこにいる!?こそこそと隠れて、卑怯者め!姿を見せろ!」
姿を見せない敵に光輝は苛立ったのか叫びながら周囲を睨みつける。
「落ち着きなさい光輝!焦ったら相手の思うつぼよ!」
雫が落ち着かせようとするが、本当は雫もかなり緊張を強いられていた。気配を隠しているのにまるでこちらの気が緩んだ瞬間を狙ったかのように気配が漏れ、強制的に気を引き締められる。これでは要らぬ心労がたまるばかりだ。
「………恵理ちゃん。魔法で残骸を吹き飛ばして」
「え?」
そんな中、香織が呟いた言葉に全員が気を張りながら耳を傾ける。
「このままじゃ埒が明かない。相手が残骸に隠れているならそれを吹き飛ばせばいい」
「……確かにそうだな。お前ら、やるぞ!」
メルドの掛け声に応じ、後衛組が魔法の詠唱を始めるがその瞬間、轟音と共に一つの家屋が吹き飛ばされる。
突然の事態に全員が驚愕に動きを止める中、バラバラと落ちる残骸を突っ切って巨大な影が猛然と光輝達に迫る。
ガバリと大口を開け、それが彼らを丸呑みにしようとした瞬間、
「ここは聖域なりて神敵を通さず、聖絶!!」
念のために準備をしていた守りの要である結界師の鈴が光のドームを張り、次の瞬間、轟音と共に巨体が激突、衝撃波が放たれ、巨体を弾き飛ばす。
だが、敵は即座に体勢を整えて着地すると唸り声を上げながら光輝達を睨みつける。ここでようやく全員が敵の姿を視認することができた。
そこにいたのはあまりにも異質で異様な魔物だった。
その巨体はベヒモスとほぼ同じ身長と体高と言っていいが全体的にトカゲのような細身の体に長い尾のせいでベヒモスに比べるとかなり華奢に見える。頭部は丸みを帯びているが前に向かって細長く伸びており、全体的に白っぽく、側面に黒い穴がついており、まるで頭蓋骨そのもののように見える。その体を支えているのは一対の巨大な腕だけで、後ろ脚のようなものはない。
「なんだこいつは……こんなもの見たことがないぞ……」
「何だろうと関係ない。村の人たちの仇を取ってやる!」
光輝が聖剣を突き付けると、異界から紛れ込んだ髑髏の亡者、スカルクローラーは甲高い咆哮を上げる。
ここで軽く知らない人のためにスカルクローラーの生態を。
スカルクローラー
髑髏島と言う孤島に生息している爬虫類型の生物。基本的に地下で生息しているが、えさを求めて地上に現れる。新陳代謝が高く、大量の餌がないと体を維持できない。ゆえに狂暴かつ残虐、だがそれと同時に非常に狡猾な側面も持つ。髑髏島の主ともいえるある巨神とは長年にわたって生存競争を繰り広げていた。
このスカルクローラー、隠密性もマジでやばい。煙で視界が効かなかったとはいえ、人間達の真後ろを取ることもできるので。残骸の後ろには限界まで身を低くし、伏せることで隠れていました。
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