ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 今回から2巻です。よろしくお願いします。

 そして遅れてすいません。モンハンのほか、コードヴェインもやってて……更に言えば、R18にも手を出していまして……

 とりあえず、どうぞ!


第16話 ライセン大峡谷

 魔法陣の光に満たされ、何も見えなくとも空気が変わったことをハジメは実感した。奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気にハジメの頬が緩む。

 やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは……

 岩に囲まれた洞窟だった。

 

 「なんでやねん」

 

 魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていたハジメは、代わり映えしない光景に思わず半眼になってツッコミを入れてしまった。正直、めちゃくちゃガッカリだった。

 

 そんなハジメの服の裾をクイクイと引っ張るユエ。何だ? と顔を向けてくるハジメにユエは自分の推測を話す。

 

 「秘密の通路……隠すのが普通」

 「剥き出しなどそれこそあり得んな」

 

 神羅もその通りと言うように頷く。どうやら浮かれていたのは自分だけだったようだ。ハジメは気を取り直すように咳払いをすると先走った自分を誤魔化すように宝物庫から緑鉱石を使ったライトを取り出す。

 そんなハジメをみてユエはクスリと笑い、神羅はしょうがないなぁと言うように口元を緩める。

 

 「ん?あれは……」

 

 ハジメが岸壁をライトで照らしていると、その一角に綺麗な縦線が刻まれている。更にハジメの目線ぐらいのところに手のひら大の七角形が描かれており、頂点の一角にオスカー・オルクスの紋章が刻まれている。

 ハジメはその壁に歩み寄り、宝物庫から攻略の証の指輪を取り出してかざしてみる。すると鈍い音と共に壁が左右に開き、通路が現れる。

 3人は一度顔を見合わせると一度頷き、通路に踏み出す。

 途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。三人は、一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。光の柔らかさからわかる。人工物ではない、自然の光。ハジメはこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。神羅は言ってはなんだが、特に何も感じず、眩しそうに目を細める。

 ハジメとユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。神羅はその後をゆっくりと追っていく。

 近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。ハジメは、空気が旨いという感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 そして、ハジメとユエは同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

 地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西のグリューエン大砂漠から東のハルツィナ樹海まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 ライセン大峡谷と。

 ハジメ達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

 たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていたハジメとユエの表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。

 

 「……戻って来たんだな……」

 「……んっ」

 

 二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

 「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 「んっーー!!」

 

 小柄なユエを抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓き転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

 「ふうむ……ずいぶんと巨大な峡谷だ………恐らく、ここはライセン大峡谷であろうな……確か近くに帝国があったはずだが……」

 

 対し神羅は至って冷静に自分たちが今どこにいるのか判断し、頭の中に地図を思い浮かべてどうするか考える。

 

 「そう言えば近くに大迷宮があると言われるハルツィナ樹海があったな……ん?」

 

 不意に神羅は訝しげに顔をしかめて空を仰ぎ見る。そこには変わらず青い空があるが神羅は低く唸りながら睨み付ける。

 だが、少しするとふん、と軽く鼻を鳴らして視線を切る。

 

「……これが奴か……どこにいるかまるで見当がつかんし……今は放るしかないか……さて、二人とも。そろそろ立て。客だぞ」

 

 そう言いながら神羅が周りを見渡せば、無数の魔物に3人は取り囲まれていた。

 

 「はぁ、全く無粋な奴らだ。もう少し余韻に浸らせてくれたっていいだろうよ」

 

 ハジメはため息と共に立ちあがり、ドンナーとシュラークを抜き、

 

 「そう言えばここって魔法は使えないんだっけか?」

 「そう言えばそうだったな。ユエよ、大丈夫か?」

 「……分解される。でも問題ない。力ずくで行ける」

 

 ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は魔法に込められた魔力が分解、散らされるからだ。神羅の魔懐に似ているが、それ程即効性はなく、その劣化系と言ったところだ。

 しかし、ユエは瞬時には分解しきれないほどの大威力を以て魔法を放って殲滅すると言うのだ。

 

 「力ずくって……効率は?」

 「……ん……十倍くらい」

 「あ~、それなら俺が「必要ない」兄貴?」

 

 神羅は前に立つと軽く息を吐き、軽く殺気を解放する。

 それだけでこの峡谷が揺らぎ、ハジメとユエは軽く息を呑む。対し魔物たちは先ほどまでの威勢はどこへやら。一気に怯えたように体を震わせると、そのまま蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行く。

 すべての魔物が逃げ去ったのを確認して神羅はふう、と小さく息を吐いて殺気を引っ込める。

 

 「よし、こんなところだろう」

 「別にそんなことしなくても俺が……」

 「未熟者。殺気を放つだけで回避できるならそれでいいだろう。時間も取られんし、物資も節約できる。そう言う所をちゃんと考えろ。敵対したら全部倒せばいい、なんてのはただの思考停止であるし、敵意ですらない。ただの恐れだ。己を律しろ。特にこれからは人間とも戦う事になるだろう。その時、倒すべき敵をちゃんと見極められないようでは話にならん。」

 「……うす……」

 

 神羅にたしなめられ、ハジメは小さく呻きながら頷く。

 神羅の言葉は間違っていない。ハジメの迷宮でのスタンスは敵は全て殺すだった。もちろん、だれかれ構わず殺す殺人者になるつもりはないが、それでもこういう些細な積み重ねで、どこかでタガが外れるかもしれない。そんな余裕があるか不安だが、それでも気を付けたほうがいいだろう。

 ハジメはふう、と小さく息を吐いて気を取り直すと、峡谷の絶壁を見上げる。

 

 「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

 「……なぜ、樹海側?」

 「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

 「……確かに」

 「ふむ………」

 

 神羅はしばし考えるように顎に手を添えていたが、不意に何かに気づいたように目を見開き、視線を樹海側の道から覗く空に向ける。

 そこには変わらず青空があるが、神羅が見ているのは()ではない。その空の下から感じた一つの気配。自分が認めた、奴とは違うライバルの気配。

 

 (……そうか………あいつもここにいるのか………なら、顔見せ位はしておくか)

 「我も異論はない。それでいこう」

 

 よし、とハジメは宝物庫から魔力駆動二輪、シュタイフを、神羅も自分の分のシュタイフを取り出す。

 ハジメがシュタイフに颯爽とまたがると、ユエがその後ろに横乗りしてハジメの腰にしがみつき、神羅も己のシュタイフにまたがる。シュタイフの速度調整は魔力量次第である。まぁ、ただでさえ、ライセン大峡谷では魔力効率が最悪に悪いので、あまり長時間は使えないだろう。最悪神羅の奴に相乗りさせてもらうつもりだ。

 ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。神羅たちは迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 その道中、魔物たちが襲おうとするのだが、神羅の威嚇で一匹残らず逃げ出してしまう。

 しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも神羅の圧で逃げ出していた魔物よりも上だろう。

 魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。双頭のティラノサウルスのような魔物だ。

 だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

 ハジメと神羅は魔力駆動二輪を止めて胡乱な眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。

 

 「……何だあれ?」

 「……兎人族?」

 「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

 「……聞いたことない」

 「仮にそうだとしてもこの峡谷を住処にすることはないのではないか?魔物の住処だぞ」

 「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

 「ああ、なるほど。それならば納得だ」

 「……悪ウサギ?」

 「その可能性が高そうだな……」

 

 3人は呑気に会話している。どうやら助ける事にあまり乗り気ではないようだ。ハジメとて流石に無差別に見捨てるつもりはないが、流石に場所が場所であるし、犯罪者の可能性が高い。そうなると助けた結果裏切られる、と言う可能性があり、二の足を踏んでしまう。

 

 「どうする?兄貴」

 「別にあいつ程度でどうこうなったりせんが……」

 

 どうするか二人が相談していると、相手のうさ耳少女のほうが気付いたようだ。

 四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のままハジメ達を凝視している。

 そして、双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した……ハジメ達の方へ。

 それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊しハジメ達に届く。

 

 「みづけだぁ!やっとみづけましたよぉ~~!だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 「あ~~~、どうする?マジで」

 「どうすると言われてもなぁ……」

 

 仮に助けたとしても一緒に連れて行けないし、そうなった場合ここでどうなるか分からない以上、見捨ててもあまり変わらないだろうが……

 さてどうしようと神羅が呻いた瞬間、

 渓谷の地面の一角が吹き飛び、何かが飛び出してそのまま双頭ティラノに襲い掛かる。ティラノに負けないぐらいの巨体が横合いから激突し、ティラノは悲鳴を上げながらそのまま倒れ込む。うさ耳少女はその衝撃で吹き飛ばされた。

 

 「な、なんだ!?」

 

 ハジメたちが目を見開く中、神羅は突然の乱入者を睨む。

 それは巨大な蜘蛛だ。それ以外に言いようがない存在だ。特に特別な特徴もない全長5、6mほどの巨体の蜘蛛。それが双頭ティラノに覆いかぶさっている。

 

 「な、なんですかこれ~~~!?なんでここにバンブースパイダーがいるんですか~~!?」

 

 うさ耳少女は巨大蜘蛛の事を知っているのか叫びながら慌てて下がってくる。

 ティラノと蜘蛛は激しく格闘をしているが、蜘蛛が長い手足でティラノを押さえつけると、口から長い針を出すとそれを双頭ティラノに突き刺す。すると、ティラノは悲鳴を上げて体をさらに激しくばたつかせるが、巨大蜘蛛は肢でその体を抑え込む。ハジメたちが警戒しながらその様を見ていると、次第にティラノの動きが緩慢になってくる。そして最終的には弱弱しい声と共に完全に動かなくなる。

 

 「う、嘘……ダイヘドアが……」

 

 うさ耳少女が呆然とした様子で呟いていると、巨大蜘蛛は口から大量の糸を放ってダイヘドアの死体を雁字搦めにすると、死体を引きずりながら自分が出てきた穴の中に戻っていく。

 そして死体が完全に穴の中に引きずり込まれると、周囲を耳が痛くなるほどの静寂が包む。

 ハジメもユエは周囲を油断なく警戒しており、うさ耳少女は茫然とその様子を見ていた。神羅は何かを思い出そうとするように頭を掻いて、

 

 「思い出した。恐らくあいつだ」

 

 神羅の言葉にハジメたちはん?と一斉に顔を向ける。

 

 「だとすると少し厄介だな……ハジメ、ユエ。早めにここを離れるぞ」

 「兄貴……さっきの奴のこと知ってるのか?」

 「ああ、蜘蛛の方をな。あいつは怪獣の赤子だ」

 「……へ?あの……今おかしなこと言いませんでした?赤子?あの巨大な蜘蛛がまさか………赤ちゃんなんてことは……」

 「その通りだ。我の記憶の通りならあいつはまだ赤ちゃんと言っていいだろう」

 

 その言葉に全員が言葉を詰まらせる。あの大きさでまだ赤ん坊。では大人はどれほどの大きさになるのか……

 

 「さすがは怪獣……ていう所か……?」

 「……まだ生き残ってたみたい」

 「負ける気はないが面倒だし余計な労力だ。さっさと移動するぞ。今は捕らえたばかりの獲物に夢中だろうしな」

 

 その言葉にハジメたちは頷き、すぐにシュタイフで移動しようとするが、

 

 「ちょ、ちょっと待ってください!逃がしませんよ!」

 

 うさ耳少女がガバリとハジメの腰にしがみついてくる。思わずユエがジト目となる。ハジメもめんどくさそうにうめき声を上げ、

 

 「何だよお前。お前も魔物がいなくなったんだからさっさと行けよ。早くしないと蜘蛛の餌になるぞ」

 「そ、そこは事情とか聞くものじゃないですか!?なんでこんなところにいるんだとか!」

 「……犯罪者だから?」

 「違いますよ!」

 

 ハジメとユエとうさ耳少女が言い合いをしているのを見て、神羅は顔をしかめながら頭を掻く。

 

 「何をしている。早くいくぞ。下手したら他の個体に見つかりかねないし、最悪親と遭遇することになるぞ」

 「それは分かってるけど……ええい、このままいくぞ!」

 「……ん!」

 

 ユエがうさ耳少女を振りほどこうと蹴るのだが、決して離さないと言わんばかりにしがみついている。ハジメがシュタイフを起動させて走り出すのだが、うさ耳少女は決して腕を離さず、そのまま渓谷を駆け抜けていく。ずりずりと引き摺られても決して離さない。

 早速面倒ごとか、と神羅ははぁ、と小さくため息をついてシュタイフを走らせてその後を追う。




 今回出てきた怪獣の説明。

 クモンガ
 
 ペルム紀に生息していた大型節足動物。成虫で80mほどあり、幼体で5mほど。口から糸を吐き、更には毒針も放てる。この糸の強度はかなりのもので成体の糸はゴジラでも力ずくで振りほどくのは苦労する。だが、火に弱く、あっさりと焼き切ることができる。

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