ではどうぞ!
ハルツィナ樹海を目指し、ハジメたちの一行は平原を進んでいた。
大型の馬車二台にそれなりのハウリア族が乗っているのだが、神羅が一人で、まるで枯れ草を引っ張っているかのように軽々と引き、その周りを数十頭の馬とハジメたちが歩いていく。
当初は一人の人間がこれだけの物を一人で引いて動かせることにハウリア族は大層驚愕していた。
そうやって歩いていくと、遠方にハルツィナ樹海が見えてくる。かなり巨大な木々も生えているようで、凸凹と緑の凹凸が目立つ。
そのタイミングで不意にシアが口を開く。
「あの、あの! ハジメさんとユエさんと神羅さんのこと、教えてくれませんか?」
「? 俺達のことは話したろ?」
「いえ、能力とかそういうことではなくて、なぜ、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、みなさん自身のことが知りたいです。」
「……聞いてどうするの?」
「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。皆さんに出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっと皆さんのことを知りたいといいますか…………」
「ふうむ……我は別にいいが、ハジメ。どうする?」
「う~~ん……まあ、暇つぶしにはいいけど……」
「……神羅の過去はどうする?」
ユエが小声で聞いてくると、神羅は小さく唸り、
「……話さなくていいだろう。これっきりであろうし、奴本人は我の過去は気にしないだろうしな」
神羅の言葉にハジメは小さく頷くと、これまでの経緯を、前世の事はうまく隠しながら話していく。
「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんもユエさん神羅さんもがわいぞうですぅ~。そ、それと比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」
号泣しながら「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」とシアは呟いている。そして、さり気なく、ハジメの外套で顔を拭いている。
そして少しすると決然とした表情で顔をあげると、
「ハジメさん!ユエさん!神羅さん!私、決めました!皆様の旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向に皆さんを助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった四人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」
勝手に盛り上がっているシアに、ハジメとユエが実に冷めた視線を送り、神羅ははあ、と小さくため息を吐く。
「お前が欲しているのは自分を守ってくれる存在ではないのか?」
「!?」
神羅の言葉にシアは肩を震わせる。
「恐らくだが、お前はこの一件の片がついたら一人で旅に出るつもりだったのだろう。だが、それだとほかの者たちがついてくる可能性が高い。というかついてくるだろう。だが、強者である我らと一緒に行くと知れば、説得できるかもしれない………と言ったところか?」
「……あの、それは、それだけでは……」
シアは図星を付かれたのかしどろもどろになる。
確かに神羅が言っていた面もある。だが、シアが同族ともいえる3人に強い仲間意識を持っていたのも確かだ。
「別にそこは俺は気にしない。だがな、俺たちの旅の目的は七代大迷宮で、奈落クラスの連中が相手だ。更にはそいつらすら虫けらのような本当の化け物、怪獣も相手にするんだ。はっきり言って、仲間たちの元を離れるよりもかなり危険だ。やめといたほうがいいぞ」
ユエもまたその通りと言うように頷いている。その様にシアは落ち込んだように黙りこくってしまう。
やれやれと神羅は首を横に振りながら視線を前にして、ん?と首を傾げる。
「ハジメ。樹海の入り口に人影が見えるぞ」
神羅の言葉にハジメはえ?と首を傾げながら視線を前にしてすぐに目を細める。確かに、見えてきた樹海の入り口付近に複数の人影が見える。その言葉にハウリア族はまさか帝国兵が待ち伏せていたのかと怯えた表情を浮かべるが、
「なあ、兄貴。俺の見間違いか?あいつらの頭の上にうさ耳が見えるんだが……」
「ああ、俺にも見える。まさかとは思うが……あいつら、ハウリア族か?」
その言葉にシアたちはえ?と目を丸くすると、慌てて樹海入り口に視線を向ける。そこの人影達は確かに頭から特徴的なうさ耳を生やしている。
「ま、まさかあれって!?」
シアの言葉がきっかけでカムは失礼します!と言ってから走り出す。それを見て、他の面子もすぐにその後を追いかける。
「お前たち!」
「え?あ、ああ……ああ……!族長………!」
その言葉に兎人族たちは一瞬怯えるように体を震わせるが、すぐに駆け寄ってくる相手が族長であると知ると、堰切ったように涙を流していく。
「お前たち……まさか……無事だったのか!?」
ここにいる面子はみな峡谷にたどり着く前に帝国兵に捕まったか、はぐれた者達だったのだ。
「……ええ……何とか……我々だけが生き延びて……」
「どう言う事だ?こいつらはハウリア族でいいのか?」
そこに神羅達が現れると、ハウリア族は驚愕すると同時に目に見えて怯える。その様子を見て、カムは仕方ない、というように息を吐く。
「みな、怖がる理由も分かる。だが、彼らは敵ではない。訳あって我々を樹海の案内に雇った人たちだ。奴隷という存在に興味がない人たちだ。我々も危ないところを助けてもらったのだ」
その言葉に生き残りたちは困惑した表情を浮かべる。
「それよりもお前達。一体どうして……どうやって帝国兵から逃げ出したのだ?他の者たちは?」
すると、生き残ったハウリア族は悔しそうに顔を俯かせ、涙を流すが、それは先ほどのうれし涙ではなく、恐怖や後悔と言った負の涙だ。
「……れた……」
「なに?」
「ほかのみんなは………全員……食われました……!」
彼らの話を統合するとこうだ。
帝国兵に捕まった彼らはそのまま馬車に捕らえられ、帝国に連れていかれるところだった。偶然の発見だったからか、枷などはされなかったが、檻に入れらていたこともあるが、見せしめに何人か殺されたことによる恐怖で逃げ出すことも叶わず、ハウリア族は絶望していた。
だが、それをも超える絶望が待っていた。
そんな彼らを巨大な魔物が襲撃したのだ。2本の腕で体を支える頭蓋骨のような頭をした魔物。
帝国兵はすぐに撃退しようとしたのだが、まるで木っ端のように次々と殺され、食われていった。
そんな中、偶然にも魔物の攻撃によって彼らが乗せられていた檻が破壊され、彼らは脱出のチャンスを得た。だが、魔物への恐怖で最初は動けなかった。だが、目の前で帝国兵が喰われたのを見て、皮肉にも捕食への恐怖で体が動き、次々と脱出を図ることができた。
だが、半分ほど脱出したところで、魔物が帝国兵を全滅させ、対象をハウリア族に移したのだ。
当然、脱出できた者達は逃げられない者たちを助けようとしたが、魔物は檻の中にいたハウリア族に興味を示した。だから檻の中の者達は脱出できた者だけでも逃がそうと魔物を引き寄せた。
その思いに気づいた脱出できた者達は泣く泣くその場から撤退したのだ。普通なら魔物が追ってきそうなものだが、満腹になったのか追ってはこず、彼らは一応逃げ延びることができた。それでも彼らにはこれからどうすれば良いのか全くわからなかった。それで、一応樹海に戻ってきていたという訳らしい。
「……そうか………お前たちも辛かったな……よく生き延びてくれた……」
カムやシアたちが生き残りたちに声をかけている中、ハジメは神羅に問いかける。
「なあ、兄貴。襲撃してきた奴って………」
「まだ分からん。だが、どうやらこの世界に土着した怪獣たちの活動が活発になっていることは間違いなさそうだ……白崎と八重樫たちは大丈夫だろうか………」
「……」
ハジメとしては今更クラスメイト達の事は割とどうでもいい。だが、自分たちを落とした犯人や、友人と言っていい香織と雫に関しては気にかかる。犯人は相応の報いを味合わせてやるが、二人に関しては無事でいてほしい。
「どこかのタイミングで二人には顔を出すか?」
「そうしたほうがいいかもしれんな……」
二人でそう話し合っていると、カムが戻ってくる。
「お二人とも、足止めをさせてしまい申し訳ない。それで……他の皆も一緒に連れて行きたいのですがよろしいでしょうか?」
「問題ねえよ。死んだと思ってた奴が生きてた時の嬉しさは分かるからな……そいつらは大丈夫なのか?一応、簡単な飯ぐらいは出してやれるが……」
「よろしいのですか?」
「流石にこの状況じゃな……」
「それでは……お言葉に甘えて……」
結果、その場で急遽休憩をとることになり、一時間ほど経ってから改めて出発と相成った。
「それでは、ハジメ殿、ユエ殿、神羅殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆様を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」
「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」
最初は樹海そのものが迷宮であると神羅達は考えていたが、そうなると亜人達が住める場所とは思えない。そこで他にも入り口があるのではと考えてカムに話を聞いたところ、樹海の最深部に大樹ウーア・アルトと呼ばれる巨大な樹が生えているらしい。そこが怪しいと踏んでそこに向かう事にしたのだ。
「皆様、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です。それに、魔物に見つかったら非常に厄介です」
「ああ、承知している。みんな、ある程度の隠密行動はできるから大丈夫だ……それで兄貴。怪獣は?」
「………かなり奥の方に気配を感じる」
「ええ。あいつらは北に隣接している山脈に巣を構えておりまして……定期的に樹海の中を偵察しております。近くにいるときに過剰に樹海を破壊したら敵と認識されますし、いなくても大規模な破壊が起きればすぐに向かってきますので、ご注意を」
「分かった。それで、気配のほうはっと……」
ハジメが気配遮断を使い、ユエと神羅も気配を薄くする。
「ッ!? これは、また……ハジメ殿、できればユエ殿達くらいにしてもらえますかな?」
「ん? ……こんなもんか?」
「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな」
兎人族はスペック自体は亜人族の中でも最弱だが、その代わりに索敵や隠密行動が得意な種族だ。そんな彼らでもハジメのそれは気付かないものだったのだ。
「まあ、兄貴には通用しないだろうがな」
「そ、そうなのですか……では、いきましょうか」
そしてカムの号令の下、彼らは樹海の中に踏み込んでいく。
樹海の中に道のようなものはなく、しかも周囲を深い霧で覆われているのだが、カムは現在位置も方角も把握してるように歩いていく。どうやら亜人達はこの樹海の霧の中でも現在地や方角が分かるらしい。
しばらく進んでいくと、不意に神羅が唸り声をあげ、カムたちが警戒し、ハジメから渡されたナイフを構える。当然ハジメとユエも気付いている。というか、盛大に足音を立てながら何かがこちらに向かってきている。
ハジメは左腕を水平に振るう。微かにパシュと言う音が連続してなる。
瞬間、
「「「グルルァァァァァァァァ!」」」
痛みと怒りで咆哮を上げながら霧の中から何かが次々と飛び出してくる。それは2m近い鬣を持ったラプトルのような魔物で、数は総勢4匹。そのうちいくつかは頭に鋭い針が刺さっている。ハジメの義手に内蔵されているニードルガンで、先ほど放ったのだが、どうやらこの程度では死なないらしい。
「風刃」
ユエがすぐさま風の刃を放って何匹かを真っ二つに切り裂く。神羅も無造作にラプトルの首を鷲掴みにすると、そのままごきりと首を圧し折る。そして残った一匹をハジメが風爪で首を切り落とす。
「意外にでかかったなぁ……」
ハジメがニードルガンで仕留められなかったをみて不服そうに顔をしかめていると、
「こいつらは………みんな!急いで移動するぞ!」
カムの言葉に襲撃で動けなかったハウリア族ははっとすると、慌てて神羅達の手を掴んで動き出す。
「お、おいなんだよいきなり!あいつら殺したのは不味かったのか?」
「ええっと……不味いと言いますか……そうでもないと言いますか……」
ハジメの手を掴んでいたシアが首を傾げながらも説明する。
「あいつらは基本群れで行動するので他にも仲間がいることは間違いありません。ですが、あいつらは平時でも共食いするぐらい狂暴な連中なんです。先ほど倒した奴らの血ですぐに他の仲間が駆けつけるでしょうが、そこに私たちがいなければ、奴らは仲間の死体を喰う事を優先するでしょう。ですから、早めに移動したほうが襲われないんです」
「……そうなんだ……」
そのままある程度走ったところで人数を確認し、再び一行は樹海の奥に向かっていく。その間、ちょくちょく魔物に襲われたが、神羅達が問題なく対処していく。
そして樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までよりも無数の気配に囲まれ、ハジメ達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。
そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、シアに至っては、その顔を青ざめさせている。
「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」
そして樹海の霧の中から現れたのは虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人の戦士の一軍だった。
今回出てきた生物の解説。なお、今回のはアメリカのキングコングの漫画に出てきた生物で、ネットで集めた情報を元にしているのでご容赦を。
デス・ジャッカル。
髑髏島に住まう肉食生物。恐竜のように見えるが実は哺乳類。食欲旺盛であると同時に共食いをするほどに獰猛でもある。
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