ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

28 / 111
 新年、あけましておめでとうございます。今年度も夜叉竜をよろしくお願いします。

 コミケ、総評としましては……満足とはいけませんでした。買い逃した物もあるし……

 とにかく、新年一発目の更新、どうぞ!


第22話 魔王の矜持、王の指摘

 「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上……そして怪獣……か……」

 

 現在、神羅達は、アルフレリックと向かい合って話をしていた。内容は、3人がオスカー・オルクスに聞いた解放者のことや神代魔法のこと、この世界に怪獣と言う規格外の存在が多数存在している事、ここに生息している大型魔物もその怪獣であること、神羅とハジメが異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための手段、概念魔法が手に入るという事だ。

 アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。ハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では神への信仰心もなく、あるとすれば自然への感謝の念だという。まあ、自分たちを蔑む教会が崇める神を信仰するとか変態としか思えない。

 神羅達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 ハルツィナ樹海の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が解放者という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった。モスラが怪獣と言う事も伝えていなかったようだ。今回もあえて伝えていないが)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。

 フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきた物で、最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。特にモスラの事を知っていた場合、何があっても絶対に敵対はするなと伝えられていた。その者は獣級試練を攻略したかゴジラ本人の可能性が高い。その場合、亜人では奇跡が起きても勝てないからだ。

 そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

 「それで、俺達は資格を持っているというわけか……」

 

 こうして本国に招き入れられたが、ハジメとアルフレリックが、今後のために話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。ハジメ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機しているが、どうやら、彼女達に何かあったようだ。ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がったて、階下に向かう。

 神羅達が階下で見たのは大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけている光景だ。部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 神羅達に気がつくと彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

 「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

 「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 「なら、こんな人間族の小僧共が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

 「そうだ。特に長髪の男はモスラの事を知っている。この中でもずば抜けた力の持ち主だろう」

 「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、神羅に向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できず、アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、神羅に向かって振り下ろされた。

 亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。シア達ハウリア族とハジメとユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となった神羅を幻視した。

 次の瞬間、轟音と共に剛腕が叩きつけられ、それと同時にボギャリ!という何かが潰れたか折れたかしたような音が響く。

 それを亜人達は神羅が潰された音だと疑わなかった。

 

 「が……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 だが、激痛に絶叫を上げたのは熊の亜人の方だ。彼は殴った腕を抑えながら後ずさる。何事かと亜人達は見やって、驚愕に目を見開く。

 熊の亜人の腕は筋肉が断裂し、骨が皮膚を突き破り、血まみれの見るも無残な状態に変わり果てていた。殴られた神羅はというと、のんきに欠伸を漏らしている。まるで殴られたことに気づいていないように。だが、視線を熊の亜人に向け、

 

 「ふむ、そちらの言い分も分かる故こちらは構わんが……さっきの一撃が始まりならば……今度はこちらだ」

 

 そう言うと神羅は軽く殺気を籠めながら熊の亜人を睨みつける。それだけでその場を人知を超えた圧が襲い、亜人達は一斉に息を呑み、がくがくと体を震わせる。

 

 「か……ひゅ……」

 

 それを一人、まともに向けられた熊の亜人は泡を吹き、白目をむきながらその場に崩れ落ちる。

 

 「兄貴……ちょいとやりすぎだろ」

 「……ん?まだ何もしてないが……ビビらせようとしただけだぞ……」

 「その殺気だけで十分すぎたんだよ。まあ、先に手を出したのはあっちだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、アルフレリックによってその場はとりなされ当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、ハジメと向かい合って座っていた。ハジメと神羅の傍らにはユエとカム、シアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。

 

 「で? あんた達は俺等をどうしたいんだ? 俺達は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければこちらも干渉しないんだが亜人族としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのはあんた達も避けたいだろう?俺も勘弁だ。まあ、流石に子供や一般人には絶対手は出さないが……」

 「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」

 「何言ってんだ?こっちは何もしてない。そっちが勝手に口伝を破って、勝手に攻撃して、勝手に自爆しただけだろう?殺気に関しても、当然の対処だろ」

 

 ちなみに熊の亜人のジンは腕は何とか回復薬で治ったのだが、精神はそうとも行かず、かなり深いトラウマを刻まれ、戦士として復帰するのは不可能となっていた。

 

 「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつも国のことを思って!」

 「国のため……か……」

 

 神羅はちらりとシアに視線を向け、小さく首を傾げる。

 

 「国のため……そのためなら掟に逆らってもいいってか?掟掟言うわりにずいぶんと安い掟だな……」

 

 グゼが立ち上がりかけるが、それをアルフレリックが諫める。

 

 「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。ハジメの言い分は正論だ」

 「確かに、この少年たちは、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

 そうルアは言い、糸のように細めた目でハジメと神羅を見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 その視線を受けて、マオ、ゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックが神羅とハジメに伝える

 

 「南雲ハジメ、南雲神羅。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さん達を口伝の資格者として認める。故に、お前さん達と敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

 「絶対じゃない……か?」

 「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

 「ふむ……それで?」

 「お前さん達を襲った者達を殺さないで欲しい。お前達ならば可能であろう?」

 「それは……断言できんな。先の奴は精神面でも弱かっただけの事。だが、人間の中にはあの程度の殺気では動じず、攻撃してくる輩もいる。そうなった時、どうなるかは保証しかねる。流石に命がかかった場で弟たちに手加減しろなどと言えんし、我も力が強い。約束なんぞできん」

 

 人間というのは脆い。さっきもただビビらせようとしただけの殺気でジンは心を砕かれた。こうなってくると加減が相当難しくなる。ハジメたちはまだマシだが、神羅はかなり厳しい。

 

 「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

 そう言ったのはゼルだ。その言葉にハジメと神羅は怪訝な顔をする。元々案内はハウリア族に任せているのだ。なのに何で自分達が案内をするような言い草を……

 

 「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

 ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情を浮かべる。

 

 「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

 「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

 「でも、父様!」

 「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

 その言葉ついにシアは泣き出してしまい、それをカム達は優しく慰めた。

 

 「そういうわけだ。これで、貴様等が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

 神羅は小さな唸り声をあげながらゼルを、長老達を見渡し、どこか呆れたようなうなりを発して口を開こうとするが、その前にハジメが口を開く。

 

 「お前アホか?」

 「な、なんだと!?」

 「そもそもの話、俺たちはお前らに案内を頼むつもりはない。俺はこいつらと約束した。助けてやる代わりに、大樹までの案内をしろと。俺は約束を守った。今度はこいつらに約束を守ってもらう。それを邪魔するってんなら……相手してやるよ」

 

 そう言ってハジメはシアの頭に手を乗せ、シアは目を丸くしてハジメを見上げる。そのハジメをアルフレリックが睨む。

 

 「本気かね?」

 「ああ、本気だ。いいよな?兄貴」

 「事後承諾だが……もとより異論はない」

 「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?さらに言えば、そんな事をすれば巨大魔物がお前さんを敵とみなす可能性もあるぞ?」

 「そうかもな……だがそれでも、これだけは絶対に譲れないんだよ。俺は約束は必ず守る。それが、俺の……王の弟として、貫く流儀だ」

 

 それがあの時、神羅に外道になるなと言われた時、ハジメが己の心に定めた流儀だ。この王にとっては恥じない弟であるために。最愛の恋人のために。何よりも自分のために。

 その言葉にシアは大きく目を見開き、神羅は嬉しそうに目を細めると、

 

 「そうだな。それに、それを抜きにしても、お前たちに案内は任せられん」

 「どう言う事だ……」

 「だってそうであろう?我らは樹海の中では迷う。そしてお前らは迷わない。つまり、案内するふりをして魔物の群れに誘導させられ、そいつらの相手をしているうちに案内人が逃げ出したら、面倒な事になる」

 

 その言葉にハジメたちはあ、と声を漏らす。確かにそうだ。案内を出すと言われたが、その案内人が信用できるかは別だ。そんな事になると、まあ、いずれは脱出できるだろうが、かなりの時間を浪費することは間違いない。その点から考えても、対等な取引に応じたハウリアのほうが信用できる。

 だが、そんな懸念もすぐに払拭される。

 

 「そうなったらここに戻って、それを指示したもの含めて()()話をする羽目になる。そんな手間は勘弁だ」

 「……何を言っている?そうなったらお前たちが戻ってこれるわけがない」

 

 長老含めて全員が怪訝な表情を浮かべると、

 

 「いや、それがな。ここに来るまでにはっきりしたが……我にここの霧は通用しない。我はこの中でも自分がどこから来たのか、どれ程進んだのか正確に把握できる。流石に行ったことのない場所には行けないがな」

 

 その言葉に全員が驚愕に目を見開く。

 

 「で、でたらめを言うな!人間のお前がこの樹海の霧で迷わないはずが……!」

 「そうなのだが……もともと我は人間ではないしな……」

 

 そう言うと神羅はずるりと長い尾を生やし、それを見た亜人達は再び驚愕する。

 

 「神……羅……さん……」

 「あなたは……一体……」

 「少なくとも亜人族ではない。だが、人間とも言い難いが……まあ、そこは別にいい。それよりも折角だ。先ほどからどうにも引っかかることがあってな。その事を問わせてもらおう」

 「引っかかる事……?」

 「ああ……なぜおまえらはシア・ハウリアを忌み子として扱う」

 「何かと思えば……そいつは魔力を持っているからだ。それも魔物と同じ力をだ」

 「ああ、そういえばそうだった………人間や魔人族に対し、絶対有利を取れ、魔物と互角以上にやり合える強大な力を持ってるんだったな」

 

 神羅の言い回しに長老たちはアルフレリックとルア以外何?と首を傾げる。

 だが、次の瞬間、ユエがあ、と声を上げる。

 

 「私と同じ……このフェアベルゲンにはシア以上に強力な戦士はいない……」

 

 その言葉に長老方は一斉に目を見開き、神羅はその通り、というように頷く。

 

 「そうだ。人間や魔人族は魔力操作を持たぬからどうしたって初動に遅れが生じる。だがシアはその隙をついて攻め込める。更に言えば未来視もうまく使えば国への襲撃をかなり防げるのではないか?」

 「な、な……」

 

 その言葉に長老たちは絶句したように声を震わせる。

 

 「魔法の適正はどうなのかは分からんが、少なくとも肉体強化に関しては中々のものであろう。戦士として、かなりの戦力となる。更に言えば、シアの血を継いだ子孫が魔力を受け継ぐ可能性が十分にある。それこそ、魔力を持たない亜人同士から魔力を持つ子が生まれるよりもな。そうなるとだ。どれ程先かは流石に分からんが、将来的には亜人族全体が魔力を持てるようになる可能性は0ではない」

 

 長老たちは二の句を告げられないと言うように目を見開きながら体を震わせ、ハジメたちも驚いたようにシアを見つめる。この少女は文字通り種族の未来を変えるかもしれない可能性を秘めているのだ。

 

 「もちろん、そううまく事は運ばないであろう。だが、国の事を考えるのであれば、シアはリスクを背負ってでも招き入れる価値がある……いいや、招き入れてしかるべきだ。まあ、流石にシアの母親が人間族か魔人族ならば分からんでもないが……そこはどうなのだ?カム」

 「い、いいえ……妻は間違いなく兎人族ですが……」

 「ふむ、ならばなぜおまえらは国にとって有益なシアを追放する。どう考えても掟を破ってでも手元に置いておくほうがメリットがでかいと思うのだが……」

 「そ、それはそう言う掟だからだ!魔物は殺すと言う……」

 「つい今しがたその掟をあっさりと破って不意打ちした分際で何を言う。今更掟と言ったところで、何の重みもない」

 「と、兎人族だぞ!?臆病で戦えない最弱種族が戦いに……」

 「こいつは家族のために単独ライセン大峡谷を駆け抜ける胆力の持ち主だ。家族のためならば踏ん張って戦うだろうよ……ついでに言わせてもらうと、同胞を想っていると言う割には随分と兎人族を見下しているようだな……まさかとは思うが、役に立たぬからどうなってもいいと思っているのではあるまいな」

 「な、ち、ちが……」

 「そこまでにしてくれぬか、神羅殿。確かに、ハウリア族の一件は我々の考え不足だったかもしれん」

 

 アルフレリックが神羅をなだめるように口を開くと、神羅はふん、と鼻を鳴らす。

 

 「よく言う。お前とその狐目はその可能性に気づいていたであろうよ。他の連中と比べても、お前等は頭が回りそうだしな」

 

 神羅の言葉にアルフレリックとルアは小さく目を伏せる。その様子にほかの長老たちは目を見開きながらも睨みつける。

 

 「そうだな……だが、我らがそう言えば、我らの一族も追放されていたかもしれぬ……」

 

 その言葉にほかの長老たちは目を見開きながらも睨みつける。

 

 「保身……だが、この間抜け共のかじ取り要員が必要か……八重樫と似て苦労しているようだな」

 

 アルフレリックはふう、と息を吐き、

 

 「ここはハウリア族はお前さん達の奴隷ということにする。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

 普通なら反対意見一つでも出そうなものだが、長老たちは何も言わなかった。神羅の言葉を否定できなかったからだろう。

 

 「反対はないのか?ならばハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、資格者、南雲神羅、南雲ハジメの奴隷とする。そして、資格者南雲ハジメ、南雲神羅には、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲一行に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

 「我はそれで構わん」

 「ああ、俺もな」

 「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

 「気にしないでくれ。元々相当無茶言ってる自覚はあったからな。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

 「まあ、これに懲りたら少しは合理的に考える思考も用意する事だな。自分が何を守りたいのか分からぬのでは……上に立つ資格などない」

 

 ハジメと神羅は立ち上がるとユエとシアたちを促す。ユエはすぐに立ち上がるが、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。

 

 「おい、何時まで呆けているんだ? さっさと行くぞ」

 

 「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

 「?さっきの話を聞いてなかったのか?」

 「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

 周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だが、ユエが語り掛ける。

 

 「……素直に喜べばいい」

 「ユエさん?」

 「……貴方たちはハジメに、神羅に救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

 

 ユエの言葉にシアはハジメに目を向ける。ハジメは小さく肩をすくめ、

 

 「それが約束だからな」

 

 その言葉にシアは肩を震わせる。

 未来と言うのは千差万別だ。未来視で未来を見ることができるが、見えたがゆえにその未来を逃すと言うことだってある。だからこそシアは必死に、全力で神羅達に協力を取り付けようとした。峡谷を走り抜けたのだってほとんどがむしゃらだった。神羅が言うほど肝は据わっていない。

 結構すんなり協力を取り付けた後も不安は付きまとった。約束だって、普通に破られると思った。しかも今回はいくら3人が強くても国が相手だ。最悪あの巨大魔物と戦う事にもなりかねない。

 それでもなお、二人は……ハジメは約束を守ってくれた。国を相手に、一歩も引かず、最悪の可能性にすら、立ち向かって。

 その事実にシアの心臓は大きく高鳴り、全身を凄まじい衝動が襲う。今すぐにでも動き出したくなる衝動に襲われ、シアはそれに逆らう事もなく、

 

 「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

 「どわっ!? いきなり何だ!?」

 「むっ……」

 

 全力で抱きつき、ぐりぐりと顔をハジメの肩に押し付ける。その顔は泣きべそをかいているが、安堵に緩んでいる。ユエが不機嫌そうに唸るが、特に何もせず、ハジメの手を取る。そんなユエの頭を神羅は軽くなでてやる。

 その様子を見て、ハウリア族もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。

 それを長老たちは憎々し気睨みつけていたが、神羅は軽く尾を振るう。まるで余計なことはするなよ?と言わんばかりに強めに床に打ち付けられ、床が砕く。




 感想、評価、どんどんお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。