ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

3 / 111
 投稿します。ではどうぞ!


第2話 方針

 戦争に参加することが決まった後、神羅達は聖教協会本山である神山の麓にあるハイリヒ王国の王城に移動することになった。

 神羅達は聖教協会の建物から外に出る。外は高山のようで雲海が広がっている。そのまま歩いていき、円形の柵に囲まれた白い台座にみんな乗る。そこには魔法陣が描かれている。

 

 「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、天道」

 

 そうイシュタルが唱えた瞬間、魔法陣が輝きだし、滑らかに台座が動き出し、そのまま地上に向かって斜めに下っていく。初めて見る魔法に生徒たちははしゃいでいるが、神羅は険しい表情で周囲を睨みつける。その様はまるで周囲の情報をほんの少しでも手に入れようとしているように見える。

 雲海を抜けると眼下に山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町が見える。恐らくあれがハイリヒ王国の王都だろう。

 ハジメはそれを見てすばらしい演出だと皮肉っぽく笑う。雲海を抜けて天より降りたる神の使徒と言う構図そのままである。

 この世界は神の意志を中心に回っている。それはいずれ、悲劇をもたらす気しかしない。政治と宗教が密接に結びついていた戦前の日本のように。

 ハジメは言いしれる不安を抱き、思わず兄に視線を向ける。神羅は険しい表情で眼下の王都を睨みつけていた。

 そしてたどり着いた王宮でハジメたちを出迎えたのはこのハイリヒ王国の国王、エリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃のルルリアナ、第一王子のランデル王子、王女のリリアーナだった。

 ここで問題なのは国王であるエリヒドが玉座に座らず、立って待っていたことだ。そしてイシュタルが隣に進むと国王はその手を恭しく取り、軽く触れない程度のキスをする。それだけでこの国の力関係がどうなっているのか見当がつく。

 その後、晩餐会が開かれたのだが、その際ランデル王子が香織に積極的に話しかけてきて、隣の神羅をにらみつけたりしていた。更に王宮ではハジメたちの衣食住が保証され、訓練における教官たちの紹介もされた。

 そして今、ハジメは各自に一室与えられた部屋の中でベッドにダイブしていた。最初は天涯付きベッドに愕然としたのだが、怒涛の一日に張り詰めいたのが解けたのもあってうつらうつらとし始めていた。だが、そうは問屋が卸さなかった。

 コンコンとドアがノックされ、その音にハジメの意識は急浮上する。

 

 「はい?誰ですか?」

 「我だ、ハジメ。今大丈夫か?」

 「兄さん?う、うん。大丈夫だよ」

 

 ハジメが慌ててベッドから降りてドアを開ける。そこには案の定神羅が立っていた。

 

 「どうしたの?兄さん」

 「いや、今後の事について話を詰めておくべきと思ってな。畑山教師に相談する際にも情報は整理しておくべきだ」

 「そっか……うん、そうだね」

 

 神羅の言葉にハジメは小さく頷くと神羅を部屋の中に招き入れる。

 神羅はそのまま部屋の中のソファに遠慮なくどっかりと座り込み、ハジメもその向かいにおっかなびっくり腰を下ろす。高級そうなソファに及び腰になっているようだ。

 

 「それで………兄さん。今回の話、どう思う?」

 「怪しさしかない。色々な面が不自然だ」

 「具体的には?」

 「我らを勇者とその仲間として呼んだ。その時点で神と言う存在が怪しい」

 「え?それってどういう「コンコン」え?ほ、他にも?」

 

 ふいに再びドアがノックされ、ハジメが不思議そうに首を傾げ、思わず神羅に視線を向けると、神羅も首を傾げる。心当たりがないみたいだ。

 ハジメは首を傾げながら立ち上がって声をかける。

 

 「あ、あの?どなたですか?」

 「ハジメ君?白崎です。神羅君……いるよね?」

 「八重樫だけど……今いいかしら?」

 「うぇ!?し、白崎さんに八重樫さん!?ど、どうしたの?」

 「えっと……神羅君とちょっと話がしたくて部屋に行ったらここに行くのが見えたから……」

 「私は香織の付き添いよ。私個人で話をしたかったのもあるけど」

 

 ハジメは思わず神羅に視線を向ける。神羅は小さく頷き、ハジメはドアを開ける。

 そこにはやはり香織と雫の二人がいた。

 学校が誇る2大女神の訪問に思わずハジメが緊張を滲ませるが、

 

 「ちょうどいい。お前らも来てくれ。お前らなら大丈夫そうだからな」

 

 だが神羅はたいして気にしたふうもなく声をかけ、二人は小さく首を傾げながら部屋の中に入る。ハジメは小さくため息を吐いてそのまま戻っていき、神羅の対面に座る。香織と雫はベッドに腰掛ける。

 

 「それで、兄さん。さっき僕たちを召喚したから神が信用ならないって言ってたけど、どういう事?」

 「え?」

 「本当にどういう事?神羅君」

 

 ハジメの言葉に香織と雫が驚いたように目を見開く中、神羅は小さく頷く。

 

 「うむ。先ほどの老いぼれの言葉を思い出せ。我らの世界はこの世界よりも上位であり、我らはこの世界の人間より数倍から数十倍の力を持っていると」

 「う、うん。そうだけど……」

 「ならばなぜ我らのような学生を引っ張り出した?きちんと訓練をし実戦も経験したであろう軍人を招き入れればそれだけで事足りるのではないか?」

 

 神羅の言葉にハジメたちはあ、と小さく声を漏らした。

 言われてみればその通りだ。何の訓練もへったくれもしていない学生の自分達より、ちゃんと戦闘訓練をこなし、実戦も経験したであろう現役の軍人のほうが何倍も頼りになる。強さの質そのものがこちらより上であるならば生徒である必要もない。

 だが、こういった状況に対する知識では図抜けたハジメは口を開く。

 

 「えっと……僕たちの中の誰かが勇者としての資質を持ってたからじゃないかな?こういうのって誰でもいいってわけではないと思うし……」

 「ふむ、なるほど………だが、軍人を呼ばない理由にはなるまい。我らを呼んだあと軍人を呼べばいい」

 「それは……」

 

 その言葉にハジメは口を紡ぐ。確かにその通りだ。別にほかの人間を呼んではいけないという訳ではないだろう。ならば自分たちが必要な人材だとしても、他にもちゃんとした軍人を連れてきてもいい。いや、世界を救うつもりならそう言った人材は絶対必要だ。

 

 「まあ、何か理由があるのかもしれん。一度の転移で運べる人数に限りがあるとか、連続で使用できないとかあるのかもしれん。だが、それにしたってアイツらは我らが、世界を救う存在と何の疑いもなく思っている。ただの学生が……いや、戦ったことのない子供が、だ。他の援軍の可能性は考慮してない。つまりそう言った話を神から聞いていないという事だ。ここを見ると、エヒトに人間を守ろうという気概が感じられん」

 

 神羅の言葉にハジメたちは思わずうなる。今回の召喚のこの世界に対する意味に疑問を抱かざるをえない。どうして神は世界に自分達だけを呼んだのだろうか。他にも有用、いや、必要な人材はいただろうに。異世界から勇者を呼ばなくてはいけないぐらいに切羽詰まっているのに、どうして打てる手をすべて打たないのか。

 

 「もう一つは神の肩書だ」

 「肩書?」

 「そうだ。我らを呼んだのは創世神、エヒト。創世神と言うからにはこの世界を作った神だ。つまり、今争っている魔人族もまたそのエヒトが作ったという事だ。分かりやすく言うとすれば……なぜ自分の子供たちが争っているのにそれを仲裁しようともせず、むしろさらに激化させるような事をしているのだ?」

 

 その言葉にハジメたちは一斉に息をのむ。

 そうだ。よく考えればその通りだ。これが世界を作ったのが別の神で人間族の神が別にいるのであれば神羅もそこまで気にしなかった。だが、この世界を作った創世神だというなれば魔人族もそのエヒトが生み出したもの。確かにこれは戦争なのだが、神の視点で見れば、それは自分が生み出した子供同士で争っているという大雑把に言えば喧嘩と言う事に他ならない。

 

 「神は争いに干渉しないという言い訳は使えん。すでに我らを呼んだのだからな。もちろん、魔人族は別の神が生み出した存在と言う可能性とてあるから断言はできないがな………なんにしても、今はあまりにも情報が少なすぎる。くそっ、何の情報もないのに勝手に戦争参加を決めおって……」

 「あれ?確か神羅君は……」

 「我は情報が足りない中で帰るためにはどこに向かって歩けばいいのか、どのぐらいのペースで歩けばいいのかすら分からないままの状態で好き勝手に走り出し、自分たちが言われた事の意味、結果を考えもせずにあっさりと話に乗った能無しを咎めているだけだ。魔人族は人間と争っているらしいが、その理由は?その切っ掛けは?お前らは相手の事すら知らないのに戦争に参加する、つまり相手を傷つけ、命を奪うと決めた。これはもはや本質的には通り魔と変わらん」

 

 その言葉に香織と雫は思わず視線を俯ける。言われればそうかもしれない。突然呼び出され、何も分からないまま、相手の事を知らないまま相手を殺す選択をした。ああ、確かに。これではまるで通り魔だ。

 

 「まあ、改めてそのことを自覚したのならそれでいいだろう。今はこれからどうするのかを考えるべきだ」

 「どうするって……やっぱり、光輝に相談して、答えを先延ばしにしてもらう?その間に「それなんだけど……」なに?ハジメ君」

 「えっと……僕の意見としては、下手に突っつかないで、このまましばらくは訓練と並行して情報収集したほうがいいと思う」

 「どうして?ハジメ君」

 

 神羅も続きを促すように小さく頷く。

 

 「うん。兄さんには言ったけど、最悪の可能性として、奴隷にさせられるってのがあるけど、もう一つ最悪の状況があるんだ」

 「それは?」

 「このまま、身一つで国から放り出されることだよ」

 

 ハジメの言葉に香織と雫は息をのみ、神羅は目を細める。

 

 「理由は?」

 「うん。僕たちは神の使徒、人間族を救う勇者として召喚された。だからこそ、この国の人たちはこんなに優遇してくれてる。だけど、もしも僕たちがこの世界の事なんて知ったことじゃない。そんなのどうでもいいから帰せ、って意見で一致して、それを押し通してたら……あの人たち……少なくとも教会の人たち、もしくは神エヒトにとって僕たちは神の使徒ではなくなる。そうなると教会には僕たちを保護する理由が無くなる。今の待遇が悪化するならまだいい。だけど最悪、この国から追い出される。そうなったらアウト。この大陸の9割が教会の信者なら、下手したら僕たちは誰からの助けも得られずこの大陸で野垂れ死ぬ」

 「野垂れ死ぬって……大げさじゃないかな?ハジメ君。ちゃんと助けを求めれば……」

 「確かに助けてくれる人はいるかもしれない。でも、今よりも格段に状況が悪くなることは確実だよ」

 

 ハジメの言葉に香織は恐怖を滲ませ、神羅は神妙な表情を浮かべる。

 

 「だとすると、あの場での我の発言は不用心だったか……すまん」

 

 そう言いながら神羅がその場で頭を下げると雫は小さく首を横に振る。

 

 「……いいえ。神羅君の言ったことは間違いではないわ。それはこの状況だとしても、自分で考えなくちゃいけないことだから」

 「……ほかの者達にも何か言っておくか?」

 「それはそれでマズイわ。もしも神羅君があの発言に関して撤回するようなことを言ったら、それこそ神羅君が言ったようなことが現実に起こるかもしれない。今はみんな戦争に参加するつもりだけど、だからこそ、神羅君が差した釘は抜くわけにはいかないわ。みんなには悪いけど、情報が集まるまではこのことは伏せておきましょう。教会の人たちに不信感を与えるわけにもいかないし」

 「……そうか」

 「じゃあ……どうする?」

 「………そうだな。当面は訓練と情報収集に集中するべきだな。戦争に参加するかどうかは別として、この世界がどういう場所か、どこに何があるか、危険の度合いなども調べ、希望を言えば神に頼らない帰還方法を探す。そして戦闘技術はあるべきだ。最悪国を追い出されても、自衛ができるならまだどうにかなる」

 「そうだね……」

 「現状、それが最善手ね………」

 「よし、ならば我は今から畑山教師の下に行ってこの事を伝えてくる。現状は詳しいことが分かるまでは下手な動きはしないようにしよう」

 「「「分かった(わ)」」」

 

 3人が頷くと神羅も小さく頷き、それから立ち上がると、そのままハジメの部屋から出ていく。

 

 「全く……面倒なことになったものだ……」

 

 そう呟きながら神羅は歩き出す。

 異世界。そいうものがあることは自分は百も承知だった。自分もそうだから。だが、まさかこうして生きている内にまた味わう事になるとは思わなかった。しかも、今度は自分だけでなく、家族であるハジメや友人である白崎に八重樫、恩師の畑山教師まで。

 この世界の生物が自分とどの程度までやれるか分からない。今の自分はあの時に比べて弱体化している。もしも奴と同格がいたら………

 

 「いいや。相手が何であろうと関係ない。あの時と何ら変わらん。俺の邪魔する者は何人であろうと残らず潰すだけだ」

 

 そう呟いて神羅は低いうなり声を漏らしながら廊下の奥に消えていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。