ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 今回はちょっと…………必死に頭をひねったんですが、これ以上が出てこなくて……申し訳ない。

 後、最近夜勤が復活したのでまた更新はかなり不定期になります。

 とりあえずどうぞ!


第24話 ハウリアの変化

 ふー、ふー、と浅く、そして長く呼吸を繰り返しながらシアは手に持った戦槌を握りなおし、構える。その視線の先にはだらりと両手を下げた状態の神羅がいる。一見すると隙だらけ。だが、彼女は知っている。そもそも彼は防御すら必要としないと言う事を。

 シアは最後に大きく息を吐き出して呼吸を整え、腰を落とし、

 

 「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 地面を蹴る。それだけで蹴った地面が爆発し、その加速を以てシアは一瞬で神羅との距離を詰める。そしてその加速の勢いを余さず乗せて戦槌を横薙ぎに繰り出す。

 それに対し、神羅は無造作に手を差し出し、指を一本立てる。

 その指に戦槌が直撃、凄まじい衝撃波が弾け、神羅とシアの髪を激しくはためかせるが、神羅の指はその一撃を受け止めきっている。

 だが、それは想定内の事。シアはすぐさま戦槌から手を離す。支えを失った戦槌はそのまま地面に落ちるが、その隙にシアは神羅の懐に潜り込むと勢いよく鳩尾に向かって拳を繰り出す。一見女の細腕だが、その実態は化け物と呼ぶにふさわしい大岩を粉砕する威力を秘めている。

 それが人体の急所に直撃したのだが、神羅は涼しい顔で立っていた。まるで効いていない。だが、シアは焦りはしない。すぐさま体を回転させると回し蹴りを繰り出し、神羅のこめかみにかかとが直撃する。

 空気が破裂するような音が響くが、神羅は微動だにしない。そしてシアの動きが止まったところで神羅はシアの足に手を伸ばすが、彼女は即座に体勢を整え、戦槌を掴みながら後ろに下がる。

 ある程度下がったところでシアは戦槌を掬い上げるように振るい、大量の土砂を巻き上げる。神羅が小さく唸りながら目を細める。

 次の瞬間、土砂を突き破って戦槌が凄まじい速さで神羅目掛けて投擲されてくる。だが、神羅は特に気負った様子もなく、腕を振るう。それだけで戦槌はあっさりと弾き飛ばされてしまう。

 が、その戦槌の影からシアが飛び出してくる。投げると同時に戦槌の影に隠れるようにして走り出していたのだ。腕を振るったばかりの神羅はすぐには動けない。

 

 「どっっっっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 

 雄たけびを上げながらシアは軽く跳躍して、神羅の顔面に向かってドロップキックを繰り出す。

 大岩なんて軽く粉砕するような一撃が顔面に直撃するが、爆音が轟くだけで、神羅自身はびくともしない。そして今度こそシアの足を掴み上げると、勢いよく放り投げる。

 シアはすぐに体勢を整えると、そのまま油断なく神羅を見つめる。

 神羅はそのまましばらくシアを見つめていたが、ふう、と小さく息を吐くと、

 

 「まあ、これぐらいでいいだろう……これで最後の調整は終了だ」

 

 神羅はそう言いながら構えを解くと、シアも大きく息をつきながら構えを解く。

 

 「はい、ありがとうございます!」

 

 神羅に対し、大きく頭を下げながら感謝するシアをユエは面白くなさそうに見ていた。だが、文句など言えるはずもない。シアはすでに自分に勝利しているのだから。

 元々、シアはこの数日の訓練でユエから一本を取れそうになるほど成長していた。だが、それでもあと一歩届かないはずだった。だが、神羅が加わったことで、それが一気に逆転した。

 神羅の訓練は異次元の強さを持つ神羅と模擬戦をするとか言う無茶ぶりではない。神羅は何もせず、ひたすらこちらが攻撃を撃ち込み、時々投げるなどの反撃が飛ぶと言う一見すると簡単そうなものだが、ユエはそう言うやつには本気の一撃をお見舞いする気だ。

 何せ、一切の手ごたえがないのだ。どれほど強力な一撃を撃ち込もうと、奇襲をかけようと、一切、何のダメージも与えられない。防御もほぼしない、何か特別な能力すら使わない。文字通り肉体のみで受け止めきる。それが何よりも辛いのだ。こっちが必死に攻撃しても神羅は表情すら変えない。どれほど考えを巡らせ、工夫して攻撃しようと意味がない。それが延々続いてくると、肉体ではなく精神が文字通り削り取られていく。自分のやっていることに意味はあるのかとか、自分は何をしているのかとか、自分の行いが急激に虚しくなってきたりする。現に自分は初日の時に4時間ほどでそうなり、ハジメから死んだ魚のような目をしていると言われてしまった。もっとも、ハジメも似たような感じになっていたが。

 その点、シアはたった一日程度だったが、一切目から光を失わずに戦い続けたのだ。精神力という点においてはすでにユエを上回っているかもしれない。そして、ただひたすら相手に打撃を打ち込み続ける神羅との訓練はシアとの相性が良かった。

 実際、神羅との訓練後、シアの動きは劇的に改善され、結果として自分は思いっきり一撃を貰ってしまったのだから。

 

 「それじゃあそろそろ行くか」

 「ん」

 「はいです!」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神羅達がハジメの元に戻ってきたとき、ハジメは近くの木にもたれて瞑想していた。

 3人の気配に気づいたハジメは目を開けて3人を視界に納める。

 

 「お、戻ってきたか……シアは大丈夫だったか?兄貴から訓練を受けていたって聞いたけど……」

 

 ハジメも同じ訓練を受けた経験がある。もれなく死んだ魚になっていた。

 

 「はい、大丈夫でしたよ!」

 「そうか……で、どうだったんだ?」

 「……神羅にはもう言ったけど、魔法の適正はハジメと同じぐらい。だけど身体強化に特化している。最大強化時でハジメの半分ぐらい。しかも鍛錬次第ではもっと上がる」

 「おお……マジかよ……」

 「……でも、神羅の足元にも及ばない」

 「それは……まあ、しょうがねえよ。比べる相手が悪すぎる」

 

 ユエの言葉にハジメが顔を引きつらせていると、シアがいそいそと立ち上がり、真剣な表情でハジメのもとへ歩み寄った。背筋を伸ばし、青みがかった白髪をなびかせ、ウサミミをピンッと立てる。緊張に体が震え、表情が強ばるが、不退転の意志を瞳に宿し、一歩一歩、前に進む。そして、訝しむハジメの眼前にやって来るとしっかり視線を合わせて想いを告げた。

 

 「ハジメさん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

 「……は?いやいやいや、いきなり何を言ってるんだ?なんでそんなことになった?カムたちはどうするんだ?まさか連れて行けなんて……」

 「いえ、違います。これは私だけの話です。父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど……その……」

 「その? なんだ?」

 

 何やら急にモジモジし始めるシア。指先をツンツンしながら頬を染めて上目遣いでハジメをチラチラと見る。あざとい。実にあざとい仕草だ。ハジメは首を傾げながらシアを見る。ユエがイラついたような表情を浮かべ、神羅は呆れたようにため息を吐く。

 

 「その……私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって……」

 「は?何でそんな……今なら一族の迷惑にもならないだろ?それだけの実力があれば大抵の敵はどうとでもなるだろうし。でも、俺達の旅はそれ以上の連中とやり合うんだぞ?」

 「で、ですからぁ、それは、そのぉ……」

 「……」

 

 訝し気にハジメが首を傾げていると、シアが女は度胸! と言わんばかりに声を張り上げた。思いの丈を乗せて。

 

 「ハジメさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!」

 「……は?」

 

 言っちゃった、そして噛んじゃった! と、あわあわしているシアを前に、ハジメは鳩が豆鉄砲でも食ったようにポカンとしている。そしてようやく自分が告白されたことに気づくと、思わずと言った様子で問いかける。

 

 「いやいやいや、どう言う事だ?一体いつフラグなんて立った?俺……最初の方結構ひどい扱いしてたぞ?それなのになんでそうなるんだ?それだったらまだ兄貴に惚れたってほうが説得力……」

 「いやいやいや、神羅さんに好意を抱くなんて……ああ、いや、魅力的じゃないって意味じゃないですよ?むしろすごいかっこいいと思います。ですが何というか……そう言う感情を抱くことが恐れ多いと言いますか……」

 「ああ、まあ、分かると言えば分かるけど……だからってなんで俺に……状況に引っ張られていないか?」

 「状況が全く関係ないとは言いません。窮地を何度も救われて、同じ体質で……長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし……その時のハジメさんは本当にかっこよかったですし……そこからは一気にです。一気に好きになってしまったんです。もうこの人以外考えられないぐらいに」

 「いや、でも……知ってるだろうが、俺にはすでにユエって言う恋人がいるんだぞ?」

 「知ってます。それでもです。それに、この世界では重婚が認められてるんですよ?だったら十分可能性があります」

 「は?いや本当に何言ってるんだ?俺たちの目的は地球に帰る事だ。俺の故郷じゃ一夫一妻だからどう頑張っても……」

 「でも、帰れるって事は、自由にこちらと地球を行き来できる可能性も高いですよね?だったらこっちで現地妻もありじゃないですか?」

 

 シアの言葉にハジメは目を見開き、唸る。どうやらシアはどうあってもハジメと共にいたいらしい。思わずハジメは神羅とユエに助けを求めるように目を向ける。

 だが、ユエは憎々しげな顔をしながらも何も言わず、神羅は腕を組んで顎をしゃくる。自分で答えを出せと言うように。恐らくだが、すでに二人ともシアの同行をある程度認めているのだろう。

 ハジメははあ、と小さくため息を吐くと、シアの目をしっかりと見据えて、一言一言確かめるように言葉を紡ぐ。

 

 「付いて来たって応えてはやれないぞ?」

 「知らないんですか? 未来は幾らでも変えられるんですよ?」

 「危険だらけの旅だ。化け物でもあっさりと死んじまうかもしれない」

 「だったら化け物を超えるだけです」

 「仮に俺の故郷にたどり着いても、今よりもずっと暮らしづらいかもしれないぞ?家族にももう会えないかもしれない」

 「父さまたちとはすでに話をつけています。それでも、です」

 「…………」

 「……ハジメさん、お願いします。私も連れて行ってください………」

 

 ハジメとシアは静かに見つめ合うが、その内、ハジメは深いため息を漏らしながら額に手を当てる。

 

 「あ~~~ったく……分かったよ。好きにしろ」

 

 その言葉にシアは歓声を上げ、ユエは不満げに顔をしかめ、神羅は苦笑と共にユエの頭を撫でながらシアを見つめる。

 

 (やはり………あいつに似ているな……ああいう所は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ボス、お題の魔物を討伐してきました」

 

 そこに不意に声が割り込んできて、ついでにそれがひどく聞き覚えのある声だったのでシアはん?と首を傾げて顔を向けると、そこには案の定、カムがいた。他の家族も一緒だ。だが、その雰囲気が明らかに変わっていて、言葉を失う。

 

 「あ、あの……父さま?なんだか……雰囲気が……それにみんなも……」

 「ああ、ご苦労さん……既定の数よりも少し多いような……」

 

 ハジメの課した訓練卒業の課題は上位の魔物を一チーム一体狩ってくることだ。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位は大体十体分ぐらいだろうか?

 

 「ええ。血の匂いに引き寄せられたのか他にも現れまして……襲い掛かってきたのを撃退した分ですね」

 「ある程度倒したら引いていきました。こちらの損害は無しです」

 「あの……ハジメさん?これは……?」

 「あ~~~まあ、この樹海で生き抜くためには今までの性格じゃちょっとな……それでちょいと性格矯正を……」

 「ちょいとで性格矯正ってなんですか!?しかもこんな短時間で!あなた父さまたちに何をしたんですか!?」

 「ふむ……一応大丈夫そうだな」

 

 そこに神羅が顎に手を当てながら歩いてくる。そしてその姿を見た瞬間、ハウリア族は一斉に耳をピン!と立てると一斉にその場に跪き。

 

 「「「「「王よ!お待ちしておりました!」」」」」

 

 突然の発言に神羅は思わず目を丸くし、ハジメたちもビクッ!と体を震わせる。

 

 「お、おう?いきなりなんだ?なぜ急に?」

 「以前はお見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした!あなた様がいなければ、我々は外道に墜ちていました。それでは胸を張って家族を守ることもできなかった。ですが貴方がそれを止めてくれた。そして貴方が我々を導いてくださった。そして、あの全てをひれ伏させるあの圧、そして気高き魂。それを見て、我々は確信したのです。貴方こそ真の王だと!」

 

 神羅は何度か瞬きをした後、すっとハジメに目を向けるが、ハジメはブルブルと首を横に振る。自分は関係ないと言うように。シアはカムたちの変わりようにあうあうと言葉を失っていたが、それと同時に何か感じ入るところもあるのか表情を目まぐるしく変えて百面相を浮かべている。

 

 「さっきハジメの事をボスと呼んでいなかったか?」

 「ああ、あれは何と言いますか……名残ですかね……もちろん、ボスには感謝しておりますし、慕っております。ですが、わが身をささげるなら王を望みます」

 

 たった一回の邂逅でえらい祀り上げられてしまった……神羅は小さく困ったように唸る。隣でユエが流石神羅……と呟いている。

 

 「そうか……それで?我を王として、どうするつもりだ?」

 「はっ!出来得るならば、王の部下としていただきたく!」

 「いや、それってつまり……我らの旅についてくるつもりか?」

 

 その言葉にシアがえーーーー!?と抗議の声を上げる。声もあげたくなるだろう。必死に家族を説得して、一緒について行くために努力したのに、こうなったら努力が水の泡だ。

 

 「あ、いえ。我々は樹海に残ります。あっさりと故郷を捨てるような軟弱者、王は許さないでしょう?」

 「まあ、それはそうだが……」

 「自分たちが未だ力不足というのは承知しています。ですから今しばらくはここで力をつけます。そして、十分力をつけた時、あなたの部下として、戦わせていただきたく」

 

 カムの言葉に神羅はううむ、と小さく唸りながら頭を掻く。これはどうしたものだろうか……と悩んでいると、ハジメに視線を向け、うん、と頷き。

 

 「そういうのはまあ、別に構わんが、あいにくと我はそう言うのを取り仕切るのは苦手でな。だからこの数日間お前たちの面倒を見ていたハジメに指示を仰ぐようにしてくれ」

 

 その言葉にハジメははい!?と目を見開いて愕然とした表情を浮かべる。

 

 「それは……王がそうおっしゃるのであれば、異論はありません」

 

 待て待て待て待て待て!とハジメが慌てて抗議の声をあげる。

 

 「兄貴!いくらなんでもそれは……!」

 「そもそもの発端はお前のやりすぎだろうが。ちゃんと責任はとれ」

 「いや、そうだけどさ!だからってこれは幾らなんでも……!」

 「別にこいつらを指揮しろなんて言うわけではない。ただこうしろああしろと言うだけでいいだろう」

 「だけど………」

 

 ハジメがなおも声をあげようとした瞬間、霧の中からハウリア族の少年が現れて神羅を見ると、すぐにその前に来て、その場に跪く。

 

 「王よ!報告と上申したいことがあります! 発言の許可を!」

 「あ、いや……まあ、報告は聞こう。ただし、嘆願とかはハジメに頼む」

 「そうですか?では……課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」

 「これは……どう言う事だと思う?ハジメ」

 「え?あ、そうだな………恐らく、目的を目の前にして叩き潰そうって腹か。なかなかどうして、いい性格してる……で?」

 「はっ! 宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」

 「う~~ん、どうするカム?」

 

 話を振られたカムは決然とした表情で顔を上げる。

 

 「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか……試してみたく思います」

 「そうか……なら……お前たちの力を、新生ハウリアの覚悟を存分に発揮し、連中に目にものを見せてやれ!」」

 

 その言葉にハウリア族ははっ!と一度首を垂れると、即座に散会していく。

 その様子を見送った後、ハジメははっ!とするが、もう遅い。

 

 「普通に指揮してる時点でもうお前がやったほうがいいのではないか?」

 「あ、いや、でも……」

 

 ハジメはぐぬぬぬ、とうなり声をあげるが、少しして、諦めたようにため息を吐く。

 

 「恨むからな……兄貴……」

 「悪いな。しばらくお前の好きなおかずを作る」

 

 子ども扱いすんな、とハジメはふん、と鼻を鳴らす。

 

 「……あの、神羅さん……」

 「言っておくが、あれでもだいぶマシだ。我が見た時は何というか……分かりやすく言えば奇声を上げながら殺しをするような集団一歩手前だったのだ」

 「え、えぇ………!?あ、あの……まさかそれ……ハジメさんの……?」

 

 神羅が頷くとシアはうあぁぁぁ、と頭を抱えてしまう。その肩をユエがポンポンと叩く。




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