ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 いよいよ2巻も佳境です。

 ではどうぞ!


第33話 人間の意地

 口の中にたまった血を吐き出しながらハジメはドンナーとシュラークを手に取り、軽く構造を確認する。アザンチウムを使ったおかげか、動作に問題はなさそうだった。そうしている間にユエとシアが合流してくる。それを確認してから即座にリロードを終えながらハジメはミレディを睨みながら、内心で確信する。

 ミレディ・ライセンは強者だ。自分達よりも遥か上に君臨する。

 これまで、ハジメの中には自分たちは人としては最強(・・・・・・・)と言う自負があった。怪獣と言う別格の存在にはいまだ敵わないが、魔物であろうと人間であろうと自分達に敵う者はいない。例え神が立ちふさがろうと、自分達ならば勝てると、何の根拠も無しに思っていた。それだけの力も、それに見合う厳しい鍛錬もこなしてきたと思っていた。

 それら全てをミレディは完全に叩き折りにきた。築き上げた力を真正面からねじ伏せ、初めて見るであろう武器にすらあっという間に対処し、天才すら真っ向から踏み潰し、未熟者を容赦なく未熟と切り捨てる。

 これが解放者……神代にて神に抗い、怪獣とすらやり合った人間……!

 ハジメ達がミレディを睨みつける中、彼女は気にしたそぶりもなく口を開く。

 

 「うさ耳ちゃんは……いい線行ってると思うよ。身体強化かな?凄い出力だね。ラー君に匹敵するかも。気迫も見事。恋する乙女は強しだね~~。だけど、さっき言ったけど、あまりにも技術が追い付いてなさすぎ。私の見立てだと……戦い始めてまだ一か月も経ってないんじゃない?力を御しきれてないよ。無駄に力が流れていっちゃってる。でもセンスは十分だから、今後にこうご期待だね」

 

 ミレディの言葉にシアはあ、うぅ、とうめき声を漏らす。ミレディの見立ては的確だったからだ。確かに自分は身体強化の威力を持て余し気味かもしれないが……ここまではっきり言われると……

 

 「金髪ちゃんは、さっきも言ったけど、すごい魔法の才能だね。間違いなく、それはこの天才美少女魔法使いのミレディちゃんを超えてる。太鼓判を押すよ。君は誰にも到達できない領域に到達できる。だけど………それは常に知識を蓄え、論理を構築し、実行して、精査し続ければの話。君、かなり長い期間魔法を使ってなかったでしょ?もっと実力があるはずなのに、キレの悪さが目立ったよ。訓練は一日さぼると取り戻すのに結構時間かかるよ~~?」

 

 ミレディの言葉にユエは大きく目を見開く。確かにユエは300年間封印を施され、その間魔法を一切使っていない。だが、その後は迷宮での戦い、ハジメや神羅、シアとの訓練でかなりの魔法を使い、自分ではかなりカンが戻ったと思っていた。だが、ミレディから見れば未だ無駄があると言う事なのだろうか……

 

 「まあ、それだけじゃなく、魔法を既存の魔法でしか使っていないってのもダメだね。迷宮内じゃ工夫はしてたけど、まだまだ。魔法はもっと自由なものさ。折角君の周りにはいろんな経験を積んだ人がいるんだ。その人からいろんな事を聞いて、魔法以外の知識も蓄えるといいかもね。ま、そのためには魔法の基礎を盤石にしないと無理だけど……」

 

 そこまで言ってミレディはハジメに目を向ける。

 

 「最後に君、神羅君の弟さん。君は……うん、力も技術も、度胸も一番ある。だけど、まだまだ粗削り。君も戦い始めてそんなに時間経ってないでしょ?それに、どんなに殺意を放っても、根柢の人の好さが滲んでる。ああ、ここは問題ないよ。満点。むしろ消しちゃダメ。それは君にとって無くしてはならない大切な物だよ」

 「そんな事……言われなくても分かってる……!」

 「それはよかった。あと、そのアーティファクトもまだまだね。それ、威力や命中精度は大したものだけど、真っ直ぐしか飛ばない、殺傷力しかないってのは減点。これならそのアーティファクトの向き、アーティファクトを動かすための動きに目を光らせておけば避けるのは結構簡単。自分で逸らしてもいいしね。

 あと、一番致命的なのは6回使ったらもう一度使えるように攻撃の元となるものを補充しないといけない所だね。極力その隙を無くすように努力してるけど、それでも一瞬隙が生まれる。その隙があれば、さっきみたいに簡単に対処されちゃう。使い続けるならその動きをフォローする何かが必要だね」

 

 あっさりと銃の構造を理解し、そしてその欠点をつらつらと語るミレディにハジメは悔しさを隠せなかった。銃はまさにこの世界ではオーバーテクノロジーだ。恐らくだが、その構造を解析できるものはほぼいないと思う。だと言うのに、ミレディはあっさりとその欠点を見出した。構造の全てを理解しているとは思わないが、それでもその概要に関しては完全に把握していると言っていいだろう。

 その視線に気づいたのかミレディはふふん、と得意げに口元を緩める。

 

 「オー君は稀代の練成師だったからね。彼の作品を間近で見て、使っていたら自然とそう言う目は鍛えられるよ。私たちの生命線でもあったしね。君も大した練成の腕だけど、オー君には及ばない。君もまだまだ未熟だ。精進したまえ」

 

 ひらひらと告げられる言葉にハジメは顔をしかめる。反論なぞ出来なかった。今こうして自分たちは地に伏せている。未だにミレディにかすり傷の一つも負わせられていない。

 だが、それでも、まだ動く。まだ戦える。ハジメは大きく息を吐くと立ち上がり、ドンナーとシュラークを構える。それに合わせるかのようにユエとシアも立ち上がり、臨戦態勢を取る。

 その様を見て、ミレディはうん、と嬉しそうに微笑む。

 

 「みんな本当、良い魂の持ち主だね。真っ直ぐで、眩しくて………君たちならば、きっと大丈夫だね……」

 

 そこまで言ってミレディはパン、と手を叩く。

 

 「それじゃあ、これから最終試練を始めるよ」

 

 その言葉にハジメたちはぽかん、とした表情を浮かべる。

 

 「最終試練って……何……?」

 「そのまんまだよ。これから私が繰り出す攻撃を無事に防ぎきれたら試練は合格。私の神代魔法、重力魔法、そして獣級試練突破の特典もちゃんと渡す」

 「な……っ!?ふざけるな!何を勝手に勝ったつもりになってんだ!俺たちはまだ負けてねぇ!」

 

 ハジメが戦意を滾らせながら吠え、それに応じるようにユエとシアもミレディを睨みつけるが、

 

 「そう言うけど、私としては十分合格なんだよね。少なくとも強靭な意志を持ってるし、あのクズ野郎の一軍とも戦えるようになる素質はある。うん、十分すぎるよ。何の比喩でもなく」

 「舐めてんのか………!」

 「……舐めてないよ。舐めるわけがないじゃん」

 

 そう言ったミレディの目を見て、ハジメ達は言葉を失う。

 その目には様々な感情が宿っていた。自分たちの何かを受け継いでくれる者が現れ、希望をつなぐことができた事に対する喜び。自分たちの時間は無駄ではなかった、その事実に対する万感の思い。希望をつないだ者に全てを押し付けなければならない申し訳なさ。自分の無力さへの怒り。他にも様々な感情が入り混じり、だが自分達へ向けられるその目には確かな優しさがあった。

 

 「君たちは本当にすごいよ。君たちは確かにまだ未熟。でも、未熟な状態でここまで私と戦えるんだから本当にすごい。私たちが同じぐらいの時は、そこまではいけなかった。間違いなく、君たちは私達よりも強くなれる。でもね、奴らはそれを真っ向からねじ伏せる。どれほど強くても、どれ程強靭でも、それを真上から容赦なく蹂躙する。それが怪獣。そんな意志をふざけた手を使って踏みにじる。それがクソ神。君たちの意思は強靭だ。でもまだ足りない。だからこれが私がもたらす最後の試練。君たちを真っ向から踏みにじる特大の一撃をぶち込む。それを踏み越えてみな。結局、最後は真っ向からぶつかり合うしかないからね」

 「「「………」」」

 「さあ、見せててみな、君たちの全てを。人間の諦めの悪さを、人間の底力を、その意志を……!」

 

 ミレディが腕を広げながら言う。その様を見てハジメたちは何も言えない。ミレディはふざけてはいたし、自分達を舐めたような態度だったが、それでも戦闘では手を抜いてはいなかった。それは事実だ。ミレディはハジメ達と戦い、その実力を認めたうえで最後の試練と言った。ならばそれは舐めているのではない。胸を貸しているのだ。神と、怪獣と戦った先達者として。

 ハジメ達はじっとミレディを見つめる。本当は分かっている。今の自分達ではミレディには決して敵わない。それでも足掻けば勝てる、なんて願望を抱いて挑もうとした。神羅がいなくても、自分たちは最強だと。でもそれに意味はない。最強なんてちゃっちな称号に拘っても意味はない。示さなければならないのは純粋な力と見栄っ張りでもこだわりでもない、自分たちの意思その物。

 ハジメは悔し気に拳を握り、奥歯を噛み締めながらミレディを睨み、

 

 「……分かった。今回は潔く負けを認める。だが、次はこうはいかないぞ。必ず勝つ……!」

 

 ハジメの言葉に同意するようにユエとシアも頷いてミレディを睨みつける。その視線を、心地いいと言わんばかりにミレディは薄く微笑む。

 

 「うん、楽しみにしてるよ。それじゃあ……行くよ」

 

 そう言った瞬間、ミレディの全身から蒼穹の魔力が吹き上がり、周囲を染め上げる。その空から次々と生み出されるのは無数の惑星。

 それはまさに空が顕現したかのような光景だった。青く染められた空の中心にはその眩いばかりの輝きで自らを太陽と化したミレディ。そしてその周囲を数百はある天球が展開される。

 全員がその光景に言葉を無くし、特にユエは愕然とした表情を浮かべていた。それが何なのかユエには分かった。分かってしまった。それは最上級魔法、蒼天、天灼、神威、この三つをそれぞれ何発分も圧縮して生み出されたものであること。それ一つだけでもハジメを消し炭にできるであろう破壊の星々。もはやそれは人と言う領域を超越している……!

 

 「万天……」

 

 ミレディが片手をあげながら口を開いた瞬間、ハジメが吠える。

 

 「ユエ、シア!やるぞ!!」

 

 その言葉に二人ははっとするとすぐさま構える。

 

 「星墜とし」

 

 その瞬間、破壊の流星群が一気にハジメたち目掛けて降り注ぐ。

 ハジメが即座にドンナーとシュラークを乱射して魔法の核を撃ち抜き、破壊するが、その物量は圧倒的だ。破壊しても後続が次々と牙を剥く。ハジメ一人では抗いきれる量ではない。

 

 「蒼天!」

 

 ユエが即座に蒼い火球を連続で生み出し、魔弾にぶつけて相殺するが、

 

 「くっ……!」

 

 やはり一発一発の威力がけた違いすぎる。一発を相殺するのに何発も必要になる。絶対的に手が足りない。

 

 「舐めんなぁ!!」

 「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 ハジメがドンナーとシュラークを猛スピードで乱射、しかしその狙いは正確で、次々と魔弾を無力化し、シアが文字通りの剛腕で柄を伸ばしたドリュッケンを振るい、魔弾を撃墜し、退けようとする。

 それを見たミレディは目を細めると、指を持ち上げ、それを振り下ろす。

 すると、更に魔弾が生み出され、まさしく豪雨のように降り注ぐ。

 それはまさしくハジメたちの神業を真っ向から押しつぶす絶対的な物量攻撃。

 それを目の当たりにしてハジメは一瞬息を呑むが瞬時に視線を鋭くし、瞬光を発動、爆発的に上昇した知覚能力を総動員して死の豪雨を連射で迎撃していく。諦めない。諦めるわけにはいかない。決めたのだ。兄と共に戦うと。必ず両親の元に帰ると。それをこんなところで、躓いていられるわけがない!

 ユエとシアも同様だ。ユエは魔晶石シリーズの魔力を惜しみなく使って最上級魔法を連発し、魔弾を迎撃していく。あまりにも圧倒的。あまりにも違いすぎる差にもはや嫉妬すら覚えない。だが、それがどうした。その程度、ハジメと共にいるためならば、たかだが数千年分の差、踏み越えてやる!

 シアもドリュッケンを全力で振り回し、魔弾を弾き飛ばす。何度も何度も規格外の破壊力を持つ魔弾の衝撃に手が痺れてきた。ともすればドリュッケンを取りこぼしそうになる。だがそれでも、ここまで来たのだ。他の二人に比べればちゃっちなものかもしれないが、それでも譲れないのだ。諦めたくないのだ。ここが正念場、今踏ん張らなくて何時踏ん張る!

 そして次第に魔弾の豪雨の威力が衰えていき、いける、と思った瞬間、ハジメは気付いた。いいや、全員が気付いてしまった。

 ミレディの周囲から膨大な魔力が放出され、ミレディに集約していく。それはミレディから放たれているのではない。文字通りミレディの周囲から輝くほどの魔力が集まっているのだ。

 そしてその魔力はミレディに集約し、それは起きる。魔弾の弾幕がさらに過密となりハジメたちを飲み込まんとする。

 

 「こい……つ……!?」

 「ここ……で……さらに……!?」

 「冗談………ですよね……!?」

 

 絶望的な状況にハジメたちは目を見開くがそれでも手を止めはしない。その瞬間自分たちの死が確定するからだ。だが、このままでも間違いなく自分たちは呑み込まれる。

 いや、恐らくその前に神羅が割って入ってきてくれるだろう。だが、それはあまりにも情けなさすぎる。大見え切って、これぐらい乗り越えられないようでは、共に戦う事なんてできない。

 ハジメは瞬光で強化された思考能力で必死に打開策を模索する。

 

 (どうする!?このままちまちまやってたんじゃジリ貧だ!こいつをどうにかするには………必要なのは………一点突破……そうだ。あれを突破するには、怪獣(・・)に届かせるにはちまちまやってても意味がない!やるならこちらの最大、最高火力を相手にぶち込む事!それならあれが……いいや、全然足りない!間違いなく途中で潰される!どうする……どうする……………だったら、それを超える一撃をぶっぱなすだけだ!!)

 

 その結論に至った瞬間、ハジメはユエとシアに念話を飛ばす。

 

 (二人とも、少しだけお前達だけで迎撃してくれるか!?)

 (それって……何とかする方法があるって事?)

 (ああ!でも正直言って、それが成功するかどうかは分からない。下手したら中途半端な形で終わりかねない……だがそれでも、あれを突破するにはこれしかない!)

 (………了解です、ハジメさん!いくらだって時間を稼いでやりますとも!)

 (先に言われるとは……情けない。私も大丈夫。ハジメは自分の事だけに集中して!)

 (……ああ、任せろ!)

 

 瞬間、ハジメはドンナーとシュラークを仕舞い、代わりに宝物庫から取り出したのは全長二メートル半程の縦長の大筒だった。外部には幾つものゴツゴツした機械が取り付けられており、中には直径二十センチはある漆黒の杭が装填されている。下方は四本の頑丈そうなアームがつけられている。

 ハジメが迎撃から外れた結果、その弾幕はその脅威を増大させる。ユエとシアが賢明に迎撃しているが、明らかに押され始めている。

 押し切られるのは時間の問題だ。ハジメは即座に動く。練成で外側のアームを外し、さらに内部の機構に手を加える。これは圧縮錬成により、四トン分の質量を直径二十センチ長さ一・二メートルの杭に圧縮し、表面をアザンチウム鉱石でコーティングした世界最高重量かつ硬度の杭を大筒の上方に設置した大量の圧縮燃焼粉と電磁加速で射出する、いわゆるパイルバンカーなのだが、ハジメは杭を取り出すと外側のアームをも杭に圧縮練成で外付けし、更に重量を増大させる。

 即席の改造がを終えるとハジメは自分のもう一つの切り札、限界突破も使用。全ステータスが3倍に跳ね上がり、その巨大な砲身を片手で支えられるようになる。左腕を差し込んで固定、更に魔力を流し込み、砲身が赤いスパークを放ち、内部の杭が猛然と回転をし始める。だがまだだ。まだ足りない。

 

 (もっと……もっとだ……!俺の全てをここに………!)

 

 その魔力の大半を纏雷に注ぎ込み、莫大な雷撃を纏い、全てをパイルバンカーに、その杭に溜め込ませる。膨大な赤雷が集約し、パイルバンカー全体が赤く染まっていき周囲が熱せられたかのようにじりじりとしてくる。だが、

 

 (だめだ、足りない。全く持って足りない!この程度じゃ意味がない!もっと、もっと、もっと、もっと………限界の更に向こう側に……!!!)

 

 そうしている間にもユエとシアは星落としを迎撃していたが、

 

 (っ………魔力が………足りない………!)

 

 ユエは悔しげに歯噛みをする。そう、絶対的に魔力が足りない。いくらユエが現在進行形でミレディの魔法を見て、学び、その威力を、魔力消費量を最適化させ、その才能をいかんなく発揮していこうと、魔晶石があろうと、その魔力量には限りがある。対しミレディは外部から悠々と魔力を集め、魔法を繰り出している。絶対的なまでのアドバンテージの差にユエは奥歯を噛み締める。このままではそう遠くないうちにユエの魔力は完全に尽きる。そうなれば……

 

 (いいや!何を弱気になっている!ハジメは私を信じて託してくれた!それに答えられないでどうする!やりぬけ!自分の体を盾にしてでも!)

 

 ユエは一瞬弱気になったことを振り切るように首を振り、次々と蒼天を撃ち込み、魔弾を迎撃していく。だが、それでも現実は容赦なく牙を剥く。

 

 (ほじゅ……!?)

 

 魔力がつきかけ、魔晶石から魔力を補充しようとした瞬間、一瞬意識がブラックアウトする。

 魔力が付きかければ全身を全力疾走したかのような倦怠感が襲い、息も荒れる。その後に魔力を補充し、再び魔力枯渇寸前まで最上級魔法を連続で行使する。そんな無理をし続けたせいで、体が追い付かなくなったのだ。

 それは一瞬。数秒もせずに意識を取り戻すが、致命的だった。大量の魔弾が迫ってくる。極限まで加速された思考の中でユエは必死に試案する。どうする。どうすればいい。魔法を放つ?魔力がない。補充してから迎撃?間に合わない。回避する?ハジメとシアがやられる………!

 もちろん、そうなれば神羅が助けに来るだろう。そう考えた瞬間、ユエの心が囁く。もうそれでいいじゃないか。もう相手はこっちを認めたのだ。あとは神羅に任せればいい。ハジメも手を考えてくれているが、神羅に任せれば確実だ。神羅さえいれば……

 

 「ぬおどりゃぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 喉が潰れんばかりに雄たけびが轟き、ユエの甘えに割り込んだシアがドリュッケンを振りぬき、魔弾を吹き飛ばす。

 その光景を見た瞬間、ユエはぎりっ、と奥歯をかみ砕かんばかりに噛み締める。

 何をしている。何を寝ぼけた事を言っている!シアが、ハジメがまだ諦めていないのに、何で自分はあっさりと諦めている!こんな、こんな神羅と言う強大な存在に縋りついてばかりの弱っちい存在がミレディを超える?ふざけるな!食らいつけ、泣きつけ、味方ではなく敵に縋り付け!絶対に諦めるな!!

 ユエは魔力を補充するとその思考を更に研ぎ澄まし、魔法を徹底的に最適化させ、蒼天を流星のように連続で撃ち込み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シアは雄たけびを上げながらドリュッケンを魔弾に真っ向から激突させる。だが、先ほどまでならば弾き返せたそれを今度は弾き返せず、一瞬押し返されかける。

 シアは奥歯を噛み締めて踏ん張る。その余波で地面がひび割れるがそのまま渾身の力でドリュッケンを振りぬき、今度こそ魔弾を弾き返す。それでも休んでいる暇はない。すぐさま新しい一群が襲い掛かる。

 あまりにも圧倒的な物量。本当ならミレディに一発ぶち込むために突貫でもしたいのだが、そんな暇はない。ユエの援護があってもそんな事は許されない。一瞬でも気を抜けばこちらが潰される。シアは更にドリュッケンを振るい、魔弾を迎撃するが、その振りは明らかに威力が下がっている。

 いかにシアがずば抜けた身体強化を持っていると言えども、もうすでに何十発もの圧縮最上級魔法を正面から弾き飛ばしているのだ。すでに限界を迎えていた。全身に鉛が纏わりついているかのように重く、両手はほとんど感覚が無くなってきている。息は荒いのに全く酸素を取り込めていない、意識までもうろうとし始めている。

 だが、血が出るほどに唇を噛んで意識を保たせ、感覚のない手に力を込めてドリュッケンを握りなおし、

 

 「だぁぁぁぁぁりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 雄たけびを上げながら魔弾を迎撃する。

 ユエは魔力が尽きたのか迎撃に参加しておらず、ハジメからの合図もまだだ。ならば自分がやるしかない。出来るかできないかではない。やらなければならないのだ!愛する人を、友人を守るために!

 シアが再びドリュッケンで魔弾を迎撃しようとした瞬間、手から激痛が走り、その痛みに一瞬力が緩む。その瞬間魔弾がドリュッケンに直撃し、逆にドリュッケンを弾き飛ばす。

 その光景にシアが目を見開いた瞬間、弾幕が牙を剥く。ハジメたちを灰燼に帰そうと文字通り豪雨となって襲い掛かる。その光景を見て、視界の端で神羅が動くのが見える。

 その瞬間、シアは血に濡れた手に更に力を籠めて柄を握りしめる。激痛が走ろうが関係ない。弾き飛ばされたドリュッケンの勢いを強引に殺し、急制動をかける。負荷がかかった両腕からみきみきと言う音が聞こえるが知ったことか!

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 雄たけびを上げながらドリュッケンを振りなおし、魔弾を弾き飛ばす。更に次弾が襲い掛かるのを迎撃せんとした瞬間、

 

 「蒼天!」

 

 背後から声が響き、青白い火球が連続で放たれ、魔弾を迎撃する。

 それによって僅かな隙が生まれ、その隙にシアは息を整え、再びドリュッケンを振るう。それを援護するように蒼天が放たれる。

 ひたすらに魔法と魔法、戦槌が激突する。まだか、まだか、まだか、まだか……

 瞬間、ユエとシアの背後から莫大な魔力が吹き上がる。

 

 「悪い、待たせたな……」

 

 その声に二人が振り返れば、ハジメがその身から膨大極まりない赤い雷光を纏いながらパイルバンカーを流星群に向けられて立っている。その魔力は先ほどまでの限界突破の時よりもさらに上であり、まるでミレディの蒼穹を飲み込まんとする深紅の輝きだ。

 限界突破、派生技能、覇潰。限界突破はステータスを3倍にはね上げるが、覇潰は5倍に膨れ上げる。その分反動もすさまじいが、今この時、目覚めたのは本当に僥倖だった。これならば………!

 ハジメは大きく息を吐きながらその身の魔力を制御する。すると、深紅の魔力と雷光が次第に収まりはじめ、それはゆっくりとパイルバンカーに集約されていく。限界突破の遥か向こうに手をかけたハジメの魔力の大半を注ぎ込んだ雷撃を宿したその砲身はもはや深紅に染まり切っており、バジバジと雷音を立て、しゅうしゅうと溶解するような音を立てる。仰し切れていない膨大な雷が周囲の空気を容赦なく熱する。

 そしてきっ、とハジメは流星群を睨みつけ、

 

 「喰らいやがれ」

 

 その声と共にユエとシアは退避し、ハジメは最後の引き金を引く。

 その瞬間、パイルバンカーの砲身は崩壊、その反動でハジメの身体は木っ端のように吹き飛ばされる。それから一拍遅れて空間を破砕するような轟音が轟き、それと共に放たれたのは莫大な雷撃を纏った一撃。深紅に染め上げられたそれはさながら天を貫く一撃。

 解放された一撃は周囲の空気をプラズマ化させながら突き進み、破壊の星々に突き刺さると、一方的にぶち破る。更に発射の余波の衝撃波と解放された雷撃はそのまま周囲の星に牙を剥き、容赦なく飲み込み、強引に引き裂いていく。

 そして、その時は訪れる。人間の一撃は破壊の流星群をぶち抜き、そのまま天井に到達。それは容赦なく天井を深々と貫き、瞬間、凄まじい轟音を轟かせ、赤い雷撃が蹂躙し、大規模な崩落を起こし、膨大な量の瓦礫が降り注ごうとするが、

 

 「させんよ」

 

 その声が響いた瞬間、瓦礫に向かって青白い熱線が放たれ、次々と瓦礫を吹き飛ばしていく。更に天井付近に巨大な黒い重力球が出現し、瓦礫を次々と飲み込んでいくが、流石に全ては無理なのか、残った瓦礫が周囲を襲い、凄まじい地響きが起こり、土煙が立ち込める。

 その土煙が次の瞬間、一瞬で吹き飛ばされる。そこにいたのは吹き飛んだハジメを後ろから受け止めた神羅だ。その周囲にはユエとシアもいる。いつの間に回収したようだ。

 

 「っ……兄貴………」

 

 ハジメはぜひゅぜひゅと苦し気に息を荒げながら激しく血を吐く。その身体は酷い有様だ。全身から血を流し、折れた骨が飛び出てしまっている。左腕の義手に至ってはほぼ全壊の状態であり、使い物にならないだろう。もしも覇潰を使っていなければ、反動で全身が粉々になっていたかもしれない。

 ユエとシアも酷い有様だ。ユエは傷こそないが、顔は病弱なほど白いどころではなく、土気色になっている。呼吸がうまくいってないのかこひゅー、こひゅー、と苦し気に息をしようと喘いでいる。シアの両手も血まみれになっており、全身に力が入らないのかその場に崩れ落ちており、ピクリとも動けないでいる。

 その3人を見やって神羅は小さく頷き、

 

 「よく頑張ったな、3人とも」

 

 そう言って神羅は3人の頭を撫で、視線をミレディに向ける。崩壊を回避したミレディもまたゼェハァ、と青白い顔で荒い息を吐いているが、その視線を受けると、満面の笑みで親指を立て、

 

 「見せてもらったよ、君たちの意地を。文句なしの合格だ」




 告知しておきます。次回、ほんのりゴジモス要素を入れますので。
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