それで、今回はタイトル通り……です。オリジナルですが、そこはご容赦ください。
「そう言えばなんですけど、一ついいですか?神羅さん」
「ん?なんだ?」
ライセン大迷宮から帰還してはや数日。ハジメ達はブルックの町の郊外で重力魔法、そのほかの鍛錬中にシアが思い出したように声を上げ、重力魔法の練習をしていた神羅が目を向ける。
ちょうど昨日の事、神羅は供を買って出たユエと共にミレディの元に向かい、獣級試練に挑んだ。
その当時の事をハジメとシアがユエに聞いたところ、あまりにも圧倒的で、そして一瞬の出来事だったらしい。
勝負は一瞬。ミレディは周囲から膨大な魔力を集め、ハジメ達のように無数の魔弾を生み出したのではなく、その全てを凝縮、還元して一つの魔法を発動させた。
それは最上級魔法すら超越した極限の魔法。その熱量は蒼天すら容易く焼き尽くし、その熱波だけでブロックを融解させる。神羅を以てして、もしも直撃したなら、無傷では済まないと言わしめた白き太陽。ミレディ・ライセンオリジナルの炎系最強魔法、白陽。
それを見た時、ユエは言葉を失った。それは今のユエでは到底到達できない、天才と言う言葉が虚しく思えるほどの一撃。ああ、自分は本当に、何も知らなかった。小さな水たまりしか知らない分際で世界を知った気になった矮小な存在。
そして白陽が神羅目掛けて放たれるが、神羅はその一撃を真っ向から迎え撃つ。変異し、自身の最大の攻撃、熱線を叩きこんだのだ。青白い熱線と白い太陽はそのまま真っ向からぶつかり合い、だがそれは拮抗すらしなかった。青白い熱線は白陽を粉砕し、そのまま天井に到達し、崩壊させてしまう。
どうやら、神羅は全開で挑むために魔壊を発動させた熱線を使ったようだ。
こうして目の当たりにして、ユエは魔壊の凄まじさを改めて痛感した。それはもはや魔法使い……いいや、魔力を使う者に対して特攻、等と言う生ぬるい物ではない。使われれば最後、あらゆる防御を破り、どれ程凄まじい力を持っていようと強制的に無力化させる絶対の矛に絶対の盾。この世界の強者はみな強大な魔力を持つ。それは逆に言えば、魔力が強さの要と言う事だ。要を強制的に無力化される。これほど恐ろしい物はない。肉体にも作用するのかどうかは不明だが、もしも作用したら………
ミレディはあはは、反則過ぎでしょ、と乾いた笑みを浮かべていたが、その表情はどこか晴れやかだった。
そして正式に試練の突破を認められた神羅はそのまま重力魔法、攻略の褒美を受け取り、そのまま帰還してきたのだ。
話を戻し、シアは神羅を見つめながら口を開く。
「神羅さんとモスラさんって、どう言う風に出会ったんですか?」
その問いに神羅はん?と首を傾げる。
「どう言う風に……と言うのは?」
「いえ……ふと思ったんですが、神羅さんの前世のゴジラってモスラさんとは全く縁も所縁もない生物だったんですよね?」
「まあ、そうだが……」
「普通に考えたら……言い方は悪いですけど、互いに恋に落ちるわけないじゃないですか。全く共通点がない、姿形も種族すら違う存在同士ですから。それが恋に落ちたと言う事は、そうなるだけの何かがあったって事なのかなぁって思って……」
「それは……「それは俺も気になってたなぁ」「……私も」お前たちもか……」
シアの話題に食いついたのかアーティファクトを製造していたハジメとミレディから渡された魔術書を読んでいたユエが歩いてくる。
「兄貴は一応、同種同士で子を成す存在だったんだろ?それが色々あったとはいえ、雌として惹かれたのが同種じゃなくて異種の存在であるモスラって言うのは……それに見合う何かがあったんじゃないかってユエとも話してたんだ」
「……でも、神羅の大切な思い出だろうから、あまり積極的に聞こうとはしなかった……すごく興味はあったけど」
それをシアは普通に飛び越えたのだが……恐るべきはシアの行動力か、それともデリカシーの無さか。
「むう……なるほどな……まあ、伏せたい過去という訳でもない。話してほしいなら話すぞ?」
その言葉にユエとシアは目を輝かせながらぜひ!と身を乗り出し、ハジメは苦笑しながら悪い、と手を合わせている。女子が恋バナが好きなのは異世界でも変わらないらしい。
「まあ、と言っても面白いかどうかは分からんがな………」
そう前置きして、神羅は目を細めながら語り始める。王と女王の始まりの話を………
始まりはいつだったか。少なくとも、まだ自分が頂点に立てるほど強くなく、未熟な時だった。
その日の夜中。ゴジラはゆっくりと新たな縄張りの中を見回っていた。主を下し、新たに収めた縄張りと言うのは得てして不安定だ。その場所を新たに自分の物にしようとする輩が外部から襲い掛かるだけならまだいい。中には不安定な隙にそこにしれっと居着き、繁殖をして自分の物にしてしまうやつもいる。今ならその程度見逃すが、当時はそう言ったことは認めることはできなかった。我ながら浅はかと言わざるを得ないが、そうしていた。
今とは比べ物にならないぐらいの星空と大きな月を眺めながらゴジラは進んでいた。そのたびにその領域に住まう生物達は慌てて逃げ出していく。それが当たり前だった。誰も自分には近寄らない。近寄るのは自分を害する敵のみ。あまりにも強すぎたため、同族からも恐れられた。いつもゴジラは孤独に過ごしていた。それになにか感じることもなかったが。
そんな時、不意に頭上の月明かりを何かが遮った。それに気づいたゴジラは唸りながら顔を上げる。空からの襲撃者と言うのは珍しくなかった。またそう言う輩だと思い、先制しようとしたのだ。
だが、彼女の姿を目にした瞬間、そんな考えは吹き飛んだ。当時はまだよくわからなかったが、今なら言える。自分は彼女の美しさに見惚れたのだ。
月下の下広げられた翅には複雑な模様が描かれ、それはほんのりと青白く輝いている。それは月明かりと相まってあまりにも幻想的だった。身体は翅に比べてかなり小さく、6本の足を持っていた。
モスラは静かに羽ばたきながら空を自由に飛んでいた。翅が羽ばたくたびに光の粒子が舞い踊る。
しばし見惚れていたゴジラだったが、すぐにハッとなると、威嚇の咆哮を上げる。相手が何であれ、恐らく敵だ。そう、敵なのだ。自分以外の全ては敵。それがゴジラの世界だった。だからこいつも……
だが、咆哮でこちらに顔を向けたモスラはしばし彼を見つめていると、不意に歌を歌い始めた。最初はそれが威嚇だとゴジラは思ったが、すぐに敵意がない事に気づき、困惑した。美しく、優しい、慈愛に満ちた歌。それは朗々と夜空に響いていく。
そして歌い終わった後、モスラは少しの間ゴジラを見つめていたが、そのまま踵を返すように空を飛んでいく。
その背を、ゴジラはただ茫然と見つめ続けた。一体何だったのだあいつは。一体どうして……
しばし考えたが、分からないとゴジラはその事を考えるのをやめ、再び巡回を始めた。
だが、それだけで終わりではなかった。モスラは夜ごとにゴジラの縄張りを訪れるようになったのだ。そのたびに歌を歌いながら空を飛んでいた。
ゴジラは最初、それを訝しんでいたが、自分に害するつもりがないと分かると、そのまま放置するようになった。
……いいや、それだけではないだろう。以前の自分なら、きっと容赦なく攻撃して追い払ったりしただろう。だが、どういう訳か彼女にはそう言う事をする気が起きなかった。ただ漠然と、彼女が空を飛ぶのを、歌うのを見逃していた。
そんな日々をただ漠然と、しかし、どこか悪い気も起きずに過ごしていた時だった。縄張りの中で静かに微睡んでいると、近くで羽ばたく音が聞こえてきた。
ゆっくりと意識を浮上させて顔を上げれば、そこにはモスラが地面に降り立ってこちらを見つめていた。
ゴジラが唸りながらモスラを睨みつけるも、モスラは怯える様子も、敵意を見せる様子もなくじっとこちらを見つめていた。
ゴジラが本格的に訝しんでいると、モスラはゆっくりと近づいてきて、問いかける。
「……ねえ、あなたは誰?」
「……なに?」
「あなたは誰って聞いてるの。あ、私は—――よ」
「……なんでそんな事を聞く。俺の事を知って何の意味がある」
「意味って………まあ、私が知りたかった、ぐらいしかないけど……」
モスラは困ったように首を傾げながら言う。ゴジラは威嚇するように唸るが、モスラは依然こちらに近づいてくる。
ゴジラは本格的に困惑した。どうしてこいつは自分を恐れない。どうしてこいつは自分に敵意を向けない。どうして自分の事を知ろうとする………
ゴジラはしばし唸り声を上げていたが、ついに息を吐きながら口を開く。
「俺は―――だ。これでいいか?」
「そう……ここら辺は貴方の縄張りなの?」
「そうだが……」
「だったら、貴方にお願いがあるのよ。この中に卵を産ませてもらえないかしら」
「………なに?」
突然の頼みにゴジラは意味が分からなくなった。
「私、もうすぐ卵を産まないといけないんだけど、今までの産卵場所の近くの主が変わって、不安定なのよ。だから卵を産めなくて……それで、この辺りで安全そうなあなたのところで卵を産ませてほしいなって……」
「なんでそんな事……俺には何の得もないだろうが……」
「まあ、そうなんだけど……貴方の邪魔はしないわ。それに、悪い事ばかりじゃないわよ。お礼と言ってはあれだけど、卵を産んでからは、貴方の暇つぶしの相手をしてあげるから」
「それに何の意味があるんだ……!」
「意味って………そうね………一人の寂しさがまぎれる……かしらね」
その言葉にゴジラは本格的に苛立ち、至近距離でモスラに向かって咆哮を上げる。だが、モスラはひるむ様子も見せずにゴジラを見つめる。
「寂しいって……俺が寂しがっているとでも言うのか……!」
「……ええ。そう思うわ」
「貴様………俺をコケにしているのか……!」
「だって……貴方は……私と同じだと思うから」
その言葉にゴジラは思わず動きを止める。その間にモスラは語る。自分はどういう経緯で生まれたかは分からない。だが、特異な能力を持っており、その結果か仲間や家族なんて全くいなかった。生まれた時から一人で過ごしていた。最初は寂しさはあまり感じなかった。でも、他の生物が家族や仲間と共に過ごしているのを見て、羨ましいと感じていた。でも、それは自分には手に入れられないものと、諦めていた。
そんな時だ。あの夜、自分を見つけた。一目でわかった。自分と同じだと。普通の存在よりも強大な力を持ち、それ故に孤独に生きなければならない。そんな存在だと。
勝手な仲間意識と言うのは分かっている。だがそれでも、そう思った。だから何度も自分の元を訪れた。ほんの少しでも寂しさを癒したくて、癒してあげたくて。
でも次第にもっともっと、と望むようになり、そして今日、こうして話しかけてきたのだ。
「身勝手って言うのはまあ、そうね。自覚してる。でも、貴方もそうだと思ったって言うのは本当」
「何を勝手に……」
「だって、本当に嫌なら、私を攻撃すればよかった。追い払えばよかった………そうでしょう?」
その言葉にゴジラは何も言えなかった。そうだ。本当に邪魔だったのなら、とっとと追い払えばよかった。今まで通りに。でも、それはできなかった。しようともしなかった。なぜ?なぜそうしなかった?いつも通りの事をどうして……
ゴジラは何も言えず押し黙った。モスラは何も言わず、急かす様子もなくただ黙ってゴジラを穏やかに見つめていた。
その顔を見て、ゴジラはもうどうでもよくなった。考えた所で正解が見えてくるとは思えない。いつまでも無体な考えを巡らすだけ。無駄な労力を割くだけ。ならばもっと簡単に現状を考えよう。自分はこいつといて、いやな気分ではない。少なくとも追い払おうと考えない時点ならば……まあいいだろう。卵を守るのも、縄張りを巡るついでで事足りる。
「………分かった。卵を守ればいいだけならば、引き受けてやろう」
「……ありがとう」
それからはゴジラとモスラは共に過ごすようになった。モスラは基本ゴジラのそばを飛び、一緒に縄張りを巡回した。そしてその間、彼女は多くの事をゴジラに教えた。今のゴジラを形作る物の一部は彼女から与えられたと言っていい。時には共に戦ったりもした。まあ、彼女が勝手に自分の援護をしていただけだったのだが、それでも助かったことに変わりはない。
そしてそんな日々は確かに、ゴジラにとって安らぎだった。彼女と同じ時を過ごし、自分は以前とは比べ物にならないぐらい穏やかになれたと思う。
だが、そんな日々にも終わりはやってくる。彼女が卵を産み落として少し経った後、戦いの中で彼女が大きな傷を負ったのだ。
どうにか相手を殺すことはできたが、彼女はもう自力では飛べないほどの傷を負った。ゴジラはそんなモスラを抱えながら帰還し、寝床に横たえる。
モスラは小さく体を揺らしてゴジラに顔を向ける。
「あはは……ごめん。失敗した……」
「何をやってるんだ…………知っていたはずだ。あの程度、俺一人でどうとでもなったことは分かったはずだ」
「ええ、そうね………でも、見過ごすなんて、出来なかった……」
見る見るうちに弱っていくモスラを見て、ゴジラは感じた事のない感情に襲われ、彼女の体を鼻先で静かに押す。どうしようもないほどに心が乱れ、今までにないほどの恐怖に苛まれる。やめろ。やめろ。やめろ、やめろやめろやめろやめろ……!まだ死ぬな……まだ生きてくれ……!俺を置いて行かないでくれ……!
治るよな、大丈夫だよな、と聞けなかった。ゴジラとて、モスラの傷がもう治らない、致命傷だと言うのは分かっているから。だと言うのに、感情はそれを認めようとしない。認めたくないと叫んでいる。
ゴジラが今までにないほどに不安げに目を揺らしながらモスラの体を押していると、モスラはゆっくりと鎌を持ち上げてゴジラの鼻先を撫でる。
「ありがとう……私のために不安を感じてくれて……でも、しょうがないのよ。命は必ずいつか終わりを迎える。その時が来ただけ……卵を産んだ後でよかった……」
「……」
ゴジラは安堵した様子のモスラを見て、若干のいら立ちを感じる。自分はこんなにも心乱れているのに、こいつはなんでこんなにも平然としている。こいつにとって、自分は卵を守ればいいだけの存在なのか……
そう考えたところで、ゴジラは気付いた。鎌が次第に、撫でるだけにとどまらず、縋りつくように体に回されている事に。
「お前……」
「………嘘。本当は私だって、まだ死にたくない。離れたくない……もっと……もっとあなたと一緒にいたい……!」
吐き出すように紡がれる言葉にゴジラは何も言わず、目を細める。そして、
「………約束する」
「え?」
「お前の卵は俺の命に代えても必ず守りぬく。お前の血を……お前の子孫は俺が護り続ける。何があっても絶やさせはしない……」
「………ありがとう……でも、ごめんね……面倒な事任せちゃって……」
「大丈夫……俺はもう……大丈夫だ……だから………もう休め………」
うん、またね……と小さく頷いた瞬間、モスラの鎌は力を失ったように垂れ下がり、そのまま目から光が消えてしまう。
完全に息絶えたモスラをゴジラは静かに見つめるが、少しすると、彼女の体を持ち上げ、そのまま巣の外に運び出すと、自分は巣の奥に進んでいく。そこには彼女の卵が安置されている。
ゴジラは卵を静かに見つめると、その場で大きく咆哮を上げる。悲しみを振り払うかのように。そして新たに決意を固めるように。
それからゴジラは付きっ切りで卵を守るようになった。縄張りの巡回以外では常に卵の傍に居て、卵を守り続けた。どれほどで孵化するのか分からないが、構わない。何人たりとも卵には触れさせない。多分だが、この時、ゴジラは初めて何かを守ると言う事をしたのだろう。
そしてようやく、その時が訪れる。いつも通り卵の傍で眠っていたら、ふいに卵が蠢きだしたのだ。
それに気づいたゴジラは即座に起き上がり、卵を見守っていると、ついに孵化が始まる。
卵を破り、身をよじりながら赤子は外に現れた。その身が完全に外にさらされるまで、ゴジラは心配そうに見守っていた。
そしてようやくその身を全てさらけ出した時、ゴジラは安堵できた。正直に言って、かなり気が気じゃなかった。
幼虫は周囲を見渡した後、ゴジラに視線を固定する。
その時にゴジラはこの子に何と言えばいいか分からなかった。彼女の母親は死んでしまった。自分の力不足で。守り続けると約束したが、それを、母親を守り切れなかった自分と共にあることをこの子が許してくれるか……
そんな事を考えていると、
「久しぶり、―――。ようやく…………また会えたわね」
「………………………は?」
「と、まあ、そんな感じで我と出会ってからの初めての転生は無事に終わったんだ……全く転生の事を黙っていやがって……生まれたばかりなのに名前を言い当てられた時は本当に驚いたぞ」
神羅は当時の事を思い出しているのか若干苛立ったように憮然とした表情を浮かべているが、ふとハジメたちはと視線を向けると、ユエとシアは頬を赤くしてぽ~~~、としており、ハジメはなるほど、と小さく頷いていた。
「なるほどな……そう言う事があったのか……やっぱりと言うべきか、最初の頃は仲良しじゃなかったんだな」
「まあ、な。それが共に過ごしているうちに……口にするとちゃっちくなるが、大切な存在になっていった、と言うやつだ。お前やユエのようにな」
そう言われて、ハジメはむう、と呻きながら恥ずかしさを隠すようにそっぽを向く。
「凄く……素敵……こうやって改めて聞くと………本当に素敵なお話……」
「ですねぇ……すっごくときめいてしまいました……」
一方女子二人は頬を赤くして目を潤ませて余韻に浸っていた。
「女子はどこであろうとそう言う話が好きなのだな」
「恋バナが嫌いな女子はいませんよぉ~~特にこんな運命的な話はもう………」
シアが運命、と口にした瞬間、神羅はどこか不服そうに口をへの字に曲げた。
「……神羅、どうしたの?」
それに気づいたユエが首を傾げると、神羅はポリポリと頭を掻き、
「いや、何……個人的な事だが……我は我の人生に運命を使われるのが気に食わないだけだ」
「え?どうしてですか?」
「だってそうであろう?今までの自分の行動は決められていた?我の幸せも、不幸も、我よりも上の奴が与えた物?いいや違う。これまでの我の生は決して誰かに決められたものではない。我が自分で選んできたものだ。それがどんな結末になろうと、たとえそれで身を切られるほどの悲しみに襲われようと、苦痛を味わおうと、それは我の責任……」
そこまで言って、神羅ははっきりと、胸を張って言う。
「今まで生きてきた時間、その中で味わった幸福も、笑顔も、苦難も、悲しみも、全ての出会いも、別れも、それは全て、運命や神とか言う他人の物じゃない。全て俺が選んできた物。俺が生きてきた時間全てが誰でもない、俺自身が勝ち取ってきた、俺だけの物だ……!」
その瞬間、ハジメ達はぞわりと肌が泡立つほどの圧を感じ、大きく息を呑む。
そこまで言って神羅は一転して小さく苦笑を浮かべ、
「まあ、そうは言うが、結局は運命とかそういうものを認めたくないと言う我が儘なのだがな。それと、誤解のないように言っておくが、我は自分の人生を運命の一言で片づけたくないだけで、他人の運命自体を否定するつもりはないからな……さて、そろそろ帰ろう。いい時間だしな」
神羅がそう言うと、ハジメ達はお、おおと小さく同意する。神羅はそのままブルックの町に向かって歩いていく。
だがハジメたちはすぐに動くことはできず、呆然とその後姿を見つめていた。
「………すごかった……さっきの神羅………」
「はい………何というか……今までで一番大きく見えたと言うか……」
「………俺、どうして兄貴が地球の王になれたのか、分かったような気がする……」
その言葉に、ユエとシアはすぐに同意する。
それは力があるからとか、そう言う生まれだからとか、そんな小さな理由ではない。
彼は自分の人生を本当に全力で、振り返らず、後悔せず、その全てを糧にして生きているのだ。普通なら忘れたくなるような、何かと理由をつけて正当化したくなるような過去も、彼はそのまま受け入れ、自分の物だと迷いなく断言する。だからこそその目は真っ直ぐに今を見据え、その足に迷いはない。その佇まいは全てを圧倒する王たりえる。異種族であろうと、彼を王と認める。
これこそが………
「………はは、全く……何というか……胃が痛くなるな。あんな凄い人が兄弟とか………」
「……ハジメ……」
「と言っても、卑屈になる気も、腐る気すら起きないんだよな……凄過ぎるって言うか………本当とんでもないよな……もう少し踏ん張るとしますか……!」
そう言ってハジメは頬を叩いて神羅の後を追いかける。その距離はさほど離れていないはずなのに、その背中はあまりにもでかすぎる。追いかけること自体不遜な気もする。でも、それでも、追いかけさせてもらう。追いつけないとしても、この命尽きるまで走り続けさせてもらおう。
ユエとシアもその様を静かに見つめていたが、一回空を仰ぎ見ると、大きく息を吐く。
「よし!あんなの見せられたら私もくじけていられません!一層精進しなければ!」
シアは更に気合が入ったかのようにむふー、と鼻息を荒くして歩き出す。
ユエはその姿を見て、元気だなぁ、と苦笑を浮かべた後、再び顔を上げ、
「………運命じゃない………全部自分の物………か………」
どこか哀愁漂う表情でそう呟くと、一回自分の手に視線を落とす。そして顔を上げれば、そこには遠ざかっていく三つの背中。その背中を見ていると、先ほどの話のせいもあってか、ある欲望が持ち上がる。
「………もう少し、欲張りになってもいいのかな………?」
そう自問するように漏らすが、少しすると、小さく苦笑を浮かべながら顔を上げ、ぱたぱたと3人を追いかけるように走り出す。
さて、ここからユエにちょいとした変化が表れます。本当ならそこも入れたかったんですが、長くなるので。またどこかで出せればと。