「……よし、完全に直ったな」
ブルックの町のマサカの宿の部屋の中で、ハジメは自分の左腕を動かしながら調子を確かめ、うん、と頷く。
ライセン大迷宮から戻ってそれなりの月日が経過していた。その間、ハジメは左腕と銃器の修復、銃弾の補充、新しいアーティファクトの作成、そして設計書を読み込み、ユエとシアと神羅は重力魔法の修練にあたっていた。
それで改めて判明したことなのだが、神羅の重力魔法への適正は文字通り桁外れだったらしい。ユエ、及びミレディ曰く、適性は自分たちをも上回っているとのこと。もしも極まれば、ミレディをも超えるかもしれないとのこと。もっとも、神羅自身はそう言った魔法関係の能力が低めなのでそこに至るのはいつになるのか……
そんな事を考えていると、扉を開けて神羅とユエとシアが入ってくる。
「おう、ハジメ。どうだ?調子は」
「兄貴……ああ、もう大丈夫だ。左も直ったし、アーティファクトの補充、修繕も完了、体もだいぶ慣れた」
「よし、それならば、そろそろ出発するとしよう」
神羅の言葉にユエとシアも同意するように頷く。
「それじゃあ、そうするか。早めに休んでおこうぜ」
「よし、それではそう言うわけで、二人とも部屋に戻れ」
神羅がそう言うと、シアはは~~い、と返事して部屋から出ていくが、ユエはじ~~~、と神羅を見つめる。
「ん?なんだ、ユエ」
「……神羅。最後ぐらい、ハジメと一緒に寝たい」
ユエの頼みに神羅はううむ、と呻きながら頭を掻き始める。
「あ~~~、それか……いやまあ、我も最後ぐらいはそうしてやりたいのはやまやまだが………」
「ず、ずるいですよユエさん!それだったら私がハジメさんと一緒に寝ますぅ!」
当然のごとく自らもと名乗り出たシアを指さしてため息を吐く神羅にユエはうっ、と呻く。
「どうしてもこうなってしまうからなぁ……宿に迷惑をかけるわけにはいくまい?」
「それは……そうだけど………でも、一回ぐらい………」
「それにだな………下手したらソーナ嬢がこちらの動きを察して覗きに来る可能性もあるぞ」
その言葉にユエはえぅ、と変な声を漏らす。
この宿屋の看板娘、ソーナ・マサカだが、チェックインした際のやり取りから何か変な勘違いをした彼女は夜な夜な神羅とハジメの部屋を覗き見ようとしていた。別に見られて困るようなことはないので放置していたらすぐに収まったのだが、あの少女、なぜだが異様に覗き込むことに全力で、ステルス技能が高いのだ。
初犯の時に軽く注意したら次は何故か壁に隠れ、それも注意すれば今度はベッドの裏に忍び込んできていた。
ハジメは流石にやりすぎだときつめの仕置きをしようとしたが、神羅のこういう手合いは過剰に反応すれば余計助長する、無視が一番であると言う言葉の元放っておいたら、想像してたことが一切起きない事に萎えたのか覗きはすぐに鎮静化していた。
覗かれるかもしれないと言う事にユエは考え込むが、ぶんぶんと頭を振ると、じっと神羅を見つめ、
「………それでも、お願い……」
「……なあ、兄貴。俺からも頼むよ。一日ぐらいはユエと一緒に寝たいんだが……」
ハジメとユエの言葉に神羅はう~~~む、とうなりながら腕を組む。
「神羅さ~~ん!いいじゃないですか!私も一緒でいいじゃないですか!」
シアがわぁわぁと叫んでいると、ユエがはあ、と深いため息をつき、
「シア。ミレディとの戦いで貴方は私を助けてくれた。貴方はすごい頑張ってる。ハジメと私、神羅のために……そんなあなたは嫌いじゃない」
「え、え?な、なんですかユエさん急に褒め出して……」
シアは顔を赤くしながら照れている。うさ耳もわっさわっさと動いている。
「でもそれとこれとは別。ハジメの恋人は絶対に譲らない。今日は私とハジメの日。黙って神羅と一緒に寝て」
「なんでですか!?今の流れは私の同衾にもOK出すところでは!?」
「そんな流れはない」
ユエとシアがぎゃあぎゃあと口論を始めると、神羅ははあ、と深くため息を吐き、
「まあ、確かに……流石にずっと、と言うのはあれか。ミレディとの戦いでも頑張ってたしな……分かった。ただし、周りの迷惑にならないようにしろよ?」
「……!ありがとう、神羅」
「悪いな、兄貴。いやでも、助かったわ。正直に言って、そろそろ我慢の限界だったんだよ」
「いや、俺の方も少々厳しくし過ぎたかもな。という訳でシア。お前は我と同じ部屋だ」
「え~~~!!そんなぁ………私の立場はどうなるんですか!神羅さんはユエさんの味方なんですか!」
「我慢しろ。そもそもこれはハジメの問題だ。ハジメがよしとしなければ意味があるまい」
「それは………そうですけど……わ、わ!分かりました!行きます!行きますから!」
神羅はシアの背中を押しやりながら部屋から出ていく。
それを見送ったハジメとユエは顔を見合わせると、
「それじゃあ……折角兄貴が整えてくれたし……とりあえずどうするか?」
「……決まってる……」
そう言ってユエは目を閉じて唇を突き出すように顔を上げる。
いつになく積極的な様子にハジメは苦笑しながら唇を重ねる。
「おや、今日は4人一緒かい?」
その次の日。ハジメ達がブルックの町の冒険者ギルドを訪れるとキャサリンが声をかけてくる。基本的にこのギルドを訪れるのは神羅とハジメ、ユエとシアの二人だったからだ。
ちなみにギルド内部の冒険者たちはハジメ達に目を向けると挨拶したりユエ達に見惚れたりとしている。
「ああ。明日にでも町を出るんで、あんたには色々世話になったし、一応挨拶をとな。ついでに、目的地関連で依頼があれば受けておこうと思ってな」
彼女はハジメが生成魔法でアーティファクトを作る際に部屋を融通したりしてくれたのだ。
「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」
「いや、すでにかなり賑やかになる要因しかなかったのに今までは違ったのか?」
「本当にな……どうなってんだよこの町は……宿屋はまだマシとして、服飾屋の漢女にユエとシアに踏まれたいとか言って町中で突然土下座してくる変態共にユエとシアをお姉さまとか連呼しながらストーキングする変態共に、何度も懲りずに決闘を申し込んでくる阿呆共といい……碌なヤツいねぇじゃねぇか」
神羅は若干呆れた様子で呟くとハジメも同意するように頷いて疲れたように言う。
「まぁまぁ、何だかんで活気があったのは事実さね」
「これを活気と言い張るのは少し無理があると思うのだが………」
「で、何処に行くんだい?」
「あ、ああ。行先はフューレンだ」
フューレンは中立商業都市で大迷宮の一つ、グリューエン大火山があるグリューエン大砂漠への中間点にある。神羅達はフューレンを経由してそのまま火山に挑み、そのまま海にある大迷宮、メルジーネ海底遺跡に向かう手はずだ。
「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが後一人分あるよ……どうだい? 受けるかい?」
キャサリンにより差し出された依頼書を受け取りハジメは内容を確認する。中規模な商隊のようで、十五人程の護衛を求めているらしい。神羅とユエとシアは冒険者登録をしていないので、ハジメの分でちょうどだ。
「連れを同伴するのはOKなのか?」
「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、神羅、ユエちゃん、シアちゃんも結構な実力者だ。一人分の料金でもう三人優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」
「そうか、ん~、どうすっかな?俺としては断ることもないんだけど……たまにはのんびりしてもいいと思うし」
ライセン大迷宮を攻略後はアーティファクトの開発、補充、重力魔法の鍛錬など、なんだかんだで忙しく、ゆっくりする暇はなかった。折角だし、こういう依頼でガス抜きをするのも悪くないかもしれない。
「……急ぐ旅じゃない。いいと思う」
「そうですねぇ~、たまには他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」
「それが役立つかどうかはまあ別として、我も異論はない。急いては事を仕損じるともいうしな」
「よし、それじゃあ受けるとするか」
「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」
「うむ」
ハジメが依頼書を受け取るのを確認すると後ろのユエとシアに目を向ける。
「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ? この子に泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」
「……ん、お世話になった。ありがとう」
「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」
「あんたも、こんないい子達泣かせんじゃないよ?」
「ああ、そんなの分かってるよ……忠告ありがとう」
「あんたも。前にそう言う相手はいるって言ってたけど、いい加減迎えに行きな。女を待たせるなんて男として最低だよ?」
「………言い返すこともできんが……必ず迎えに行く、としか言えんなぁ」
ポリポリと神羅が気まずそうに頭を掻いていると、キャサリンが一通の手紙を差し出し、ハジメは首を傾げながらもそれを受け取る。
「これは?」
「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」
「……本当にお前は何者なのだ……?」
「おっと、余計な詮索は無しだよ?いい女に秘密は付きものさ」
「……分かった、そうすることにしよう」
「素直でよろしい! 色々あるだろうけど、死なないようにね」
キャサリンの愛嬌ある笑顔に見送られて神羅達はギルドを出ていく。
その後、一応世話になったと言う事でハジメがいやがっていたがクリスタベルのところに向かい、最後と言う事で
ブルックの町の正面門にやって来たハジメ達を迎えたのは商隊のまとめ役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。彼らはやって来たハジメ達を見て一斉にざわつく
「お、おい、まさか残りの四人ってスマ・ラヴなのか!?」
「マジかよ! 嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」
ちなみにスマ・ラヴとはブルックの町でユエとシアを手に入れようと暴挙に出てユエが襲撃者の股間をスマッシュして強制漢女、では外堀をとハジメと神羅に決闘を吹っかけてハジメの手で秒殺。それらの功績でつけられた通り名、スマッシュ・ラヴァーズの略称だ。神羅?襲撃者に殺気を飛ばして気絶させていたのだが、ハジメとユエの所業の方が派手なので隠れがちだった。
「君達が最後の護衛かね?」
「ああ、これが依頼書だ」
ハジメが懐から取り出した依頼書を見せるとそれを確認したまとめ役の男は納得したように頷く。
「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」
「……時々思うのだがこの世界、実は頻繁に地球とつながっているのではないか?」
思わずと言うように神羅がぼやくとハジメは小さく顔を引きつらせる。
「……何と言うか、否定……しきれない………まあ期待は裏切らないと思うぞ?俺はハジメでこっちは兄貴の神羅。こっちはユエとシア」
「それは頼もしいな……ところで、この兎人族……売るつもりはないかね? それなりの値段を付けさせてもらうが」
モットーの視線が値踏みするようにシアを見る。その視線にシアは嫌そうに呻き、そそくさとハジメの背後に隠れる。
「ほぉ、随分と懐かれていますな…中々、大事にされているようだ。ならば、私の方もそれなりに勉強させてもらいますが、いかがです?」
「……なるほど。あんたは相当やり手の商人なんだろう。だったら分かってるはずだ。例え神が要求しようと手放しはしない。奪おうとするなら叩き潰す。そう言う事だ」
「…………えぇ、それはもう。仕方ありませんな。ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」
「……それじゃあ、ハジメ。確認してきて。一応ハジメが受けた依頼だから」
「ああ、分かった。それじゃあ行ってくるな」
ユエに促され、ハジメは冒険者の方に向かう。その場に残った神羅の隣でシアがピコピコとうさ耳を動かしていた。その顔は嬉しさに緩んでいる。
「どうした?」
「あ、いえ。ただ嬉しいだけですよぉ~~」
まあ、確かに。惚れた男から神にも渡さないと言われれば嬉しさもひとしおだろう。ハジメが確認に動いたからここにいるが、もしも残っていれば抱き着くぐらいはしただろう。
しかしだ。神羅がちらりとユエに視線を向ければ、彼女はうん、と小さくうまくいったと言うように頷いている。シアの道のりは明らかに険しい。何せ最近、明らかにユエの独占欲が強まってきている。少し前まではシアがハジメにくっつこうとしても、過剰でない限り、見逃していた。だが、ここ最近はまたそう言うのを見逃さなくなってきた。一応、普段の対応からシアを嫌ってはいないようだが……
モスラとの事を話してからそうなったが、それが彼女の何かを刺激してしまったらしい。
小さくため息を吐きながら神羅は空を見上げる。
神羅の適正が高い理由は、重力魔法の真髄が関係しています。重力魔法の真髄は星のエネルギーの制御。ゴジラの前世のエネルギーは地球のエネルギー……ね?