ではどうぞ!
11/13 調整
ブルックの町から中立商業都市フューレンまでは馬車で約六日の距離である。
日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。それを繰り返すこと三日目。神羅達はフューレンまで三日のところまで来ていた。そしてその日も野営の準備に入ったのだが、そこには妙な光景が広がっていた。
「……それで、後は塩胡椒で軽く味を調えれば完成だ」
焚火を前にガチャガチャとフライパンを操りながら料理工程を口にしながら料理をする神羅。その周りではユエとシア、更に何人かの冒険者がその言葉に耳を傾けながら見様見真似と言った様子で同様にフライパンを振って料理に勤しんでいた。
その手際は神羅に比べたらかなりつたないが、それでもよくあるメシマズにはならないであろう手際だ。
事の発端は初日の事だ。冒険者達の食事関係は基本自腹であり、そして基本任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからなのだ。
だが、宝物庫を持つ神羅達には関係なく、初日に他の冒険者が干し肉やカンパンのような携帯食をもそもそ食べている横で、宝物庫から食器と材料を取り出し、料理を始めると、いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられ、ハジメ達が熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には、全冒険者が涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になった。当然おすそ分けはない。
その視線に耐えかねたシアがお裾分けを提案したのだが、それに待ったをかけたのは神羅だった。
神羅とて鬼ではない。もしも冒険者たちが何らかの理由で食料を紛失した、もしくは持ってくるのを忘れたとか、そう言う事情であれば食料を分け与えるのに異論はないが、そうでないなら話は別だ。食料を持っているのに集ろうとすれば、自分たちの食料だけが一方的に減る。自分たちでしっかりと食料を用意し、しかもそれを失っていないとなれば分け与える義理はない。自分たちの食べる分があるのに美味そうと言うだけで他人の食料を分けてもらおうなどと言うのはムシが良すぎる、と。
そう言うとシアは何も言えなかった。何せド直球の正論だからだ。冒険者たちもその言葉に何も言い返せず、そのままお裾分けは無くなったのだが、それでも隣でうまい料理を食べていられるとどうしたって視線が釘付けになる。
それが丸一日続いた。そうなってくると最初は無視していたハジメとユエも流石に落ち着かなくなってきて、しかし結局食料を分けるのもあれだしでハジメたちは悩んだ。
その結果、ハジメ達が導き出した結果がこれだ。まず、ハジメが何の効果も付与されていない普通の調理器具一式を製作、それらと料理の材料を作る気概がある者達に配布、後は神羅が彼らの前で焚火を使ってわざわざ調理工程を口にしながら料理を行う。
つまる所、器具、材料は貸してやる、調理工程も教える。あとは自分たちで作れ、と言う事だ。これが神羅が出した妥協点だった。
これに冒険者連中は食いついた。出来たものをそのまま食べられないのは残念だが、うまい物は食える事に変わりないし、料理なんて簡単にできるだろうと言う考えもあっての事だ。
もっとも、料理なんてほとんどやったことのない面子は初日は期待を裏切らずに焦げ付いた物を大量生産、しかもそれを神羅は捨てることは許さず、自分たちでしっかりと処理させた。
もっともその甲斐あってか次の日からは冒険者たちは慢心を捨てて真剣に料理に打ち込んだので、まあ、良い方向に向かったとみていいだろう。以前から神羅の元で料理の練習をしているユエやシアにはいまだ及ばないが。
「……ハジメ、どう?」
ユエはおずおずとハジメに問いかける。ここ最近はユエの腕前も上がってきており、ハジメの分の料理はもっぱら彼女が担当するようになっていた。もっとも、新しい料理に挑む際は失敗して神羅が代わりに出すし、純粋にハジメが神羅の料理を欲するときもあるが。
「ああ、うまいよ。どんどん腕が上がってるな、ユエ」
「……ん。神羅に鍛えられてるから」
ハジメの答えにユエはフンス、と胸を張って答える。その様子を見て慌てたのは当然ながらシアだった。
「は、ハジメさん!私も!私もうまくできたんですよ!ささ、どうぞどうぞ!」
「お、おいちょっと待て!まだ食べてる途中だろうが!いくら何でもそのまま追加は……!」
ハジメとユエとシアがわぁわぁと騒いでいるが、その様子をほかの冒険者の男たちは「頼むから爆発して下さい!!」と言わんばかりに見ている。更にその様子を呆れたように神羅は見つめながら自分の分をぱくりと口に運ぶ。
それから二日。残す道程があと一日に迫った頃、遂に襲撃者が現れた。
最初にそれに気がついたのはシアだ。街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。
「敵襲です! 数は百以上! 森の中から来ます!」
その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。
「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか?ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」
護衛隊のリーダーであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。相手は百以上、こちらで戦えるものは20人にも満たない。強さはともかく物量は完敗だ。これでは商隊に被害が出てしまうだろう。
ガリティマが、いっそ隊の大部分を足止めにして商隊だけでも逃がそうかと考え始めた時、ハジメが声を上げる。
「迷ってんなら、俺らが殺ろうか?」
「えっ?」
「だから、俺たちの方で相手する、って言ってるんだよ。どうする?」
「い、いや、それは……えっと、出来るのか? このあたりに出現する魔物はそれほど強いわけではないが、数が……」
「数なんて問題ない。すぐ終わらせる。ユエがな」
ハジメがユエの肩を叩けば、彼女も小さく頷く。
ガリティマはその提案に少し逡巡する。このままでは商隊を無傷で守り切るのは難しい。だが、ユエは稀代の魔法使いと聞いている。しかも彼女の仲間たちはみな、ユエならそれぐらいできるだろう、と言わんばかりに信じている様子。ならば、ユエの魔法で大部分を減らし、残りを自分たちで相手をする。それが一番堅実な作戦だと思われる。
「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。みな、わかったな!」
「「「「了解!」」」」
その号令を合図に冒険者たちは商隊の前に陣取る様に隊列を組む。その手際はさすがはベテラン冒険者と言ったところか。すでに全員が戦士の顔をしている。
「では、頼むぞ、ユエ」
「ん」
神羅の言葉にユエは頷き、静かに詠唱を始める。事前に神羅から詠唱を考えておいたほうが後々の面倒を省けると言われていたので、事前に考えてある。
「天より落ちよ、黒金の星。万物を呑み込み、弾けて潰し、食らいつくし、空を染め上げし衝撃を持って、わが敵を蹂躙しつくせ、雷渦」
魔法名を唱えた直後、森から現れた魔物の群れの頭上目掛けて、空の暗雲から黒い星が生まれた。それはバチバチと雷光をほとばしらせながらゆっくりと降りていく。
すると、魔物たちはまるで黒い星に吸い寄せられるように宙に浮き、そのまま星の周囲を衛星のように回り始める。まるで逃れようとするかのように魔物たちはバタバタと手足をばたつかせるが、抵抗もできず、空中に縛り付けられる。
そして星から漏れる雷光が一際激しく距離となった瞬間、弾ける。
瞬間、空気をつんざくような凄まじい轟音と共に周囲の魔物たちを押しつぶし、突如として放射状に広がった雷が視界を真っ白に染め上げる。その轟雷に飲み込まれた魔物たちは一匹も逃れることはできず、一切の慈悲なく、滅却されていく。その一撃ですべての魔物は消滅し、残ったのは広がった雷撃で広範囲が焼かれた大地だけだ。
その様子を冒険者たちは茫然と見つめていた。
「……ん、少しやりすぎた」
「おいおい、あんな魔法、俺も知らないんだが……」
「ユエさんのオリジナルでしょうが……私も初めて見ましたよ。ユエさんが開発してたのとは少し違うような……」
「俺がギルドにこもっている間にそんなこと……」
「む?ユエ、雷竜とやらはどうした?確か嬉々として開発しようとしていたが………」
神羅の問いにユエは口をへの字に曲げる。
「……諸事情により封印した。代わりに開発したのがあれ」
最初、ユエはハジメから聞いた竜の話を聞き、それと重力魔法を組み合わせて、雷竜と言う魔法を開発した。うん、そこまではいい。そこまではよかったのだ。無事開発も成功した。
だが、なぜかその雷竜、どう言うわけか三つ首になってしまうのだ。
これにはユエも困惑した。おかしい。自分は一つ首になるように開発したハズ。なんで三つ首に?その後何度か修正しようとしたのだが、どうしても三つ首になってしまう。
どう言う事だろう、とユエが首を傾げていたが、ある時、不意に気付いた。あれ?これ………神羅の宿敵じゃね?
三つ首の竜、雷。神羅から聞いた特徴と合致する部分がすごく多い。
そんな事を考えていると、様子を見に来た神羅が雷竜を見て呟いたのだ。おお、何だか奴を思い出させる魔法だな、と。
そこに嫌味も何もなく、本当に純粋に、思わずぽろっとこぼれた感想だったのだろう。だからこそ、ユエは確信した。これは奴だ。どうしたって奴だ。自分の魔法は陣が必要ない代わりにイメージが重要だ。恐らく、神羅の話のイメージ、そして自分も常にそいつを警戒していたせいで、無意識のうちに組み込んでしまったのだろう。
そう考えた瞬間、ユエは雷竜を使うのがすごく居心地悪くなった。将来の義兄の宿敵を模造とはいえ使う、と言うのはユエ個人として気分が悪かった。
なので急遽新たな魔法を開発した。それが雷渦。
雷槌と言う空に暗雲を創り極大の雷を降らせるという上級魔法と重力魔法の複合魔法である。雷槌の雷全てを重力球の内部に圧縮。そして重力球が放つ重力場で敵を重力球周辺に集め、そして集めきったらその全てを開放する。重力場は敵を押しつぶし、圧縮された雷は通常よりも遥かに威力と範囲を増して全てを蹂躙する。
急ごしらえだったが、中々いい出来だったとユエは思う。
そんな事を言っていると、いち早く正気に戻ったガリティマが盛大に溜息を吐きながらハジメ達のもとへやって来た。
「はぁ、まずは礼を言う。ユエちゃんのおかげで被害ゼロで切り抜けることが出来た」
「今は仕事仲間だ。飯はおごってやれてないし、道中のもほとんど任せてたんだ。これぐらいは……な?」
実際、ここまでの道中、魔物が襲ってきたのだが、その対応は他の冒険者に任せていた。だからこそ、神羅もユエが殲滅することに何も言わなかったのだろう。
「……ん、仕事しただけ」
「はは、そうか……で、だ。さっきのは何だ?」
「……オリジナル」
「オ、オリジナル? 自分で創った魔法ってことか?上級魔法、いや、もしかしたら最上級を?」
「……それは秘密」
「ッ……それは、まぁ、そうだろうな。切り札のタネを簡単に明かす冒険者などいないしな……」
どうやら切り札と思われてるらしい。ユエが目指しているのがこれが低級魔法レベルと聞いたらどうなるんだろうか………
それ以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。今は6つある門の内の一つから伸びる検問の列に並んでいた。
馬車の屋根でハジメはミレディからもらった理論書を読み込み、ユエも魔法書を読み込んでいるが、互いに背中をくっつけた体制となっている。シアも負けじとハジメに寄り添いながら頑張って魔法書を読んでいるのだが、頭から煙を吹いていた。神羅は音楽再生機で静かに歌を聴いていた。
そこにオットーが話があるのか近づいてくる。
「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」
一見各々自由に過ごしているが、ハジメは二人の美少女を侍らせているように見える。
流石大都市の玄関口。様々な人間が集まる場所では、ユエもシアも単純な好色の目だけでなく利益も絡んだ注目を受けているようだ。
「まあ、気にはなるが、かといって引きこもってるわけにはいかないしな。うまくやっていくしかない」
「フューレンに入れば更に問題が増えそうですな。やはり、彼女を売る気は……」
「ふむ。その話はすでに終わったはずだが?」
聞いていたのか神羅はちらりと視線を向ける。その視線を受け、モットーは降参と言うように両手を上げる。
「要件はなんだ?」
「売買交渉ですよ。売買交渉です。貴方方のもつアーティファクト。やはり譲ってはもらえませんか? 商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。貴方方のアーティファクト、特に〝宝物庫〟は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな」
喉から手が出るほどと言いながらもモットーの眼は笑っていない。むしろ殺してでもという表現の方がぴったりと当てはまりそうだ。商人にとって常に頭の痛い商品の安全確実で低コストの大量輸送という問題が一気に解決するのだ。欲しくもなるだろう。
道中もハジメたちが宝物庫を使っているのを砂漠を何十日も彷徨い続け死ぬ寸前でオアシスを見つけた遭難者のような表情で見つめていた。あまりにもしつこく譲ってほしいと交渉を持ちかけられていたが、ハジメが軽く威嚇すると、すごすごと引き下がっていた。
だが、最後の最後で欲が出たのだろう。
「何度も言うが、譲るつもりはない。そもそも金なんていくら持っていても……な」
実際、ハジメ達はいずれは地球に帰る。当然地球でトータスの貨幣は使えない。現状は必要だが、それでも一生分は間違いなく無駄になる。
「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ? そうなれば、かなり面倒なことになるでしょなぁ……例えば、彼女達の身にっ!?」
そこでハジメが殺気を込めながらモットーを睨みつける。更にピンポイントに彼だけを威圧している。更に、神羅でさえ、じろりとした視線でモットーを睨みつけて圧を放っており、モットーの顔から血の気が引いていく。
「それは……つまりそう言う事か……だとしたら容赦はしないぞ……?」
「ち、違います。どうか……私は、ぐっ……あなたが……あまり隠そうとしておられない……ので、そういうこともある……と」
「………まあ、そうだな。でも、こればっかりはどうしようもないし、こっちで対応するか要らない世話だ」
そこでハジメが殺気を打ち消すと、モットーは大きく息を吐く。
「そもそもの話だが、仮にお前が宝物庫を手にしたとして、どっちにしろ割に合わんだろう」
「はぁ、はぁ……どう言う意味でしょうか?」
「確かに宝物庫を手にすれば、商品の大量輸送、安全に、最小限の人数で運べるため人件費も削れ、大きな利益となるだろう。だが、そうなれば当然他の同業者は怪しみ、調べ、そして宝物庫にたどり着く。そうなればお前のように手に入れようとするだろう。無力なお前をな。いかに実力者を雇おうと人間である以上、どう転がるか分からん。それこそ絶え間ない、寝る暇もないレベルの襲撃が来るだろうな……違うか?」
「………なるほど……それを手に持てるのは貴方達レベルじゃないと危険しかないと言う事ですか……私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……」
ちなみに竜の尻を蹴り飛ばすとは、この世界の諺で、竜とは竜人族を指す。彼等はその全身を覆うウロコで鉄壁の防御力を誇るが、目や口内を除けば唯一尻穴の付近にウロコがなく弱点となっている。そこを攻撃されると烈火の如く怒り狂い、相手を叩き潰す。そこからちなんで、手を出さなければ無害な相手にわざわざ手を出して返り討ちに遭う愚か者という意味で伝わるようになったという。
ついに始まりました魔王学院の不適合者のアニメ。一話はまあ、良いんじゃないかな、と思っております。
でも、一つ気になるんですが………ファンユニオン、どうするんだろう………?いやマジで。