ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 ではどうぞ!


第37話 フューレン、冒険者ギルドにて

 中立商業都市フューレン。大陸一の商業都市であり、あらゆる業種がこの都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでは大陸一と言えるだろう。

 ハジメ達はモットー率いる商隊と別れると冒険者ギルドを訪れて依頼達成の報告をした後、宿を取ろうとしたのだが何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ案内人の存在を教えられ、その一人であるリシーを雇い、ギルド内のカフェで軽食を取りながらフューレンの説明を受けていた。

 

 「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 「なるほどな、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」

 「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 「そりゃそうか。そうだな、飯が美味くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい……これぐらいか?」

 「ふむ、そうだな……一応、防犯面も見ておいてくれるとありがたいが……後は従業員の教育が行き届いている場所か……?」

 「ふむふむ、従業員の教育……え?」

 

 神羅の条件にリシーは目を点にし、ハジメがあーー、それも重要だな、と思い出したように声を上げる。

 

 「あの~~、従業員の教育と言うのは……?」

 「ああ。まあ、当たり前と言われればそうだが、普通に客に迷惑をかけないよう教育が徹底されているところ、及び客に迷惑をかけた場合、責任を果たす場所だな」

 「いや、それは宿泊業においては普通の事では………」

 「……我らも少し前までそう思ってた。少なくとも目に見える形で迷惑をかけてくる事はないと思っていなかったのだ……」

 

 神羅がため息交じりに呟くと、ハジメも同意するように頷き、ユエとシアはあはは、と小さく苦笑を浮かべている。それだけで彼らが実際にそんな目にあったと言う事が分かる。

 

 「まあ、とにかく。そういういざという時にきちんと対応してくれる、信頼できる場所を頼む」

 「そうですか……」

 

 リシーは納得したように頷き、続いてユエとシアの方に目を向け要望がないか聞く。

 

 「……特にこれと言っては」

 「大きいベッドがいいです『ベシッ』いたぁ!?いいじゃないですかユエさん!」

 「……撤回。神羅と同じで防犯がしっかりしているところ」

 

 シアが即座にぶー垂れるがユエはそれをさばいていく。その様子をハジメと神羅はやれやれと首を横に振る。

 そのままフューレンの事を更に詳しく聞いていると、ハジメ達は不意に強い視線を感じた。特に、シアとユエに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。視線など既に気にしないユエとシアだが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。

 神羅とハジメは一瞬目を合わせると同時に視線の先をたどる。そこにいたのはブタだった。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男がユエとシアを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 早速か、と神羅とハジメが顔をしかめると、そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながらハジメ達の方へ近寄ってくる。

 リシーも傲慢な態度でやって来るブタ男に営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。

 ブタ男は、ハジメ達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメと神羅に、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をしてくる。

 

 「お、おい、ガキ共。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 そう言って豚がユエに手を伸ばしてくるが、その瞬間、ハジメから尋常ではない殺気が周囲に向かって放たれる。周囲のテーブルにいた者達は顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死にハジメから距離をとり始めた。

 ブタ男に至っては「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

 

 「3人とも、行こう」

 「そうだな……リシー嬢。続きは別の場所で」

 

 ハジメ達が立ち上がり、神羅が殺気を向けられず、状況が飲み込めていないリシーに声をかけてギルドから出ていこうとすると、目の前に大男が立ちふさがる。

 ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差している。

 

 「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」

 「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

 「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」

 「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

 「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

 吠える豚と報酬を聞いていやらしい笑みを浮かべるレガニドを見て、ハジメと神羅は小さくため息を吐く。

 

 「どうする?兄貴」

 「さっさと処理するに限る。ただし殺すな。面倒になる」

 「しないって……」

 「おう、坊主共。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

 神羅とハジメがため息を吐きながら動こうとした瞬間、

 

 「覆い絶て、真水」

 

 ユエの声が響くと同時にレガニドの頭部を水の球体が包み込む。

 突然の事態にレガニドは混乱し、ガボッ!と口から大量の気泡が漏れる。どうにかそれから脱しようと水球に手を伸ばすが、液体を掴むことなどできるわけがなく、水球を剥がせずにもがき苦しむ。

 その隙にシアが懐に潜り込むと、レガニドのがら空きの腹部に回し蹴りを叩きこむ。

 ゴシャァ!と言う異音と共にレガニドは勢いよく吹き飛びギルドの壁に背中から激突した。

 その一撃で頭部を覆っていた水球がはじけ飛ぶが、問題はなかった。すでにシアの一撃でレガニドの意識は完全に刈り取られていたからだ。

 突然の事態にギルド内は静寂に包まれる。誰も彼も身動きせず、ハジメも神羅も同じように動けなかった。

 

 「……二人とも、いきなりどうしたのだ?」

 

 とりあえずいち早く復帰した神羅がユエとシアに問いかける。

 

 「……新しい魔法の実験、及び私達が守られるだけじゃないと言う事を周知させる」

 「モスラさんの話を聞いてから、そうしたほうがいいとユエさんと話し合ってたんですよ」

 

 ちなみにさっきのは真水と言うユエが開発した非殺傷型の敵を無力化させる魔法だ。敵の顔を水球で覆い尽くし、敵を窒息させる。窒息させられなくても敵を酸欠で無力化させることもできる優れモノだ。もっとも、加減を間違えれば窒息死させてしまうので要練習であるが。

 

 「……あ~~~そっか」

 

 ハジメはポリポリと頭を掻くとふう、と大きく息を吐いて豚男に視線を向ける。神羅も同じように視線を向ける。

 

 「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

 「……がなるな。愚者が……二度と我らの前に顔を出すな……!」

 

 そう言うと神羅は豚男の胸倉をつかみ上げて持ち上げると、殺気を開放して至近距離で睨みつける。

 

 「………ひゅっ」

 

 すると豚男は白目を向き、泡を吹きながら意識を失う。更に、金髪が一瞬で白髪に変貌する。

 

 「……む?やりすぎたか?」

 

 神羅はきょとん、と首を傾げる。少なくともトラウマを刻むぐらいで済ませるつもりだったのだが、まさか意識を失うほどとは……

 とりあえず豚男を放ると神羅はハジメ達の元に戻る。

 

 「さて、それじゃあ……これからどうするか……足で宿を探すか?」

 

 ハジメはリシーに目を向けるが、彼女は怯えたように「ひぃぃっ!」と悲鳴を上げる。流石にあの状態の彼女に自分たちの案内をさせると言うのは酷いと思う。

 

 「……それもいいかも。折角広い街だし、少しぶらつくのもよし」

 

 ユエは乗り気で、シアも頷いている。神羅も異論はないのかすでにリシーに話をつけに行っている。それじゃあそうしようとギルドから出ていこうとした瞬間、今更ながらギルドの職員がやって来た。

 

 「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

 そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、プームとレガニドの容態を見に行っている。

 

 「……やりすぎてしまったか?」

 「確か、冒険者同士のトラブルは双方の事情を聴く、って奴だよな……兄貴……ユエ、シア……」

 「……すまん」

 「……すっかり忘れてた」

 「す、すいません……」

 

 ハジメの非難じみた視線に神羅達はすぐに謝罪をする。

 

 「あ~~、一応説明すると、あのブタが俺の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけ。証人としてはそこの案内人とか、その辺の男連中がなるが……」

 

 一応見逃してくれないかと期待を込めてハジメが言うが、

 

 「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」

 

 ですよね、とハジメははあ、とため息を吐くが、こうなっては仕方ない。

 正直に言えばかなり面倒だが、一応自分は規定に目を通して、納得した上で冒険者になった。ならば最低でもそれは守るべきだろう。無法者にはなりたくない。

 

 「あ~~、分かった。でも、一応こっちは被害者だからな?あっちと同じ対応なんてのは勘弁してくれよ?具体的にはそれなりにいい宿に頼むぞ」

 「それは……」

 

 ハジメの要求にギルド職員が思わず顔を引きつらせると、

 

 「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」

 

 そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ達を見ていた。

 

 「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」

 

 職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がる。ドットは、職員達から話を聞き終わると、ハジメ達に鋭い視線を向けた。

 どうやら余計面倒な事が起こりそうである。

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