神羅の一喝によってひとまず話は食事が終わってから、と言う事になり、ハジメ達はそのままシルニッシルなどを堪能し、食事を終えた後に愛子たちが使っていたVIPルームにて話をすると言う事になった。
しかし、ここに神殿騎士がいる以上、神の事、更に言えば神羅の前世の事に繋がりかねないので怪獣の事も伏せていかなければならない。その結果、
Q、橋から落ちた後、どうしたのか?
A、幸運にも生き残ることができ、落ちた場所から脱出するために戦った。結果、何とか脱出できた。
Q、なぜ白髪なのか
A、魔物の肉を食べた際の激痛によるストレスだと思われます。
Q、その目はどうしたのか
A、奈落での戦いで失いました。
Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか
A、帰還の手がかりを見つけ、更には帰る前にやらなくてはいけないことができたから。
Q、やらなくてはいけない事とは?
A、それは言えない。
Q、帰還の手がかりとは?
A、それも言えない。
そこまで言って、手掛かりのところで嬉しそうだった愛子がむすっとした表情で私、怒っています!と言うように二人を睨む。どうやら最後の所が気に食わないらしい。そうは言っても、重要な部分は完全にエヒトや偽王が関わる。怪獣はまあ、良いかもしれないが、ここら辺は神殿騎士の前で言うわけにはいかない。どうしたものか、と二人で顔を見合わせていると、
「おい、お前ら! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」
デビットがキレた様子で拳をテーブルに叩きつける。だが、二人は小さくため息を吐くと、
「別にふざけているわけではない。こちらの提供できる情報を全て提供した。これ以上言える事は本当に何もない。それからあまり大声で怒鳴るな。先ほども言ったが店に迷惑だ。」
神羅がそう静かに答える。だが、その言葉にデビットは更に顔を赤くする。そしておもむろにシアに視線を向けると、
「ふん、迷惑だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前らの方が迷惑極まりない。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」
侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアはビクッと体を震わせ、更に他の神殿騎士もデビットと同じような顔をしているのもあって、しゅんと顔を俯ける。
その物言いに愛子が注意をしようとした瞬間、シアの手を握ったユエがぎろりとデビットを睨みつける。
その視線にデビッドは一瞬たじろぐも、見た目幼さを残す少女に気圧されたことに逆上する。
「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」
思わず立ち上がるデビッドを、副隊長のチェイスは諌めようとするが、それよりも早く、ユエが口を開く。
「……無礼も何もない。私は、私達二人はハジメと神羅、貴方の言う所の神の使徒の仲間。そして貴方達は神の使徒の同行者。つまり、貴方達と私たちは立場は同じ。そこに無礼など無い」
「なっ……我々と獣風情が同列だと!?」
「……いいや。シアは初対面で人を蔑んだりしないし、器はシアの方が上」
その言葉にデビットは完全にキレた。
「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」
無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかけるデビッド。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとする。だが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた瞬間、
「やめろ」
その場の全てが圧壊した。そう錯覚するほどの圧が襲い掛かり、騎士たちは全員顔を蒼白に染め上げ、歯の根を鳴らしながら崩れ落ち、生徒たちは直接で無かったにも拘わらずそれでも腰が抜けたように椅子から転げ落ち、顔を恐怖で染め上げる。
「ふむ、そこの連中にだけ向けたのだったがこの程度の余波でその体たらくとは……情けないにもほどがあるな」
神羅は心底呆れ果てたように呟き、ハジメは小さくため息を吐き、手にしていた拳銃を静かに収める。
「いやいや、漏らしてないだけましだと思うけどな……まあ、いい。シア、あまり気にしたら体が持たないぞ?外では……気に食わないがこれが普通だ。だけどな、人間全員がそうだと思うなよ?それはブルックの町の人たちもこいつらと同じだと言うようなもんだぞ?」
「それは…………」
「……大丈夫。シアのうさ耳は可愛い」
「うむ、そうだな。良く似合っているぞ」
「……あの、ハジメさんは……どう思っていますか?私のうさ耳」
「……まあ、可愛いとは思う」
ハジメが首元を掻きながらそう言うとシアはその言葉に嬉しそうにうさ耳を動かす。
ハジメはふう、と息を吐くと愛子たちに視線を向け、
「とりあえずだ。俺達にはそちらとの合流の意思はない。協力するつもりもない。俺達は俺達で動く。ああ、安心しろ。帰還の手段を確立した時はきちんと一緒に連れ帰ってやるよ。流石に見捨てるつもりはないからな」
その言葉に生徒たちは思わずほっとしたように相互を崩すが、愛子は悲しそうに顔を歪め、理由を問う。
「そんな……どうしてですか?」
「どうしても何も、それが一番確実だからだ。現状はそれしか言えないな……」
「つまり、合流せず、こちらだけで動いたほうが確実に目標に近づけるからだ。そちらとて、帰還の手段は手に入れたいであろう?」
「それは……でも………」
そこで話は終わりだ、と言うようにハジメ達は立ちあがるが、不意に思い出したように神羅が声を上げる。
「ああ、そうだ。白崎と八重樫の二人は無事か?」
「え?それは……はい……二人ともオルクスで頑張っていますが……」
「ふむ、オルクスか………」
「一応寄り道で行けそうだな………ああ、それともう一つ。確認したいことがある」
「な、なんですか?」
「あの日、俺たちを橋から落としたのは誰だ?犯人は分かったのか?」
ハジメが問いを投げかけた瞬間、地球組は一斉に顔を引きつらせ、生徒たちは顔を逸らし、愛子ですら言葉を詰まらせる。
その様子に神羅とハジメは小さく目を細め、互いに目を合わせる。どうやら割と酷い展開になったらしい。
「あの、そのですね……」
愛子が言葉を選ぶようにしどろもどろ口を開こうとするのを見て、神羅とハジメはそろってため息を吐く。この状態では果たしてちゃんとした話を聞けるか分からない。
流石にこの場で聞くのは無理か、とハジメが切り上げようとした瞬間、
「……檜山だったわ」
意外なところから答えが出てきて、全員がそちらに視線を向ける。
発言者である優香は毅然とした表情でその視線を受け止める。
「……本当か?」
ハジメは剣呑な視線で優香を睨み、神羅もまた無言で視線を向ける。
「私があいつが犯人である証拠を掴んでね。それで、王国に戻った後追及したらあっさりと認めたわ……」
「ほう……その後は?」
神羅が問うと、優香は一瞬言いにくそうに言葉を詰まらせるも、少しして小さく頷き、
「その後、天ノ河君が、許しちゃって……今は白崎さん達と一緒にオルクスにいるわ」
「………………は?」
「……マジかよ」
その瞬間、神羅が言葉を失ったように絶句し、ハジメが信じられない物を見たように目頭に手を当てる。
正直に言って、犯人が分かった瞬間、ハジメの中では、檜山に対する怒りが沸き上がっていた。奴のせいで地獄を味わった事もそうだが、何よりも兄を狙った事を許す事は出来なった。殺しはしないが、相応の報いを受けさせてやろうと思っていた。それは神羅も同じだったが、そんな感情が薄れるほどの呆れが二人を襲っていた。仮にも事故とはいえ仲間を二人殺した奴を断罪せずに許し、あまつさえ仲間として一緒に迷宮の攻略に勤しんでいると言うのか。正気なのだろうか、地球の連中は……
「あ、あの、二人とも……その、納得できないことだとは思いますが……」
愛子が何事か言おうと口を開くが、神羅が呆れを含んだ目で愛子を睨み、
「……何も言わなかったのか?主は」
「え?」
「生徒を導く立場のお前が、悪い事をしたら罰を貰うと言う基本常識を教える立場のお前が、その件に関して何も言わなかったのか?」
その言葉に愛子は顔を青くして後ずさる。
「冗談抜きで一緒に迷宮にって言うのは流石にどうかと思うぞ?せめて先生、あんたが見張ってるとかならまだマシだと思うんだが……」
ハジメが呆れたように言うと、全員が何も言えず、押し黙ってしまう。
二人ははあ、とため息を吐くと、その場から立ち上がる。
「とりあえず聞きたいことは聞いた。ここから先は別行動って事で、今度こそ話は終わりだ。それじゃあな」
ハジメ達に続くようにユエ達も立ち上がり、その場から立ち去っていく。
その背中をクラスメイト達は何も言えずに見送るしかできなかった。愛子ですらそうだ。死んだと思っていた二人が生きていたのは嬉しい。だが、一人はその性格を大きく変えており、一人はその圧を遥かに増大させていた。更に蔑んでいたこと、檜山たちの苛めを見て見ぬふりをし、更にあの誤爆事件を許してしまった事、その全てが負い目となり、何も言えなかった。
そして愛子は愛子で酷いショックを受けていた。
神羅から教師である自分がしっかりさせないといけなかったであろう事をしていなかったと指摘され、言外にお前は教師失格だと言われたような気がして、それは彼女に大きなダメージを与えていた。
結局その日は地球組全員、沈んだ表情でそのまま解散となった。
その日の深夜。多くの人々が寝付く中、愛子だけは寝付けなかった。昼間に起きた事や言われた事、その他諸々が頭の中でグルグルと巡っており、考えがまとまらず、寝付けないのだ。
そのままぼんやりと暖炉の火を見つめながら、いろいろと考えているのか百面相を浮かべていると、ふいに扉がドンドンといささか乱暴にノックされる。
「は、はい!?」
「先生、ちょっといいか?」
その音にハッとした愛子が声を上げると、ハジメの声が聞こえてくる。
「は、ハジメ君?こんな夜更けにどうしたんですか?」
「ちょっと話したいことがあってな。兄貴も一緒にいる。いいか?」
「え、ええ………」
一瞬、こんな夜更けに男二人で女性の部屋を訪れる、と言うシチュエーションに危機感のような物が襲うが、それはないと頭を振る。ハジメには彼女がいるらしいし、神羅はそう言うのとは無縁な雰囲気を持つ。
意識を切り替えてから扉を開けると、そこにはハジメと首元に手を当てる神羅がいた。
「それで、話とは何ですか?」
もしかして本当は戻ってくるつもりでは、と期待した目をするが、
「残念だけど戻ってくるとかそういう話じゃない。今から話す話は先生が一番冷静に受け止められると思ってな」
「言ってしまえば昼間の情報共有の続きだ」
そう断ってから二人は部屋の中に入り、ソファに座る。対面に愛子が座ったのを確認してから二人は解放者と狂った神の遊戯の物語を話し始めた。勿論、怪獣と言う存在も交えて。
その話を聞き、愛子は再び呆然としてしまう。
「これが世界の真実だ。どう動くかはそっちの自由だが、怪獣に関してはマジでだめだ。どんな人間でも、生身じゃ勝てない存在だ。出会ったならわき目もふらずに逃げろ、としか言えないな」
「ふ、二人は、もしかして、その狂った神と怪獣をどうにかしようと……旅を?」
「そうだな。帰還の邪魔になりそうだし、障害はできる限り排除しておきたいしな」
「我としても倒さねばならぬ奴がいるし、新しい縄張りを滅茶苦茶にされかねんからな………」
その瞬間、ハジメと愛子はん?と頭に疑問符が浮かぶ。今、神羅は何と言った?新しい縄張り?
「あの、神羅君………今、新しい縄張り、と言いましたか?それってどういう……」
「ああ、言ってなかったな。全ての事が済んだら、我は地球には帰らず、こちらに移住する」
その言葉に愛子は大きく目を見開き、ハジメもまた一瞬顔をしかめる。
「な、なんでですか!?」
「何でも何も……我の力はずば抜けて高い。流石にこれだけの力を持ってしまっては、以前の地球での生活は無理だと判断したのだ。トータスならばこの力を振るっても問題はないし、ずっと待たせていた奴もここにいる。置いていくことはできん」
「だ、だからって故郷を捨てるなんて……ちゃんと家に帰るべきですよ。どんな力を持っていても。その待たせていた人も一緒に連れて……」
「いいや。確かに地球は故郷だが、そこを出る時が来たのだ。父や母に迷惑はかけられん」
「でも……それでも考え直してください。神羅君が帰るべき場所は地球にあります。それにこちらに残ったら、それこそご両親を悲しませてしまいます」
だから、と愛子が続けようとしたところで、神羅は大きく息を吐き、
「では問おうか…………今の状態で帰って、本当に帰ったと言えるのか?」
「な、何を言って……」
「今の我らは例外なく、地球にいた時とは違う。全員が全員、地球にはない力を持ち、それを振るう事の快感を覚えている。そんな人間が、本当にそのまま地球に帰って、以前の日常を送れると思うのか?なかった力を思うがままに振るわれ、地球の日常が耐えられると思うのか?」
「それは………」
答えは否だ。本来地球にはあり得ない………いいや、もしかしたらどこかにはあるのかもしれないが、少なくとも、かつての日常には欠片も存在していなかった力。しかもそれは普及できるものではない。ある意味個人が独占する強大な物。それを好きに使っていれば、その先に待っているのは碌でもない未来だ。
「もしも地球に帰るなら、かつての日常を、感覚を少しずつでも取り戻し、すり合わせていかねばならん。その意味では折れた連中はマシか。ハジメもだいぶ変わったが、それでもまだ間に合う。だが、我はもう手遅れだ」
「そんな事……」
愛子が口を開こうとした瞬間、神羅は自分の手を変異させる。その手を見て、愛子は驚愕に目を見開く。
「今までの時間が我にとっては非日常だった。それでも掛け替えのない時間だ………悩みはしたさ。他に道はないかと考えもした。だが、考え抜いた結果、やはり我はもう一つの故郷を壊したくない。故に我は身を引く事を選んだ」
「し、神羅君……その手は………」
「我の力、とだけ言っておこう。流石にこうなってしまってはどうしようもあるまい?」
愛子はあ、う、とうめき声を上げながら、ハジメに助けを求めるように視線を向ける。そのハジメは難しい顔で顎に手を当てて考え込んでいる。そして少しして神羅に視線を向け、
「……本当にそれしかないのか?」
「そうだな」
「まだ神代魔法を手に入れ切っていない。概念魔法だってある。もしかしたら、モスラが何か手を持ってるかも」
「………そうだな。だが、力と言うのもあるが、我自身の認識がもう戻せん。我はもう自分を人間だと呼ぶつもりもなく、その自覚もなくなった。流石にこれではな………」
「…………せめて一言相談はしてほしかったな」
「すまんな………」
神羅が謝ると、ハジメははぁ、と深いため息をつきながら頭をボリボリと掻く。
「兄貴がそう言うんだったら、俺からはもう何もない。でも、もしも帰る時までに何とかなる方法が見つかったら、せめて一度は帰ってくれよ?」
「ああ、分かってるよ」
神羅の意思を尊重するような言葉に愛子はなぜ、と言う顔をする。
「兄貴が自分で決めた事だ。それに俺がとやかく言うのは違うだろうしな……それに、二度と会えないってわけじゃないだろ。ある程度行き来ができるなら、また会えるしな」
「そうなるなら、我も地球に顔を出す……話は終わりだ。邪魔をしたな。言えた義理ではないと思うが、早めに寝ろよ」
その言葉と共に二人は立ち上がり、部屋から出ていこうとする。愛子が声をかけようとするが、その前に神羅が口を開く。
「最後にもう一つ。檜山の件、あれは少々言い過ぎた。すまなかったな。今生き残っているものを優先したお前の判断は間違ってはいない」
「あの……「だが、あの言葉を撤回する気はない。よく考えておくことだな」っ………!」
それを最後に二人は今度こそ部屋から出ていく。
その後姿に愛子は何も言えず、ただ呆然と立ち尽くす事しかできなかった。