ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 今回、先生ファンの皆様からしたらちょっとあれなところがあるかもしれません。ですが、正直に言って、自分はそんな感じを抱きました。

 なので、申し訳ありませんが、これで行きます。

 11/13 調整。


第44話 優しさとは

 それはずっと眠っていた。ずっとずっと、長い時を眠り続けていた。きっかけは定かではない。だが、何か大きな戦いがあり、それを成していた物たちが忽然とその姿を消したからだったはず。その件があったため、いざと言うときに備えて力を蓄えるために眠りについた。

 それからしばらく、不意に強大な力が起こった。その時か、とそれは目を覚ましたが、それはあまりに一瞬の事で、何かが目覚めた、戦いが起こった、と言う感じではなかった。それ故に一度は目を覚ましたそれは、すぐさま眠りについた。

 だが、一度起きてしまえば、その次の眠りは嫌でも浅い物になってしまう。本当なら、たかだか数万程度の魔物の群れではそれは起きなかった。数万規模の生物の移動は当たり前だからだ。だが、今は眠りが浅かった。故にそれは群れに敏感に反応した。そして先日の件もある。それを踏まえて無視することは、それの選択肢になかった。

 ゆっくりと、それの意識は覚醒していく………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔力駆動四輪が、行きよりもなお速い速度で帰り道を爆走し、整地機能が追いつかないために、荷台の男子生徒にはミキサーの如きシェイクを与えていた。だが、それにかまける余裕はない。ハジメは文字通り後先考えずに全魔力を注ぎ込んで、突き進んでいた。

 ウルの町まで残り5分の一と言った場所で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見した。恐らく愛子たちを探しに来たのだろう。

  しばらく走り、彼等も前方から爆走してくる黒い物体を発見したのかにわかに騒がしくなる。彼等から見ればどう見ても魔物にしか見えないだろうから当然だろう。武器を取り出し、隊列が横隊へと組み変わる。

 構わず突っ切ろうとするハジメだが、愛子はそうはいかず、サンルーフから顔を出して必死に両手を振り、大声を出してデビッドに自分の存在を主張する。

 最初は構わず攻撃しようとしたデビット達だったが、尋常ではない速度で近づいてくるおかげか早々にその人影が愛子であると気づくと愛しい人との再会と言うシチュエーションに酔っているのか恍惚とした表情で「さぁ! 飛び込んでおいで!」とでも言うように、両手を大きく広げている。隣ではチェイス達も、自分の胸に! と両手を広げていた。

 それをハジメはガン無視してスピードを一切緩めることなく突き進む。騎士達はギョッとし、慌てて進路上から退避する。

 魔力駆動四輪はデビッド達の横を問答無用に素通りした。愛子の「なんでぇ~」という悲鳴じみた声がドップラーしながら後方へと流れていき、デビッド達は「愛子ぉ~!」と、まるで恋人と無理やり引き裂かれたかのような悲鳴を上げて、猛然と四輪を追いかけ始めるのだった。

 

 「南雲君! どうして、あんな危ないことを!」

 

 愛子がプンスカと怒りながら、車中に戻り、ハジメに猛然と抗議した瞬間、ハジメは焦燥に駆られた表情で愛子を睨みつけ、

 

 「んな事してられっか!今は一刻も早く町に行かなきゃならないんだぞ!分かってんのかあんた!?さっき説明しただろ!?」

 

 その言葉に愛子はう、と呻くが、それでもどこか納得していなさそうな表情を浮かべる。

 

 「………危機感が足りてない……」

 

 ユエは苦々しい表情を浮かべる。まだ愛子は、いや、ここにいる者のほとんどが事態の深刻さに気付いていない。やはり直接怪獣と相対しないと無理があるか……なまじここにいる者達は心が折れていようと、力を持ってしまっているから。

 

 「のう、ユエよ……本当に神羅殿とシアを置いて行ってよかったのか?」

 

 そんな中、車内のティオがそんな質問をする。竜人族である彼女でさえこれだ。知らない、と言うのは恐ろしい。

 話を戻し、確かに今、四輪の中に神羅とシアの姿はない。

 

 「これが最善。奴が起きた時、対処できるのは神羅だけ。そしてその時動けるのはきっとシアだけ」

 

 そもそも、神羅が目覚めかけている、と言った瞬間、ハジメ達は血相を変えて急いで四輪を取り出して全員を詰め込み、神羅を置いて山を下り始めた。それに愛子が抗議の声を上げたのだ。なぜ神羅を置いていったのかと。

 説明する暇も惜しかったが、ユエが神獣と言う強大な魔物が目覚めようとしている。それに対処できるのは神羅だけであり、だから彼は残った、と説明したのだが、どうにも愛子はそのあたりがいまいちピンと来ていないらしい。そして、根気強く説明して何とか納得してもらうと、今度は愛子は清水の心配を始め、早く探そうと言う話になりかけたのだ。そんな事をしていたら本当に全滅しかねない。断固拒否したのだが、愛子も強情だった。そこでシアが声を上げたのだ。ならば自分が途中で降り、清水を捜索、ハジメもオルキスで周囲を捜索する。見つけたらシアが即座に清水を回収して合流すると。

 正直に言えば、ハジメとユエは怪獣たちの戦闘を前にしてまともに動けるかどうか不安だった。何せコング相手に自分たちは何もできなかったのだから。だが、シアはそのコングと一緒に過ごしていた。あの時も動けなかったが、頭を働かせていた。つまり、神羅を除けば怪獣が暴れていても、比較的動けると言う事だ。だからこそ彼女に捜索を任せたのだ。

 とりあえず愛子にはこれで納得してもらい、ハジメ達は町へひた走っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルの町に着いた瞬間、愛子達は足をもつれさせる勢いで町長のいる場所へ駆けていった。一方ハジメたちは説明を彼女たちに任せて即座に行動方針を話し合う。本当は車内で済ませたかったのだが、余裕はほとんどなかったし、町の住人に少しでも手早く説明できるようそっちの話合いをしていたからだ。なお、その話し合いの中で、愛子達は、報告内容からティオの正体と黒幕が清水幸利である可能性については伏せることで一致していた。また、神獣に関しては怪獣と言う巨大な魔物が目覚めるとだけ伝えることにした。もしも神獣が目覚めるなんて言おうものなら、逆に避難に滞りが出ると思ったのだ。

 

 「基本は全員避難。魔物たちは動き出したが、この調子なら町にたどり着くまで一日はある。それなりに距離は稼げる。怪獣は兄貴に任せよう」

 「しかし……その怪獣、と言うのは一体どこで目覚めるのじゃ?場所によっては逆に危険なのでは……」

 「……それに、怪獣が目覚めることで、魔物たちが恐慌状態になるかも」

 「……どこで目覚めようと、避難しない理由にはならないだろう。避難前提で動こう。魔物は……戦闘に巻き込まれて全滅してほしいがそううまくはいかないだろう。だが、恐慌状態ならむしろ好都合だ。そのまま迎え撃つよりも楽になりそうだし、撤退しながらでも対処できる」

 「ん………それじゃあ、シアを待って、合流出来たら清水とか言うのがいるいないにかかわらず撤退する?」

 「それが無難だな」

 

 ユエの案にハジメは頷くが、ティオはいささか納得がいかないと言う表情を浮かべている。

 

 「……魔物を放置するのが納得いかないか?」

 「それは………まあ、そうじゃな……先ほども言ったが、これは妾の責任でもあるし、竜人族として見過ごすこともできん……」

 「悪いがここはこらえてくれ。もう事態はそんな次元の話じゃ収まらないんだ」

 

 ハジメの切羽詰まった様子にティオは彼女なりに事態の深刻さを認識したのか分かった、と頷く。

 そして方針が決まったところでハジメ達も町の役場に向かう。

 彼らが町の役場に到着した頃には既に場は騒然としていた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

 普通なら、明日にも町は滅びますと言われても狂人の戯言と切って捨てられるのがオチだろうが、神の使徒にして〝豊穣の女神〟たる愛子の言葉である。そして最近、魔人族が魔物を操るというのは公然の事実であることからも、無視などできようはずもなかった。

 だが、そんな遅々として進まない話し合いに焦れたハジメはずかずかと参入する。

 

 「何ちんたらやってんだ!とっとと避難準備させろ!なんだったらウィル!お前の公爵家の権限で避難命令でも出せ!出せるよな!?」

 「……どうだったかな?そんな権限あったっけ?」

 

 ハジメの怒声に愛子たちは驚いたように振り返り、他の重鎮達は「誰だ、こいつ?」と、不愉快そうな眼差しを向けた。

 

 「な、何を言っているのですか? ハジメ殿。今は、危急の時なのですよ? まさか、この町を見捨てて行くつもりでは……」

 「見捨てるもなにも、それしかないんだ。町は放棄して怪獣が眠りにつくまで避難するしかない。観光の町の防備なんてたかが知れている……それに怪獣が相手じゃそんなもの、紙切れにもなりはしないんだ」

 「そ、それは……そうかもしれませんが……」

 

 迷うようなそぶりのウィルを見て、ハジメは彼の肩に手を置いて顔をずいっ、近づけ、

 

 「いいか、ウィル。これが最善(・・)なんだ。町はまだやり直せる。だが、命はそれまでだ。避難しなかったら、ほぼほぼ間違いなく大勢が死ぬ。お前はそれでもいいのか?」

 「っ………!」

 

 そこまで聞いて、ようやくウィルは理解した。ハジメは町を見捨てようとしているのではなく、出来る範囲で救おうとしてくれているのだと。ここに来て、ウィルはようやく腹が座ったように唇を引き結び、

 

 「……本当に、これしかないのですか?」

 「ああ、これしかない。これが被害を最小限に抑えられる試みだ」

 「………分かりました。何とか、説得してみます」

 

 その言葉にハジメは頷き、ウィルはすぐに重鎮たちの方に振り返る。

 それを見ながらハジメたちは次は、と動こうとしたが、そこに割って入るものがいた。

 

 「南雲君。君なら……君達なら怪獣や魔物の大群をどうにかできますか?いえ……できますよね?」

 

 愛子は、どこか確信しているような声音で、ハジメなら巨大魔物と魔物の大群をどうにかできると断じた。その言葉に、ウィルを含めた町の重鎮達が一斉に騒めく。

 愛子の強い視線にハジメは………愕然とした様子で呟く。

 

 「……あんた、何を言ってる?車内の話を聞いてなかったのか?」

 「聞いてました。ですが、このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります。神羅君が巨大魔物の対処ができるなら、ハジメ君たちもきっと……ですから……」

 「その犠牲を無くすために避難しろって言ってるんだ。町はこの際諦めるしかない。魔物に関しては何とも言えないが、どうせとっ捕まえた清水を送り届けるんだ。その時にできる限り倒しておいてやる」

 「それでは多くの人たちが苦しんでしまいます。例え異世界であろうと、ここで出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います」

 「……それでも死ぬよりはずっとマシだろ。苦しむってんなら、苦しめばいい。それは生きてる証だ。もう一度やり直せる証だ。確かに町が吹き飛んだら復興には時間がかかるな。でも、それでもやり直せる。苦しむとしても、歩くことができる。だがな、死んだらそこで終わりだ。もう歩くことも、苦しむことも、やり直すこともできなくなる。それじゃあ意味がねえだろ」

 「それは……」

 

 その言葉に愛子は言葉に詰まり、更にハジメは続ける。

 

 「それにだ。兄貴なら怪獣を抑えられるが、それは圧勝できるって意味じゃない。戦いになればそれがどれほどの余波を起こすか予想ができない。町が巻き込まれる可能性だってある。それに、怪獣がこの町の真下で眠っている可能性だってある。そうなったら、起きただけで全滅だ。それを避けるために避難するべきだ」

 

 その言葉に愛子は完全に反論を防がれ、言葉を紡げなくなる。それでも何かを言おうとするが、その肩を優花が掴む。

 

 「愛ちゃん先生。ここはハジメ君の言う通りにしようよ。多分、この中で怪獣の事を一番よく知ってるのは彼だし」

 「園部さん……」

 「それに、彼なりにみんなが生き残れる手段を考えてくれたみたいだし、ここは避難しよ?」

 「っ………はい、そうですね………すいませんでした……ハジメ君……」

 

 渋々ながらも納得した愛子を見て、ハジメは大きく息を吐く。ここで納得してくれて本当に良かった。もしも未だに駄々をこねるようなら割とマジで実力行使も、とハジメは考えていた。

 それぐらい、最初の愛子の言葉はハジメにとって呆れと怒りを抱いた。この先生は神羅も認める人格者であり、ハジメ自身、彼女は生徒のために頑張れるいい先生だと思っている。だが、今はその評価が少し変わっている。この先生は、人の優しさ、善意を信じすぎている(・・・・・・・)ように思える。

 優しくすればきっとそれは報われる。人に優しさを向ければ、人もそれを返してくれる、分かってくれると。それを強要するわけではないし、悪意も知っているのだろうが、彼女の根底にあるのがそれなので、どうしてもそれが前面に押し出されている気がする。

 それは間違いなく美徳だと思う。だが、それも過ぎれば悪意よりも恐ろしい物となる。今回のように。

 ハジメはふう、と息を吐き、

 

 「分かったら避難の誘導を頼む。俺たちは色々と仕込みをする。清水に関してはあまり期待はするなよ?」

 「分かったわ。それじゃあ、愛ちゃん先生、行こう」

 「は、はい………」

 

 優花に促され、愛子は町の重鎮達の方に向かう。それを見送ったハジメは静かに視線を山の方角に向け、

 

 「長い一日になりそうだ………」

 

 そう、確信めいた予感を感じながら呟いた。




 何ちゅうか……うん。自分が先生に抱いたのはハジメ君と同じ感想ですね。勇者(笑)よりはずっとマシだけど、それでも何かずれているというか……そんな印象でした。

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