ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 はい、今回から4巻突入です。


第50話 再びフューレンにて

 中立商業都市フューレンの活気は数日たっても相変わらずだった。

 高く巨大な壁の向こうから、町中の喧騒が外野まで伝わり、これまた門前に出来た相変わらずの長蛇の列が続いている。

そんな入場検査待ちの人々の最後尾に、実にチャライ感じの男が、これまたケバい女二人を両脇に侍らせて気怠そうに順番待ちに不満をタラタラと流していた。そうしていると、彼の耳に聞きなれない妙な音が響いてくる。

 ブーンと言う音と前方の商人たちが驚いた様子で後ろを見ていることを訝しみ、男が振り返る。

 その視線の先には黒い箱型の物体が街道を真っ直ぐにこちらに向かってきている。並みの馬車よりもはるかに速いそれに男がぎょっ!?と目を見開き、周囲をが騒がしくなる。魔物かと誰もが考えた瞬間、物体は徐々にその速度を緩めていき、そして男から5mほど離れた場所でキッ、と完全に停止する。

 停止した魔力駆動4輪(最近ブリーゼと名前を付けられた)を彼らが訝し気に見つめていると、ドアが開き、中から神羅、ユエ、シア、ティオが現れる。ハジメは窓から身を乗り出し、行列を眺める。

 

 「相変わらずの列だなぁ………」

 「そうだな。まあ、こればっかりは仕方あるまい。気長に待つとしよう」

 

 最後に降りてきたウィルがお騒がせしてすいません、と頭を下げているが、誰も彼もブリーゼの事は頭からすっぽ抜けていた。代わりにユエ達に見とれたようにくぎ付けになっている。

 その様を見ていた神羅はハジメに視線を向けると、ハジメは静かに目を細め、無言でブリーゼから降りる。それと入れ替わる様に神羅が運転席に乗り込む。

 ブリーゼは魔力で動くため、その気になれば運転席にいなくても操作難易度が上がるだけで動かすことができるのだが、神羅からその露骨なまでの危険運転を説教されてしまい、今では運転は誰かが運転席で、と言うのがルールとなっている。

 そしてハジメは露骨なまでにユエの肩に手を回す。俺の女だぞ、と言わんばかりに。ユエは嬉しそうに頬を緩ませ、シアが羨ましそうに見つめ、ティオが熱いのぅ、と苦笑を浮かべている。

 

 「それにしてもお二人とも、良かったんですか?ブリーゼで乗り付けて。出来る限り隠したかったんじゃ……」

 「今更だ。復興の手伝いで大分使ったし、もう隠し通せるとは思えないからな。露見が早まっただけさ」

 

 もっとも、やりすぎては意味がないのでそこはちゃんと考えていかなければならない。

 

 「でも、この調子だと、教会からのアクションとかありそうですよねぇ……」

 「そこはまだ大丈夫だろう。何せウルの町に神獣が現れたのだ。しばらくはそちらの対応に追われる。蘇った神獣と、便利なアーティファクト。この世界でどちらが優先されるかなんて明らかだろう」

 「まあ、それは……ですが、神羅さんはここにいますし、怪獣はどこかに行ってしまいましたし……」

 

 シアの言葉に神羅はん?と首を傾げる。それを見て、シアもまた首を傾げ、それを見たハジメたちが釣られて首を傾げる。少しして、神羅はああ、と声を漏らす。

 

 「我が撃退した怪獣なら、まだ町の近く、具体的には山脈の向こう側にいるぞ」

 「えっ!?」

 「ほ、本当か、神羅殿……」

 「ああ。元々縄張りを奪う気なんぞ無く、更に言えば我は旅に出てしまうからな。つまり、奴を追い出してしまったらあの辺り一帯は主がいない状態になる。そうなると、他の怪獣がそこを狙うかもしれんしな。だから奴があのまま縄張りに居座っていてくれたほうが都合がいい」

 「………大丈夫?神羅を追って移動したりは……」

 「しばらくは傷を癒す事に専念するさ。それに、自ら負けを認めたのだ。軽々にリベンジはできん。我が明確に弱っているなら話は別だろうが」

 

 つまりしばらくは安全、という訳だ。ハジメはなるほど、と頭を掻きながら納得する。

 その頃になってようやく周囲の人間達が衝撃から復帰し、ハジメ達に様々な感情を織り交ぜた視線を向け始める。

 女性達は、ユエ達の美貌に嫉妬すら浮かばないのか熱い溜息を吐き見蕩れる者が大半だ。一方、男達は、ユエ達に見蕩れる者、ハジメに嫉妬と殺意を向ける者、そしてハジメのアーティファクトやシア達に商品的価値を見出して舌舐りする者に分かれている。

 だが、直接ハジメ達に向かってくる者はいなかった。その視線に気づいたハジメが威圧を微弱ながら放出し、神羅が微弱な殺気を放つ。それによって、神羅達の周辺はなんか興味惹かれるけど近づきたくない、例えるなら心霊スポットのような感じになっていた。若干前後で列の距離が空いている。

 だが、それでも挑みかかる輩はいる。このチャラ男のように。彼は自分の侍らしている女二人とユエ達を見比べて悔しそうな表情をすると明からさまな舌打ちをし、

 

 「よぉ、レディ達。よかったら、俺とお茶しないかい?」

 

 そうユエ達に声をかけるが、それにユエが冷めた視線を向け、

 

 「……すでに両手に花なのにそれをあっさり捨ててほいほい声をかけるような女の敵なんぞ論外」

 

 ずばりとした正論にチャラ男はビシリッ、と固まる。

 

 「……という訳でそこの二人。後はそちらでお願い」

 

 ユエがそう言うと同時にいきなり比較され、放置されてしまい、固まっていた女たちが再起動。男をじろりと睨みつけるとそのまま振り返った男にダブルビンタを叩きこみ、男は見事に吹っ飛ぶ。

 

 「………女って怖いよな」

 

 ハジメのつぶやきに神羅が苦笑しながら同意していると、騒ぎを聞きつけたのか門番が駆け寄ってくる。

 

 「おい、お前達!この騒ぎは何だ!それにその黒い箱……?も、何なのか説明しろ!」

 「ああ、こいつは俺が作った移動用のアーティファクトだ。あっちの男は……俺の連れに手を出そうとして連れていた女たちの怒りを買い、ビンタでぶっ飛ばされた……目撃者は大勢いるから事実確認してくれても構わないぞ」

 

 その言葉に、門番たちが周りに視線を向けると、全員が一斉に頷く。話を聞けば、帰ってくるのはハジメの話と全く同じ。

 一通り話を聞き終えると、門番たちは「それは災難だったな」とハジメ達に同情の視線を向けるが、不意に一人が「あっ」と思い出したように隣の門番に小声で確認する。何かを言われた門番が同じように「そう言えば」と言いながらハジメ達をマジマジと見つめた。

 

 「……君達、君達はもしかしてハジメ、神羅、ユエ、シアという名前だったりするか?」

 「ん? ああ、確かにそうだが……」

 「そうか。それじゃあ、ギルド支部長殿の依頼からの帰りということか?」

 「ああ、そうだが……もしかして支部長から通達でも来てるのか?」

 

 その言葉に門番たちは頷き、そのまま彼らの案内で順番を飛ばし、好奇の視線にさらされながら町に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメ達がギルドにつくと、そのまま以前の応接室に通され、待つこと少し。ドアを勢いよく開け放ち、飛び込んできたのはギルドマスターのイルワだった。

 

 「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

 「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

 「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

 そしてウィルはイルワから両親の滞在先を確認し、ハジメ達に頭を下げ、改めてお礼を言い、改めて挨拶に向かうと告げてから部屋を出て行った。

 それを見送った後、イルワは穏やかな表情でハジメ達に向き合い、深く頭を下げる。

 

 「みんな、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

 「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」

 「そうだね……まさかウルの町で超巨大魔物が現れ、復活した神獣と戦うなんて……かなりの被害が出たらしいし、確かに運がよかった……」

 「む?もうその件を掴んでいるのか?」

 「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

 どうやら最初から監視がついていたらしい。まあ、あの入れ込みようを考えればそんな手を打っていてもおかしくはない。

 

 「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。良ければ、話を聞かせてくれるかい?いったい何があったのか」

 「それは構わん。だが、その前にユエとシアのステータスプレートを融通してくれ。ティオの方は……「うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの」とのことだ」

 「ふむ……確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

 イルワは職員に新品のステータスプレートを持ってこさせ、ユエ達に手渡す。

 

 ユエ 323歳 女 レベル:75

 

 天職:神子

 

 筋力:120

 

 体力:300

 

 耐性:60

 

 敏捷:120

 

 魔力:6980

 

 魔耐:7120

 

 技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

 

 

 

 シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

 

 天職:占術師

 

 筋力:160 [+最大6200]

 

 体力:170 [+最大6210]

 

 耐性:100 [+最大6140]

 

 敏捷:200 [+最大6240]

 

 魔力:3020

 

 魔耐:3180

 

 技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

 

 

 

 

 ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

 

 天職:守護者

 

 筋力:770  [+竜化状態4620]

 

 体力:1100  [+竜化状態6600]

 

 耐性:1100  [+竜化状態6600]

 

 敏捷:580  [+竜化状態3480]

 

 魔力:4590

 

 魔耐:4220

 

 技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

 

 表示されたステータスは召喚された勇者たちですら少数では相手にならないレベルだった。流石のイルワも呆然としていた。何せ数値もだが、ユエとティオはすでに滅びたとされる種族の固有技能を持っているのだ。シアも愛玩奴隷と言う兎人族の特徴を真っ向から無視するステータスだ。

 

 「いやはや、何かあると思っていたが、これほどとは……」

 

 顔を引きつらせているイルワを見てハジメは軽く同情をしながら一応、神羅の事は伏せて、出来る限り分かりやすく何が起こったのか説明をする。

 それを後目にシアは自分のステータスを見て不満げに眉根を寄せ、神羅に話しかける。

 

 「神羅さん……なんか私の素のステータス、これつけてるのにいまいちな感じなんですが……」

 

 そう言いながらシアは自分の右手についている黒い武骨な腕輪を見せる。

 鍛錬用アーティファクト、重枷。ミレディから譲ったアーティファクトの一種であるそれは装着者に重力魔法を使った調整可能な負荷を全身に掛けることができる。ハジメとシアの肉弾戦組は手に入れた時からこれを四六時中身に着けて普段から負荷をかけ、肉体を鍛えているのだ。

 

 「そうは言われてもなぁ。前も言ったが、これは魔力による強化を表示しているから、素の身体能力は……一応聞くがシア。身体強化を併用していないだろうな?」

 

 その言葉にシアはうっ、とうめき声を上げる。神羅がジト目でシアを睨む。

 

 「お前……それでは伸びないのは普通だろう……」

 「す、すいません……これが意外ときつくて……寝るのにも支障が……」

 「あ~~、そう言う事なら、まあ、仕方ないかもしれんところもあるが……」

 

 神羅がふうむ、と唸っていると、今度はユエが袖を引っ張る。

 

 「ユエか……どうした?」

 「……神羅。この、神子って職業……どう言う意味だと思う?」

 「む。神子か……確かに言葉だけでは意味が分からんな。シアやティオはまだ分かるが……」

 

 神羅は難しい表情で腕を組み、それを見るユエは不安げな表情を見せている。そうなるのも無理はないだろう。この世界の神、エヒトは命をもてあそび、嘲笑う文字通りのクズだ。そして神子と言う言葉を文字通り受け取るなら、自分はその神の子……まあ、流石にそれは無いだろうが、それでもエヒトに何らかの関りがあると言う事だろう。不安を感じるな、と言うほうが無理であろう。

 それを見た神羅は小さく息を吐き、ポン、とユエの頭を撫でる。

 

 「案ずるな。ハジメは本気でお前を愛してる。例えお前が何者であろうと、あいつはお前を恐れたりはせん。それに、もしも何かあった時は我らがお前を止める。ハジメ達がお前を繋ぎとめる。だからあまり不安がるな」

 「………ん」

 

 その言葉にユエは安心したかのように小さく頷く。

 

 (とはいえ、流石に少し気になるな……園部に連絡して調べてもらうか?)

 

 そうしていると、ハジメとイルワの話が終わる。一応、ここでイルワの後ろ盾をハジメは頼み、彼もそれを承諾。そしてハジメのランクは一気に黒にまで上がるらしい。本当は金ランクなら後ろ盾になりやすいのだが、そのための実績が町の復興への多大な貢献ではあと一歩足りないらしい。

 更にそのほかにもギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたり等、大盤振る舞いだ。

 その後、ハジメ達がその宿に入り、くつろいでいると、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。

  グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、ハジメと神羅が固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていき、物資の買い出しなどは明日済ませようと言う話で落ち着いた。

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