ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 ゆっくり投稿で申し訳ない。もう少し更新速度を上げたい……もうすぐ見せ場がくるから……


第53話 忍び寄る影 微睡む影

 淡い緑色の光だけが頼りの薄暗い地下迷宮に激しい剣劇音と爆音が響く。

 銀色の剣閃に炎弾に炎槍、風刃や水のレーザーの弾幕が飛び交い、強靭な肉体同士がぶつかる衝突音や怒号、気合の雄たけびが静寂を引き裂いていた。

 それもしばらくすると、片がついたのか次第に収まっていき、最後には地下迷宮にふさわしき静寂さを取り戻す。

 オルクス大迷宮89階層。そこで天ノ河光輝率いる勇者パーティはそこで魔物の群れと戦闘を繰り広げていたのだが、それを快勝で治めた彼らは戦闘態勢を解除しながら互いの健闘をたたえ合う。

 

 「ふう、次で90階層か……この階層の魔物も難なく倒せるようになったし、迷宮での実践訓練ももうすぐ終わりだな」

 「だからって気を抜いちゃだめよ。この先にどんな魔物やトラップがあるか分かったものじゃないんだから」

 「雫は心配しすぎってぇもんだろ?俺達、今まで誰も到達したことのない階層で、余裕を持って戦えてんだぜ?何が来たって蹴散らしてやんよ。それこそ魔人族が来てもな」

 

 雫の注意を龍太郎があっさりはねのけ、光輝と拳を突き合わせて不敵な笑みを浮かべる。

 その様子に雫はため息をつき、眉間のしわを揉み解す。

 

 「………ほら、これで治ったでしょ?」

 「お、おう。平気だぜ。ありが「じゃあもういいよね」っ……」

 

 一方、怪我人を治療していた治癒師の香織は近藤の治癒が終わるともう用はないと言わんばかりに冷ややかに視線を切る。他の怪我人の治療はもう一人の治癒師、辻綾子に任せている。あまり彼女としては他の面子の相手なんてしたくなかった。必要とあらばすぐに治療するが。

 香織は静かに迷宮の内部を見渡し、奥へと続く薄暗い通路を睨みつける。

 あと10階層で迷宮の最下層にたどり着くのに、未だに神羅とハジメの痕跡が見つかっていない。

 自分の目で確認するまで二人の死を信じないと言う強固な決意は普通なら沸いてくるネガティブな思考をはねのけているが、逆に彼女を苛立たせていた。普段ならもう少し抑えられるのだが、ここに来て抑えが効かなくなってきていた。

 だが、それと同時に疑問もある。あの奈落はいったいどこに繋がっているのだろうと。ここに来るまで、あの奈落と通じていると思われる竪穴は一切見つけていない。もしも二人の痕跡があるのなら、その竪穴がある階層だが、それに通じると思われる横穴すら見つけられていない。

 それともあの奈落はどこにも通じていないのか。もしくは………あの奈落は迷宮以上の深度に通じているのか………

 様々な可能性が考えられるが、香織は小さくため息を吐く。とにかく今は最下層まで探索しない事には話にならない。

 

 「香織……大丈夫?」

 「雫ちゃん……うん、大丈夫。行こう」

 「……大丈夫よ。今度はきっと守れるわ。レベルだってすでにメルド団長たちを超えているし」

 

 雫の言葉に香織は小さく頷くと気を落ち着けるように息を吐く。

 ちなみにメルド団長率いる騎士団たちは70階層にある30階層に繋がる転移陣の警護を務めている。彼らの実力ではそれ以上下には行けないからだ。

 そのタイミングで光輝が号令をかけ、彼らは出発。すぐに一行は下り階段を発見し、90階層に降り立つ。

 すぐさま彼らは探索を行うのだが、それが進むにしたがって彼らはある違和感を覚え始めていた。

 

 「……どうなっている。何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

 探索を始めて3時間と少し。その間一切の邪魔もなくスムーズに探索は進んだ。その結果、すでに探索は全体の半分近く済んでしまっている。逆に言えば、それだけ長い時間歩き回っているのに、一切魔物の襲撃はおろか、気配すらしていなかった、と言う事だ。それは、明らかな異常事態だ。

 その事実に気づいた彼らはたどり着いた広間で様々な可能性を話し合う。

 

 「……光輝。一度、戻らない? 何だか嫌な予感がするわ。団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

 

 雫が警戒心を強めながら光輝に提案するが、彼はそれに即答できなかった。

 確かに案全策を取るならそうするべきだ。だが、漠然とした不安感だけで撤退するのに僅かな抵抗感がアリ、89階層で余裕を持って戦えた自分達なら大丈夫、という考えもあった。

 そうして光輝が迷っていると、不意に周囲の探索をしていた遠藤が何かに気づいたように地面に触れる。

 

 「これ……血……だよな?」

 「薄暗いし、壁の色と同化しているから分かりづらいが……あちこちについているな」

 「おいおい……これ、結構な量なんじゃ……」

 

 遠藤の発見を機に光輝達は次々と広間内部に血痕の後を見つけ、一部の者達は顔を青くする。

 

 「天之河。八重樫さんの言った通り撤退したほうがいい。これは魔物の血だ」

 

 遠藤がいつになく強気で訴えるが、天之河は少し唸りながらも反論する。

 

 「そりゃあ、これだけ魔物の血があるって事はこの辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

 その言葉に永山が首を横に振って反論する。

 

 「天之河、よく聞いてくれ。魔物はこの部屋だけに出るわけではないだろう。これまで通ってきた通路や部屋にもいたはずだ。でも俺たちが見つけた痕跡はこの部屋だけ。つまり……」

 「……何者かが魔物を襲い、その痕跡を隠蔽したって事ね?」

 

 続けられた雫の言葉に光輝はようやく彼らが言わんとしている事を理解し、はっとする。

 

 「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

 「ここが終着点という事さ」

 

 光輝の言葉を引き継ぐように聞いたことのない女の声が響き渡った。光輝達は、ギョッとなって咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。

 コツコツと足音を響かせながら現れたのは赤い髪に、艶の無いライダースーツの纏った一人の女性。露出している肌は浅黒く、耳はわずかに尖っている。それは王国でさんざん叩き込まれた知識にある、自分達が召喚された理由、人間族の宿敵の特徴。

 

 「魔人族……」

 

 誰かのつぶやきに女魔人族は薄っすらと笑みを浮かべる。

 

 「勇者はあんたでいいんだよね?そのアホみたいにキラキラした鎧を着ているあんたで」

 「ア、アホ……う、うるさい!魔人族にアホ呼ばわりされるいわれはないぞ!それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

 「なんとまぁ、直情的な。本当に有用なのかねぇ。まあ、命令だからやるけど……勇者君、あたし達の側に来ないかい?」

 

 女魔人族が放った言葉に光輝は困惑を強くする。

 

 「なに?来ないかって……どう言う意味だ!」

 「そのまんまの意味だよ。魔人族側に来ないかって勇者君を勧誘しているの。色々と優遇するよ」

 

 他のメンバーが意味を理解し、どうするかと問うように光輝に視線を集中させる。ようやくその意味を飲み込んだ光輝は呆けた表情をキッと引き締めると女魔人族を睨みつけ、

 

 「断る!人間族を、仲間達を、王国の人達を裏切れなんて、よくもそんな事が言えたな!やっぱりお前達魔人族は邪悪な存在だ!わざわざ俺を勧誘に来たようだが多勢に無勢だ。投降しろ!」

 

 光輝の啖呵に香織は思わず舌打ちをし、即座に仕込みを行う。一人で来た、と光輝は言ったが、自分達だってここに来るまで、仲間と一緒に来た。ならば、彼女も自分以外の戦力を連れていると考えるのが普通だ。

 視線を動かせば、雫と永山も動き出している。彼らも状況を理解しているのだ。

 

 「一応お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?」

 「答えは同じだ。何度言われても裏切るつもりなんてない!」

 

 光輝が聖剣に光を纏わせながら答えると、

 

 「そう……ならあんたに用はない。あんたの勧誘は可能であればであって、場合によっては排除の命令も出てる。殺されないなんて考えない事だね。ルトス、ハベル、エンキ、えさの時間だよ!」

 「!獄絶鎖!」

 

 女魔人族が叫ぶと同時に香織が獄絶鎖を発動。地中から勢いよく無数の鎖が飛び出し、そのまま天井に突き刺さる。それは即席のトラップ。敵に刺されば動きを止め、刺さらなくても障害物として機能する。

 それはただの勘だ。ダメ元で仕込んだ魔法を発動させただけに過ぎない。

 だが、それが発動した瞬間、その鎖は何かを貫き、何かはバランスを崩して地面に叩きつけられる。だが、他の二つの何かが鎖を突破し一つは永山を吹き飛ばし、もう一つは結界師、谷口鈴が展開した障壁を破壊し、鈴を吹き飛ばす。

 間髪入れず見えない二つの何かが追撃をしようとするが、獄絶鎖が蠢き、パーティには当たらないように調整されながら放たれる。ほとんどの鎖は外れたが、一部は何かを貫き、叩きつけられる。逃れようと何か達はもがくが、それを見逃す雫ではない。何かがもがくことで起こる空間の揺らぎに剣を突き刺し、容赦なく振り抜き、深々とそれを切り裂く。更に香織が最後のトリガーを引き、内部を破壊し、絶命させる。

 絶命したことで何かの姿が露になる。それは獅子の頭に竜の手足、蛇の尾に鷲の翼を持つキメラだった。

 

 「護光で満た「ルゥガァァァァァ!」っ!」

 

 香織が鈴と永山を回復させようと香織が詠唱を始めようとするが、その瞬間、どこに潜んでいたと言うのか、二つの影が鎖を引きちぎりながら襲い掛かる。突然の事態に香織が身を固くした瞬間、

 

 「香織に近寄るな!」

 「させっかよ!」

 

 光輝と龍太郎が飛び込み、敵のメイスを弾き飛ばすが、敵は即座に二撃目を繰り出し、二人を吹き飛ばす。

 その敵は2mを超える、極限まで体を鍛えなおしたブルタールのような魔物だ。

 更に、未だ動けずにいるメンバーの元に気配を殺し、女魔人族の背後を取ろうとしていた遠藤が吹き飛ばさてくる。

 

 「遠藤!?」

 「ぐっ、気をつけろみんな!見えてる奴だけじゃない!そこかしこにいるぞ!」

 

 どうやらキメラの擬態能力は他の魔物にも効果を及ぼせるようで、それを利用しているようだ。

 

 「!呑み込め、紅き母よ、炎狼!」

 

 瞬間、恵理が炎の津波を放ち、一帯を焼き払おうとする。

 だが、その炎は見る見るうちにある一点に収束し、消えていく。まるで空間に穴が開いてそこに飲み込まれていくかのように。

 範囲魔法が無効化される事態に固まる恵理の視線の先で、炎を飲み込んだ犯人が姿を現す。

 それは6本足のリクガメのような魔物だった。背中の甲羅が炎のように真っ赤に染まっている。

 そしてリクガメが口を大きく開くと背中の甲羅が輝き、口から深紅の砲撃が放たれる。

 

 「しまっ……」

 「にゃめんな!守護の光は重なりて、意志ある限り蘇る、天絶!」

 

 恵理が顔を引きつらせるが、鈴が眼前に20枚の障壁を展開。砲撃は障壁に激突すると、一瞬で粉砕していくが、上方に反らされていく。しかし、砲撃はその威力でもって次々と障壁を破壊し、迫ってくる。鈴は必死に歯を食いしばりながら障壁を生み出し続け、砲撃を逸らし続ける。

 そこまで来て、ようやく残りのメンバーも戦闘態勢を整える。

 

 「永山君、斬り込むわ!後衛の守り、お願い!」

 「ああ、任された!」

 

 雫が残像すら残さない速度でブルタールモドキの背後を取り、神速の抜刀術を繰り出す。

 だが、ブルタールモドキはとっさに体を捻って直撃を避ける。胴体を両断するはずの一撃は脇腹を切り裂くにとどまる。

 ブルタールモドキが怒りの咆哮を上げながら振り向きざまにメイスを振るう。だが、雫はその時にはすでに反対側に回り込み、二の太刀を振るうが、それもかろうじて回避され、傷をつけるだけだ。

 そのまま雫が連撃を繰り出すも、ブルタールモドキを仕留めるには至らず、雫の表情に焦りが生まれ始める。

 だが、事態はさらに悪化の一途をたどる。

 突然部屋に新たな叫びが響くと、雫が戦っていたブルタールモドキの体が赤黒い光に包まれ、傷が瞬く間に癒えていく。

 雫が目を見開きながらもちらりと視線を動かせば、女魔人族の肩に双頭の白いカラスが留まっている。恐らくだが、そいつが犯人……

 

 「回復役までいるって言うの!?」

 

 あまりの事態に雫が悲鳴を上げる。

 それは雫だけではない。他の場所でも仲間たちが悲痛な叫びをあげている。かろうじて戦線は崩れていないが、それでも押される一方だ。

 

 「だいぶ厳しいみたいだね。どうする?やっぱりあたしらの側についとく?今ならまだ考えてもいいけど?」

 「ふざけるな!俺たちは脅しには屈しない!俺たちは絶対に負けはしない!それを証明してやる!行くぞ、限界突破!」

 

 冷めた様子で投げかけられた女魔人族の言葉に光輝は憤怒の表情を浮かべ、限界突破を発動させる。

 薄暗い闇の中、戦闘は更に苛烈さを増していき、轟音と振動が轟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 故にそれは薄っすらとだが、目を覚ます。だがまだ微睡みの方が強い。成熟したばかりと言うのもある。これならばすぐに眠りにつくだろう………これ以上の刺激を与えなければ。

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