ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

62 / 111
 


第54話 モブの覚悟

 フューレンを発って数日後。神羅達はオルクス大迷宮を内包する宿場町、ホルアドに辿り着き、その中を進んでいた。イルワからホルアドの冒険者ギルドへの頼まれごとをされたのもあるが、神羅とハジメは当初の予定通り、ここで秘密裏に香織と雫に自分たちの無事を報告しようと思っているのだ。

 

 「とりあえず、どうやって二人に接触する?宿に忍び込むか?」

 「それはやめとけ。見つかった時が色々と面倒だ。それと、幼子の前でそう言うことは言うな」

 

 ギルドまでの道筋をハジメと神羅はどうやって無事を知らせるか意見を交わす。その神羅に肩車されたミュウはきゃっきゃっと無邪気にはしゃいでいる。

 

 「……私たちが接触して誘い出す?」

 

 ユエが自分とシア、ティオを指さしてそう提案してくる。

 その意見に、それが無難か?と二人が首を傾げていると、

 

 「………のう二人とも。不躾かもしれぬが聞かせてくれ。二人はやり直したいと思った事はあるか?」

 

 不意のティオからの質問に神羅とハジメは訝しげな表情を浮かべる。

 

 「二人にとって、ここが全ての始まりで、これから会おうとしておるのが元々の仲間の中でも、特に仲が良かった者達なのじゃろ?ならば……」

 

 なるほど、と二人は頷く。確かにもっともな疑問だろう。特に自分たちの境遇を知っているとあっては、自分たちの行動はある意味で、現在のティオに重なる。だからこそ、なおさら彼女は聞きたいのだろう。

 

 「俺は思わん。どうしようもない過去もまた俺の物だ。ハジメが傷ついた事を、傷つく事を良しとするわけではないが、だからと言って今まであったことをなかったことにしようとは思わん」

 

 神羅の答えはユエ達からしてみれば、予想できたことだ。彼ならばそう言うだろうと。対し、ハジメはう~~ん、と悩むように腕を組み、

 

 「………分かんねぇな……それは……」

 

 顔を思いっきりしかめた状態でそう言う。

 

 「そりゃ、兄貴の言う事も分かる。奈落に墜ちた結果、俺は強くなれたし、ユエにも出会えた。どうしようもない絶望は味わったけど、そのおかげで今ここにいられるって。でも……あの奈落で味わった絶望は、避けられるなら、俺は避けたい。そうなるのが運命だなんて、俺は絶対に認めたくないし、選ぼうとも思わない」

 

 あの奈落でハジメは多くの絶望を味わった。腕を失い、飢えに苦しみ、どうしようもない怒りと憎悪に身を焦がした。だが、何よりもハジメを追い詰めたのは大好きな兄の死だ。だからこそ、仮死状態と分かっていても、もう一度同じ経験を、兄の死を目の当たりにしたとき、正気でいられる自信はハジメにはない。そこまでハジメは壊れていない。だから、兄が傷つくのを回避できるのなら、回避したい。それでユエと出会えなくなろうともだ。

 

 「……そうか……」

 

 ハジメの言葉にティオは神妙な面持ちで頷く。彼らの空気が静まり返り、それに気づいたミュウが不安そうに神羅の髪を握る。

 

 「あ、でも、一つだけ確かな事はあるぞ?」

 

 空気を察したハジメが慌てた様子で声を上げる。

 

 「ほう、それは?」

 

 神羅の問いにハジメは一瞬言葉に詰まり、恥ずかしそうに頬を掻きながら口をへの字に曲げ、

 

 「それは………………仮にどんな選択をしても、俺はユエを迎えに行ったし、ここにいる全員を助けるために動いたって事だよ」

 

 当然の事だ。ユエはハジメにとって最愛の少女だ。彼女の為ならば、例え運命が違おうと、絶対に、どれ程時間をかけようと探しだす。そして、シアやティオ、ミュウだってそうだ。一緒に行けなくなるかもしれなくても、今よりもずっと困難だったとしても、ハジメは彼女たちを助けるために戦う。

 その発言にユエとシアはぽかんと口を半開きにし、だが次の瞬間、ユエは嬉しそうに頬を緩めてハジメの手を握り、シアは顔を真っ赤にして俯いてしまう。ティオも面食らったように目を丸くし、それから穏やかに目を細め、小さくそうか、と呟く。

 

 「ねぇ、神羅お兄ちゃん。お姉ちゃん達どうしたの?」

 

 ミュウが不思議そうに問いかけると、神羅は苦笑を浮かべながら手を伸ばし、気にするな、と言うように彼女の頭を撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホルアドの冒険者ギルドの内装はファンタジー世界のギルド通りと言ったところか。

 正面にカウンター、左手に食事処があるが、壁や床は、ところどころ壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥や何かのシミがあちこちに付いているし、食事処では酒類の提供もしているようで酒の匂いが香っている。二回にも座席があるようでそこから一階よりもできる雰囲気の者達がこちらを見下ろしている。

 中にいる者達もブルックのようなほのぼのとした雰囲気とは違い、冒険者や傭兵など魔物との戦闘を専門とする戦闘者達が集まっているためか誰も彼も目がギラついていている。

 神羅達がギルド内に入ると冒険者達の視線が一斉に彼等を捉える。

 その眼光の鋭さにミュウがひぅ!と悲鳴を上げ、神羅の頭にしがみつく。それを以て神羅とハジメは違和感に気づき、念話を使う。

 

 (妙だな……ある意味テンプレだけど、それにしたって殺気立ちしすぎてる……)

 (確かにそうだな。何かあったのかもしれんが、この状態だと話を聞くのも一苦労だぞ)

 (………分かった。俺が少し驚かす。それで正気に戻ったなら、兄貴の方で話を聞いてくれ)

 (分かった)

 

 念話が終わると同時にハジメは神羅からミュウを受け取る。そしてミュウを片腕抱っこすると、瞬間的にプレッシャーを放つ。一瞬だけだったが、それはかなり凶悪な物で、立ち上がろうとしていた冒険者たちは驚愕したように目を見開いて再び座席につく。つき損ねて床に転がった者もいるがそこはご愛敬。

 それを確認したハジメはよし、と頷いて素早くカウンターの元に向かい、ユエ達もそれに続く。

 それを呆然と眺めていた床の冒険者に神羅が手を差し伸べる。

 

 「大丈夫か?」

 「え?あ、ああ……」

 「勢いあまって座ろうとするそうなる事もある。あまり気にするな」

 「そ、そうだな……」

 

 神羅の手を握りながら冒険者は立ち上がる。周りの者達も正気に戻ったようで、キョロキョロと周囲を見渡している。これなら大丈夫だろうと神羅は本題に入る。

 

 「ところで、先ほどは随分と物々しい雰囲気だったが、何かあったのか?」

 「ああ、それなんだが……少し前に変な奴がギルドに来たんだよ。何でも勇者が危ないとか、騎士達が全滅したとか……」

 

 その発言に神羅が小さく眉を顰め、更に詳しい話を聞こうとした瞬間、

 

 「き、金ランク!?」

 

 カウンターの方からそんな声が聞こえてきた。見れば、受付嬢が驚いた顔をしており、だが次の瞬間にはハジメ達に猛烈な勢いで頭を下げている。そして再び場内の注目がハジメに集まり、神羅がやれやれ、とため息を吐いて再び話を聞こうとした瞬間、受付嬢が引っ込んでいった奥から猛ダッシュするような音が聞こえてくる。

 何だ?と神羅達が首を傾げると同時にカウンター横の通路から全身黒装束の少年が勢いよく床を滑りなが飛び出し、誰かを探すようにキョロキョロと見渡す。

 

 「……遠藤?」

 

 その少年がクラスメイトの一人、遠藤浩介と言う事にハジメは驚いたように呟く。それを見た神羅が目を細めて彼らに向かって歩み寄っていく。

 

 「南雲弟!?いるのか?お前なのか!?どこにいるんだ!いるんなら出てきやがれ南雲ハジメ!」

 「がなるな。その様子だと、お前がこの空気の原因だな?」

 

 あまりの大声に片耳に栓をしながら神羅が言うと、遠藤はバッ!と振り返り、

 

 「お前、南雲兄!?い、生きていたのか!?」

 「ああ、生きている。ハジメも生きているぞ。ほれ、お前の後ろに」

 

 神羅が背後を指さし、再び遠藤は振り返り、周囲を見渡すが、

 

 「ど、どこだよ!どこにいるんだよ!?全然見当たらねぇぞ!?」

 「いや、目の前にいるから。と言うか、とりあえず落ち着けって。影の薄さランキング世界一位」

 「!? どこから声が!?ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

 「……こいつ、自分が死んだことに気づいていない浮遊霊ではあるまいな……」

 

 神羅がポリポリとうなじのあたりを掻きながら呆れていると、ようやく遠藤は自分が会話していたのが目の前の白髪眼帯の男だと気づき、その顔をマジマジと見つめる。

 

 「お前……南雲弟か?」

 「ああ、そうだよ。外見は色々変わっちまったが、正真正銘、南雲ハジメだよ」

 「そ、そうか……お前ら二人とも生きてたのか……そうか……生きてて……良かった……」

 

 その言葉にユエとシアがむっ、と眉を顰め、、神羅とハジメもまた小さく目を細める。

 それに気づかず、遠藤は神羅とハジメを見やり、

 

 「ていうか、お前等、冒険者してたのか?しかも金ランク……」

 「まあな」

 「つまり、迷宮の深層から自力で生還できるうえ、冒険者の最高ランクを貰えるぐらい強いってことだよな!?」

 「ま、まぁ、そうなるが……」

 

 すると、遠藤は飛び掛かるようにハジメの肩につかみかかり、悲痛な表情で嘆願する。

 

 「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ!頼むよ二人とも!」

 「お、おいちょっと待て。いきなりなんだ!?」

 「……それは先ほど冒険者が言っていた勇者の危機や騎士の全滅に関係する事か?」

 

 神羅の問いに遠藤はびくりと肩を震わせ、ハジメもまた驚いたように目を見開き、それに釣られるように遠藤が癇癪を起した子供のように叫び出す。

 

 「……ああ、そうだよ!メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

 

 その尋常ならざる様子にハジメは口を引き結ぶ。

 メルド団長は神羅とハジメがそろってこのトータスでも屈指の善人と認める男だ。その男が死んだ、と言う言葉にハジメと神羅は供に冥福を祈る。

 しかし、騎士団が全滅し、天之河達が追いつめられるとなると、まさか迷宮に怪獣の類が出現したのでは、と考えたところで、しわがれた声が聞こえてくる。

 

 「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」

 

 声の主は六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男がいた。恐らくホルアドのギルド支部長だろう。

 彼について行く形で神羅達はギルドの奥に足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「魔人族か……ここまで来たのか……」

 

 冒険者ギルド、ホルアド支部の応接室で、ハジメは小さく呟く。

 浩介の話を要約するとこうだ。迷宮90階層で勇者たちは魔人族の女と遭遇、戦闘となった。彼女は多数の未知の魔物を引き連れており、勇者たちであっても苦戦を強いられた。更に、魔人族の石化の魔法によって鈴、野村、斎藤、近藤の4名が石化して戦闘不能。このままでは全滅、と言う所で恵理の降霊術と光輝の魔法によってどうにか隙を作り、撤退に成功。89階層に隠し部屋を作りそこで彼らは休憩を取り、浩介はメルドたちに魔物の情報を伝えるために転移陣を守っていた彼らと合流。だが、撤退するなら騎士達が守っている転移陣に行くと考えて一直線に向かってきた女魔人族の襲撃で、メルドたちは命がけで何とか浩介を転移させた。恐らくだが、もう生きてはいないだろう。そして、転移先の30階層でも、転移に巻き込まれた一匹の魔物によって騎士達は全滅。魔物は打ち倒したが、そこまでだ。そして、浩介は光輝達の救援のために冒険者ギルドにやって来ていたのだ。

 話を聞き終えた支部長、ロア・バワビスは深刻な表情を浮かべ、室内は重苦しい雰囲気で満たされていた。

 その中でミュウはモスラの歌が納められたプレーヤーに無言で聞きほれている。不安そうにしていた彼女に神羅が貸し与えたのだ。

 

 「さて、ナグモ。イルワからの手紙でお前の事は大体わかっている。中々暴れているようだな?」

 「まあ、そうだな……」

 

 ハジメは小さく肩をすくめ、神羅もまた小さく鼻を鳴らす。

 

 「手紙にはお前の金ランクへの昇格に対する賛同要請とできる限り便宜を図ってほしいと書かれていた。一応事の概要ぐらいは把握しているがな……ウルの町の超巨大魔物と神獣の戦いから要救助者を連れての生還。半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅。にわかには信じられない事ばかりだが、イルワの奴が適当な事を伝えるとは思えん。お前ら、そのうち魔王だって言われるかもしれないぞ?」

 「よしてくれよ……俺は王の器じゃない。そんなふうに呼ばないでくれ」

 

 魔王と言う言葉に、ハジメは謙遜も何もなく素直にそう答えた。本物の王を目にしてしまっては、自分みたいな奴が王と呼ばれるなど、例え冗談でも勘弁してほしい。

 

 「謙遜しなくてもいいと思うが……まあいい。ともかく、今からお前達には冒険者ギルドホルアド支部長からの使命依頼を受けてほしい」

 「勇者たちの救出、か?」

 

 その言葉に遠藤が身を乗り出しながらハジメと神羅に捲し立てる。

 

 「そ、そうだ二人とも!一緒に助けに行こう!お前らがそんなに強いならきっとみんなを助けられる!」

 「……その前に一つ確認だ。白崎と八重樫は無事か?」

 「え?あ、ああ……二人とも無事だ。ていうか、白崎さんがいなかったらマジで危なかった……回復魔法や鎖を使った魔法がとんでもないって言うか……あの日、お前達が落ちたあの日から、何ていうか鬼気迫るっていうのかな?断髪したりして、こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでいて……何かオリジナルのものも生み出しているんだ」

 

 その言葉に神羅はふむ、と顎に手をやり、ちらりとハジメに視線を向ける。それを見たハジメはそれだけで意思を通じ合わせ、小さく息を吐き、腕を組む。

 即答しようとしないことに遠藤は困惑し、

 

 「どうしたんだよ!今、こうしている間にもあいつらは死にかけてるかもしれないんだぞ!何を迷ってんだよ!仲間だろ!?」

 

 そう遠藤が言った瞬間、ユエとシアがキッ!と怒気を滲ませながら遠藤を睨みつけ、

 

 「仲間………?ふざけるな……!下らない理由でハジメを痛めつけ、神羅をのけ者として、無能とののしり、挙句の果てには二人を殺した輩を無条件で許したくそ野郎どもがどの面を下げて……!ハジメ、神羅!こいつらなんて助ける価値はない!そのシラサキとヤエガシって人だけ助けよう!」

 「そうです!そんな連中、魔物の餌にでもしてやればいいんです!」

 

 ユエとシアの言葉に遠藤は狼狽し、声を詰まらせる。

 すると、神羅が小さく息を吐き、

 

 「落ち着け二人とも。感情的になるのは分かるが、ミュウがいる前で物騒な言葉を使うな」

 

 そう言って神羅がミュウに視線を向ければ、歌を聞きながらミュウが不安そうな表情を浮かべ、ハジメの腕にしがみついている。その様子に二人は気まずげに声を詰まらせる。

 

 「とはいえだ。二人の言う事ももっともだ。はっきり言えば、こいつらに我らがそこまでしてやる義理もない。故にだ………ロアよ。今回の依頼、報酬を出すとするならどれぐらいだ?」

 「え?そうだな……通常の救出系だとしても、対象が勇者だからな……大体だが……こんなものか?」

 

 ロアが紙に計算して叩きだした報酬額は中々の物だ。一応、人類の救世主である勇者の救出としては妥当な所だろう。

 

 「よし。ならば……遠藤よ」

 「な、なんだ……?」

 「今回の報酬、お前が全額自分が立て替えると言うのなら、我らはこの依頼を引き受けよう」

 

 その言葉に遠藤はなっ!?と目を見開く。

 

 「言っておくが、王国に泣きついて払ってもらう、と言うのは無しだ。全額、お前自身で稼いだ金で払え。さんざん迷宮にこもっていたのだ。それなりに貯まっているだろう?」

 

 その言葉に遠藤は小さく言葉を詰まらせる。

 

 「…………まさかとは思うが、買い物をしたことがない、なんて言わんよな?それなりに自由に使える金があるはずだが?魔石や素材を売った金が」

 

 神羅の確認に遠藤はあ、う、と言葉を失う。

 実を言うと、彼らは手持ちの資産はそれほど多くはない。何せ装備品は王国の宝物庫から用意された物があるので買う必要はない。食料も支給され、更に彼らは暇なときは王宮で過ごし、必要なものは言えばすぐに用意される。そして外に出た時も、たまに町に出るだけで、それ以外では迷宮にこもり続けていた。それなら金がたまり続けると思われるが、一番致命的なのは彼らが魔物を殺し続け、魔石などの回収をほとんどしてこなかったことだ。幾ら勇者だの使徒だの言われようと、彼らはただの高校生。倒すところまでは大丈夫でも、その体を解体する、と言う行為には強い嫌悪感を抱き、碌にしてこなかったのだ。故に、彼ら自身が稼いだ資金と言う意味では実は彼らはそれほど裕福ではない。

 

 「……まさかここまで馬鹿とは思わなかったぞ」

 「だな。俺達だって毎度、ってわけじゃないけど魔物の素材や魔石を回収しているのに……」

 

 ハジメと神羅の呆れの眼差しに遠藤は何も言えず、俯いてしまう。

 

 「とはいえ、そう言う事なら話は別だ。ロア、この依頼は無しで。俺たちは別に用事があるからそれで」

 

 そう言うとハジメは立ち上がり、ユエとシア、ティオは困惑の表情を浮かべてどういうことか聞こうと口を開こうとする。だが、神羅が口元に指をあててながら立ち上がると、思わず互いに顔を見合わせる。

 ロアが思わず彼らを引き留めようとしたとき、

 

 「………わ、分かった!払う!全額俺が払う!だから、みんなを助けてくれ!」

 

 遠藤が絞り出すように叫び、その場の全員が彼を注視する。

 

 「………先ほどの様子だと、資金はないように思えるが?」

 「ああ、今はない。でも、いつか必ず払う!なんだったら、俺の装備を売っぱらって金を作る!だから……頼む!お前たちの力を貸してくれ!」

 

 そう言って遠藤はその場に土下座をする。

 ああ、そうだ。ユエと呼ばれた少女の言う通りだ。さんざん酷い扱いをしておいて、強くなって戻ってきたら手のひらを返して仲間扱い。自分の行いは間違いなく最低だ。

 更に言えば檜山の件だってそうだ。メルドは自分に、勇者だけでも助けてこい、と自分たちを見捨てるような発言をしたが、それはまさしく苦渋の決断だった。だが、自分たちはそんなこと考えず、彼ら二人殺した相手を無条件に許した。見捨てられても文句は言えない。

 それでも、ここで彼らの力を借りれなければ、万に一つもみんなを助けられない。そのためなら、自分のちっぽけなプライドなど、幾らでも捨ててやる……!そんな覚悟を胸に遠藤は頭を下げていた。

 少しの間、沈黙が流れると、

 

 「……流石に土下座までさせるつもりはなかったが………まあ、覚悟の表れと受け取ろう」

 

 神羅の気まずげな言葉に遠藤が恐る恐る顔を上げると、神羅は小さく溜め息をつき、ハジメは少し居心地悪そうな表情を浮かべながら頭を掻いていた。

 そして神羅は遠藤の前に膝をつき、

 

 「いいだろう、遠藤。その覚悟に免じてお前の金の件は無しだ。そもそも、依頼などなくても、我らは奴らの救出に向かった。用事とはそれなのだからな」

 

 遠藤は状況が飲み込めず、ぽかん、と口を半開きにしながら神羅を見つめる。ユエとシアも似たような表情だ。

 

 「......もしかして、さっきのは演技?」

 「心情的には嘘は言ってない。だがまあ、これぐらいの仕返しはいいだろ」

 「流石に断髪までしたって言うんなら、放るなんてできないっつうの。それに元々ここには二人に会いに来たんだしな」

 「と、いう訳だ。ロア。その依頼、受けよう。報酬はそちら持ちな。後、ミュウに部屋を用意してやってくれ。ティオ。お前は今回も残れ」

 

 神羅の言葉にロアはやれやれ、とため息を吐きながら了承を示し、ティオもうむ、と頷く。

 

 「二人とも……本当にこいつらを助けるの?」

 

 神羅とハジメを心配するように口を開いたユエに、

 

 「……さっきも言ったが、本当ならそこまでしてやる義理なぞない。だが、二人が奴らと一緒にいるのなら、助けに行かねば二人が死ぬ。それは避けねばならん」

 「ま、そうだな。それに、俺としては檜山に一発かましてやりたいって気持ちもある。どっちにしろ行くしかねえよ」

 

 憮然とした表情でごきっ、と指を鳴らすハジメを神羅は小さく息を吐きながら眺め、

 

 「それにこいつはこいつなりの覚悟を見せた。ならば、踏みにじってはそれこそ外道よ……だが、遠藤。今回の件、一応お前の覚悟に免じてこれぐらいで勘弁してやるが、他の連中が妙な事を口走った時はそれに応じた対応を取る……いいな?」

 

 神羅が不機嫌そうに睨むと、遠藤はビクッ!と肩を震わせるが、

 

 「あ、ああ……分かった………ありがとう、二人とも……」

 「ユエとシアはどうする?正直俺たち二人だけで十分だと思うけど……」

 「……ううん。一緒に行く」

 「わ、私も行きます!」

 「なら、さっさと行こうぜ」

 

 ハジメの言葉に全員が頷き、事情を聞いてついて行くと駄々をこねたミュウを宥めてからとティオにこもりを任せて出発する。




 勇者たちの懐事情は完全に自分の想像ですが、少なくとも魔物の素材や魔石を回収している描写が売却含めてほとんどないのでこんな感じに。案外お小遣い制かもしれませんが……
 スマブラにまさかのソラ参戦……自分、スマブラはほとんどやっておらず、キングダムハーツもそこそこどまりですが、それでも凄い事を桜井さんがやったことだけは分かる……素直にすげぇ、と思いましたよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。