ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 今回、イメージしたのはゴジラ・キングオブモンスターズのゴジラがマディソンを助ける所です。

 現在、初めてのテイルズシリーズのアライズをやっています。面白いですね。凄く。ストーリーもいいですし。なんとなくとはいえ、やってこなかったの勿体なかったかも……だけどさ、30レべ代の時に50レべの敵出すのはやめて。しかもザコって……


第55話 あがきし者に王は応える

 オルクス大迷宮、89階層の最奥付近の正八角形の部屋の通路の隠し部屋。そこで光輝達は休憩をしていた。もっとも、場の空気は一様に暗く、澱んでいる。

 ここに隠れ潜んでもうどれほど経っただろうか。とりあえず負傷者の治療は済ませてあり、石化した者もすでに回復し、意識を取り戻している。鈴だけは未だ意識を取り戻さないが、危険な状況は脱していた。

 

 「うっ……」

 「「鈴!」」

 

 そんな彼女がうめき声と共に目を開けると、そばにいた雫と恵理が安堵を滲ませながら彼女の名前を呼ぶ。

 

 「し、知らない天井だぁ~」

 「鈴、貴方の芸人根性は分かったから、こんな時までネタに走って盛り上げなくていいのよ?」

 

 即座にネタに走る彼女に呆れと感心の表情を向けながら雫が水筒を渡し、水を飲ませる。

 水を飲み、「生き返ったぜ、文字通り!」とシャレにならないことを口にしながら体を起こし、その体を恵理が支える。

 鈴のように他のクラスメイトも思わず笑みを浮かべ、入り口付近にいた香織も振り返り、安堵のため息を吐き、彼女の元に向かう。

 

 「鈴ちゃん、大丈夫?もう少し横になってたほうがいいんじゃない?流れた血は取り戻せないから……」

 「う~ん、このフラフラする感じはそれでか~。あんにゃろ~、こんなプリティーな鈴を貫いてくれちゃって……〝貫かれちゃった♡〟ってセリフはベッドの上で言いたかったのに!」

 「鈴! お下品だよ! 自重して!」

 

 起きてすぐ、いつもの調子で冗談を口にする鈴を恵理が慌ててたしなめる。その騒ぎを聞きつけ、光輝と龍太郎も近寄ってくる。

 

 「鈴、目を覚ましてよかった。心配したんだぞ?」

 「よぉ、大丈夫かよ。顔、真っ青だぜ?」

 「おはよー、光輝君、龍太郎君!何とか逃げ切ったみたいだね?えっと、みんなは……無事……なんだよね?一人少ない気が……」

 

 首を傾げる鈴に光輝達は自分たちの現状を説明する。一通り説明が終わったところで、鈴はなるほど、と頷く。

 

 「そっか、鈴が気絶してから結構時間が経っているんだね……あ、カオリン、ありがとね!カオリンは鈴の恩人だね!」

 「私は自分の仕事をこなしただけだから……」

 「くぅ~、ストイックなカオリンも素敵!結婚しよ?」

 

 そのまま絡んでくる鈴を香織はため息とともにあしらい、恵理がたしなめる。それは彼らにとっていつも通りの光景だった。それを目にして、他の者達も心の余裕を取り戻す。だが、そんな状況でも水を差す輩と言うのは存在する物だ。

 

 「……なに、ヘラヘラ笑ってんの? 俺等死にかけたんだぜ? しかも、状況はなんも変わってない! ふざけてる暇があったら、どうしたらいいか考えろよ!」

 

 近藤が苛立ったように怒鳴り声を上げ、同様に近くにいた斎藤も非難がましい目を向ける。

 

 「おい、近藤。そんな言い方ないだろ?鈴は、雰囲気を明るくしようと……」

 「うっせぇよ!お前が俺に何か言えんのかよ!お前が、お前が負けるから!俺は死にかけたんだぞ! クソが! 何が勇者だ!」

 「てめぇ……誰のおかげで逃げられたと思ってんだ?光輝が道を切り開いたからだろうが!」

 「そもそも勝っていれば、逃げる必要もなかっただろうが!大体、明らかにヤバそうだったんだ。魔人族の提案呑むフリして、後で倒せば良かったんだ!勝手に戦い始めやがって!全部、お前のせいだろうが!責任取れよ!」

 「それはそうかもしれねぇけど、今光輝を責めても仕方ねぇだろう!」

 

 口論は瞬く間に発展していき、近藤と斎藤と中野が龍太郎と対峙し、睨み合うが、それに光輝が割って入る。

 

 「龍太郎、俺はいいから……近藤、責任は取る。今度こそ負けはしない!もう、魔物の特性は把握しているし、不意打ちは通用しない。今度は絶対に勝てる!」

 「……でも、〝限界突破〟を使っても勝てなかったじゃないか」

 「そ、それは……こ、今度は大丈夫だ!」

 「なんでそう言えんの?」

 「今度は最初から〝神威〟を女魔人族に撃ち込む。みんなは、それを援護してくれれば……」

 「でも、長い詠唱をすれば厄介な攻撃が来るなんてわかりきったことだろ? 向こうだって対策してんじゃねぇの? それに、魔物だってあれで全部とは限らないじゃん」

 

 限界突破を使っても勝てなかったからか、近藤たちは光輝の言葉に不信感を得ているようで、疑わし気な視線を向ける。更にそれに触発されたのか、他のメンバーも険悪なムードが漂い始める。

 雫が彼らを落ち着かせようとした瞬間、

 

 「………魔人族をここにおびき寄せる」

 

 香織の言葉に全員がえ?と耳を疑ったように目を丸くする。

 

 「か、香織……?何を言ってるんだ……?魔人族をおびき寄せるって………」

 「そのまま。この部屋の奥に通路を作って、そこに潜って、部屋全体に獄絶鎖を仕掛ける。そして奴らがここに突入したタイミングで発動させて、魔物を一気に削る。その隙に天之河君が魔人族を討つ。これでどう?」

 

 香織の提案にクラスメイト達は戸惑いながらも考える。

 香織自身自覚している事だが、あまりにも無茶で、無謀な作戦だ。失敗すれば間違いなく自分たちは全滅する。今度は撤退もできない。リスクの方がでかすぎる。だが、かといってほかに妙案があるかと言われればそうとも言えない。それに、獄絶鎖の威力は誰もが知っている。あれにからめとられれば最後。何人たりとも逃れることもできずに絶命するしかない。それなら例え女魔人族がどれほど強力な魔物を連れていても倒すことができる。ならば……

 実行するか否か、判断できずに呻いていると、低いうなり声が壁の向こう側から聞こえてきて、更に壁を引っ掻くような音も響く。その音に全員が一斉に体を強張らせる。

 少しすると、その音は魔物の気配と共に遠ざかっていく。その事に一同は安堵の息を吐く。

 

 「もう時間がないわね……香織の案でいきましょう。香織。もう少し回復したら、お願いできる?」

 「うん、まかせて」

 

 雫がみんなもそれでいいわね?と聞くと、全員が小さく頷く。ようやく方針がまとまった。その事実に全員の気が緩んだ瞬間、轟音と共に隠し部屋と外を隔てる壁が砕け散る。

 

 「っ!獄絶鎖!」

 

 その瞬間、香織は事前に仕掛けておいた獄絶鎖を起動。飛び出した鎖が飛び込んできたブルタール擬きと黒猫の一団を縛り、地面に叩きつける。だが、鎖にできたのはそこまでだった。それを掻い潜った残りの黒猫が背中の触手を弾幕のように繰り出してくる。

 

 「天絶!」

 

 だが、それは鈴がとっさに展開した障壁によって軌道を逸らされる。無傷、とはいかないが、どうにか致命傷を負う事だけは避ける。だが、それでも入り口からは他の魔物が続々と侵入を果たそうとする。

 

 「光輝! 〝限界突破〟を使って外に出て! 部屋の奴らは私達が何とかするわ!」

 「だが、鈴達が動けないんじゃ……」

 「このままじゃ押し切られるわ! お願い! 一点突破で魔人族を討って!」

 「光輝! こっちは任せろ! 絶対、死なせやしねぇ!」

 「……わかった! こっちは任せる! 〝限界突破〟!」

 

 光輝が光のオーラを纏って外に出る。

 それを確認すると、香織は即座に最後のキーを唱え、縛っていたブルタール擬きと黒猫を仕留め、自由になった鎖が蠢き、残りの黒猫たちに殺到。その身体を強く打ち据える。それによって体制が崩れた隙を見逃さず、雫が切り込み、何体か切り捨てる。更に鎖は荒ぶり、次々と黒猫に襲い掛かる。黒猫たちは即座に跳んで回避しようとするが、蛇のごとくうねる鎖が黒猫たちに文字通り食らいつき、縛り上げ、地面に叩きつける。その隙に雫やほかの前衛組が黒猫を次々と打ち倒していく。

 だが、3分の1ほど倒したところで香織に限界が訪れた。鎖が霧散し、自由になった黒猫たちはその場から飛びのき、雫の斬撃を回避する。それなりには減らせたが、未だに数が多く、予断を許さない状況だ。それでも香織が諦めずに別の魔法を放とうとした瞬間、魔物たちの動きが止まる。

 その事に彼らが訝しげな表情を浮かべていると、生き残った魔物たちはそのまま部屋から引き揚げていく。

 そのまま少しの間、クラスメイト達は警戒心剥き出しで部屋の入り口を見ていたが、追撃はこない。

 そして彼らはそのままゆっくりと、警戒しながら全員で部屋の外に出ることにする。このままここにいたところで意味がない。それに、魔物が引き上げた、と言う事は光輝が司令塔の女魔人族を撃退したと言う可能性もなくはないからだ。

 そんな警戒心と、一縷の望みを胸に彼らは隠し部屋から出るが、

 彼らが目にしたのは馬の頭にゴリラの胴体、そして四本の豪腕を持った魔物と、その魔物に首根っこをつかまれ、吊るされた光輝だった。

 

 「うそ……だろ? 光輝が……負けた?」

 「そ、そんな……」

 

 その光景に彼らは今度こそその表情を絶望に染める。もっとも、香織だけは動揺するも、即座に思考を切り替える。彼女はまだ諦めていない。

 

 「ふん、こんな単純な手に引っかかるとはね。色々と舐めてるガキだと思ったけど、その通りだったようだね」

 「……何をしたの?」

 「ん? これだよ、これ」

 

 雫が青ざめた表情ながら女魔人族に問うと、彼女はブルタールもどきに掴まれている何か、いや、誰かを一行に見せた。

 

 「メルド……団長?」

 

 それは、70層で転移門を守っていた筈のメルドだった。他に騎士の人たちは居ない。

 それだけで何があったか理解した。女魔人族はメルド団長だけは生かした。光輝への人質として利用するために。恐らく、他の騎士達は全滅しているだろう。その結果、光輝は激昂と共に魔人族に襲い掛かった。だが、そこにキメラの迷彩能力で隠れていたあの大型魔物が襲い掛かり、やられたのだろう。

 

 「……それで? 私達に何を望んでいるの? わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」

 「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。前回のあんた達を見て、もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう? 中々、あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね。で? どうだい?」

 

 魔人族の女の言葉に何人かが反応する。それを尻目に、雫は、臆すことなく再度疑問をぶつけた。

 

 「……光輝はどうするつもり?」

 「ふふ、聡いね……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう? 彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない」

 「……それは、私達も一緒でしょう?」

 「もちろん。後顧の憂いになるってわかっているのに生かしておくわけないだろう?」

 「今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかしら?」

 「それも、もちろん思っている。だから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」

 「自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」

 「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」

 

 雫と魔人族の女の会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。魔人族の提案に乗らなければ、光輝すら歯が立たなかった魔物達に襲われ十中八九殺されることになるだろうし、だからといって、魔人族側につけば首輪をつけられ二度と魔人族とは戦えなくなる。それはつまり、実質的に〝神の使徒〟ではなくなるということだ。そうなった時、自分たちは元の世界に帰れるだろうか……

 

 「わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

 

 誰も答えを出せない中、いの一番に答えたとのは意外にも恵理だった。だが、その答えに龍太郎は顔を怒りに染める。

 

 「恵里、てめぇ! 光輝を見捨てる気か!」

 「ひっ!?」

 「龍太郎、落ち着きなさい。恵里、どうしてそう思うの?」

 「わ、私は、ただ……みんなに死んで欲しくなくて……光輝君のことは、私には……どうしたらいいか……うぅ、ぐすっ……」

 

 ポロポロと涙を流しながら言葉を紡ぐ恵理に全員が言葉を失っていると、

 

 「俺も、中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

 「檜山……それは、光輝はどうでもいいってことかぁ? あぁ?」

 「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか? 俺達全員?」

 「そうじゃねぇ! そうじゃねぇが!」

 「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

 

 檜山の言葉に周囲の雰囲気が誘いに乗る方に流れていく。だが、光輝を見殺しにする事への罪悪感から踏み切れないでいる。すると、そんな心情を察したのか女魔人族が提案する。

 

 「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら……生かしてあげようか? もちろん、あんた達にするものとは比べ物にならないほど強力な首輪を付けさせてもらうけどね。その代わり、全員魔人族側についてもらうけど」

 

 その提案に雫は小さく舌打ちをする。脅威と言ってきながら女魔人族が光輝を生かしていたのはこの為だろう。案の定と言うべきか、周囲のクラスメイト達は寝返るのも良しと言う雰囲気になり始めている。

 その光景に香織は湧き上がる怒りにギリっ、と奥歯を噛む。ふざけるな。神羅とハジメが奈落に墜ちた時、お前たちはどうした?檜山に何も罰を与えず、あっさりと許し、それ以降何も言わない。触れようともしない。そのくせあの男に関してはその態度?ふざけるな、ふざけるな……!

 怒りに顔を歪ませる香織の様子に女魔人族が訝しげな表情を浮かべた時、

 

 「み、みんな……ダメだ……従うな……」

 「光輝!」

 「天之河!」

 

 意識を取り戻した光輝が搾り出すように声を発する。

 

 「……騙されてる……アランさん達を……殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」

 「……こんな状況で、一体何人が生き残れると思ってんだ? いい加減、現実をみろよ! 俺達は、もう負けたんだ! 騎士達のことは……殺し合いなんだ! 仕方ないだろ! 一人でも多く生き残りたいなら、従うしかないだろうが!」

 

 檜山の怒声にその場の全員が再び裏切りへと心を傾けた瞬間、新たな声が響き渡る。

 それはブルタール擬きに捕まっていたメルドだった。

 

 「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ! ……信じた通りに進め! ……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」

 

 その言葉は、ハインリヒ王国に忠誠を誓った騎士ではなく、メルド・ロギンス個人としての言葉だった。そして、その言葉に呼応するようにメルドの身体から、正確にはその首に下げた宝石が輝く。

 その光景に光輝達が目を見開いていると、メルドはブルタール擬きを振り払い、女魔人族目掛けて勢いよく組み付く。

 

 「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」

 「……それは……へぇ、自爆かい? 潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」

 「抜かせ!」

 

 それは最後の忠誠と呼ばれる自爆用の魔道具の輝きだ。国の中で重役に就くと言う事は国に関する重要な情報を持つ事になる。それを闇魔法、もしくは拷問の類で敵勢力に渡るのを防ぐ溜めにと持たされているものだ。いざと言うときは敵を巻き込んで自爆しろと言う意図で。その光景に光輝達は悲鳴じみた声でメルドの名を叫ぶが、女魔人族は一切余裕を失っていない。

 

 「喰らい尽くせ、アブソド」

 

 と、魔人族の女の声が響いた直後、臨界状態だった〝最後の忠誠〟から溢れ出していた光が猛烈な勢いでその輝きを失っていく。

 

 「なっ!? 何が!」

 

 よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいるようだった。メルドが、必死に魔人族の女に組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物、アブソドがおり、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。

 最後の忠誠の魔力が完全に吸い尽くされ、呆然としていたメルドだったが、直後、女魔人族の砂塵の刃が彼の腹を貫き、メルドは口から血が流れる。

 

 「……メルドさん!」

 

 光輝が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から光輝に目を転じ、眉を八の字にすると「すまない」と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。そのまま刃が振るわれ、メルドの身体は吹き飛び、地面に叩きつけられる。

 その光景に香織は一瞬息を呑むと、視線を鋭くして魔力を振り絞り、メルドに回復魔法をかける。もうほとんど魔力が残っておらず、傷は塞がらず、香織自身倦怠感に襲われるが、膝をつこうとはせず、回復魔法をかけ続ける。

 

 「まさか、あの傷で立ち上がって組み付かれるとは思わなかった。流石は、王国の騎士団長。称賛に値するね。だが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」

 

 女魔人族が光輝達を睥睨し、一部の物を覗いてみんなが身を震わせる。彼女の提案に乗らなければ自分達もああなると誰もが理解した。

 

 「……るな」

 

 檜山が代表してその提案を受け入れようとした直後、光輝が何かを呟く。その声に、檜山は思わず言葉を飲み込む。女魔人族もどうせ喚くだけだろうと高をくくっていたが、光輝が顔を上げ、その白銀に輝いた眼光に射抜かれた瞬間、彼女は息を呑む。既に満身創痍のはずの光輝から今までに無いプレッシャーを感じ、女魔人族は思わず後ずさり、本能の警鐘のままに馬頭の魔物に命令を下す。

 

 「アハトド! 殺れ!」

 「ルゥオオオ!!」

 

 命令を受け、馬頭改め、アハトドが2本の腕で光輝を圧殺しようとしたが、直後に光輝の体から今まで以上の光の奔流が立ち昇る。そして光輝が拳を振るうと自分を掴んでいたアハトドの腕を容易く粉砕した。悲鳴と共にアハトドは光輝を手放してしまい、拘束から解放された光輝は次いでアハトドに回し蹴りを放つ。するとアハトドは肉体をくの字に曲げた状態で壁にたたきつけられ、壁にめり込む。

 

 「お前ぇー! よくもメルドさんをぉー!!」

 

 それは限界突破の終の派生技能、覇潰の輝きだった。光輝が手をかざせば、取り落とされていた聖剣が飛び出し、その手に収まる。光輝は魔力の奔流を体に収束させると、怒りのままに一直線に女魔人族との距離を詰める。途中魔物たちの妨害が入るが、光輝はそれを一閃の下に斬り捨てる。そして女魔人族の元に踏み込む。

 女魔人族は舌打ちと共に砂塵を盾にするが、光輝はそれをあっさりと切り裂き、その奥にいる彼女を袈裟切りにし、吹き飛ばされる。致命傷ではないが、重傷には違いなく、白カラスが回復魔法を発動させるが、すぐには動けない。

 

 「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

 

 そう言うと女魔人族は懐からロケットペンダントを取り出す。

 それを見た光輝が、まさか自爆か、と表情を険しくして一気に距離を詰め、聖剣を振り上げる。が……

 

 「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

 その呟きに光輝の手は止まる。覚悟した衝撃が訪れないことに女魔人族は訝しげな表情で顔を上げ、光輝の顔を見る。

 その顔は愕然と目を見開いており、その瞳には何かに気づき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。

 それを見た女魔人族は剣が止まった理由を悟り、光輝に侮蔑の眼差しを向ける。

 

 「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい? 〝人〟を殺そうとしていることに」

 「ッ!?」

 

 事実、光輝にとって魔人族は。イシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。

 だが、今この時、彼はようやく悟ったのだ。魔人族とは自分たちと同じように誰かを愛し、誰かに愛され、必死に生きている人であると。自分がしようとしているのは人殺しであると。

 

 「まさか、あたし達を〝人〟とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

 「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

 「ハッ、〝知ろうとしなかった〟の間違いだろ?」

 「お、俺は……」

 「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の〝狩り〟なのだろ? 目の前に死に体の一匹(・・)がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように……」

 「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

 

 聖剣を下げてそんな事を言う光輝に女魔人族は心底軽蔑したような目を向けながら、周りの魔物に命じた。

 

 「アハトド! 剣士の女を狙え! 全隊、攻撃せよ!」

 

 瞬間、復活したアハトドが猛然と雫に襲い掛かり、他の魔物もクラスメイト達に襲い始める。

 

 「な、どうして!」

 「自覚のない坊ちゃんだ……私達は〝戦争〟をしてるんだよ! 未熟な精神に巨大な力、あんたは危険過ぎる! 何が何でもここで死んでもらう! ほら、お仲間を助けに行かないと、全滅するよ!」

 

 アハトドが雫の眼前に迫った瞬間、

 

 「獄絶鎖!」

 

 香織が放った獄絶鎖がアハトドの全身を襲い、強固に縛り上げる。だが、アハトドは咆哮を上げながら全身に力を籠める。その負荷に鎖が悲鳴を上げ、香織が脂汗を流しながら押さえつけようと力を籠める。その香織を狙って他の魔物が襲い掛かるが、それをどうにか間に合った光輝が切り捨てる。

 だが、そこで光輝はガクンと膝から力が抜け、そのまま倒れ込んでしまう。覇潰のタイムリミットだ。

 

 「こ、こんな時に!」

 「光輝!」

 

 雫はとっさに光輝を仲間の元に投げ飛ばし、香織に視線を向ける。香織は小さく頷くと、獄絶鎖を意図的にほどく。

 唐突な開放に思わずアハトドがつんのめるが、その隙に雫は潰れたアハトドの腕の傷口を抉る。

 絶叫を上げて後退した隙に雫は傷を癒し、立ち上がった女魔人族との距離を詰める。

 

 「……へぇ。あんたは、殺し合いの自覚があるようだね。むしろ、あんたの方が勇者と呼ばれるにふさわしいんじゃないかい?」

 「……そんなことはどうでもいいわ。光輝に自覚がなかったのは私たちの落ち度でもある。そのツケは私が払わせてもらうわ!」

 

 光輝が思い込みが激しい性格とはいえ、まさかここまでとは思っていなかった。神羅がきちんと人と殺し合うと言っていたにもかかわらず、彼はその言葉の意味をまるで捉えていなかった。神羅の釘は知らぬ間に抜けていたどころか刺さってすらいなかったのだ。その事を確認しなかった責任に歯噛みし、人殺しの重圧に押しつぶされそうになり、泣き出しそうになりながらも、雫は女魔人族に斬りかかる。

 が、その雫に向けて黒猫が触手を繰り出してくる。とっさに体を捻って回避には成功するが攻撃は失敗する。

 

 「ほかの魔物に狙わせないとは言ってない。決意は立派だけどね、アハトドと他の魔物を相手にしながらあたしを殺せるかい!?」

 

 雫は何とか魔物の波状攻撃を回避していくが、そこにアハトドが乱入、その爆撃のような拳を高速で動く雫を狙って拳を繰り出してくる。どうにか回避していくが無傷とはいかず、何撃目かで、遂にその拳が雫を捉える。とっさに剣と鞘を盾にしたが、その威力によって二つは砕け散り、拳は雫を吹っ飛ばす。地面に叩きつけられ、力なく横たわる雫。その右腕は使い物にならないほどのダメージを負っている。

 その雫にとどめを刺さんとアハトドが迫る。が、

 

 「獄絶鎖ァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 絶叫と共に放たれた鎖がアハトドを再び縛り上げ、その動きを止める。

 その隙に香織が雫の元に駆け寄ると、片手でその体を掴み、引き摺りながら後ろに下がろうとする。

 だが、もう限界に近い香織では獄絶鎖を維持しながら脱力した人一人を引っ張るのは困難だった。その歩みはあまりにも遅く、更にアハトドも、すぐに力づくで鎖を破るだろう。

 

 「香織……何をして……」

 「黙って……」

 「早く…みんなの所に……」

 「黙って……!」

 「早く逃げて……貴女だけでも……!」

 「黙ってぇっ!」

 

 雫の言葉を香織は遮る。

 

 「誓ったんだ……強くなるって……!誰も死なせないって……!私の前で、誰も死なせない……死なせてたまるか………!!」

 

 それは、彼女のもう一つの誓い。あの時、何もできず、二人が落ちていくのを見ているだけだった。もうそんなのは嫌だ。そんなのは嫌だ!だからこそ、例え気に食わない奴が相手でも、誰も死なせない。死なせたくない!

 瞬間、甲高い音と共に獄絶鎖が砕け散り、自由になったアハトドが咆哮を上げながら香織と雫に迫る。

 それに気づいた香織はきっ!とアハトドを睨みつけ、

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 喉が潰れんばかりの咆哮を上げる。

 その瞬間だった。

 凄まじい轟音と共にアハトドの頭上の天井が崩落する。そこから現れたのはチェレンコフ光を纏った一つの人影。

 青白い光を纏った人影はそのままアハトド目掛けて光を纏った拳を繰り出す。抵抗なんてなかった。まるで豆腐のようにその巨体は爆散し、その残骸は僅かな肉片に至るまで灰燼と帰す。

 そのまま人影はダンっ!と着地する。その光景に、その場にいた全員が時が止まったかのように硬直する。戦場に似つかわしくない静寂が広がる中、人影は長い黒髪をひるがえしながら背後の香織と雫に目を向ける。

 その顔を見た瞬間、香織の体に電撃が走る。それに気づかず、彼は二人の姿を確認し、

 

 「………ふむ、どうにか間に合った、と言う所か」

 

 ほっ、と息を吐き、安堵の表情を浮かべる。その表情で、その声で、夢ではないと確信し、香織はその名前を呼ぶ。

 

 「神羅君!!」




 最後の助けるところ、熱線もいいなぁ、と思ったのですが、なんか、迷宮を何階層もぶち抜きそうだったので没になりました。
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