ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 今回は割と早く投稿できました。


第56話 王の行進

 「え?し、神羅君?うそ、え?本当に?」

 「ふむ、理解が追い付かんのは分かるが、一応落ち着け、八重樫」

 

 そう言って神羅はぽん、と雫の頭を軽くなでる。その感触に目の前の事が現実であるとようやく悟り、思わず、と言う風に雫の身体から力が抜ける。その瞬間、襲い掛かった激痛にうめき声を上げる。

 

 「酷い有様だな……白崎、回復を。なんだったら薬も使え」

 

 そう言って神羅は宝物庫から各種回復薬を取り出す。

 そこに来て、不意に香織はハッ、と目を見開き、

 

 「そ、そうだ、神羅君!ハジメ君は!?神羅君が無事なら……!」

 

 その瞬間、天井の穴からハジメが飛び降りてきて着地し、その隣に当然のようにユエがフワリと着地。そして少し遅れてシアも飛び降りてくる。

 

 「ああ、無事だ。ここにいる」

 

 そう言って神羅は隣のハジメを親指で指さす。それに釣られて香織はハジメを見やるが、え?と小さく困惑の声を上げる。

 その声にハジメはそうだよなぁ、と苦笑を浮かべて香織に視線を向ける。

 

 「あ~~、うん。戸惑うのも無理はないと思うけど、俺は正真正銘、南雲ハジメ。南雲神羅の弟だよ」

 「あ、いや、ち、違うの!一瞬分からなかったとかじゃなくて……!」

 「ああ、分かってるって。遠藤も最初は分からなかったしな……気にしてないって」

 

 ハジメがひらひらと手を振ったそのタイミングで、遠藤が天井の穴から飛び降りてくる。

 

 「し、神羅ぁ! おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか何考えてんの!?」

 

 着地するや否や神羅に対し文句を垂れる遠藤だが、自分が魔物と親友たちに囲まれていることに気づき、ぬおっ、と悲鳴を上げる。

 

 「「浩介!」」

 「重吾!健太郎!助けを呼んできたぞ!」

 

 助けと言う言葉にようやくその場の全員が正気に戻り、神羅達を凝視する。

 だが、神羅はその視線を無視して自分の手元に視線を落とす。力を込めれば、その両手が青白い炎に包まれ、周囲をぼんやりと照らす。

 その結果に満足そうに頷いた神羅は顔を上げてぐるりと周囲を見渡し、

 

 「……ユエ。不本意かもしれんが、あの連中を頼む。シアはあそこに倒れている騎士を診てやってほしい。ハジメ、白崎と八重樫の護衛を」

 「……任せて」

 「了解ですぅ!」

 「あいよ」

 

 ユエは素早く駆け出し、シアは魔物の群れの頭上を一気に飛び越えて倒れ伏すメルドの元に着地し、ハジメはドンナーとシュラークを取り出して香織と雫の前に立つ。

 

 「は、ハジメ君……」

 「大丈夫だって。こう見えても強くなったんだ。まあ、未だに兄貴には遠く及ばないけどな」

 

 自分を心配そうに見つめる香織にハジメはそう言って苦笑を浮かべる。

 対し、神羅は炎を消してゆっくりと視線を女魔人族に向け、

 

 「そこの女魔人族。今すぐ去るなら何もせん。死にたくないのなら今すぐに撤退しろ」

 「……なんだって?」

 「二度は言わん。撤退するか、戦うか。お前が決めろ」

 

 神羅が威嚇すればそれだけで魔物たちは散り散りになるだろうが、流石に友人をここまで痛めつけられ、黙っていられる神羅ではない。

 

 「殺れ」

 

 神羅の突き付けた選択に対し、女魔人族が選んだ選択は戦闘。

 突然の事態に冷静な判断能力ができなかった事と、敬愛する上司から賜ったアハトドを塵も残さず葬った神羅への怒りにより、彼女はそう判断した。

 神羅が目を細めた瞬間、その神羅目掛けて姿を消したキメラが空間を揺らめかせながら襲い掛かる。

 思わず香織と雫が声を上げるが、神羅は無造作に右腕を突き出す。その腕にキメラが容赦なく食らいつき、牙を突き立てる。

 瞬間、バキンッ、と言う音と共にキメラの牙が砕け散り、その激痛にキメラは悲鳴を上げながらのけ反る。

 その頭を神羅は即座に鷲掴みにすると、地面に叩きつける。轟音と共に地面がひび割れ、キメラの頭はザクロのようにはじけ飛ぶ。固有魔法が解除され、その巨体が露になる。

 神羅は頭部が潰れた巨体を持ち上げると、それを無造作に振り回す。数百キロの巨体を神羅の腕力で振るえばそれは凶悪な鈍器だ。それが神羅の横から襲い掛かってきた黒猫を吹き飛ばす。

 神羅が歩みを進めれば、左右から四つ目の狼が同時に襲い掛かるが、神羅は両腕に炎を纏わせると、それを無造作に狼に叩きつける。狼は悲鳴を上げる間もなく灰燼と帰す。

 軽く手を振って炎を消す神羅の前に2頭のブルタール擬きが咆哮と共に同時にメイスを振り下ろしてくるが、彼は避けようともしない。

 果たして、メイスは神羅の頭を直撃したが、その瞬間、硬質な音と共にメイスは根元から圧し折れ、破片と共に、殴打部が宙を舞う。

 その光景にブルタール擬き達はぽかん、と口を半開きにするが、その間に神羅は回し蹴りをブルタール擬きに叩きこみ、ブルタール擬き達の上半身はその一撃で爆散する。

 神羅が態勢を整える間に黒猫が群れを成して包囲と共に触手を繰り出すが、触手は神羅の体に傷一つつけられない。それどころか神羅は触手をまとめて掴み上げると、そのまま振り回し、地面に叩きつけ、黒猫をまとめて粉砕する。

 再びキメラが飛び掛かってくるが、軽く繰り出した蹴り上げによって頭部を砕かれ、一撃で絶命してしまう。

 神羅はそこで軽く首を鳴らすと腰を僅かに落とし、次の瞬間、床を砕きながら飛び出し、魔物の群れの中に自ら飛び込む。

 それは普通に考えれば自殺行為だ。だが、神羅は跳び込むと同時に尾を引きずり出し、体を一回転させ、薙ぎ払う。それだけで神羅は取り囲んでいた魔物たちは薙ぎ払われ、肉と骨が砕かれる。

 尾が消えると同時にキュワァァ!と言う奇怪な音が突如発生し、神羅がそちらを向くと、六足亀の魔物アブソドが口を大きく開いてハジメの方を向いており、その口の中には純白の光が輝きながら猛烈な勢いで圧縮されているところだった。それはメルドの最後の忠誠の魔力だ。

 アブソドが魔力を一転集束させ、砲撃として神羅目掛けて放つが、神羅はあろうことか、それを真っ向から殴りつける。

 直撃すれば人間など塵一つ残さず消滅する砲撃はしかし、轟音と共に弾け飛ぶ。

 魔力砲を殴って相殺すると言う非常識な光景にその場の全員が呆然としていると、神羅は宝物庫から投槍を取り出し、アブソド目掛けて投げつける。空気を引き裂き、投槍は一瞬でアブソドに突き刺さり、しかしそれでも足りないと言わんばかりにその体を吹き飛ばし、壁に貼り付けにしてしまう。

 そこで神羅は首に手を当て、コキコキと骨を鳴らす。その、ちょっと疲れたと言わんばかりの動作に女魔人族の背中は恐怖に泡立つ。

 

 (あれは………なんだ……?)

 

 女魔人族は神羅を見て、人とは思えなかった。人であるならば少なからずダメージを受けるであろう攻撃を受けてもかすり傷一つ負わず、素手で魔物を引き裂き、更には人とは思えない部位を出現させ、自在に振るうその姿は人ではない。〝化け物〟そうとしか称することができない存在が、目の前で暴れている光景に女魔人族の思考は混乱の極致に至る。

 

 「何なんだ……彼は一体何なんだ!?」

 

 それは光輝も同じだった。目の前で一方的な虐殺を繰り広げている存在。それの顔立ちが神羅であることは、理解はしているが、あまりにも現実離れした光景に思考が追い付いていない。

 

 「はは、信じられないだろうけど……あいつは南雲神羅だよ」

 「「「「「「は?」」」」」」

 

 遠藤の呟きに光輝達は一斉に間の抜けた声を出す。

 

 「だから、南雲、南雲神羅だよ。で、あっちの白髪の奴は弟の南雲ハジメ。二人とも迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。あの尾は技能の一つだってよ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ!って俺も思うけど……事実だよ」

 「南雲って、え?二人が生きていたのか!?」

 

 光輝が驚愕の声を漏らす。そして、他の皆も一斉に、現在進行形で殲滅戦を行っている化け物じみた強さの神羅と香織たちを守るように立っている少年を見つめ……雰囲気が変わりすぎているからか、ハジメに関しては一斉に否定した。「どこをどう見たら南雲ハジメなんだ?」と。そんな心情もやはり、手に取るようにわかる遠藤は、「いや、本当なんだって。めっちゃ変わってるけど、ステータスプレートも見たし」と乾いた笑みを浮かべながら、彼が南雲ハジメであることを再度伝える。

 その瞬間、檜山がひどく狼狽した様子で遠藤に食って掛かる。

 

 「う、うそだ。あいつらは死んだんだ。そうだろ? みんな見てたじゃんか。生きてるわけない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 「うわっ、なんだよ! ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」

 「うそだ! 何か細工でもしたんだろ! それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

 「いや、何言ってんだよ? そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

 顔を青ざめさせ、尋常ではない様子で二人の生存を否定するその様子に周囲は何事かと引いてしまっている。当然と言えば当然だ。檜山が神羅達を故意に奈落に落としたのはすでに周知の事実。光輝のおかげでお咎めなしとなったが、被害者である二人が生きており、あれは悪意を持った攻撃である、と証言されれば、いよいよお咎めなしとはいかなくなる。さらに、そこから芋づる式に自分が()で加担している所業までばれれば……そんな想像に檜山は冷静ではいられない。

 その檜山に対し、比喩ではなくそのままの意味で冷水が浴びせかけられた。檜山の頭上に突如発生した大量の水が小規模な滝となって降り注いだのだ。呼吸のタイミングが悪かったようで若干溺れかける檜山。水浸しになりながらゲホッゲホッと咳き込む。一体何が!? と混乱する檜山に、冷水以上に冷ややかな声がかけられる。

 

 「……大人しくして。鬱陶しいから」

 

 その物言いに再び激昂しそうになった檜山だったが、声のする方へ視線を向けた途端、思わず言葉を呑み込んだ。なぜなら、その声の主、ユエの檜山を見る眼差しが、まるで虫けらでも見るかのような余りに冷たいものだったからだ。同時に、その理想の少女を模した最高級のビスクドールの如き美貌に状況も忘れて見蕩れてしまったというのも少なからずある。

 それは光輝達も同じだったようで、ユエの美貌に男女関係なく自然と視線が吸い寄せられた。

 その時、女魔人族が指示を出したのか魔物の一群が光輝達に襲い掛かる。メルドの時と同じく人質にでもしようとしたらしい。即座にハジメがレールガンを連射して半分近くを吹き飛ばすが、残りはそのまま肉薄してくる。鈴がとっさに障壁を展開しようとするが、

 

 「……邪魔しないで」

 

 ユエはその行いをバッサリと切り捨てると、静かに手を前に出し、

 

 「蒼龍」

 

 その瞬間、蒼い炎の龍が解き放たれ、周辺の魔物を瞬く間に呑み込み、焼き尽くしていく。逃げようとした魔物も、重力魔法に囚われ、なすすべもなく引き寄せられ、焼き尽くされる。

 女魔人族は内心で「化け物ばかりか!」と吐き捨てながらも、今度は魔物をメルドとシア、ハジメと香織と雫に向かわせる。

 が、シアは宝物庫からドリュッケンを取り出し、振り向きざまに薙ぎ払い、ブルタール擬きの頭をピンボールのように吹き飛ばし、逆から襲い掛かった四つ目狼も駒のように体を回転させ、遠心力を乗せた一撃で、あっさりと頭部を砕かれる。

 香織と雫の元にもキメラと黒猫が襲い掛かるが、ハジメはドンナーの銃剣に風爪を纏わせながら振るい、キメラを文字通り真っ二つに切り裂く。黒猫が触手を放つが、それすらも切り裂かれ、逆に纏雷を纏わせた豪脚の一撃を喰らい、その身体ははじけ飛ぶ。

 

 「本当に……なんなのさ……」

 

 その光景に、女魔人族は力なくそう呟いていた。何をしようともすべてを力でねじ伏せられ、魔物の数もほとんど残っていない。勝敗は決したのだ。

 だが、女魔人族は最後の望み!と逃走のために温存しておいた石化魔法、落牢を神羅達目掛けて放つ。だが、神羅は灰色の球体を見やると、口元から青白い炎をちらつかせ、次の瞬間、それを火球として球体に放ち、直撃すると瞬く間に焼き尽くす。

 

 「はは……すでに詰みだったわけだ」

 「まあ、そう言う事だ」

 

 燃え尽きた落牢を前に女魔人族は乾いた笑いを浮かべ、神羅は頷きながら彼女の元に歩みを進める。残党はハジメ達がすでに殲滅している。

 

 「……この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」

 「皮はな。中身は人間ではない。ああ、あいつらは力があるだけでれっきとした人間だ」

 「それ、間違いなくあんたの基準だよね……」

 

 神羅がハジメ達を指さしながら告げると、女魔人族は心底呆れた顔で告げる。

 

 「さて……本来なら、容赦なく殺すところだが、その前に確認したいことがある……魔人族はこんなところまで来て何が目的だ?魔物も出所が気になるな……明らかに通常の魔物ではないだろう」

 「あたしが話すと思うのかい?人間族の有利になるかもしれないのに?バカにされたもんだね」

 

 嘲笑するように鼻を鳴らした女魔人族に神羅は小さく息を吐き、

 

 「まあ、大体予想は付くがな。オルクスに来たのは、本当の大迷宮が目的であろう」

 

 神羅の言葉に女魔人族は眉をピクリと動かした。それを見て、合流したハジメがやっぱりか、と顎に手をやる。

 

 「あの魔物達は、神代魔法の産物……図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか……とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか……」

 「どうして……まさか……」

 

 ハジメが口にした推測の尽くが図星だったようで、悔しそうに表情を歪める魔人族の女は、どうしてそこまで分かるのかと疑問を抱き、そして一つの可能性に思い至る。その表情を見て、魔人族の女はハジメ達もまた大迷宮の攻略者であると言う結論に行き着き、神羅達は同意するように小さく頷く。

 

 「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」

 「あの方か……魔物は攻略者からの賜り物、それも結構お偉いさんか……」

 

 ハジメは小さく頷き、神羅に視線を向ける。神羅は自分がやる、と視線で語ると、ハジメは小さく頷き、下がり、神羅はゴキリと拳を鳴らして変異させる。

 女魔人族は最後に負け惜しみとわかりながら言葉を叩きつける。

 

 「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

 

 すると、神羅はその目を僅かばかり細め、

 

 「ならば、来世で待ってろ。何があっても諦めず、待ち続けろ。そうすれば、きっと再会できる」

 

 その確信に満ちた言葉に女魔人族は一瞬呆けた顔をし、そうかい、と小さく呟く。

 だが、神羅は拳を固め、振りかぶった瞬間、大声で制止がかかる。

 

 「待て!待つんだ南雲神羅!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!」

 

 光輝の言葉に神羅は心底呆れたと言うようにため息を吐き、ハジメもまた天井を仰ぎ見る。

 

 「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

 あまりにも酷い言い分に神羅はふんと鼻を鳴らして無視を決めると、腕を振り下ろす。

 剛腕と爪は容赦なく女魔人族を切り裂き、その命を一瞬にして奪い去る。

 光輝達がその光景に息を呑む中、神羅は腕を振るい、その血を払っていた。




 さて………前座は終わり………ここからが、本番ですよ……
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