ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 比較的早く更新できました。

 題名はあまり気にしないでください。いいのが思い浮かばなかったので……それに、ここは繋ぎのような物ですしねぇ。


第57話 逃げるのは許さない

 「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか……」

 

 静寂が満ちる空間で、光輝が押し殺したような声を上げる。

 その間に神羅とハジメはちらりと光輝に視線を向け、だがそれよりも優先するべきことがあるのでそちらを優先する。

 まず、二人は倒れ伏すメルド団長と傍にいるシアの元に歩いていく。

 

 「シア、メルドの容体はどうだ?」

 「危なかったです。あともう少し遅ければ助からなかったかも……指示通り神水を使っておきましたけど、良かったのですか」

 「うむ。この者には兄弟で世話になったからな。死なせるには惜しい」

 「それに、メルド団長が抜ける穴はあまりにも大きすぎる。面倒を押し付けることになるかもしれんが……まあ、そこはそれって事で」

 

 そこにユエに連れられてクラスメイト達が歩み寄ってくる。

 

 「おい、二人とも。なぜ彼女を……」

 「神羅君……ハジメ君……色々聞きたいことはあるんだけど、とりあえず、メルドさんはどうなったの?見た感じ、傷が塞がっているし、呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」

 

 二人を問い詰めようとした光輝を遮って香織が真剣な表情でメルドの容態を確認しながら二人に尋ねる。

 

 「ちょいと特別な薬を使ってな。飲めば四肢欠損は無理だが、瀕死の重傷なら治せる代物だ」

 「そんな薬、聞いた事ないよ?」

 「ふむ……神水の伝承まで途絶えているのか……むしろ残ってそうなものだが……まあいい。とにかく、メルドはもう大丈夫だ。八重樫の方は……大丈夫そうだな」

 「ええ……神羅君がくれた回復薬のおかげで……ありがとう」

 

 香織の方も魔力回復薬を飲んだのか、顔色はだいぶマシになっていた。その顔を見ながら神羅は小さく息を吐き、

 

 「話には聞いていたが……本当に髪を切ったのだな……」

 

 神羅の言葉に香織は一瞬顔を強張らせるが、小さく頷く。ユエとシア、ハジメも改めて香織の髪に目を向ける。以前は背中まで届いていた綺麗な髪は、今やショートカットになっている。しかも、女のユエとシアだから分かったが、かなり雑に断髪したようで、長さはまちまちで、どう見ても動きやすさや見栄えを考慮した切り方ではない。

 

 「おい、二人とも。メルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの……」

 「二人とも、メルドさんを助けてくれてありがとう。私たちの事も……助けてくれてありがとう」

 

 再び光輝が口を開くが、再び香織によって遮られ、ものすごく微妙な表情になる。

 だが、香織はそんな光輝など無視して、真っ直ぐに神羅を見つめる。

 あふれ出る津波のような感情を堪えるようにギュッと服の裾を握りしめ、しかし堪え切れず涙を零し始める。

 

 「神羅ぐん……生きででぐれで、ぐすっ、ありがどうっ。あのとき、守れなぐで……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

 

 雫だけでなく、女子メンバーは香織の気持ちを察していたので温かい眼差しを向けており、男子の中で、何となく察していた永山と野村は同じような視線を、近藤たちは苦虫を嚙み潰したような顔を、光輝と龍太郎は分かっていないのかキョトンとした表情をしている。

 そんな香織を前に、神羅は小さく息を吐くと彼女の前に手を差し出し……

 

 「そいっ」

 「あう!?」

 

 かるくデコピンをかます。額に感じた軽く、だが予想外の衝撃に香織は思わずのけ反り、更に周囲の面子がそろってぎょっ!?と目を見開く。ハジメ達も例外ではなく、神羅の行動の真意が分からず、目を丸くした状態で固まっている。そんな空気を無視して神羅はため息を吐き、

 

 「全く………一人で考えすぎだ馬鹿者」

 「え………?」

 「確かに、守れなかった時、自分に力があればと思わずにはいられん。我だってそうだった。だがな、だからと言って背負い込みすぎるのも問題だ。あの一件で、お前が謝らなければならない事なんて何一つない。全てはあの愚か者の責だ」

 

 そう言って神羅は檜山を睨みつけ、その視線に彼はひっ、と声を引きつらせる。

 

 「だから………もう謝るな。お前は最善を尽くした……と言っても納得しきれんだろうから、さっきのでちゃらにしろ。我とハジメはここにいる。だから……もう泣く必要はない」

 

 優しげに細められたその視線に香織は胸がいっぱいになり、思わずワッと泣き出し、神羅の胸に飛び込んでしまう。

 胸元に縋りつく香織に神羅は一瞬驚くが、すぐさまやれやれと口元に苦笑を浮かべながらそのまま優しく頭を撫でる。

 一見すると実にロマンチックな光景なのだが、神羅の特別がモスラ一択であることを知っているハジメ達からしたら、微妙な心境になってしまう。自分たちはこれからどうすれば………

 少しすると、香織は神羅から離れ、ハジメへと向き直る。ん?とハジメが首を傾げると、

 

 「ハジメ君も……無事で本当に良かった……」

 

 そう言って優しくハジメを抱きしめる。

 突然の事態にハジメはあっ、お、と声を振り絞りながらフリーズする。抱きしめられているが、それは間違いなく友人が無事であったことを喜んでの物とわかる為、どう扱えばいいか分からず、ハジメは思わずユエを見やる。

 だが、ユエもまたそれが親愛から来るものと分かっている為、口をへの字に曲げながらもそこに嫉妬の眼差しなどはなく、沈黙を保つ。

 

 「……香織は本当に優しいな。でも、南雲たちは無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそのぐらいにして南雲から離れたほうがいい」

 

 永山パーティから空気を読め!と光輝に非難の眼差しが飛ぶが、本人はそれに気づくこともなく、ハジメと神羅を睨みながら香織を引き離そうとする。

 

 「ちょっと、光輝。二人は私たちを助けてくれたのよ?そんな言い方はないでしょう?」

 「だが雫。彼女はすでに戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲たちがしたことは許されることじゃない」

 「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ?大体……」

 

 光輝の物言いに雫が眉を吊り上げて反論するが、小悪党組も怯えている檜山を除いて光輝に加勢し始める。

 それを見た香織ははぁ、と小さく息をついてハジメを開放し、彼らに対し口を開こうとした瞬間、それを神羅が制する。

 香織が顔を上げれば、神羅と目が合い、彼は小さく頷き、ハジメに目を向ける。

 ハジメも頷いて神羅の隣に立ち、じろりと光輝達に視線を向け、

 

 「許されない……か。お前に、お前たちにそんな事を言う資格があると思っているのか?」

 

 その言葉に光輝が眦を吊り上げ、神羅を睨む。

 

 「何だと?俺が間違っているとでも言う気か?俺は人として当たり前のことを言っているだけだ」

 「……まず、お前はあの女が戦意を喪失したと言っていたが、違う。より正確にはまだ失っていなかった。もう自分は助からないと理解したからあの女の戦意は衰えた。だが、戦意自体はまだ残ってた。これで自分は死なないと知ればどうなると思う?たちまちのうちに戦意は復活し、どうあがいても自分は死ぬと悟っているからこそ、間違いなく自爆まがいの事をしてくる。そうなったら………犠牲無しで止められるとは、断言はできん。故に殺した」

 

 もっとも、神羅がいる以上魔力関係の自爆なら犠牲無しに抑えられるだろうが、だからと言って神羅が口にした可能性が消えるわけではない。

 

 「だ、だけど、お前なら無傷で止められただろう!?」

 「そこまでしてやる義理などない……それ以前にだ……そもそもこの事態は貴様がやると言い出した事だ。お前が言ったのだ。戦争に参加すると。貴様は自ら人殺しをすると公言したのだ。その時点で、貴様に人殺しが悪だと宣う資格はない」

 「それは………し、知らなかったから!」

 「そんな言い訳が通用すると思っているのか?最初の時、我は言ったよな?魔人族と言う人間を皆殺しにしろと言われた、と。それに対しお前らはどうした?何も言わなかったよな?もしも言葉の意味が分からなかったのなら、その時質問をすればいい。それをしなかった、と言う事は、お前たちは魔人族が人間であり、自分たちは彼らを皆殺しにして来いという意味をちゃんと理解して、今日まで訓練に勤しんできたと言う事であろう?」

 

 その言葉にその場のクラスメイト全員の顔が強張る。

 

 「ならばその時点でお前たちは自らの行いを完全に理解していたと言う事。自分たちが人を殺すという事を。知らないなどと逃げることは決して許さん」

 

 唸り声と共に睨みつけられ、クラスメイト達は反論できず、押し黙る。が、光輝だけは何とか反論しようとするが、

 

 「そして最後にだ……お前等、そいつに何の罰も与えなかったって?仲間を二人も殺したそいつに」

 

 すかさずハジメが剣呑な眼差しで檜山を睨みながら指さす。それに彼らは別の意味で顔を強張らせ、檜山は完全に顔を青くする。

 

 「ま、待て!あの件は檜山に悪気はなかったし、もう反省している!それにお前たち二人とも生きているじゃないか!もう終わった話だろう!?」

 「終わった……?ふざけんな……!こちとら片腕と片眼を無くしてんだぞ。それ以前に、そいつのやったことは地球でも罰せられることだろうが。故意であろうとなかろうと、二人の人間の命を奪った。どう考えても裁判沙汰だ。それともなんだ?お前は交通事故で親族を失った相手や警察に、加害者には悪気はありませんでした。反省しているので裁判を起こさず、罰も与えずに許してあげてくださいとでも言うつもりか?」

 「あ、か………ろ、論点をすり替えるな!今はお前たちが人殺しをしたことを……」

 「すり替えてねえよ。仲間殺しを、何の罰も与えずに見過ごしたお前らに俺達の行動を非難する資格なんてねえだろ……当然これからする俺の行動にもな」

 

 そう言うとハジメはドンナーを取り出し、檜山に銃口を向ける。それが意味することを悟り、檜山はひぃっ!?と悲鳴を上げ、腰を抜かす。周囲の面子も息を呑み、体が硬直する。

 

 「ま、待て南雲!何をする気だ!?」

 「何らかの罰が与えられているならまだしも、無罪放免なんざ納得できねぇ。だから……お前等がやらなかったことを俺がやるだけだ。腕の一本で勘弁してやる」

 「ひっ、や、やめ……だ、誰か……!」

 

 ハジメは檜山の左腕に照準を合わせ、檜山は引きつった声を上げ、周りに助けを求めるが、真っ先に動こうとした光輝の前に香織が立ち塞がり、睨みつけられ、怯んでいた。他の面子に至っては突然の事態に慌てふためくばかりで、碌に動けない。

 神羅も止める様子はなく黙って檜山を睨み付ける。ユエとシアも同様だ。

 

 「ま、待ってくれ南雲ぉ!俺が悪かった!今までの事全部謝る!もう何もしない!もうお前たちに関わらない!だからやめて……!」

 「………」

 

 ついに檜山は恥も外聞もなく尻もちを搗きながらもハジメに対し泣きわめきながら懇願をするが、ハジメはそれら一切を無視して冷徹な目で引き金の指に力を籠める。

 

 「や、やめ……殺さないで………」

 

 檜山はガチガチと歯の根を鳴らし、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし……

 ドパンッ!

 

 「ひぃっ!?」

 

 響いた銃声に誰もが最悪の結末を予想したが、目の前の光景に全員が目を丸くした。

 ハジメのドンナーから放たれた銃弾は檜山の左腕……ではなく、左腕のすぐそばの地面を抉っていたからだ。

 

 「……あ、あれ?」

 

 檜山も予想した痛みや衝撃が来ないことに恐る恐る目を開け、自分が傷一つついていないと言う事に気づく。

 

 「………やめだ。こんなちゃちな小物に復讐なんざ、こっちがみじめになる」

 

 そう言ってハジメはドンナーをホルスターに納め、神羅も何も言わず、黙って小さく肩をすくめる。

 檜山は数瞬呆けていたが今まで自分が見下していた相手の自分など眼中に無いと言わんばかりの態度に激昂しかけ、

 

 「だが、それはそれだ。逃がしはしない……そこら辺は任せていいか?メルド団長」

 「ああ……」

 

 その場に響いた声に全員が顔を向ければ、メルドが立っていた。

 

 「檜山の件に関しては、改めて王に掛け合ってみる。どうなるかは分からんが……それでも、有耶無耶にしない事だけは誓おう」

 

 その言葉に神羅とハジメは妥当か、と小さく頷き、檜山は今度こそ顔を真っ白にし、打ち上げられた鯉のように口をパクパクさせる。そしてメルドは改めて神羅とハジメに対し、ゆっくりと頭を下げる。

 

 「……すまなかった。絶対に助けてやると言っておきながら、お前達が落ちていくのを見ていることしかできず、更には仲間殺しなんて事を引き起こした奴を野放しにして……あの時危険を承知で皆を救ってくれたお前達に、俺は何一つ報いる事が出来なかった」

 

 深々と頭を下げるメルドを二人は静かに見つめていたが、少しして、小さく頷き合うと、二人同時にメルドの頭に軽くチョップを入れる。

 突然の事態にメルドが目を白黒させていると、神羅が先ほど香織に言ったこととほぼ同じ内容を口にする。

 その言葉にメルドは小さく頷くと、今度は光輝達に向き直り、同じように頭を下げる。

 

 「メ、メルドさん? どうして、メルドさんが謝るんだ?」

 

 「当然だろ。俺はお前等の教育係なんだ……なのに、戦う者として大事な事を教えなかった。人を殺す覚悟のことだ。時期がくれば、偶然を装って、賊をけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた……魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要なことだからな……だが、お前達と多くの時間を過ごし、多くの話をしていく内に、本当にお前達にそんな経験をさせていいのか……迷うようになった。騎士団団長としての立場を考えれば、早めに教えるべきだったのだろうがな……もう少し、あと少し、これをクリアしたら、そんな風に先延ばしにしている間に、今回の出来事だ……私が半端だった。教育者として誤ったのだ。そのせいで、お前達を死なせるところだった……申し訳ない」

 

 そう言って、再び深く頭を下げるメルド団長に、クラスメイト達はあたふたと慰めに入る。どうやら、彼は彼で光輝達についてかなり悩んでいたようだ。団長としての使命と私人としての思いの狭間で揺れていたのだろう。

 彼も王国の人間である以上、聖教教会の信者なはずで、神の使徒として呼ばれた光輝達が魔人族と戦うことは、当然だとか名誉なことだとか思ってもおかしくない。にもかかわらず、光輝達が戦うことに疑問を感じる時点で人格者と評してもいいレベルだ。

 光輝は女魔人族を殺しかけた時の恐怖を思い出し、それと同時にメルドが人殺しを自分達に経験させようとして居た事にショックを受けていた。今の自分達になら人間の盗賊ぐらい簡単に倒せる。ならば力で圧倒し、戦意を折り拘束すれば良いだけのはずなのに、と……

 とにもかくにも、これで戦いは終わった。ならば、後は地上に戻るだけだ。ハジメ達はその場から歩き出し、光輝達もそれに追随し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑鉱石に覆われた洞窟の内部でゆっくりとそれ(・・)は起き上がる。腹が空いたため、餌を探しに行こうとしている。

 それ(・・)はゆっくりと視線を巡らし、そして顔を上げる。天井には鍾乳洞のように無数の岩の柱が垂れ下がっており、その隙間からいくつもの光がこちらを覗き込んでいる。それはまるで満点の星空のように見えるが、それらはパチパチと瞬き、ゆらゆらと揺れている。だが、向かってくる気配はない。ここではそれ(・・)が頂点だからだ。

 それは天井を睨みつけるが、どうにも様子がおかしい。理由は単純。それ(・・)の目が、まるで、天井の、更にその先を見つめているような気配を帯びているから………




 さて、次回より、本戦が始まりますが、ハジメ達もある存在達と戦ってもらいます。
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