ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 はい、という訳で今回の怪獣、登場です。そして、怪獣の能力の一端が明らかになります。

 そして、恐らくですが今回が今年最後の更新になるかと思います。少し早いですが、皆さん、よいお年を。


第58話 目覚める脅威

 それは、あまりにも唐突に訪れた。

 

 「うっ………」

 

 80階層までもう少し、と言う所で、ハジメが現れた魔物にレールガンを放とうとした直後、その動きが一瞬止まり、次の瞬間には吐き気を堪えるように口元を抑える。

 

 「ハジメ!?」

 

 突然の事態にユエ達は目を見開き、即座に神羅とユエがハジメのもとに駆け付ける。入れ替わる様にシアが前に立ち、ドリュッケンを手にしようとするが、

 

 「うぇ………」

 

 ドリュッケンを宝物庫から取り出す前に吐き気を催したかのようにえずき、動きが止まる。それを見たユエが大きく目を見開き、慌てて魔法を放とうとするが、

 

 「うぷ……!」

 

 彼女までも吐き気を感じたのかえずき、魔法が放つのが大きく遅れる。代わりと言わんばかりに神羅は即座に前に出て、魔物目掛けて威圧を放つ。神羅の圧に魔物は怯えるように体を震わせ、そそくさとよろめきながら通路の奥に消える。

 その後ろで香織と雫がハジメ達に心配そうに声をかける。

 

 「どうしたのハジメ君。どこか怪我をしているの?」

 「ああ、いや、そうじゃないんだ。ただ、急に吐き気が来て思わず………そんなに酷くはないんだが……」

 「私もそんな感じで……」

 「私も……なんでしょう?気持ち悪くなるようなことはしていないんですが………」

 

 ハジメ達が首を傾げるのを見た神羅は振り返り、

 

 「ふむ……ほかに気分の悪くなった者はいるか?」

 

 その問いかけに、他のメンバーは一様に顔を見合わせながら首を傾げる。傍目に見ている分には誰もいないようだ。

 

 「何だろう……とりあえず3人に回復魔法をかけておくね」

 

 そう言って香織が詠唱を始めようとした瞬間、

 

 「おえっ………!」

 

 香織も吐き気を感じたのかえずきながら口元を手で覆う。

 

 「香織!?大丈夫!?」

 「香織!いったいどうした!?南雲!お前等何をした!?」

 

 香織までも吐き気を催したことに雫が慌てて駆け寄り、光輝が今にも聖剣を抜き放ちかねない剣幕で神羅とハジメを睨みつける。

 

 「俺達じゃねぇよ……!俺だって吐き気がしたんだぞ!」

 「我でもない。これは一体……」

 

 神羅が突然の異変に顔をしかめ、周囲を見渡す。ハジメ達は再び魔法を発動させようとする。すると再び吐き気が襲ってくるが、身構えていたからか今度は耐えられ、魔法が発動する。が……

 

 「……なにこれ。魔力が乱れて……」

 「そんな感じだな。制御できないって程じゃないが、なんか体の中が気持ちわりぃ……これで吐き気が来たのか……」

 

 その言葉に神羅は小さく目を細め、詳しく聞こうとした瞬間、

 

 「っ……」

 

 突如として視界がぐらつき、体が揺れる。

 

 ---------------

 

 が、その直後に耳に響いた音に神羅は足を踏みなおしながらも大きく目を見開く。

 

 「兄貴……兄貴もか!?」

 

 ハジメが慌てて神羅に駆け寄り、その体を支えるが、神羅はその事にかまけていられなかった。

 先ほど自分を襲った違和感。それは忘れない。忘れる事なんてできない、奴らの能力。そして先ほど聞こえてきた音。それは間違えない。間違えようがない。奴らの声。

 それらが意味する事とはただ一つ。奴らが………この近辺に存在している!

 なぜだ。なぜ気付けなかった。奴らの声に関しては神羅は細心の注意を払っていた。ある意味では偽王よりも厄介な敵なのだ。警戒して当然だ。だと言うのに今の今まで気づけなかった。声を発し、ほんの僅かでも力を使われるまで気付けなかった。なぜだ、なぜだ、なぜだ!?

 疑問、己の失態、自責、様々な感情が神羅を埋め尽くすが、それでも彼は今できる最善を口にする。

 

 「っ!全員今すぐ走れ!全力で、脇目も振らずに出口まで走って脱出しろ!」

 「ど、どうした神羅!いったい何を言って……!」

 「つべこべ言っている暇はない!死にたくなければ走れ!」

 「おい神羅!メルドさんの質問に答えろ!何を言っているんだお前は!?」

 

 焦燥に満ちた顔で叫ぶ神羅をメルドが訝しみ、光輝が食って掛かるが、神羅は構ってはいられない。

 そしてその様子を見たハジメたちはさっと顔を青ざめさせる。その様子はウルの山脈の怪獣が目覚めようとしていた時と同じ、いや、間違いなくそれ以上の気迫が見て取れる。それはつまり、この近くにウルの山脈の奴以上の怪獣がいると言う事!

 

 「お前等!死にたくなかったら兄貴の言う通り速く走れ!」

 「な、なんだよ急に……!何だってんだよ!説明しろよハジメ!」

 「……してる暇も惜しい!いいから走って!」

 

 ハジメ達さえも焦り出したことから生徒たちも尋常ではない状況と言う事を理解しだしたのか、狼狽え始めるが、事態がほとんどつかめていないせいかろくに動けずにいる。

 そんな中、雫が神羅の傍により、問いかける。

 

 「神羅君、一体何が起こってるの?簡単にでいいから説明して!」

 「……付近に強大な魔物がいる。我も勝てると断言し辛いほどの力を持つな。ここにいれば我以外命の保証はできん!だから早く逃げろ!」

 

 雫は大きく息を呑んだ。先ほどの魔人族との戦闘で、神羅は正に圧倒的だった。傷一つ追わず、一方的に魔物の群れを蹂躙した。その神羅でさえ勝てると言いきれない存在。それは間違いなく、自分達の手に負える相手ではない。

 

 「光輝!ここは神羅君たちの言う通りにしましょう!」

 「雫……だが……」

 

 光輝が戸惑うように雫に目を向けた瞬間、轟音と共に彼らにすさまじい振動が襲い掛かる。

 それはまるで迷宮全体が揺れたと錯覚するほどの振動で、クラスメイト達は軒並み転倒し、ハジメ達でさえ大きくよろめき、ユエは転んでしまい、

 

 「いっつ……!」

 

 転倒と同時に走る痛みに顔をしかめる。

 

 「な、なんだこの揺れ!?」

 「動き出した………!死にたくなければ早く逃げろ!」

 

 神羅が吠え、クラスメイト達は悲鳴を上げるが、それでもここまで戦ってきた賜物か、四散したりはせず、出口に向かって走り出す。

 

 「光輝!私たちも早く逃げるわよ!」

 「な、何を言ってるんだ雫。これが魔物の仕業なら見つけ出して倒さないと……」

 「何を言ってるの!今はそんなこと言ってる場合!?これが魔物の仕業ならどう考えても普通の魔物じゃない!危険すぎるわ!」

 「でも俺は勇者だ!勇者なのにこれ以上逃げるなんて……」

 「勇者だろうと逃げるときは逃げるだろうが……」

 

 勇者=勇気がある=敵に背中を見せない、とでも考えているのか逃げようとしない光輝に神羅が苛立ちを露わにした瞬間、神羅の直感が何かを感じ取る。

 その瞬間、神羅はその場から飛び出し、光輝を突き飛ばし、雫を抱きかかえて体を投げ出し、

 

 先ほど以上の爆音と共に先ほどまで光輝と雫がいた場所が両断(・・)され、周囲を膨大な土煙が覆う。

 

 「な、なんだ!?」

 

 光輝が突然の事態に狼狽している中、神羅は腕の中の雫に声をかける。

 

 「無事か?八重樫」

 「う、うん……ありがとう……でも何が……」

 

 雫が顔を上げると同時に土煙が風の魔法で吹き飛ばされる。

 

 「兄貴!大丈……夫……」

 「な、なにこれ………!」

 

 露になった光景を見て、ハジメと隣の香織は愕然と目を見開く。

 迷宮の一角が引き裂かれていた。天井から地面まで、強大な裂け目が生まれており、上も下も何階層もぶち破られているのか暗い空洞が口を開けている。裂け目周辺は崩壊しており、ガラガラと上から降ってくる瓦礫が下の穴に飲み込まれていく。

 そしてその裂け目に続くように、壁も縦に一直線に引き裂かれており、その奥には広大な空間が広がっているようで、覗き込もうとしても全容がうかがえない。

 

 「ど、どう言う事……?い、一体何が……」

 「話は後だ。ハジメ!犠牲者はいるか!?」

 「えっと、ちょっと待て………いない!」

 「分かった!しっかり受け止めろ!」

 

 そう言うと神羅は光輝と雫を掴み上げ、裂け目の向こう側に向かって投げ飛ばす。ハジメとシアは慌てながらもどうにか二人を分担して受け止める。

 

 「キャッチしました!神羅さんも早く!」

 

 シアが声を張り上げるが、神羅はその声に応えず、その顔は壁の裂け目に向けられている。

 まさか、と彼らが裂けめに目を向けた瞬間、低いうなり声が響き渡り、壁の裂け目が轟音と共に吹き飛ばされる。

 無数の破片が散弾のように飛び散るが、ユエが事前に準備をしていた聖絶を展開して破片を防ぐ。

 

 「っ……気持ち悪い……」

 

 それでも吐き気は抑えられないようで顔を青くして口元を抑えている。

 

 「さ、さっきから一体何なんだ!?何が起こっているんだ!?」

 

 立ち上がった光輝が聖剣を抜き、構えようとするが、彼もまた吐き気を催すように口元を抑える。

 そうしている内に土煙が晴れ、それの姿が露わになり、メルドとクラスメイト達は茫然自失と言ったように動きが固まる。

 壁から生えているのはとてつもなく巨大な、それだけで大型トラックに匹敵する大きさの頭部だ。人ひとりどころか、数人まとめて丸呑みにできそうな裂けた口は上あごの先端は三角形のような形状、下顎は二股に分かれ、上下が合わさる様になっている。目は真っ赤に光り輝く細長い複眼となっているのだが、目の周囲も同じように細長く赤く光り輝いており、意外と目が大きく見える。

 そんな巨大な頭部が壁を突き破って生えている。そんな常識を次元の彼方に放り捨てるような光景にクラスメイト組は完全に理解を放棄し、ぽかんと口を半開きにし、動きを止めており、中には涎を垂れ流しにしている者までいる。

 そんな光景を横目に怪獣は唸り声を発しながら周囲を見渡すように首を巡らそうとする。それだけで壁がクッキーのように砕け散り、破片が飛び散る。

 その瞬間、神羅が飛び出し、怪獣の頭部に跳び蹴りを叩きこむ。

 直撃と同時に迷宮が揺れた錯覚するほどの炸裂音が響き、怪獣の頭部が周囲の壁を砕きながら穴の向こうに吹き飛ばされる。

 神羅が着地すると同時に穴の向こうの空間から地響きが響いてくる。

 その音でようやく生徒たちは事態に気づき、今度こそ恐慌状態に陥る。だれかれ構わず悲鳴を上げ、我先にと階段に殺到しようと「静まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」する前に神羅が凄まじい圧を出しながら吠え、彼らはビクリと肩を震わせ、動きが止まる。

 

 「ハジメ!全員を逃がせ!奴は俺が相手をする!」

 「分かった!気をつけろ!」

 

 神羅は答えず素早く穴の向こう側に身を躍らせる。

 それを見送ったハジメは素早く振り返り、

 

 「ぼさっとするな!さっさと逃げるぞ!ただし慌てずに急げ!」

 

 ハジメの怒声にクラスメイト達ははっとすると、慌てて階段に向かって走り出す。だが、

 

 「ちょっと光輝!早く逃げるわよ!」

 「え、あ……待ってくれ、雫!あの魔物は危険だ!急いで倒さないと……」

 

 光輝だけは一瞬呆けながらも即座に持ち前の正義感を発揮し、怪獣を倒そうと言うのか逃げようとせず、聖剣を抜き放つ。

 

 「相手がでかすぎるわ!戦うにしても一回態勢を整えるべきよ!こんな狭いところじゃ戦えない!」

 「それは……だが、神羅は……」

 「……神羅は特別!奴と互角にやり合える力がある!それにこんなところで彼も戦ったりしない!どこか地上の広い所に誘導するはず。戦いたいならその時に合流すればいい!」

 

 ユエがいつになく強い語気で言うと、光輝は一瞬悩むそぶりを見せるも、

 

 「……分かった!一先ず撤退しよう!」

 

 そう言って光輝も走り出す。それを見て雫はふう、と息を吐く。

 

 「ありがとう、え~~と……ユエさん……」

 「いいからさっさと逃げて。本当あいつはふざけやがって……」

 

 ユエは忌々し気に吐き捨てながら壁の穴を見つめる。

 あの怪獣。かつて神羅が話していた前世の敵の中に似た特徴を持っている存在がいた。確かそいつは……神羅、いや、ゴジラと言う種族にとってある意味天敵ともいえる存在。前世ではすべて勝っていたようだが、それはどれも辛勝だったはず。

 だがそれでも、ここは神羅を信じるしかない、とユエも入り口に向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さっさと逃げてくれよ………」

 

 地面に着地した神羅はゆっくりと周囲を見渡す。緑鉱石で淡く照らされたそこは恐ろしく広大な空間が広がっていた。流石に怪獣が大暴れできるほどではないが、それでも十分に動けるほどに広い。それも横ではなく、縦に広いようで、倒れてばたつく奴の向こうには怪獣が通れるほど巨大な道が広がっている。更によく見れば至る所に大小さまざまな横穴が口を開けており、至る所に崩壊の痕跡が残っている。どうやらここは元々巨大な洞窟のようだ。その一角を利用してオルクス大迷宮は生み出されたのだろう。それとも、オルクス大迷宮が生まれた後にこの洞窟が生まれたのか………

 そんな事を考えていると、ようやく衝撃から立ち直ったやつがゆっくりと起き上がる。その体つきは神羅の予想通りだった。

 背中に3枚の背びれのような物が生えた自分(ゴジラ)に匹敵する巨体。それを支えるのは意外とほっそりとした長い両足に、足よりも長く、巨大な鎌状の2対の腕。どうやらこいつは雌のようだ。今のところこいつ一匹だけだが、他に仲間はいるのかどうかで大きく状況は変わる。

 もしも一匹だけなら十分に対処できるが、複数体だと、一気に神羅は劣勢に追いやられる。

 立ち上がった雌は怒りで血走った眼で唸りながら周囲を見渡す。流石に自分を蹴り飛ばしたのが小さな自分であるとはまだ気づいていないようだ。

 神羅はその隙に天井に視線を向ける。ゴジラとして戦うには狭すぎる。ここで戦っては最悪迷宮どころか町さえも崩壊しかねない。そうなっては意味がない。ならば自分がする事は……

 神羅は即座に決断し、その場から勢いよく走り出す。

 自分に向かって走ってくる異物に気づいた雌は苛立っていたこともあって、前足の一本を勢いよく薙ぎ払う。

 直撃すれば、神羅でも無傷では済まない一撃だが、神羅はそれをスライディングでくぐる様に避けると、そのまま奴の股下を駆け抜け、道に向かって走っていく。

 手ごたえがない事に雌は唸り声をあげ、ゆっくりと神羅が抜けた方角に目を向けるが、次の瞬間、驚愕したように唸り声をあげる。

 そして唸り声を上げながら神羅の背を睨みつけると、少しして咆哮を上げながら猛然と追いかけ始める。一歩ごとに地響きが響き、巨体が洞窟内の岩を吹き飛ばし、壁に激突するたびに壁の方を粉砕していく。

 そうだ、それでいい。無視なんてできないだろう。自分は、ゴジラはお前たちにとって子を育むための苗床。特にこの世界には原発や核爆弾のような代替品なんてないのだ。種の保存のためにも、意地でも確保しておきたいだろう。

 この調子で奴を誘導し、適当なところで地上に出て、対処する。方針を決めた神羅はそのまま闇の中を駆け抜けていく。その背後から薄緑色の空間を揺るがすような怪獣、ムートーの咆哮が轟く。




 ムートー

 ゴジラと同時代に生きた放射能を餌とする生物。ゴジラに卵を産みつける寄生生物であり、ゴジラにとっては生存競争下における宿敵である。オスとメスで体格に差が有り、オスは小柄だが飛行能力を持ち、メスは大型で飛行能力はない。今回出現したのはメス。電磁パルスを発する能力を持っており、この影響下では電子機器は全て使用の不能となり、ゴジラの熱線すら弱体化する。
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