スカル・デビル
スカル・クロウラーが成熟した個体。その巨体に反したスピードと、自分と同じ程度の巨体を尾で投げ飛ばせるパワーを持ち、戦闘機の機関銃程度ではビクともしない耐久力を持つ。だが、それ以上に脅威なのはその生半可な罠を見破り、対処する知性の高さである。
ホルアドの街から数キロ離れた所に、鬱蒼とした森が存在している。
普段は魔物を始めとするこの地に住み着いた多数の生き物の息遣いで満ちているのだが、今、森の中は不気味なほどに静まり返っている。まるで全ての生物が逃げ去ってしまったかのような沈黙。
そんな森の一角の地面が不意に轟音と共に吹き飛ばされる。地面を突き破って空に昇るのは青白い熱線だ。
その熱線が消失すると、地面に残ったのはぽっかりと焼け空けられた人一人通れそうな大きさの深い穴だ。その穴の奥から何かが走っているような音が聞こえてくる。
そして穴から背びれを生やし、口回りを変異させた神羅が飛び出してくる。どうやら地下の洞窟から熱線を放ち、天井をぶち破って地上への直通の通路を作ったらしい。
地上に脱出した神羅だが、素早く自分がいる場所を確認し、人里ではないと分かると、すぐにその場から移動する。
その瞬間、神羅が空けた穴を中心に小さな地響きが起こり、だがそれは瞬く間に激しい地鳴りとなって周囲の木々を激しく揺さぶる。そして、穴を中心に広大な範囲の大地にひび割れが起こると、次の瞬間には轟音と共に噴火のように吹き飛ばされ、木々の残骸や捲り上げられた岩などが宙を舞い、森に次々と降り注いでいく。
立ち上る土煙を突き破って現れたのはムートーだった。その巨大な6本の手足で地上に這い出ると、その巨体をブルりと震わせ、血走った眼で周囲をねめつける。
(よし……誘い出しは成功だな………もっとも、これ以上は望めんか)
その様子を木の影から確認して神羅は小さくため息を吐く。
思った以上にムートーは興奮状態にある。活動したばかりで腹が減っているのか、自分と言う獲物を意地でも逃がしたくないようだ。恐らくだが、メトシェラのように負けを認めさせることは不可能。前世のあの個体のように服従を認めさせることも無理。他の餌を与えることも、今からでは探しようがないため、できない。ならば、残った道は……
神羅は小さく息を吐き、
突如として吹き上がった魔力にムートーは驚いたように声を上げ、警戒するように睨みつける。
吹き上がった魔力はしかし、霧散することなくその場にとどまり、その場でゆっくりと形を変えていく。巨大な、王の姿を象った影へと。
そして影が完全にその形を模した時、その影が反転、ゴジラがその場に顕現する。
突如として目の前に宿敵が現れたことにムートーは困惑を露わにし、戸惑うように声を上げる。
そんなムートーを威嚇するようにゴジラは唸り声をあげ、凄まじい咆哮を上げる。それは彼にとっては最終通告だった。ここで去れば見逃してやる。だが、敵意を向けるのならば容赦はしないと。ありったけの敵意と殺意を込めた咆哮。
並みの存在であれば、さっさと逃げ出しているだろうが、ここにいるのはゴジラの天敵。未だ困惑はしているが、目の前にいるのが求めていた餌であり、苗床でもあると気づくと、低いうなり声を上げながら逆に睨み返し、戦意を叩きつけるように両前足を地面に叩きつける。
その瞬間、そこから不可視の何かが周囲一帯に放たれる。だが、それは衝撃波などではなく、周囲に物理的な干渉はほとんどなかった
だが、ゴジラは唸り声を放ちながら気分が悪そうに体を揺する。奴らの能力、特性は当然知っている。そして自分がその能力の影響範囲内にいることも。だが、思った以上に影響は少ない。これならば何の問題もない。
彼らは真っ向から睨み合い、全身から尋常ではない殺気をまき散らしながら構え、
ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
ロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
凄まじい咆哮を上げると同時に勢いよく駆け出し、真っ向から激突する。
ゴジラ達が地上に出現する少し前、ハジメとティオは巨大魔物が出現したという方角の城門の上に立っていた。
「あれか………ヒュドラ並みだな」
「中々の大きさじゃな……」
遠く、数キロ離れた街道のど真ん中で巨大な生物が天を仰ぎながら咆哮を上げている。
それはユエと香織の言う通りの姿だった。細長い巨大な白い頭部に眼窩のような穴。30mは超えていそうな巨体を支えるのはひじから棘を生やした二本の腕のみで、後ろ脚はなく、長い尾が生えている。その全身には無数の傷跡がついており、それがこの生物が幾つもの修羅場を潜り抜けてきた猛者であることを示している。
その周囲には返り討ちにあった冒険者と騎士の身体が討ち捨てられており、それを巨鳥が次々と持ち帰ろうと飛び掛かる。
だが、巨大生物、スカル・デビルはその巨大な口からカメレオンのように舌を繰り出すと、逆に巨鳥をからめとり、そのまま飲み込んでしまう。あの巨鳥も奴にとってはただの餌と言う事か。
「それで、どうするのじゃ?手始めに妾がやってもよいか?」
「いや、メシに夢中なら好都合だ。一撃で終わらせて、とっととユエ達と合流する」
今この場にいるのはハジメとティオだけで、シアは居ない。ここに向かうまでに町の様子を見ていたのだが、予想以上に巨鳥が町中に広がっていたため、作戦を変更し、最初、スカル・デビルにはハジメとティオだけで対処し、シアは町に散らばり巨鳥の相手をする。もしも二人で苦戦を強いられるのならば即座にユエも含めた2人に連絡をすると言う流れになったのだ。
ハジメは宝物庫からシュラーゲンを取り出し、構える。その銃身が赤いスパークを放ち、その輝きが刻一刻と増していき、最大まで輝いた瞬間、巨鳥を喰らっていたスカル・デビルがぎょろりとハジメの方を見る。
気づかれた。だがもう遅い。ハジメはスコープ越しにスカル・デビルを睨みながら引き金に掛けた指に力を込めた瞬間、
遠くから咆哮が轟き、一瞬スカル・デビルの意識がそちらにそれ、体を動かす。
その瞬間、炸裂音と共に赤い閃光が解き放たれ、スカル・デビルに襲い掛かり、その巨体をぶち抜く。周囲に血と肉片が飛び散り、衝撃で巨体が地面に叩きつけられ、スカル・デビルが絶叫を上げる。
外れた、とハジメは小さく舌打ちをする。頭部を狙いすました一撃は奴の体制が変わったことで狙いがずれ、標的の左背中を貫いた。直撃ではなかったとはいえ、背中の肉は抉り取られ、しかも傷口は雷撃で中途半端に焼かれ、醜く爛れている。
激痛にスカル・デビルは絶叫を上げ、激しく暴れ狂い、振り回される腕と尾が地面を抉る。
「神羅殿……」
次弾を取り出したハジメの耳にティオの呟きが届き、彼女の視線を追えば、遠く離れた森のど真ん中にゴジラとムートーの巨体が見える。
「兄貴も地上に出たか……こりゃ、急いで片を付けないとな」
「そうじゃな……次は二人同時に攻めようぞ」
ティオの提案にハジメが頷いていると、立ち上がったスカル・デビルが怒りで血走った眼でハジメ達を睨みつけ、勢いよく城門目掛けて走り出す。
「あれだけのダメージでまだあんなに動けるのかよ……!でも……!」
ハジメは即座にシュラーゲンに次弾を装填すると、狙いをつける。そして再びフルチャージの一撃を放たんと赤い電が弾け、周囲を朱く染め上げる。
これで終わらせると、ハジメが引き金に指をかけ、隣のティオが手をかざし、そこから黒い極光を放った瞬間、
空気が不自然に歪み、それがハジメとホルアドの町を瞬く間に駆け抜けていく。
「っ!?」
その瞬間、ハジメとティオは何が起こったのか全く理解できなかった。まず、ティオが放った竜としてのブレスがスカル・デビルに到達する前に消失してしまう。迎撃されたのではなく、何もない空中で崩れるように消失したのだ。そして、シュラーゲンのチャージは前触れもなく途絶、それどころか今まで溜め込んでいた雷撃すら最初から無かったかのように霧散してしまい、更に、突如として左腕が力を失ったようにだらりと垂れ下がり、シュラーゲンは足元にガシャンと落ちてしまう。
「な、なんだこれ!?どう言う……!?」
ハジメが慌ててシュラーゲンを掴もうと左腕を動かそうとした瞬間、
「う、ぐおぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
まるで体の中を直接かき混ぜられるようなおぞましい感覚にハジメは耐えきれずその場で激しく嘔吐してしまう。その横でティオまでも膝をつき、激しく嘔吐していた。
「が、あぁ……こ、これは………!?」
突如として自分の身に起こった不調にハジメは激しくえずきながら困惑を露わにするが、それについて悩む時間はなかった。
そうしている間にスカル・デビルが城壁に到達し、その巨体を容赦なく壁に叩きつけようとする。
それに気づいたハジメは右腕でシュラーゲンをひっつかむと慌てて城壁から躊躇なく飛び降りる。ティオもそれに気づき、慌てて体を投げ出すように城壁から飛び降りる。それと同時に巨体が勢いよく城壁に叩きつけられる。轟音と共に堅牢に作られたはずの城壁の一角が吹き飛び、その破片が町に降り注ぎ、家屋を破壊する。一撃で破壊されることはなかったが、半壊状態では二撃目は受けきれそうにない。
何とか着地を決めたハジメとティオは慌ててスカル・デビルの巨体に目を向ける。奴はその巨体が仇となり、二人を見失ったのかぎょろぎょろと周囲を忙しなく睨みつけている。
その隙にハジメ達は近くの破片に身を隠すと、大きく息を吐く。そしてハジメは先ほどから感覚がない義手に目を向ける。
義手を動かそうとするが、また全身をかき混ぜられるような感覚に、思わず口元を抑える。
「これって………まさか………!」
左腕の義手は基本魔力を使って動かしているアーティファクトだ。それが動かせないと言う事は……
ハジメは慌てて宝物庫から武装を取り出そうとするが、そこでも吐き気に襲われ、そして宝物庫はうんともすんとも言わない。
その隣ではティオが困惑した表情を浮かべて自分の両手に目を向けている。何とか魔法を使おうとするが、そのたびに激しくえずき、息を荒げる。だが、その甲斐あってか、彼女はあることに気づく。
「な、何じゃ……これは……魔力が……乱れて………」
その言葉と結果にハジメは顔を引きつらせ、自身も纏雷を発動させようとするが、体内をかき混ぜられる不快な感覚だけで、静電気ほどの電気すら起こせない。それどころか、瞬光すら発動しない。
間違いない。これは……今のこの状況は………!
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シアが雄たけびと共にドリュッケンを振るい、巨鳥、ヘルホークに叩きつけ、その巨体を吹き飛ばす。爆散はできなかったが、血をまき散らしながら吹き飛んだところを見ても、生きているとは思えない。
振り抜いた体制のシアを狙って別のヘルホークが襲い掛かるが、シアはドリュッケンを勢いよく地面目掛けて振り下ぬく。轟音と衝撃と共にヘルホークの巨体はそのまま地面へと圧殺され、周囲に血と肉片が飛び散る。
シアは即座に地面にめり込んだドリュッケンを振り上げようとするが、
「お、ごぉえあ……!」
突如として全身を襲ったおぞましい感覚にたまらず嘔吐してしまう。だが、それだけではない。発動していた身体強化の魔法が途切れてしまい、結果、重さ数トンのドリュッケンはビクともせず、めり込んだままだ。
「な、なんですかこれ……どうして身体強化が……!」
シアは再びドリュッケンを担ごうと身体強化を発動しようとするが、再びおぞましい感覚に襲われるだけで強化は発動しない。
「これ……そんな……嘘ですよね………?」
「それじゃあ、イルワ。ミュウをお願い」
「ああ、任せてくれ」
一方、ユエは冒険者ギルドにミュウを無事に送り届けることに成功していた。
「ユエお姉ちゃん……」
不安そうに見上げてくるミュウにユエは安心させるように微笑み返し、
「大丈夫だから、いい子で待ってて。すぐにみんなであの鳥は焼き鳥にしちゃうから」
そう軽口をたたくと、踵を返し、冒険者ギルドから飛び出す。
「大丈夫だった?」
そこには立っていた香織が声をかけてくる。冒険者ギルドに送り届ける際、彼女が護衛を買って出たのだ。ユエの実力を目の当たりにしている以上、彼女がヘルホークにやられるとは思っていない。だが、ミュウはまだ幼い少女だし、敵もまだ未知数で何があるか分からない。だからこそ、念のためについてきたのだ。
「うん。これで大丈夫。さっさと奴らを全滅させる」
その言葉に香織が頷くと、ユエは重力魔法を使ってふわりと体を浮き上がらせる。
が、次の瞬間、不自然な空間の歪みがユエを通り抜け、それと同時にユエの身体は重力を思い出したかのように落下する。
「え!?」
突然の事態にユエは困惑の声を上げるが、その間に体は地面との距離を瞬く間に縮まり、その勢いのまま叩きつけられ、
「あ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
全身を襲った激しい痛みにユエは絶叫を上げ、激しく悶える。だが、そのたびに全身を鋭い痛みに襲われ、ユエの絶叫は止まらない。
「どうしたのユエちゃん、大丈夫!?」
そこに慌てて香織が駆け寄り、全身を見る。
その痛がりようとは裏腹に、彼女の身体には目立った傷はない。それに香織は違和感を覚える。見た感じ、どこか折れているという感じはなく、せいぜい、あちこちに擦り傷ができているだけだ。それに、ユエは確かに落下したが、その高さはせいぜいが1mぐらい。これほど痛がるものではないはずだ。
それでも、念のために香織は回復魔法を使おうとするが、
「が、ぁあ、げぇぇ……!」
全身をおぞましい感覚に襲われ、吐き気をもよおし、その場で激しくえづき、手をつく。魔法も魔力を練る事すらできず、発動すらできない。
「な、なにこれ………!」
香織が悶えている間に、ユエの方は痛みが少し引いたのか息を荒げ、涙を浮かべながらも自分の体に視線を向ける。
叩きつけられはしたが、そんなに高くなかったおかげでどこかが折れたり、捻ったりしている気配はない。仮にそうだったとしても、自動再生で勝手に治るから問題は……
そこでユエは自分の膝を見て、困惑した表情を浮かべる。擦りむいた膝には擦り傷ができ、当然のように血が流れているが、それが流れ続けているのだ。傷口が治る気配も、血が体に戻る気配もまるでない。
治らない傷、そして先ほどの激しい痛み。それからユエはある可能性に行き当たる。
「自動再生が……発動していない!?」
自動再生が機能していないなら、どんな些細な傷もすぐには治らない。そして、自動再生の派生技能、痛覚操作のおかげでユエは痛みというものをほとんど感じてこなかった。そこに、およそ300年ぶりのまともな痛みを叩きこまれ、体が過剰に反応したのでは……。
そして先ほど、香織が回復魔法を使おうとしたにもかかわらず、それは不発に終わった。それだけで、魔法の天才であるユエは、ある可能性に行きついた。それらが意味することは………
「まさか………魔力その物が……使えなくなってる………!?」
もう一匹の説明を。
ムートー
ゴジラと同時代に生息していた怪獣。オスとメスで体の大きさ、作りが違い、オスは小柄で翼を持ち、メスは大型で複数の腕を持つ。放射能を餌としており、ゴジラに卵を産みつける寄生生物。オスメス共に電磁パルスを放つことができ、それは電子機器を瞬く間に使用不能にするほかに、ゴジラを弱体化させ、更に熱線の威力を弱める効果も持つ。
今回、トータス―に現れた個体は魔力による範囲拡大に加えて魔力狂いとでもいうべき能力を有しており、ムートーの電磁パルスの効果内では、魔力が狂わされ、ありとあらゆる魔力行動が不能となっており、無理に使用しようとすれば、強烈な吐き気に襲われる事になる。
現状、電磁パルス内では、アーティファクト、魔法、固有魔法、技能の全てが使用不能状態です。ただし、ステータスに関しては数値通りの動きができます。
余談ですが、パルスに巻き込まれたらエヒトは問答無用で消滅します。仮にユエの肉体を奪っても、所詮は他人の肉体と言う事で、耐えることはできず消滅します。
前代未聞の超絶難易度の試練、果たしてホルアドの運命は!?