ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 投稿が遅れてしまい申し訳ありません。シンフォギアも書いていたから……いえ、正直に言います。エルデンリングを滅茶苦茶やってました。だってすごく面白いんだもん、あれ。
 一週目はクリア済みで現在2週目です。
 ちなみに、すでにプレイ時間は100時間を超えていますが、その内の8時間ほどは赤い裏ボスです。あいつ本当にヤバいよ……強すぎだよ………

 また、前回の怪鳥の名前、ロックバードではなく、ヘルホークでした。直しておきました。


第61話 走れ、人間よ

 突発的に発生した魔力阻害の効果。それはホルアドの町全域を文字通り飲み込んでいた。

 

 「な、なんだこれ!?」

 「ど、どうなってんだ、どうして魔法が……」

 「うぐぇぇぇぇぇ、き、気持ちわりぃ」

 

 その影響は当然ながら町中で戦っていた神の使徒たちとて例外ではない。ヘルホークの群れを相手に善戦していた彼らだったが、突如として当たり前のように使っていた魔法が消滅したことに激しく動揺する。必死になって魔力を練ろうとするが、内臓をかき混ぜられるような感覚に、男女問わず激しくえずき、嘔吐してしまう。

 

 「ど、どうなっているんだ!?どうして聖剣が………答えてくれ、聖剣!」

 

 光輝は輝きを失った聖剣を手に必死に叫び、魔力を練ろうとするが、そんな事はできず、結果として激しくえずき、動きが止まる。

 優勢に進んでいた攻勢が一気に崩壊する。その隙を狡猾なヘルホークたちは見逃さない。魔法を避けるために上空に距離を取っていた彼らは一転して咆哮と共に脚の爪を振りかざしながら勢いよく降下してくる。

 光輝達は迷宮内と言う閉鎖空間内での飛行型としか戦った経験がなく、解放された空間を自在に飛行するヘルホークたちはそれだけでも十分に驚異だった。だが、さきほどまでは魔法があったから優勢に戦う事が出来ていた。それが無くなってしまえば、ヘルホーク達を縛り付ける物はない。

 クラスメイト達は慌てて迎撃しようとするが、とっさに魔法を放とうとしてしまい、失敗してしまう。その間にヘルホークはあっという間に距離を詰め、クラスメイト達に襲い掛かる。

 

 「いやぁぁぁぁぁぁ、助けて!助けて!」

 「や、やめろぉ!こっちに来るなぁ!」

 「離せぇ、離しやがれ!」

 

 ヘルホークに伸し掛かられた者達は必死になって追い返そうと武器や腕を振り回すが、碌に力のこもってないそれでどうにかなるわけもなく、わずわらしそうにヘルホークたちは鳴き、彼らの体に爪を食い込ませる。激痛と食われるという恐怖に、あちこちで悲鳴が上がる。何とか襲撃を回避した者達が助け出そうとするが、その前に他のヘルホークが立ちふさがる。

 そして一匹のヘルホークが野村を連れ去ろうと翼を羽ばたかせ、浮き上がった瞬間、

 

 「ぬん!」

 

 メルドが手にした大剣をヘルホークの翼に突き刺し、振り抜いて皮膜を引き裂く。

 被膜を割かれたヘルホークは悲鳴と共にバランスを崩し、転倒する。

 

 「立て、野村!急げぇ!」

 「は、はい!」

 

 ばたつくヘルホークにとどめを刺し、メルドはそう叫ぶと野村の無事の確認もそこそこにすぐに別の者の元に駆け付け、襲い掛かろうとするヘルホークの翼の被膜を切り裂く。

 被膜が傷ついた事で飛べなくなり、ばたつくヘルホークの姿を見て、メルドは確信した。

 

 「お前等!翼だ、翼を狙え!無理に倒そうとしなくていい!翼を攻撃して飛べなくするんだ!」

 

 飛行型の魔物は総じて魔力によって風を起こし、飛翔している物がほとんどだ。だが、ヘルホーク達は何の問題もなく飛べている。この魔力が使えない状況下でどうして飛行できるのか。メルドはその理由は翼だと気づいた。ヘルホークたちは魔法ではなく鳥のように翼で飛行しているのだと。そこまでわかれば話は早い。ならば飛行の要である翼を傷つければいい。そうすればヘルホークの飛行能力は失われる。地上のヘルホークも爪や嘴の一撃は脅威だが対応はかなり楽になる。

 メルドの指示にクラスメイト達はすぐに対応する。地上のヘルホークの攻撃を掻い潜り、翼を攻撃して自由を奪い、その隙に襲われていたクラスメイト達を救出していく。

 

 「いてぇ、いてぇ、クソが…‥‥!おい辻!お前治癒師だろ!早く回復魔法を使え!」

 「む、無理よ……どんなにやっても魔法が発動しないのよ!」

 

 背中から血を流す檜山が治癒師の辻綾子に詰め寄るが、彼女は力なく首を横に振り、そう告げる。

 

 「なんだよそれ!ふざけんな!さっさと治療しやがれ役立たずが!」

 

 檜山が苛立ちも露に叫んだ瞬間、その声に反応したヘルホークが上空から飛来し、檜山に伸し掛かる。

 

 「ぐべぇ!?」

 

 地面に叩きつけられ、更に巨体で容赦なく踏みつけられ、激痛に檜山が悲鳴を上げるが、そんなものお構いなしにヘルホークは舞い上がりそのまま彼を連れ去ろうとするが、

 

 「この!」

 

 そのヘルホーク目掛けて雫が手にした黒刀を勢いよく投げつける。アザンチウム合金を使い作られた黒刀は投げられた勢いに乗ってヘルホークの被膜を貫く。

 悲鳴を上げながらヘルホークはそのまま墜落し、地面に叩きつけられる。

 

 「うぎゃぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 同じように地面に叩きつけられた檜山から悲鳴が上がる。その両足は骨が圧し折れており、肉を突き破ってしまっている。

 

 「早く負傷者を建物に運んで!急いで!」

 

 その光景に雫は顔を引きつらせるが、首を振って意識を切り替え、指示を出す。

 クラスメイトの手で建物の影に引き摺られていく檜山を横目に雫は墜落したヘルホークから黒刀を回収してとどめを刺す。

 

 (でも、こんなの、本当にどうしようもない………!どうすればいいのよ、こんなの………!)

 

 魔法が使えず、今まで通りの戦法が不可能な現実に雫の焦りは加速していく。だが、それ以上に雫の心を追い詰めている物があった。

 それは力が使えないという事実だ。彼女はこれまで、命を奪う事への強い忌避と恐怖があった。だが、それでも戦えて来れたのは、それしか道がないのと、持ち前の責任感の強さ。そして、自分が力を手に入れたという実感だった。自分には特別な力がある。それに自惚れていたわけではないが、その自覚は少なからず戦いへの活力になっていた。だが、それが無くなったことで、命を奪う恐怖と奪われる恐怖がこれまで以上に鮮明に、より明確な形に変え、ダイレクトに彼女の心を蝕んでいた。

 本当ならこのまま他の負傷者と同じように建物の中に逃げ込みたかった。もう嫌だと全てを投げ捨ててしまいたかった。

 だが、別の場所から上がった悲鳴に、雫は思わずくそっ、と毒づくと、援護のために走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (考えるな!考えるな!魔力の事なんか考えるな!考えるな………考えるな(忘れた)!)

 

 外周部でスカル・デビルから隠れたハジメは頬をパチンと叩くと、左の義手の固定を無理やりに解除し、腕から外すと、疑似神経をドンナーのブレードで切断する。この状況下では左の義手は重り以外の何物でもない。つけてるだけ無駄だ。完全に外れた義手がゴトリと地面に落ちるが、その瞬間、ハジメとティオの背後から低いうなり声が聞こえてくる。

 その瞬間、二人は弾かれたように慌てて瓦礫の影から飛び出す。その直後、二人が隠れていた場所を巨大な腕が薙ぎ払う。

 地面ごと吹き飛ばされた瓦礫を回避しながらハジメは必死に思考を巡らす。

 

 (どうするどうするどうする!?俺の今の手持ちはドンナーにシュラークにシュラーゲン!弾はシュラーゲンが一発に二丁は全弾装填済み!でも、魔力が使えないんじゃ、意味がない!一発しか撃てない!)

 

 ドンナーとシュラークは魔力操作のギミックによって空中リロードや神業的な早撃ちが可能だ。当然、リボルバーの動作にもそれに含まれる。が、魔力が使えない現状、それらは使えず、結果、ドンナーとシュラークは最初の一発しか撃てない。もっとも、あの巨体では、拳銃の銃撃なぞ、大したダメージにならないだろうが。

 幸いと言うべきか、ドンナーとシュラークには銃剣を取り付けてあるため、武器として使えないという訳ではないが、それでも刃渡りは拳銃に合わせた十数センチ程度。スカル・デビルの巨体の前ではあまりにも頼りない。

 

 (こんなんだったらシュラーゲンにもでかい刃を取り付けておくんだった!)

 

 流石にこんな状況、想像の埒外だが、それでもそう思わずにはいられない。

 だが、それに囚われていてはこちらの命が危ない。ハジメは頭を振って意識を切り替えると、

 

 「ティオ!こいつを使え!ナイフとしてなら使える!」

 「う、うむ!」

 

 ティオは自分に向かって投げられたシュラークを慌てて受け取る。だが、ナイフとは根本的に違うからか、まごついてしまう。

 ティオの武器も作らないと、とハジメが顔をしかめた瞬間、スカル・デビルが彼目掛けて勢い良く尾を振り下ろす。

 ハジメは即座に横に跳んでその一撃を回避するが、叩きつけられた衝撃だけでもハジメの体制を崩すには十分だ。

 スカル・デビルは即座に追撃を行おうとするが、体がよろめき、動きが止まる。その隙にハジメは更に後ろに跳んでスカル・デビルから距離を取る。

 

 (まあ、ノーダメージ状態よりかはかなりマシだな……枷もなくなって動きも軽いし……しばらく慣らさないといけないけど)

 

 ハジメの身に着けていた重枷もまた効力を失っている為、今の彼は文字通り全力で動ける。片腕状態だが、オルクスではそれで戦っていたのだ。感覚を思い出せば十分に戦えるはずだ。

 スカル・デビルは唸りながらハジメを見ていたが、不意に視線をティオに向けると、大きく口を開け、そこから長大な舌を勢い良く伸ばす。

 

 「くっ!」

 

 シュラークの持ち方にまごついていたティオだが、それに気づくと、体を横に投げ出して回避する。急いで立ち上がろうとするが、着物の裾が引っ掛かり、動きが止まる。

 スカル・デビルはチャンスと言わんばかりに舌を薙ぎ払い、ティオを絡めとろうとするが、

 

 「させるか!」

 

 ハジメがドンナーを発砲。弾丸は狙い違わず舌を直撃する。撃ち抜けはしなかったが、それでも激痛に襲われ、スカル・デビルは悲鳴と共に頭を激しく振るい、舌が暴れ狂い、それが倒れたティオの頭上をかすめる。

 舌を戻したスカル・デビルは怒りで双眸を滾らせると、咆哮と共にハジメ目掛けて走り出す。

 

 「ティオ、無理するな!下がれ!」

 

 ハジメはそう叫ぶと、スカル・デビルの突進を回避し、ドンナーの銃剣で切りつけるが、あまりにも浅い。

 スカル・デビルは唸りながら無理やり尾を振るうが、ハジメは前に飛び出す形で回避し、スカル・デビルの懐に潜り込み、

 

 「なろが!」

 

 跳躍して顎に渾身の力で殴りつける。

 空気を震わせる鈍い音と共に巨体がよろめき、着地したハジメはチャンスと言わんばかりにもう一度跳躍、巨体を蹴り付けてスカル・デビルの頭上に飛び出すと、

 

 「これで……どうだ!」

 

 がら空きの頭部に渾身のかかと落としを叩きこむ。

 一連の連撃にスカル・デビルは苦悶の咆哮と共に大きく体制を崩す。更にハジメは反動で距離を取り、背中に着地すると、傷口にドンナーの銃剣を突き刺し、そのまま駆け出して一気に傷口を抉る。

 スカル・デビルが絶叫と共に激しく暴れ、ハジメを吹き飛ばすが、彼は空中で体制を整えて地面に着地する。

 

 「ここまでやってやっとあの程度か………」

 

 スカル・デビルのダメージはさほどではない。傷口を抉りはしたが、そこまで深くはない。何度も続ければそれなりにはなるだろうが、やはり決定力不足は否めない。

 スカル・デビルは咆哮を上げながらハジメを睨みつけると、勢いよく飛び掛かってくる。

 ハジメは前に飛び出してその一撃を回避する。が、スカル・デビルは着地すると同時に旋回し、その勢いで右腕を薙ぎ払う。

 ハジメはすぐに後ろに跳ぶが、その瞬間、スカル・デビルは舌を勢い良く伸ばす。

 ハジメは目を見開きながらもとっさに空力で回避しようとしてしまう。結果、激しくえづき、動きが止まる。その結果、長い舌がハジメの体を完全に絡めとり、締め上げる。

 万力のような締め上げと吐き気にハジメはうめき声を漏らすが身動きが取れない。そのまま舌はハジメを飲み込もうと口内に戻ろうとする。

 が、次の瞬間、鈍い炸裂音と共にスカル・デビルの絶叫を上げ、舌がでたらめに振り回される。それによってハジメの身体も解放されるが、受け身など取れず、べしゃりと地面に勢い良く叩きつけられてしまう。

 

 「がっ……!つぅ………くそ!最悪だ!」

 

 涎まみれでベトベトの身体と鼻をつく悪臭。そして全身を襲う激痛に悪態をつきながら、ハジメはスカル・デビルに目を向ける。

 絶叫を上げるスカル・デビルは右手で右目を抑えており、指の間から血が流れているのが見える。

 

 「大丈夫か、ハジメ殿!」

 

 そこにティオが慌てた様子で駆け寄ってくるが、その姿を見て、ハジメは目を丸くした。彼女は着物のような服を纏っていたのだが、その裾が大きく切り落とされているのだ。その結果、彼女の肉付きがよく、白い太ももが露になっている。

 

 「ティオ……それ……」

 「ああ、これか……この状況では動きにくくてたまらんからな、裂いたのじゃ。おかげで動きやすくなった」

 「そうか……」

 「とりあえず、先ほどの攻撃で奴の右目を潰した。当たったのは運がよかった」

 

 どうやらハジメが食われそうになったのを見て、とっさにシュラークを発砲し、運よく目を撃ち抜いたようだ。

 まさに大当たりだな、とハジメが息を吐いていると、スカル・デビルは立ち直り、ハジメ達を睨みつける。残った隻眼は憎悪と憤怒でどす黒く染まっている。

 

 「こいつは………長丁場を覚悟した方がいいか」

 

 あまりにも絶望的な状況。だが、ハジメも、そしてティオも未だ諦めていない。臆しそうになる心を大きく息を吐くと同時に叩きつけ、目の前の敵を真っ直ぐに睨みつけて武器を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「魔力が使えないって……どう言う事……!?」

 

 大勢の人々が逃げ惑うホルアドの町中で、香織は愕然とした様子でユエに問いかけていた。その表情には、彼女の言葉が嘘であってほしいという願望が見え隠れしている。

 

 「そのままの意味……どうしてかは分からないけど、今この付近は魔力が使えない状態になっているかもしれない」

 

 その言葉に香織はその顔にはっきりと戸惑いと恐怖を浮かべる。これまで彼女が戦えていたのは神羅とハジメを助ける強固な意志があったからでもあるが、それに加え、そのための力があるという実感もあったからだ。それが使えないという現実に彼女の心はこれまで以上の恐怖を感じていた。

 

 (魔力が使えないと言う事は………私ほとんど何もできない!魔法も使えないし、自動再生も発動しないから囮さえできない!最悪も最悪すぎる!一歩間違えれば死…………)

 

 そこまで考えた瞬間、ユエの全身から冷水を浴びせられたかのように血の気が引いていく。思わず自分の手に視線を向ければ、指先が震えてしまっている。勝手に呼吸が荒くなり、唇も震えてしまう。周囲から響く悲鳴と咆哮が脳をかき乱す不協和音のように聞こえ、思わず耳を塞いでしまいたくなる。

 だが、ユエは頬を思いっきり引っ叩き、その痛みで強引に思考を切り替える。更に唇を強く噛み締めて何とか踏みとどまろうとするが、背筋に氷塊がぶち込まれたような怖気に襲われる。彼女はとっさに香織の手を引いて思いっきり横に転がる。

 瞬間、その場に一匹のヘルホークが強襲を仕掛け、風圧が二人の髪を激しく乱す。上空から現れた新たな怪鳥の姿に人々はパニックを引き起こし、大慌てで逃げ出す。

 

 「っう………走って!」

 

 転んだ痛みに涙目になりながらもユエは香織の手を引いて走り出す。背後からヘルホークが咆哮を上げ、飛翔する音が聞こえる。どうやらユエ達を獲物と定めたようだ。

 安全な所に逃げ込もうとユエは走りながら周囲を見渡す。だが、あちこちが破壊された町中で、そんな場所を見つけるのは至難の業だ。

 

 「………どうにかしないと……!」

 「………ど、どうするの?これ、どうすれば……いいの……?」

 

 か細く聞こえてきた香織の言葉にユエは何を、と軽く振り返る。その目は怯えと不安が入り混じっており、ひどく頼りない。迷宮の時とはまるで別人だ。

 それを見ても、ユエは失望しない。当然だ。当たり前だ。だって………

 

 「……私にも分からない。正直に言って、私も怖い。痛くて怖くて、不安で、どうしようもない」

 「そ、そんな「でも、生きてる。動くことができる。だったら、私にできる事を探して、やり抜く!」……!」

 

 そうだ。怖い。全部が怖い。怖くて怖くてしょうがない。怪鳥が、痛みが、悲鳴が。自動再生によって、遠ざけられていた己の死が怖い。

 魔法(才能)と言う鎧が剝がされた今、ユエには己のすぐ背後にまで迫ってきている死を笑い飛ばせる強さはなんてない。本当ならば、その耳を塞いで、目をきつく閉じて、うずくまって、誰かに助けてもらいたい。

 だがそれでも、ユエは動く。生きているから。出来ることがあるはずだから。大きな事なんて、大それたことなんてできるとは思わない。それでもやれることがあるはずだ。ならばそれを全うする。怖くても怖くても、走り続ける。

 それが、自分(人間)にできる事なのだ。

 その後ろ姿を香織は茫然とした様子で見ていたが、少しすると、唇を強く引き結びながら周囲を見渡し、

 

 「!あそこ!あの建物!あそこなら逃げ込めるんじゃ!?」

 

 その声にユエが顔を向ければ、確かにそこには無傷の建物がある。

 二人はそちらに向けて走り出し、扉をぶち破った勢いで中に転がり込む。

 それと同時に悲鳴が聞こえ、二人が顔を上げると、建物の中には逃げ込んだ多くの町民たちが怯えたように身を寄せ合って体を震わせている。

 二人は唇に指をあてて静かにするように伝えると、大きく息を吐いてその場にへたり込む。

 

 「とりあえず、一息つけた………」

 「でも状況は変わってない。早く何とかしないと……」

 

 ユエは打開策を見いだせないのか外を確認しながら呟く。外ではヘルホークが地面に降り立ち、ぎょろぎょろと周囲を睨みつけている。

 ユエがどうするかと考えている横で香織は建物内を見まわして、

 

 「………ねえ、ユエちゃん。あれ、使える?」

 「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くっそぉぉぉォォォォォォォォォ!」

 

 やけくそじみた叫びと共にシアは横っ飛びに転がり、ヘルホークの襲撃を回避し、そのまま建物の影に飛び込む。

 ヘルホークはすぐさまその後を追うが、少しすると、シアを見失ったのか苛立つように鳴き声を上げながら周囲を見渡し彼女を捜索し始める。

 その様子を物陰から確認していたシアだが、大きく息をつくとその場にへたり込む。

 

 「不味いです……不味すぎます……!こんなのどうしたら……」

 

 魔力阻害はシアにとっても致命的だった。彼女は未来予知はおろかあのバカげた出力の肉体強化すら使えない。ドリュッケンを振るう事もできず、戦槌は今手元にない。

 ヘルホークの総数が減っているおかげもあって、どうにか今は襲撃から逃げ延びれているが、このままでは捕まるのは時間の問題だろう。

 

 「うぅ……まさかこんなピンチに襲われるなんて……ヤバいですヤバいです……」

 

 頭を抱えながらシアは呻き、必死になって打開策を探す。だが、身体強化が使えない自分はただの非力な兎人族。素のステータスはそこそこあるが、それでも決定打にならないだろう。

 私にも銃があれば、とシアが考えたところで、彼女のうさ耳が飛翔音を捉え、慌てて前に転がる。それと同時にヘルホークの巨体がシアの体をかすめる。

 シアは即座に走り出し、ヘルホークはすぐさまその後を追う。だが、シアは建物の影を巧みに利用してヘルホークの視線から外れ、物影で息を殺す。

 すると、ヘルホークはシアを探すように周囲を見渡し、再び見失ったのか苛立ちを露わにするように鳴き声を上げる。

 その声に背筋が震え、思わずその場にうずくまりたくなる。だが、シアはギリっと奥歯を強く噛み締め、拳を強く握る。

 いいや、ダメだ。ここで折れてしまってはダメだ。確かに状況は最悪だ。戦闘力の大半を奪われ、怪鳥の数はだいぶ少なくなったがそれでもまだ襲撃を諦める気配がない。今の自分では戦う事はほぼできない。

 だがそれでも、諦めるわけにはいかない。諦めたらそこで本当に終わってしまうから。まだ生きているのに、可能性があるのに、それが潰えてしまう。だからこそ、動け、動け、動け!神羅がゴジラだった時の世界の人々のように、戦う事が嫌いな家族たちが、立ち上がったように!

 そこまで考えた瞬間、シアは不意に何かに気づいたように顔を上げる。

 どうして気付かなかったのか。どうして忘れてしまっていたのか。

 

 「………………………そうだ。私………兎人族でした…………」




 ヘルホーク

 モンスターバースの地球の地下世界に生息している巨大な鳥。蝙蝠のように音の反響で獲物を探すが、翼全体がその音を拾うアンテナの役割をしており、一説では瞬きの音すら感知するともいわれている。
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