ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 一昨日、昨日を利用して、シン・ウルトラマンとバブルを見てきました。

 ウルトラマンは……王道でありながら、新しい展開もあって面白かったですね。まさかあの怪獣であんな展開が来るとは……

 バブルは……こちらも面白かったです。うん、いいね。ああ言うのも。そしてボロクソに泣きました、はい。


第62話 終わりを告げる雷鳴

 森全体を揺るがすような轟音と共にムートーが力づくで押しやられていく。ムートーは両足を必死に踏ん張って抗おうとするが、ゴジラの圧倒的な膂力の前では虚しい抵抗だ。両足で地面を抉りながらムートーは大きく押しやられ、ゴジラが咆哮と共に一気に力を籠めて突き飛ばせば、ムートーの巨体は地面に仰向けに叩きつけられ、衝撃で地面が砕け、木々がなぎ倒される。

 ムートーは何とか起き上がろうとするが、その前にゴジラが胸部を容赦なく踏みつける。

 ムートーの悲鳴が上がり、手足が振り回されるが、ゴジラはビクともしない。彼は天敵を睨みつけると、大きく胸を反らす。それと同時に背びれと首元と目が青白い光を放ち、開いた口腔内も青白く光る。

 と、それに気づいたムートーは片腕をゴジラの口目掛けて勢いよく突き出す。腕は顎をかちあげ、その衝撃にゴジラは大きくのけ反りムートーから足を放してしまう。

 が、ゴジラは即座に熱線のチャージをやめると、突き出された片腕を抑え込んで食らいつく。そのまま振り回し、ぶちりと言う異音と共に巨体が投げ飛ばされる。

 ムートーの巨体が冗談のように宙を舞い、勢いよく地面に叩きつけられ、ムートーは絶叫を上げる。食らいつかれていた片腕は肘のあたりで千切れており、体液があふれ出す。

 ゴジラは咥えていた腕の残骸を吐き捨てると勝ち誇る様に咆哮を上げてムートーを睨みつける。

 対し、ムートーもふらつきながらも立ち上がり、戦意をぶつけるように咆哮を上げる。

 ゴジラは苛立つように顔をしかめ、鼻息を放つと、咆哮を上げながら勢いよくムートー目掛けて走り出し、ムートーもまた咆哮を上げながら駆け出し、両者は真っ向から激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルホークは苛立つように嘴を打ち鳴らしながら町中を歩いている。顔を上げ、周囲を見渡しているが、それと並行して翼も大きく広げる。

 ヘルホークの翼はどんなに小さな音でも拾う事ができる。だが、今は周囲で無数の悲鳴と同族の咆哮が轟き、うまく聞き取ることができていない。その事がヘルホークを苛立たせていた。

 と、次の瞬間、ヘルホークは背後から小さな音を拾い、勢い良く振り返るが、

 

 「りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 それと同時にシアが叫びながらヘルホークの懐に潜り込むと、どこからか拾ってきたナイフを折りたたまれた翼に突き立て、勢い良く振り抜き、被膜を引き裂く。

 悲鳴を上げたヘルホークは勢いよく蹴りを繰り出し、シアはとっさに後ろに下がって回避するが、鋭いかぎづめがシアの皮膚を浅く掠める。

 痛みにシアは顔をしかめながら大急ぎで後ろに距離を取る。

 

 (落ち着いて、落ち着いて私!深入りしてはいけない!欲張ってはいけない!今の私のステータスじゃ一撃撃破なんてできない!確実に攻めて攻めて攻め崩す!)

 

 シアは知っている。動物と言うのは想像以上にしぶといと言う事を。討ち取ったと思った獣が最後の力で反撃し、狩人を殺したなんて話は子供の時、フェアベルゲンで何度も聞いた。だからこそシアは決して深入りしない。自分の能力に自惚れて攻めたりしない。臆病と言われようと、確実に攻めていく。

 思い浮かべるのはかつての自分。魔力を持っていたとしても兎人族の性か、静かに暮らしていた時の己。それに連動して思い出すはその時、父と母、そして他の家族たちが教えてくれた樹海の魔物から隠れ潜む術。

 シアは大きく深呼吸をして己を落ち着かせると、ヘルホークを睨みつけ、ナイフを構える。

 ヘルホークは怒りの咆哮を上げるとシア目掛けて走り出す。翼膜を傷つけられ、飛行能力を大きく失っているのだ。

 ヘルホークが勢いよくシアに嘴を突き出してくるが、シアは冷静にその一撃を回避する。

 即座に追撃しようとしたヘルホークだが、突然狼狽えたように動きが鈍る。直近にいるはずのシアの気配が恐ろしく薄く、一瞬行動にためらいが生まれる。が、シアにはそれで十分だ。

 シアはナイフをヘルホークの脚に突き刺す。

 悲鳴を上げながらヘルホークの巨体が痛みによって傾ぎ、でたらめに翼が振り回される。だがその時にはシアはその範囲外に脱している。

 ヘルホークが吠えながらシア目掛けて飛び掛かるが、シアはそれを潜り抜けて背後に回ると、傷口に再びナイフを突き立て、一気に抉る。ヘルホークは悲鳴を上げてデタラメに暴れる。目の前で振り回される巨体にシアの身体から冷汗が噴き出すが、どうにか回避すると、足元の瓦礫を拾い上げ、ヘルホークの頭に投げつけると同時に走り出す。

 頭に石をぶつけられ、とっさにヘルホークが振り返ったその隙をシアは見逃さない。一気に懐に潜り込み、即座に繰り出した一撃が喉に吸い込まれるように突き立てられる。

 確かな手応えと共にヘルホークがビクンと震える。シアがナイフを抜き去り、素早く距離を取ると、ヘルホークはそのまま倒れ込み、びくびくと痙攣するが、少しして完全に動かなくなる。

 

 「ふう、ようやく一匹………」

 

 何とか倒せたことに、シアは大きく安堵の息をつく。

 だが、状況は好転していない。未だ魔力は使えないし、孤立してしまっている。

 そんな中で、シアはユエは無事なのだろうかと思い至る。彼女も自分と同じ魔力頼りだから現状はかなり危険なはずだ。

 一度ユエと合流を、と考えたところでシアは即座に前に跳ぶ。瞬間、ヘルホークがシアがいた場所を強襲、そのまま空へと舞い上がる。

 それを見てシアは唇をかみしめる。今のシアでは空に逃げられたら手も足も出ない。これではユエとの合流が遅れてしまう。

 そちらにシアの意識がそれた瞬間、ヘルホークが爪を振りかざしながら急降下してくる。それにシアが気付いた時には迎撃は間に合わない距離になっていた。マズイ、と体が強張った瞬間、

 

 「シア伏せてぇ!」

 

 背後から聞こえてきた声にシアは反射的にその場でしゃがみ込む。その頭上を越えて何かがヘルホーク目掛けて勢いよく投擲される。

 ヘルホークはとっさに急制動をかけるが間に合わず、投げつけられた何かがヘルホークに突き刺さる。

 悲鳴と共に墜落したヘルホークを見て、シアは即座に距離を詰め、ナイフで喉を切り裂く。

 

 「……槍?」

 

 痙攣するヘルホークに突き刺さっている折れた槍を見て、シアが首を傾げると、

 

 「大丈夫?シア」

 

 背後からの声に振り返れば、案の定、そこにはユエがいた。もっとも、その姿は中々ひどいものだ。汗と埃で全身が汚れてしまい、美しい肌にはいくつもの擦り傷ができており、ビスクドールのような美貌も今はくすんでいる。もっとも、ユエにはそれを気にしたそぶりはない。

 

 「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます、ユエさん。合流できてよかったです」

 

 ん、とユエが頷いていると、

 

 「ユエちゃん大丈夫だった!?」

 

 その後ろから香織が走ってきたのだが、その姿を見て、シアはぎょっと目を見開く。

 彼女は背中に何本もの槍を背負っているのだ。しかも彼女自身、その手に杖ではなく槍を持っている。

 

 「うん、大丈夫。シアも無事」

 

 そう言いながらユエは香織から新しい槍を受け取る。

 

 「えっと……お二人とも……その槍は?」

 「あ、これ?ほら、今魔力が使えないでしょ?それで、どうしたらいいだろうと思った時、逃げ込んだ武器屋で槍を見て、使えないかなと思って」

 「実際、あいつら遠距離攻撃を持ってるわけじゃなく、接近戦を仕掛けてきている。だから剣で戦うよりは安全と思って」

 

 二人の言葉にシアはなるほど、と頷く。

 確かにヘルホークの飛行能力は脅威だが、攻撃は爪や嘴ばかり。剣ではその攻撃範囲に近づかねばならないが、槍ならば、安全な距離から攻撃ができる。それに、上空のヘルホークも突き出される槍を嫌って簡単には近づけないだろう。

 

 「ですがユエさん、槍なんて使えるんですか?白崎さんも」

 「えっとね……槍って、実は使う分にはそこまで複雑じゃないって聞いた事があるんだ。昔、私たちの国じゃ、長い槍があれば農民でも武士……えっと、騎士みたいな人を倒すことができる、とかなんとか……」

 「まあ、そこは置いといて、突くだけなら私でもなんとかなる。だから問題ない」

 

 ユエは槍の石突で地面を叩いてむふー、と鼻息を漏らす。まあ、確かにここまで無事にこれたのならば、何とか出来てきたのだろう。

 その時、怒りに震える咆哮が響き、3人はバッ!と視線を城壁の方角に向ける。

 

 「ハジメさん………」

 「シアちゃん、ハジメ君も心配だけど、魔物が城壁を突破してないならきっと無事だよ。私たちはメルドさん達と合流しよう」

 「……うん、ハジメ達はきっと無事。私たちは、私たちにできる事をしよう」

 「……はい!」

 

 頷き合い、3人は再び戦火に飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 咆哮と共に勢いよく薙ぎ払われる尾をハジメは跳躍して回避し、巨体の懐に潜り込むと、ドンナーの刃をスカル・デビルの右足の傷目掛けて振るい、傷口を抉る。

 スカル・デビルはわずわらし気に唸り声をあげて腕を振り回すが、ハジメは冷静に下がって腕の範囲から脱する。追撃を仕掛けようとスカル・デビルがハジメに向き直った瞬間、反対側の腕をティオがシュラークの刃で切りつける。

 苛だち交じりの咆哮を上げるが、スカル・デビルはティオを無視してハジメに飛び掛かる。

 舌打ちと共にハジメはスカル・デビル目掛けて飛び込むことで巨体を潜り抜ける。

 目標を失った巨体はそのまま地面に着地しようとするが、直後にバランスを崩し、倒れ込む。

 

 「ようやく……ここまで来れた……」

 

 滲みだした汗をぬぐいながらハジメは大きく息を吐き、気を引き締める。

 戦いが始まってそれなりの時間が経過したが、ハジメはその間、徹底的に腕の一か所を攻撃し続けていた。

 理由はシンプルに、敵の脚を使えなくして、機動力をそぐことだ。スカル・デビルは重傷を負ってはいるが、その巨体の機動力は未だ脅威と言える。ハジメやティオはまだ大丈夫だが、この町にいる冒険者や騎士程度なら蹂躙できる。今は彼らは町の中の対処に追われているようだが、もしも城壁を突破されれば、今でもかなりの被害が出ているのに、更に甚大な被害が出る。下手したら町そのものが崩壊する。それだけは絶対に防がなければならない。

 腕の傷はすでにかなりの物になっているはず。現にスカル・デビルの動きは明らかに鈍ってきている。

 だが、スカル・デビルは吠えながら立ち上がり、未だ衰えぬ戦意でハジメとティオを睨みつける。

 

 「くそっ、どんだけしぶといんだよ……!」

 「焦ってはダメじゃ、ハジメ殿。確実にダメージは与えている。この調子でいこう」

 「そうだけど、決定打が……!」

 

 再び突っ込んできたスカル・デビルを回避しながらハジメは苛立ち交じりにスカル・デビルの傷口に回し蹴りを叩きこみ、巨体を傾がせる。

 今最もハジメたちを悩ませているのは決定力不足だ。現在の武装でスカル・デビルに十分なダメージを与えられるのは恐らくシュラーゲンだけだ。だが、レールガンで撃てないシュラーゲンではダメージは耐えられても決定打にはならない。眼球、もしくは口内に撃ち込まねばならないが、中々その隙が無い。しかも、口内は決定打にならない可能性もある。

 どうするか、とハジメが考えた瞬間、スカル・デビルが左腕を振り上げる。

 来るか、とハジメが構えた瞬間、スカル・デビルは左腕を大地に突き立て、そのまま地面を抉りながら勢いよく振り上げ、大量の土砂がハジメ目掛けて降り注ぐ。

 予想外の行動にハジメはぎょっ!と目を見開くが、とっさに土砂を回避するために後ろに跳ぶ。

 が、まるでそのタイミングを見計らっていたかのように土砂を引き裂きながらハジメ目掛けて尾が薙ぎ払われる。

 ハジメの顔がはっきりと引きつり、それでも、彼はとっさに空中で強引に体を捻る。

 瞬間、尾がハジメを掠め、身体が勢いよく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、バウンドしながら転がっていく。

 

 「ハジメ殿!」

 

 ティオが悲鳴じみた声を上げながらスカル・デビル目掛けて斬りかかる。

 が、それに気づいたスカル・デビルは腕を勢いよく振り下ろす。ティオはどうにかその一撃を回避するが、至近距離で衝撃波を喰らってしまい、彼女の身体もまた吹き飛ばされる。

 

 「ぐっ……くそ………」

 

 その光景を見てハジメは悪態をつきながらどうにか体を動かそうとするが、そのたびに全身を鈍い痛みが襲う。

 尾の一撃は直撃だけは避けられたがそれでも引っ掛けられたけでもかなりのダメージになっている。

 それでもまだ動く。まだ戦える。その事実で自分を鼓舞し、ハジメはよろめきながらどうにか立ち上がる。

 好機と見たのかスカル・デビルがハジメ目掛けて突っ込んでくる。その足取りはふらついているが、それでも瞬く間にハジメとの距離を詰めていく。

 こうなったら一か八か、とハジメはシュラーゲンを取り出して右手で構える。狙いは大きく開けられた口内。

 スコープ越しに広がる醜悪な口内にハジメは顔をしかめるが、そのまま狙いをつけ続ける。一撃。一撃でこいつを仕留めるにはただ口内を狙うだけではだめだ。狙うなら喉だ。そこ以外にない。

 地響きと共に巨体がハジメを飲み込まんと迫るが、ハジメは冷静に深呼吸をして狙いをつける。狙って、狙って、狙って狙って狙って………

 

 「そこだ!」

 

 自分の中で何かがカチリとはまるような感覚を覚えると同時にハジメは引き金を引く。

 耳をつんざく発砲音と共に放たれたフルメタルジャケットの弾丸が一直線にスカル・デビルの口内に飛び込み、その奥の喉に吸い込まれ、

 次の瞬間、肉が弾ける異音と共に、口内から鮮血がまき散らされる。耳障りな悲鳴と共にその巨体が傾ぎ、地面に叩きつけられる。

 その光景にハジメは思わずやったか、と思うが、即座に立ち上がろうとする悪魔にくそっ、と毒づきながらシュラーゲンを放り投げ、ドンナーを構える。

 立ち上がったスカル・デビルが口から血を流しながらもハジメ目掛けて腕を薙ぎ払い、ハジメは後ろに跳んで回避するが、即座にスカル・デビルは飛び出し、大口を開けてハジメに迫る。眼前の異臭にハジメの顔が引きつるが、次の瞬間、はっとしたように目を見開くと、地を蹴って一気に跳び上がる。逃がさないと言わんばかりにスカル・デビルはハジメ目掛けて噛み付こうとするが、それをハジメは空中を蹴ることでさらに跳んで回避する。

 が、それでも執念深く怪物は追いすがる。口内からハジメ目掛けて勢いよく舌を伸ばし、捉えようとするが、突如後方から黒い閃光が怪物目掛けて放たれ、右腕の傷口を直撃、炸裂する。右腕が大きく抉られ、絶叫と共に巨体が崩れ落ち、無防備となった頭部にドンナーが付きつけられ、銃身に膨大な赤い雷を纏わせ、

 

 「俺達の………勝ちだ」

 

 その瞬間、赤く染まった空に雷鳴が轟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こっちです!恐らくこの先に!」

 

 シアの先導の元、ユエ達は半壊したウルの町を全力で走っていた。目指しているのは上空にたむろしている何匹かのヘルホークの群れだ。

 走っている最中、香織は周囲に目を向け、

 

 「……襲撃が収まってきた?」

 

 実際、空を飛んでいるヘルホークの数は数える程度しかなく、周囲には死体が幾つも転がっている。だが、町中は怪我人で溢れかえっており、中に死体もあり、香織はそれを見て顔を青くし、唇を強く噛み締める。

 

 「……ここはオルクス大迷宮がある。冒険者の数も質もそこそこ。彼らでも十分に戦えるみたい」

 「もしくは、鳥たちの方が撤退したか、ですね。これ以上ここに居座っても彼らにメリットはないでしょうし。」

 

 ユエとシアが推測交じりの意見を交わしていると、彼女たちは円形の広場のような場所にたどり着く。

 

 「いました!」

 

 シアが指さした先には建物の前で何匹かのヘルホークを相手に必死に武器を振り回しているクラスメイトとメルドの姿があった。周囲には何匹ものヘルホークの死体が転がっている。

 その顔は誰もが疲労と焦燥で染まっており、一切の余裕がない。しかも、よく見れば戦っているのは全体の半数以下しかいない。

 

 「雫ちゃん、みんな!」

 

 香織が慌てて彼らに駆け寄ると、全員が彼女に気づき、

 

 「香織、無事だったのね!」

 「うん。それで状況はどうなってるの?」

 「怪我人が大勢出てどうしようもないの!怪我人は建物の中に匿ってるけど………何とか治癒魔法を使えない!?」

 

 雫の言葉に香織はすぐに建物の中に入る。中は怪我をしたクラスメイト達や住人で溢れている。どうやらクラスメイト達からはまだ死者は出ていないようだが、全員が重傷を負っており、苦痛の声を漏らしている。

 

 「し、白崎!来てくれたのか!早く、早く治癒魔法を!」

 

 近藤が香織に気づき、捲し立てるように叫び、それをきっかけに仲の人々も縋りつくような視線を向けてくる。

 

 「……残念だけど、まだ魔法は使えないの」

 

 その言葉に彼らは絶望的な表情を浮かべる。それに構わず、香織は背中の槍を何本か彼らに手渡す。

 

 「とりあえずこれを持ってて。入り口から突き出すだけでもいいから。」

 「や、槍って……ちょ、ちょっと待ってくれ白崎。俺達槍なんて……」

 「使えなくても持ってるだけで奴らを近寄らせにくくする。それで耐えるしかない!」

 

 香織は自分も槍を手にして外に出てヘルホークを睨みつけると、

 

 「さっきから何をやってるの!魔力が使えないって分かってないの!?」

 

 ユエの荒々しい声に思わず顔を向ければ、ユエは光輝と対峙している。彼は聖剣を手に棒立ちしている。

 

 「どうしてか、俺の声に聖剣が応えてくれないんだ!そうすればこんな奴らすぐに……」

 「バカ言ってないでさっさと戦って!能力が使えなくても剣として使えるでしょ!」

 「だ、だが、力が…………」

 

 先程から無駄に魔力を練ろうと、激しくえづき続ける光輝をユエは苛立ちに任せて蹴り付けたくなる。いつまでも使えない力に縋って、一体何をやっているのか。

 だが、状況は待ってくれない。

 

 「来ます!」

 

 シアの鋭い声に顔を上げれば、ヘルホーク達が爪を振りかざしながら襲い掛かってくる。

 ユエは手にした槍を頭上で振り回して追い払おうとするが、一匹のヘルホークが槍を勢いよく蹴り付ける。異音と共に槍の柄が圧し折れ、衝撃でユエが大きくよろめき、

 

 「がっ、あぁぁ!?」

 

 その隙に別のヘルホークがユエを勢いよく地面に押し倒す。地面に勢い良く叩きつけられ、爪が彼女の身体に食い込む。

 

 「ユエさん!」

 

 シアがとっさに駆け寄り、槍を突き出すが、ヘルホークは一気に飛び上がって回避する。その足はがっちりとユエを掴んだままだ。

 

 「そんな!」

 

 見る見るうちに遠ざかっていく地上にユエが顔を引きつらせた瞬間、空気が一変する。

 そうとしか言えないような感覚にユエは思わず目を瞬かせる。

 だが、即座にその意味を理解し、自分を掴み上げるヘルホークに手をかざし、

 

 「よくもやってくれたな………焼き鳥になれ!緋槍!」

 

 その瞬間、撃ち放たれた炎の槍がヘルホークを貫く。絶叫すら上げられず巨鳥は絶命し、それと同時にユエは拘束から脱出する。

 そのまま死骸とユエは重力に導かれて地上に落下していくが、ユエの身体は途中で重力に逆らうように速度が緩やかになっていき、遂には完全に停止する。

 そして空中から地上を睥睨したユエはきっ、と残りのヘルホークを睨みつけ、

 

 「これで終わり………蒼龍!」

 

 ユエの声と共に彼女の周囲に何匹もの蒼い炎の龍が現れ、咆哮と共にヘルホークに襲い掛かる。慌て逃げ出そうとするヘルホーク達だが、その顎から逃れられず、次々と飲み込まれ、灰燼と帰していく。

 ユエが息を吐きながら蒼龍を解除する。すでにウルの町にヘルホークは一匹たりとも残っていない。全滅したのだ。

 周囲を見渡してそれを確認したユエは安堵のため息と共にゆっくりと地上に降りていく。そして静かに地面に足を付き、

 

 「………死ぬかと思った」

 

 その背後で、雷鳴の如き轟音が轟く。

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