ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

72 / 111
 多少なりとも早く投稿できました。


第64話 貴方を好きになった

 赤い練成光が光り、目の前の歪な城壁の形が見る見るうちに整えられていき、数分後には元の形へと復元されていた。

 

 「よし、こんなもんか」

 

 出来栄えを確認したハジメは小さく頷きながら城壁から飛び降り、ホルアドの町に着地する。

 神羅と合流したハジメ達はそのままホルアドの町へと戻り、復興の手伝いをしていた。内訳はウルの町の時と同じで、二回目だからか彼らも慣れたもの。瓦礫を撤去し、怪我人を集めて回復魔法で癒す。物資も幾らかは分けてやっている。

 ハジメは城壁の修復を請け負い、たった今済ませたところだ。

 ふう、と息を吐きながらハジメは軽く首を動かすと、宝物庫から取り外した義手を取り出すと、その場で取り付け作業に移る。

 なんだかんだこの作業ももう3回目。慣れたものですぐに取り付けが完了し、試しに動かしてみれば、問題なく動く。

 

 「よし、これで大丈夫だな……」

 

 ハジメは軽く体を伸ばすと神羅達の元へと向かう。

 あれほど大規模な襲撃があったにもかかわらず、建物の被害は意外と少ない。元々、ヘルホーク達に建物を破壊する意思はほとんどなかったのがおおきいだろう。

 この様子ならば明日にでも出発できるだろうと考えながら歩いていくと、神羅達が集まっている広間にたどり着く。

 広間には大勢の怪我人がいるが、香織と辻が範囲回復魔法を使ってまとめて癒している。その周囲では他のクラスメイト達とユエとティオが手当てをしている。その間を無事を確認した後、自ら手伝いを申し出たミュウがぱたぱたと走り回っている。

 神羅は、とハジメが周囲を見渡すと、そこに巨大な馬車を担いだ神羅とシアが飛び込んでくる。

 

 「うはぁ~~~~!思い通りに動けるって最高ですぅ!」

 「だからってはしゃぎすぎだ。ちょっとは落ち着け」

 

 馬車を下ろしながらはしゃぐシアを神羅がたしなめる。どうやら二人して怪我人を馬車に纏めて運んできたようだ。うん、確かに効率はいいが中の人たちは大丈夫なのだろうか……

 無邪気に凄いとはしゃぐミュウをよそに神羅とシアは馬車の中の怪我人を次々とおろしていき、それを見た香織が顔を引きつらせる。

 

 「これはまた………たくさん連れてきたね……」

 「まあ、あちこちに冒険者や回復魔法の使い手が散らばっていたし、これで終わりだ」

 「そっか……それじゃあ早速……」

 

 香織はすぐに最上級の回復魔法、聖典を発動させる。準備に時間がかかったが、発動すれば瞬く間に怪我人たちの怪我が癒えていき、彼らは口々に香織に感謝の言葉を口にしている。

 その光景を小さくため息をつきながらハジメは眺めていたが、すぐに神羅の元に歩き出す。

 

 「兄貴」

 「ん、ハジメか。修繕の方はどうだ?」

 「終わったよ。建物の方は……まあ、俺が手を貸さなくてもあの程度ならすぐに復旧するだろう」

 「……こっちも怪我人の手当ては終わった」

 

 更にそこにユエとティオが合流する。

 

 「そうか……それじゃあ、これからどうする?」

 「後はこの町の住人に任せればいいが、すぐに出発……という訳にはいくまい。このまま作業を続行して、明日出発としよう」

 

 神羅の言葉にハジメ達がそれが無難か、と頷いていると、近くでその言葉を聞いた香織がえ、と声を上げる。

 

 「出発って……どう言う事?戻って来たんじゃ……」

 「いや、そう言うわけではない。ここに来たのはお前と八重樫に無事を知らせる為と、ちょっとした用事があったからだ。我らにはまだやるべきことがある故、また旅に出る」

 「それは、私や雫ちゃんじゃ手伝えない事なの!?」

 

 思わず声が大きくなり、その声に回復したクラスメイト達が顔を向け、一部はなんだなんだと集まってくる。

 

 「……そうだな。少なくとも、あちこちを回る故、自由に動けんお前等と一緒ではできんし、危険も多い。それに……純粋に奴らは信用できん」

 

 その言葉に香織は一瞬言葉を詰まらせるが、すぐにそれもそうか、と納得する。彼らはクラスメイト達の所業を知っている。あんな扱いをした連中の所に戻ってこようと思う者は存在しないだろう。

 だが、だからと言ってこのままお別れなんて香織にはできなかった。

 

 「それじゃあ……神羅君。私も、神羅君たちについて行っていいかな?ううん。絶対ついて行くから、よろしくね」

 

 香織の言葉に神羅は目を細め、ハジメ達は小さく喉を鳴らすと後ろに下がる。クラスメイト達は状況が飲み込めていないのかポカンとしている。

 

 「……先も言ったが、危険だ。あの怪獣よりも格上の存在とやり合う羽目になる。命の保証など、全くできんぞ」

 「それでも、連れて行って。私は神羅君と一緒にいたい……貴方の事が好きだから」

 

 真っ直ぐに自分を見つめて告げられる言葉に神羅は誠意をもって答える。

 

 「すまぬ。我には惚れた女がいる。そいつはここにいて、我を待っている。だから、お前の気持ちには答えられん」

 

 はっきりとした返答に香織は一瞬泣きそうになるが唇を噛んで耐え、さらに目に力を込める。

 

 「それは……誰?ティオさんって人?」

 「いや、ここにはいない。だが、確かにこの世界にいるのだ。迎えに行きたい……会いたいのだ……我が」

 

 その言葉だけで、彼が強くその女性を想っていることが、香織には分かった。そして、彼は決して彼女以外を選ばない。そこに自分が割って入る余地など、微塵もない事も。いやと言うほど、分かってしまった。

 だが、それでも、だとしても………

 

 「そっか……でも、それでも、私は貴方について行くから」

 「む……?」

 「だって、紹介されたなら、まだ納得できるけど、顔はおろか声も名前も知らない人が好きだから諦めてくれなんて……納得できない。だから……神羅君には私を夢中にさせた責任は取ってもらわないとダメだと思う。せめて、その人をきちんと紹介してくれないと……私は納得できない」

 「だが……あまりにも危険すぎるぞ?守ってやる余裕など……」

 「必要ないよ。自分の身は自分で守るから」

 

 小さく眉を顰め、仲間たちに視線を向けるが、彼らは小さく肩をすくめるだけで助け船を出す気配はない。ミュウはキョトンとしている。

 それを見て、神羅は小さく息を吐き、

 

 「ついてこられても、本当に、お前の気持ちに応えることはできんぞ?」

 「うん、分かってる」

 「死んでも責任は取らんぞ?」

 「うん、構わない」

 「………俺は人じゃない。怪獣、正真正銘の化け物だぞ?」

 

 そう言って神羅は両腕両足を変異させ、背びれと尾を展開し、唸りながら香織を睨みつける。その姿にクラスメイト達はたじろぐが、香織はひるみもしない。

 

 「うん、知ってる。でも、ハジメ君から聞いたけど、地球にいた時から中身は怪獣だったんでしょ?だったら変わらない。私が好きになったあなたは……失われていない、何にも変わっていない。私は、ありのままのゴジラ(貴方)を好きになった。それだけだよ」

 

 そう断言され、神羅がうぐぅ、と唸っていると、不意に後ろからポン、と肩に手を置かれる。

 振り返れば、シアが神羅の肩に手を置き、更にはユエも神羅を見上げる。

 

 「神羅さん、諦めてください。女の子にここまで言わせた時点でもう神羅さんの負けです」

 「ん。少なくとも、神羅には香織にモスラをきちんと紹介する義務がある」

 

 二人にそう言われ、神羅は小さくうめき声を上げるが、少ししてはあ、とため息をつき、

 

 「……分かった。我の負けだ。好きにしろ」

 

 変異を解き、頭を掻きながら告げられた言葉に香織は顔を綻ばせ、うん!と頷く。それを見て、ユエとシアは小さく顔を歪ませる。

 ああは言ったが、二人には神羅に香織を受け入れさせようと働きかける意思はない。一人の女としては、彼女の想いを応援したいと思うが、彼とモスラの絆を、想いを知っている者としては、それを壊すような真似はできない。結果として、何とも中途半端な状態で投げ出すような状況になってしまった。

 酷い女、と二人そろって内心で呆れ果てていると、突然光輝が声を上げる。

 

 「ま、待て!待ってくれ!意味がわからない。香織が南雲を好き?付いていく?えっ? どういう事なんだ?なんで、いきなりそんな話になる?南雲神羅!お前、いったい香織に何をしたんだ!」

 「……何もしておらんよ。する理由もない」

 

 神羅は心底呆れたと言うように顔を歪めながら歩み寄ってくる光輝を睨むが、その間に雫が割って入ってくる。

 

 「光輝、神羅君が何かするわけないでしょ?冷静に考えなさい。あんたは気がついていなかったみたいだけど、香織はずっと前から彼を想っていたのよ。それこそ、地球にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」

 「雫……何を言っているんだ。あれは香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀そうと思ってしたことだろう。協調性もやる気もない乱暴者の南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」

 

 兄を侮蔑されたハジメのこめかみに青筋が浮かび、ドンナーを抜きかけるが、その前に香織が前に出る。

 

 「そう言うわけだから、私はパーティは抜けるね」

 

 あまりにも端的な、事実だけを告げる別れにクラスメイト達は思わず顔を見合わせる。その中で、光輝は呆然とした様子で

 

 「嘘だろ?だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし、これからも同じだろ?香織は俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」

 「……我でもそこまではいかんぞ……」

 

 神羅が顔を引きつらせながら呻く。神羅とてモスラとは長い間一緒にいたが、それが当然だとは思った事はないし、一緒にいることを強要した事もない。彼女には彼女の道があり、その中で彼女は自分と一緒にいることを選んでくれたと言う事を忘れたことはない。

 すると、香織は小さく口元を歪め、

 

 「ずいぶんと勝手な事を言ってくれるね……私が誰の隣にいたいかは私が決める事だよ。貴方に決められるいわれはない……!」

 「いい加減にしなさい光輝。香織は、別にアンタの物じゃないんだから、何をどうするのか決めるのは香織自身よ」

 

 幼馴染二人にそう言われ、光輝は呆然とし、その視線が神羅に向けられる。

 神羅は黙って腕を組んで成り行きを見ており、ハジメはミュウをあやしている。その二人の周りには美女、美少女が侍っている。その光景を見て、光輝の目がつり上がっていき、

 

 「……香織、行ってはダメだ。これは香織の為に言ってるんだ。見てくれ、あの二人を。女の子を何人も侍らせて、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪までつけさせられている。南雲達は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。それに、神羅のさっきの姿を見ただろ。技能だって言ってたがあんな技能あるわけがない。どう考えてもあいつは普通じゃない。香織、あいつらに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君達のために俺は止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

 そのあまりにも脈絡のない物言いに香織のこめかみに青筋が浮かび上がり、その間に光輝の視線はユエ達に向けられる。

 

 「君達もだ。これ以上、そいつらの元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する」

 

 そんな事を言いながら爽やかな笑顔を浮かべて光輝はユエ達に手を差し伸べる。それを見た当の本人たちはと言うと……

 

 「あれは……何なの……?」

 「やれやれ……子供も子供……いや、子供でももうちょっと物分かりがいいのではないか?」

 「何と言うか、白々しいと言うかなんというか……」

 

 ユエ、シア、ティオが心底呆れ果てたように視線を向けていると、まったく相手にされていないような対応に光輝は呆然とするが、すぐさま神羅を睨みながら聖剣を引き抜き、

 

 「南雲神羅!俺と決闘しろ!俺が勝ったら香織には近づかないでもらう!そして、そこの彼女たちも解放してもらう!」

 

 その言葉についに我慢の限界を迎えた香織が叫ぼうとした瞬間、神羅が一歩前に歩み出る。その顔には何の表情も浮かんでいない。まるで路傍の石ころを見てるような表情だ。

 

 「………まさか、ここまで堕ちてるとはな……」

 「何をごちゃごちゃ言っている!怖気づいたか!」

 

 神羅が蔑んだ視線を向けるも、光輝は完全に暴走しており、彼の承諾も聞かずに猛然と駆け出す。

 聖剣の間合いに入っても神羅は微動だにしない。それを反応できていないと判断した光輝は鋭く聖剣を振るうが、神羅はそれを指2本で軽く挟んで抑え込んでしまう。

 あっさりと自分の一撃が受け止められたことに光輝はなっ!?と呻き、急いで引き戻そうとするが、聖剣は岩のようにビクともしない。

 神羅は対応するのもめんどくさいと言わんばかりに気だるげな視線を光輝に向けていたが、不意にん?と眉をひそめながら自分が掴んでいる聖剣に目を向ける。

 低く唸りながら聖剣に顔を近づけ、すんすんと鼻を鳴らし、顔をしかめながら聖剣を睨みつける。

 突然の奇行に全員が目を丸くしていると、神羅はふん、と鼻を鳴らすと口を開き、ぼそりと何事かを口にする。それを終えると聖剣から視線を外し、聖剣から指も放す。

 いきなり解放され、光輝はたたらを踏むが、すぐに神羅を睨み返し、再び斬りかかるが、神羅はそれすら受け止めると、光輝の額に指を近づけ、デコピンを放つ。

 瞬間、ドッ!と衝突音のような音を響かせながら光輝の身体が吹き飛んでいき、そのまま地面に叩きつけられ、動かなくなる。完全に伸びてしまっていた。

 

 「………こんな所か。メルド。あの男にきっちり現実を教えてやれ。さもなくば、今度こそ全員死ぬぞ」

 「ああ……了解した」

 

 神羅の言葉にメルドは小さく頷き、ようやく話がまとまったと思った瞬間、今度は檜山たちが騒ぎ出す。曰く、香織が抜ける穴が大きすぎる。彼女が抜けたら今度こそ死人が出るかもしれないと。

 それに反応したのは香織本人だった。

 

 「この際だから正直に言うけど、私、貴方達の事、あまり信用できないんだよね。神羅君たちが落ちた時、あの男の……天之河君に言われるがままに犯人許して、それ以来二人をいない者として扱って……、そのくせ天之河君を見捨てるかどうかって時には迷ってさ……これじゃあ、いつ私もいない者として扱われるか分かったもんじゃないから」

 

 その言葉に近藤たちは顔を引きつらせ、永山達は言葉を詰まらせ、思わず顔を逸らす。どうやら多少なりとも負い目は感じているようだ………良かった。流石にそこまで腐ってはいなかったようだ。

 小さく息を吐いた香織は雫に視線を向け、

 

 「折角だからさ、雫ちゃんも一緒に来ない?多分だけど……こっちの方が気楽だよ?」

 

 その誘いに雫は驚いたように目を見開き、周囲も激しくざわつく。

 雫は香織を少しの間見つめていたが、ふっと苦笑を浮かべ、

 

 「悪いけど、そう言うわけにはいかないわ。まだまだやらなきゃいけないことが沢山あるし、光輝やみんなを放っておくこともできないしさ」

 

 その言葉に香織はそう、と小さく眉を下げる。雫の頑固さは香織がよく知っている。こうなってはよほどのことがない限り一緒に来ることはない事も。

 その様子を、ハジメは小さく眉をひそめながら腕を組んで眺めていた。




 こういう時ってハーレムのタグは今失くしたほうがいいのかな?それとも、そう言う展開になった時に失くしたほうがいいのか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。