ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 今回は早めに投稿できました。
 
 


第65話 きょうだい

 香織が神羅達と行動を共にすると宣言した日の深夜。ホルアドの町は不気味なほどに静まり返っていた。魔物の追撃を警戒してか城壁の上にはこれまでとは違い冒険者たちが見張りとして立っている。

 だが、彼らが意識を向けているのは町の外だ。中にまでは意識を向けられていない。

 

 「くそっ、くそっ!何なんだよ!ふざけやがって!」

 

 ホルアドの町はずれの公園で押し殺した声で木を殴りつけている男がいた。檜山大介だ。一時は折れた骨が肉を突き破っていた脚は、どうにか完治したようで、彼はしっかりと立っている。

 もっとも、そんな事は今の彼にとってはどうでもいいようで、その目は狂気的なまでに濁っている。

 

 「足の具合どう?……と、思ったけど、案外大丈夫そうだね。にしても、随分と荒れてるね……」

 

 そんな檜山の背後から声が聞こえてくる。彼が勢い良く振り返れば、そこには密会の相手がいた。

 

 「黙れ!くそ!こんな……こんなはずじゃなかったんだ!なんで、あの野郎たちが生きてんだよ!なんのためにあんなことを……!」

 「一人で錯乱してないで、会話してほしいんだけど?」

 

 相手が呆れた様子を見せていると、彼は相手を睨みつけ、

 

 「もうお前に従う理由なんてないぞ……俺の香織はもう……」

 

 明日には香織は離れていく。一時は破れかぶれで今夜のうちに香織を自分の物にとも考えたが、彼女はすでに荷物をまとめて神羅達が使っている宿に転がり込んでいるので、できなかった。

 

 「まあ、確かにそうかも。それどころか、自分の身すら危ういもんね」

 

 その言葉に檜山は相手に顔を向ける。

 

 「光輝君のおかげで有耶無耶になったあの件が再び掘り返されれば、どうなるのか分からないからねぇ。軟禁されるか、処罰されるか……あ、でも、もしもそうなったら僕の件もばらされるかもしれないのか。だったら………」

 

 ニタニタとした笑みと共に告げられた言葉に檜山は顔を青ざめさせる。

 檜山と相手の共犯関係が始まったのはあの最初の大迷宮攻略が失敗に終わり、檜山が神羅とハジメを奈落に落とした時からだ。檜山に近づいてきた相手はあの行いが悪意によるものだと確信しており、その事をバラされたくなければ自分の計画に協力しろと言ってきた。その代わりにこの事はバラさないし、香織は自分の物になる、と言う言葉に彼は相手との協力関係を結んだ。

 だからこそ知っている。この相手はためらいなく自分を殺し、そして他の連中と同じにすると。

 そんな檜山に対し、相手は三日月のように口元を歪めて嗤うと、

 

 「まあ、そんなに心配しなくていいんじゃない?光輝君は優しいから、きっと悪いようにはならないよ。僕としても、今余計な事で力を使いたくないしね」

 

 そう言うと相手は視線をちらりと城壁の向こう側に向ける。その視線に檜山は訝しげな顔をする。あの方角には、確か……

 が、そこで相手は視線をすぐに檜山に向け、

 

 「それにさ、奪われたのなら奪い返せばいい。幸い、こっちにはいい餌もあるしね」

 「……餌?」

 「そう、餌だよ。確かに香織はみんなを信用できないって言ってたけど、それは一部だけ。幾ら彼女でも例外の友人……そして幼馴染の窮地を放っておけるかな?」

 「お前……」

 「彼女を呼び出すのは簡単な事だよ。何も悲観することはない。特に今回の事は流石に肝が冷えたけど……結果だけを見れば都合もよかった。うん、僥倖と言っていいね。王都に帰ったら仕上げに入ろうか?そうすれば……君の望みは叶うよ?」

 

  檜山はその計画の全てを知っているわけではなかったが、今の言葉で、計画の中には確実にクラスメイト達を害するつもりだと理解した。自分の目的のために、苦楽を共にした仲間をいともあっさり裏切ろうというのだ。そして、その事に何の痛痒も感じていないらしいと知り、改めて背筋に悪寒が走る。

 

 (相変わらず気持ち悪い奴だ……だが、俺ももう後戻りは出来ない……()の香織を取り戻すためには、やるしかないんだ……そうだ。迷う必要はない。これは香織のためなんだ。俺は間違っていない)

 

 檜山は自分の思考が、既にめちゃくちゃであることに気がついていない。指示されるままにやってきた事から目を逸らし、常に自分の行いを正当化し、その根拠を全て香織に求める。

 

 「……分かった。今まで通り協力する。でも……」

 「うんうん、分かってるよ。僕は僕の、君は君の欲しいものを手に入れる。ギブアンドテイク、いい言葉だよね?これからが正念場なんだ。王都でもよろしく頼むよ?」

 

 その言葉を最後に相手はくるりと踵を返して歩き去って行き、後には汚泥のように瞳を爛々と輝かせる檜山だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日早朝。ホルアドの町の門前には神羅達が出発のために集合していた。そばには魔力駆動4輪、ブリーゼが出発の時を待っている。

 

 「ねえ、雫ちゃん。本当に大丈夫なの?」

 

 香織は気づかわし気に見送りに来た雫に声をかけるが、雫は小さく肩をすくめる。

 

 「ええ、大丈夫よ。そっちも、あまり無茶はしないでね」

 

 香織は小さく頷きながらも心配そうに雫を見つめる。雫はそこで何かを思い出したようにハジメに視線を向け、

 

 「そう言えばハジメ君、これ、ありがとう。助かったわ」

 

 そう言って雫は昨日ハジメが渡した刀を差しだしてくるが、

 

 「ああ、別にいいよ。八重樫にやるよ。何でも、今まで使ってた武器が壊れたんだろ?その代わりだ。メルドにも、大剣は譲るって言っといてくれ」

 「いいの?こんなすごいの……?」

 「構わねえよ。今後の事を考えると、備えて損はないしな。あ、その刀は風爪っていって風の刃を生み出す事が出来て、メルドの大剣は纏雷って雷を纏わせられる固有魔法を付与してあるから、うまく使いこなしてくれ」

 「……分かったわ。そう言う事なら、ありがたく受け取っておくわ」

 

 そして彼女は神羅に顔を向け、

 

 「それで、神羅君……私が言えた義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かってるけど……できるだけ香織の事も見てあげて。お願いよ」

 「お願いって……そう言うのはお願いしてどうにかなる事じゃないだろ全く………俺の事よりも、そっちの方が問題だろう。天之河とか、問題は山積みだぞ」

 「まあ……ね。光輝にはキチンと言っておくから……」

 「言うだけでは足りぬだろ。一発引っ叩くぐらいしろ。あの男はそれぐらいしないと自覚しないぞ」

 「いや、流石にそこまでは……光輝だって悪気はないし……」

 

 雫が苦笑を浮かべながらそう言うと、神羅は口をへの字に曲げて何か言おうとするが、その前にハジメが眉をひそめながら口を開く。

 

 「なあ、八重樫。確かお前と天之河って幼馴染なんだよな?白崎よりも付き合いの古い……」

 「え?ええ、そうよ。光輝が家の道場に入門してきてからの付き合いだけど……」

 「こう言うとなんだが、昨日白崎が言ってたように幼馴染なだけだろ?そこまで天之河に付き合う義理はないと思うんだが………」

 「………でも、見捨てるなんてできないわ。光輝は、弟みたいなものだし……それに家の家訓だもの。『門下生は家族である。故に見捨てない』ってね」

 

 雫が苦笑と共にそう言った瞬間、ハジメの表情が変わった。哀れみ、憐憫、呆れ、様々な要素が混じった表情に、雫が軽く身構えると、

 

 「……なあ、八重樫。お前から見て、俺と兄貴って、どんな兄弟に見える?」

 「え?どんなって……凄く仲のいい兄弟に見えるけど……それが?」

 「まあ、そうかもな………こう見えても、俺達って結構喧嘩とかするし、ガキの頃はよく兄貴に叱られたりしてるんだよな。拳骨を喰らった回数なんて、間違いなく2桁は行ってるな。最近も貰ったばかりだし」

 

 その言葉に神羅はそうだな、と言うように頷く。神羅自身、ハジメの事は弟として可愛がっているが、だからと言って彼の全てを許容できるわけではない。先のハウリアの件や居眠りの件でハジメを叱ったことは幾度もある。幼少期はくだらない事で口論となり取っ組み合いの喧嘩に発展することもあった。

 雫は驚いたように目を丸くし、ユエ達はへぇ、と興味深そうに耳を傾けている。

 

 「そ、そうなの?」

 「ま、最近は喧嘩なんかしないけど、子供の時は何度も何度も叱られたよ。そのたびに兄さんなんて嫌いだぁ!って言ったり、兄さんは僕の事嫌いなんだって思ったりしたなぁ……」

 「我もたまに勝手にしろって放ったこともあったなぁ……」

 

 神羅が肩をすくめながらそう言うと、ハジメは困ったような笑みを浮かべてたが、不意にでも、と呟きながら空を見上げ、

 

 「兄貴に嫌われたと思った事はあったけど………兄貴に見捨てられたって思った事は、不思議と一度もなかったんだよなぁ………」

 

 その言葉に雫はえ?と困惑したように声を漏らし、ユエ達も軽く目を見開いて神羅とハジメを見つめる。

 そこまで言ってハジメは小さく手を振り、

 

 「ま、個人的な事だけどな。そろそろ出発しようぜ」

 「……そうだな。行くとするか。ではな、八重樫。くれぐれも気をつけろ……ほれ、お前たちも、出発するぞ」

 

 神羅がパンパンと手を叩くとユエ達はハッとしてからブリーゼに乗り込んでいき、全員が乗り込んだところで彼らはホルアドの町を後にする。

 遠く離れていくブリーゼの姿を雫はポツン、と見送り続けていた。




 次回は幕間ですが、早めに投稿できるとおもいます。すでに大体の構想はできてるんで。
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