ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 前よりは早めに投稿できました。もう少し早く投稿できるようになりたいです。

 最近ホラー映画に興味がある自分がいます。前はあんまり好きじゃなかったんですが……今気になってるのはカラダ探しですね。


第67話 アンカジ公国のオアシス

 ひとまず救助した青年を連れてハジメ達はブリーゼの車内に戻っていた。最初は車内の快適さ等に混乱していた青年だったが、水を飲んで人心地つき、香織から大雑把な事情を聞くと冷静さを取り戻し、

 

 「もはや私も公国もこれまでかと思ったが、どうやら、神はまだ私を見放してはいなかったらしい」

 

 人助けをするような善意溢れる神など存在しないと知ったら青年はどう思うのか、と頭の片隅で考えながらハジメは青年に何があったか尋ねると、彼すぐに表情を引き締める。

 

 「まず、助けてくれた事に感謝する。あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまう所だった。私の名はビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主、ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

 予想外の大物にハジメ達は軽く驚く。

 アンカジはミュウの故郷でもある海上の町、エリセンより運送される海産物の鮮度を極力落とさないまま運ぶための要所であり、その海産物の産出量は北大陸の八割を占めている。

 つまり、北大陸における一分野の食料供給に置いて、ほぼ独占的な権限を持っているに等しい国である。単なる名目だけの貴族ではなく、ハイリヒ王国の中でも特に信頼の厚い大貴族であり、王国の生命線とも言える。

 ビィズの方も、香織の素性(神の使徒として異世界から召喚された者)やハジメ達の冒険者ランクを聞き、目を剥いて驚愕をあらわにした。そして「これは神の采配か! 我等のために女神を遣わして下さったのか!」と、いきなり天に祈り始めた。

 この場合、女神とは当然香織の事なのだが、神羅達からその神の真実を聞かされている香織としてはそんな神に連なる者と扱われては複雑な表情を浮かべてしまう。

 ハジメが軽くビィズの額をはたいて正気に戻させ、事情説明を促すと、ビィズは咳ばらいをしつつ語り出した。

 曰く、四日前、アンカジにおいて原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。それは本当に突然のことで、初日だけで人口二十七万人のうち三千人近くが意識不明に陥り、症状を訴える人が二万人に上ったという。直ぐに医療院は飽和状態となり、公共施設を全開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったが、香織と同じく進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来なかった。

 そうこうしている内に次々と患者は増えていき、遂には医療関係者にも倒れる者が現れはじめ、死者も出始めた事で彼らの間に絶望が立ち込め始めた。

 そんな時、一人の薬師が飲み水に魔力を暴走させる毒素が含まれていることを突き止める。そして、最悪な事にその毒素はアンカジの生命線であるオアシスそのものを汚染していたのだ。

 だが、原因が分かっただけで患者たちを助ける手立てはない……と言う事はなかった。患者を救う方法は一つだけあったのだ。

 それは静因石と言う魔力の活性を沈める特殊な鉱石を粉末状にして摂取することだ。そうすれば体内の魔力活性を鎮めることができる。

 しかし、静因石はアンカジ公国から北方にある岩石地帯か、砂漠の中にあるグリューエン大火山でしか採取できない。北方の岩石地帯はあまりに遠く、往復で一か月もかかるため、まず間に合わない。だが、グリューエン大火山には大迷宮があり、そこに潜れる者はすでに病に倒れてしまっている。

 更には安全な水のストックも足りないため、一刻も早く王国への救援要請が必要だった。それも、面倒な手続きや調査を介さず、即座に行われなければならない。

 そこで、強権を発動できるゼンゲン公か、その代理たるビィズが直接救援要請をする必要があった。

 

 「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。だから、私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。その時、症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 「ふむ……健康体であったがゆえに護衛隊はサンドワームに襲われ、病を患ったからこそサンドワームに襲われなかったか……皮肉なものだ」

 「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

 そう言ってビィズは深く頭を下げる。

 ハジメ達は軽く視線を交わらせる。それだけで彼らは意思の確認をし合い、代表としてハジメが軽く息を吐きながら答える。

 

 「いいぜ。元々アンカジ公国には用があったんだ。そのためにも、少し骨を折らせてもらう」

 「感謝する。ハジメ殿達が〝金〟クラスなら、このまま大火山から〝静因石〟を採取してきてもらいたいのだが、水の確保のために王都へ行く必要もある。この移動型のアーティファクトは、ハジメ殿以外にも扱えるのだろうか?」

 「ミュウ以外は扱えるが……水の確保はどうにか出来るからわざわざ王都まで行く必要はねぇよ。一先ずアンカジに向かおう」

 「どうにか出来る? それはどういうことだ?」

 

 普通なら数十万人分の水を確保するのはこの砂漠では至難の業だ。だが、ここには希代の魔法の天才、ユエがいる。彼女の水魔法ならばそれぐらいの水を作ることは可能だろう。

 その辺りの事を掻い摘んで説明するとビィズは半信半疑だったものの、どっちにしろ今の自分では王国に辿り着けるか分からないので香織の説得も相まって、アンカジに引き返すことを了承。ハジメ達は即座にブリーゼを走らせ、アンカジ公国を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤銅色の世界の中に唐突に現れた乳白色の都。それがアンカジの特徴だろう。都市を囲む外壁や建築物全てがミルク色なのだ。

 さらに、アンカジ公国は外壁の各所から光の柱が天に向かって昇っており、上空で他の柱と合流して形成された巨大なドームで覆われていた。時折何かがぶつかったように波紋が広がっている。どうやらこのドームが砂の侵入を防いでいるようだ。

 ハジメ達はこれまた光り輝く巨大な門からアンカジへと入都した。この門もドームと同じように砂の侵入を防ぐ役割を持つようだが、門番はブリーゼを見ても大した反応を見せず、そのまま通してくれた。アンカジの現状に影響を受けているのか覇気もなく、投げやりな感じだ。もっとも、後部座席のビィズが見た瞬間ビシッ!としていた。

 向かって東側に日の光を浴びて輝く緑豊かなオアシスが見え、そのオアシスの水は川となって町の中に流れ込み、川には船も浮かんでいる。

 北側には多種多様な果物が育てられており、西側にはひときわ大きな宮殿らしき建物がある。純白の外観と他と一線を画す荘厳さと規模から、あれが領主の館なのだろう。

 

 「これはまた……壮観だな」

 「……ん、綺麗な都」

 

 その光景をハジメ達は感嘆したように見つめるが、

 

 「でも……なんだか元気がないの」

 

 ミュウが思わずと言うように呟いたように、アンカジの都全体は暗く陰気な雰囲気に覆われていた。普段であれば活気と喧騒にあふれていたであろう都も、今は通りにほとんど人が出ておらず、ほとんどの店も休業してしまい、家の戸口は軒並み固く閉ざされている。

 

 「……使徒様やハジメ殿にも活気に満ちた公国をお見せしたかったが、今は時間がない。都の安全は全てが解決した後にでも私自らさせていただこう。ひとまずは父上の元へ。あの宮殿だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「父上!」

 「ビィズ!お前どうして……!?」

 

 ビィズの顔パスで宮殿内に入ったハジメ達はそのまま領主ランズィの執務室へと通された。

 ランズィの衰弱は激しいと聞いていたが、どうやら回復魔法と魔法薬の服用と根性で仕事していたらしい。

 そんな父にビィズは神羅に肩を借りながらも事情説明を手早く済ませる。それが終わると彼は静因石の粉末を服用と香織の回復魔法で動ける程度には治ったのか自分の足で立ち上がる。

 

 「さて……話がまとまったところで動くか。白崎とシア、ティオとミュウは医療院と患者が収容されている施設で治療の手助け。我とハジメ、ユエはまずオアシスだったな?」

 「……ん。先にオアシスの方を解決できれば飲み水確保の手間が省ける」

 

 ユエが頷いたのを見て、ハジメ達は一斉に行動を開始する。医療院へと向かう香織たちと別れて神羅達はランズィ他護衛や付き人達とオアシスに向かう。

 たどり着いたオアシスはキラキラと光を反射して蒼く輝いており、とても毒素を含んでいるようには見えないが……

 

 「……ん?」

 「ハジメ?」

 

 ハジメが眉をひそめながらオアシスの一点を凝視し、それに気づいたユエが首を傾げ、神羅は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

 「さっき魔眼石に反応があったんだが……領主。調査チームはどこをどの程度調べたんだ?」

 「……確か資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈のの調査を行ったようだ。水質は聞いての通り。地下水脈に異常はなかった。もっとも、オアシスから数十メートルが限界で奥の方は調べられていない」

 「オアシスの底にアーティファクトは沈められているか?」

 「いや、オアシスの管理にとあるアーティファクトを使っているが、それは地上に設置してある。結界系のアーティファクトでな、オアシス全体が汚染されるなどあり得ん事だ」

 「なるほどな……って事は、あれが元凶か……兄貴、頼めるか?」

 

 神羅はふん、と軽く鼻を鳴らすとそのまま無造作にオアシスに近づいていき、手で軽く水を掬って躊躇なく口に含み、飲み込む。

 その光景にランズィたちが驚愕に目を見開くも、神羅は気にしたそぶりも見せず、

 

 「うむ、この程度ならば何の問題もない。では、行ってくる」

 

 そう言って軽く手を振ると、神羅はこれまた躊躇なくオアシスの水に踏み入れると、そのまま潜水。あっという間にその姿が見えなくなる。

 

 「は、ハジメ殿!いったい何をやっているんだ!?オアシスは毒に汚染されているのだぞ!?その水に潜るなんて自殺行為だ!早く救出せねば……」

 「あぁ、大丈夫大丈夫。この程度でどうにかなるほど兄貴は柔じゃねぇよ」

 

 ハジメの言葉にユエも同意するように頷き、何を言って、とランズィたちが困惑の表情を浮かべた瞬間、

 

 『捕まえた!ハジメ、オアシスの外に投げるぞ!』

 「!来た。備えろ!兄貴が元凶を捕まえたぞ!」

 

 ハジメの言葉にランズィたちが更に困惑の表情を強くすると同時に、オアシスから盛大な水柱が立ち昇り、それを突き破る様にして何かが飛び出し、地面に叩きつけられる。

 

 「なんだこれは……この魔物は一体……バチュラムなのか……?」

 

 ランズィは目の前の魔物を見上げて呆然と呟く。そこにいたのは体長10m、体から無数の触手を伸ばし、透き通った体の中に赤い魔石を持つスライム型の魔物だ。ちなみにバチュラムとはトータスにおけるスライム型の魔物の名称である。

 

 「恐らく、毒素を生み出す固有魔法を持っていて、それがオアシスを汚染したんだろう。つまり、こいつが元凶って事だ」

 「……確かにそう考えるのが妥当か。だが倒せるのか?」

 

 巨大バチュラムが体から触手攻撃を繰り出してくるが、ユエが魔法で応戦、ハジメもドンナーとシュラークで核を狙い撃つ。が、核は体内を縦横無尽に動き回り、狙いをつけさせない。

 

 「そうくるか……じゃあ、ちょうどいい。練習に付き合ってもらうぜ」

 

 そう言うとハジメは弾丸を撃ち尽くしたドンナーを構える。リロードをしていないため弾丸は入っていないにも、ハジメは纏雷で銃身に雷を纏わせる。

 そしてその雷にハジメは意識を向け、さらに精密に操作する。すると、銃身を奔っていた赤雷が徐々にその規模を収束……否、ドンナーの薬室へと集束、圧縮されていく。

 そしてハジメがトリガーを引くと同時に、ドンナーの銃口から真っ赤な球体が吐き出され、巨大バチュラムに当たる。

 瞬間、耳をつんざくような轟音と共に膨大な雷撃が炸裂し、バチュラムの全身を文字通り蹂躙する。全身の水分を一瞬で蒸発させ、強烈な衝撃が内部にまで浸透し、核を粉々に砕く。

 巨大バチュラムは全身を維持できなくなったように崩れ落ちる。

 

 「よし、成功。後はもっと精度と速度を上げれば……」

 

 ハジメが行ったのは纏雷の元の持ち主である二尾狼のように雷を放つ攻撃だ。それだけ、と言われればそうなのだが、それだけの事がハジメには今までできなかった。レールガンがあるからそれで問題ないと思っていたが、ミレディ戦を経て、攻撃手段を増やすために練習していたのだ。

 そんなハジメに攻撃の余波からなんとか立ち直ったランズィが声をかける。

 

 「……お、終わったのかね……?」

 「ああ。もうオアシスに魔力反応は兄貴以外ない。兄貴も問題はないみたいだ。だろう?」

 

 ハジメが振り返れば、そこには全身を濡らした神羅が立っており、小さく頷く。

 

 「まあ、これでオアシスが元通りになる、とは限らないけど……」

 

 その言葉に、ランズィの部下が慌てて水質の鑑定を行う。

 

 「どうだ?」

 「……ダメです。汚染されたままです」

 

 その報告にランズィはそうか、と愁然と肩を落とす。

 

 「ま、汚染の元凶は叩いたからな。これ以上の汚染は広がらん。水は地下から新しいのが湧き出しているのだ。汚染水を除去すればオアシスは元に戻るであろう」

 「そうだな。それじゃあユエ。飲料水の確保を……」

 

 ハジメがそう言ってユエに視線を向けるが、すぐにん?と首を傾げる。なぜならユエは顎に手を当てながら何か考え込んでいたからだ。

 ランズィたちも訝しげにその様子を眺めていると、ユエは顔を上げ、

 

 「………ねえ、ハジメ。この毒素は、あの魔物の固有魔法で生み出されたんじゃ、って言ったよね?」

 「ああ、まあ、俺の予想だけど」

 「それじゃあ………もしかしてだけど………神羅の魔懐なら、毒素を破壊して無毒化できるんじゃない?」

 

 その言葉にハジメと神羅はぽかんと、口を半開きにしてしまう。ランズィたちがどういうことかと疑問符を浮かべる中、二人は顔を見合わせ、

 

 「……どうだ?兄貴」

 「考えた事もなかったが……確かに理論上は可能かもしれん………全力……はさすがにやりすぎか。それでも、我の魔力をオアシス全域に行き渡らせればあるいは………」

 「なあ、領主!さっき言ってた、オアシスを守っているって言うアーティファクトはオアシスのすぐそばに設置されているのか?」

 「え?いや、そうではないが……」

 「よし、だったら兄貴。最低よりも少し強めなら大丈夫じゃないか?」

 「そうだな。更に言えば、放出するのではなく、全身に纏わせて、その状態でオアシスの中を泳ぎ回れば……」

 

 うん、と小さく頷くと、神羅は再びオアシスの中に踏み入るが、それと同時に全身がチェレンコフ色の魔力で覆われ、青白く輝きだす。

 そのまま神羅はオアシスに身を鎮めると、魔力を隅々まで行き渡らせるためにゆっくりと泳いでいく。

 ハジメ達からはオアシスの中を青白い光で照らされた人影が泳いでいるように見えて中々に幻想的だ。

 その光景を眺める事十数分後。神羅がどこか満たされた表情を浮かべながらオアシスから上がってくる。

 

 「ふう……とりあえず、これで魔力は行き渡ったと思う。水質を鑑定してみてくれ」

 

 神羅の言葉にランズィは訝しげな表情を浮かべるが、とりあえず部下に検知するよう指示を出す。部下もまた困惑しながらも検知の魔法でオアシスを調べる。すると、その表情が信じられないと言った物に変わっていき、ポロリと結果がこぼれる。

 

 「……戻っている……」

 「……は?今、何と言った……?」

 

 ランズィが問うと、部下は勢い良く振り返り、

 

 「お、オアシスに異常なし!毒素は検出されません!完全に浄化されています!」

 

 その言葉にランズィ達は一瞬呆けたような表情を浮かべるが、次の瞬間には驚きを爆発させる。突然の事に理解が追い付かず、しかし喜ぶべきことだからか喜びも押し寄せてきて、彼らは大混乱に陥る。

 その様子に、ハジメ達はそうなるか、と小さく苦笑を浮かべていた。

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