なお、この作品では流石にそこまでの設定は拾いきれないと思うので、公開されてもストーリーの追加や書き直しとかはしない予定です。
ハジメ達は静因石を採取しながらグリューエン大火山の中を進んでいく。神羅のおかげで静因石の採取自体は実に順調だった。何せハジメ達では取りに行くのが不可能な場所の静因石も神羅なら簡単に採取できる。しかも、神羅は静因石がマグマに与える影響を考慮しながら採取しているので、間違ってマグマが噴き出すなんて事態も起こらず、ハジメ達は自分の戦闘に集中して進んでいく。
階層を下げるごとに魔物のバリエーションは増えていき、マグマをまき散らす蝙蝠や壁などから突然飛び出してくるウツボモドキ、炎の針を飛ばしてくるハリネズミにマグマの中を泳ぐ蛇など、実に多彩だ。
耐久力があるだけでなく、マグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる魔物たちは厄介極まりなかった。しかもその居場所を見抜いてるであろう神羅はハジメ達への訓練にでもしようと言うのかろくに警告をしてくれない。
このグリューエン大火山が冒険者に不人気と言うのも納得だ。砂嵐を突破しても厄介な魔物が待ち構えており、しかもその魔石はオルクスの40階層付近と大して変わりなく、静因石も純度は表層の物とほとんど変わらず、何よりも凄まじい暑さで体力をガリガリと削られる。これでは挑戦しようとする者などいるはずがない。
「はぁはぁ……暑いですぅ……」
「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのはただの水……ほら、涼しい、ふふ」
「むっ、ハジメ殿!ユエが壊れかけておる!目が虚ろになっておる!」
「……何を言ってるのティオ。私は正常。ここを流れているのは水で間違いない。だってほら、神羅が平気で泳いでいる。人がマグマの中で泳げるわけがない。神羅が泳いでいる時点であれは水であると証明されている。という訳で私も泳いでくる……」
「兄貴ーーー!ちょっと休憩にするから今すぐマグマから上がってくれ!」
自分の服に手をかけるユエを軽く小突きながらハジメが声を張り上げると、おう、と神羅は軽く手を上げてマグマから上がってくる。
ハジメは広間のマグマから離れた壁に練成で横穴をあける。そこに全員が入ると外の熱気が届かないよう入り口を狭め、更に、魔物の奇襲を防ぐため部屋全体を金属でコーティングする。
「ふぅ……ユエ、氷塊を出してくれ。しばらく休憩にしよう」
「ん……了解」
ユエは目を虚ろにさせながらも氷魔法で氷塊を生成、更にティオが風魔法で冷気を拡散させるように使い、部屋が一気に冷えていく。
「はぅあ~~、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」
「……ふみゅ~」
女の子座りで崩れ落ちたユエとシアが目を細めてふにゃりとする。ハジメは小さく息を吐きながらタオルを取り出して全員に配る。
「とりあえず、汗はみんな拭けよ。風邪ひいても知らないぞ」
「……ん~」
「了解ですぅ」
のろのろとタオルを広げるユエとシアに対し、ティオは疲れた様子もなくテキパキとタオルを広げて汗を拭き、神羅は髪に付着した冷えたマグマを取ろうと四苦八苦している。
「兄貴は当然としても、ティオも結構余裕そうだな。俺も結構きついってのに……」
「まあ、これぐらいならばまだな………しかし、ハジメ殿でも参るほどとなると、恐らく、それがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」
「コンセプト?」
「うむ。皆から話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は試練なのじゃろう?神に挑むための。なら、それぞれに何らかのコンセプトがあってもおかしくはあるまい。例えば、オルクス大迷宮は数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経験する事、ライセン大迷宮は魔法と言う強力な力抜きであらゆる攻撃への対応力と磨くこと。このグリューエン大火山は熱さによる集中力の阻害とその状況下での奇襲への対応と言ったところではないか?」
「そう言えばミレディがオルクスは全ての大迷宮をクリアした後に攻略する予定の場所みたいなことを言ってたな……」
「なるほど……迷宮自体が解放者たちの教えって事か……獣級試練はゴジラ向け、もしくは最低でも怪獣を相手に生き残れるぐらいの力を示すのが目的か……」
そう呟いてハジメがティオに目を向けると、ティオの首筋から垂れた汗がそのままその豊満な胸の谷間に消えていくのが見えた。今更ながら今のティオの服は以前の服をベースに丈をより短くし、スリットなどを随所に施してデザインと動きやすさを両立させたユエ渾身の逸品だ。だがその結果、以前よりも彼女の素肌が見えるようになってしまっている。
その色香にハジメは思わず視線を逸らすが、その先には汗で服が肌に張り付き、濡れた素肌が見え隠れしているユエとシアがおり、とりわけユエに視線が吸い寄せられる。
大きく着崩されたシャツから覗く素肌は暑さでほんのりと上気して赤みを帯びており、汗で光って見える。ユエの強烈な色香に目を逸らす事も忘れてハジメが凝視していると、不意にユエと視線がばっちり合ってしまう。
ハジメがバツが悪そうに視線を逸らすと、ユエは小さく笑みを浮かべると、
「……ハジメのエッチ」
小さく舌を出しながらぼそりと呟き、それを聞いたハジメがうぐっ、と呻き声を上げる。それを見て再び笑みを浮かべたユエは視線を神羅に向け、
「……神羅。マグマを取るの手伝う」
「お、いいのか?すまんな、ユエ。冷えてるとは思うが気をつけろよ」
そのまま神羅の元に向かうと彼の髪にこびりついたマグマを取り除き始める。
ユエにからかわれたことにハジメがなんだかなぁ、と頭を掻いていると、
「あの……ティオさん。なんだか最近ハジメさんとユエさん………」
「うむ。何と言うか、以前とは接し方が変わってきた感じがするのう。以前と比べて接触回数が減っておると言うか……」
「だというのに何なんですかこの割って入る事の出来ない感じは……私だって結構きわどい格好していたのにどうして見てもらえないんでしょう……」
悲し気にうさ耳をへにゃりとさせるシアの頭をティオはよしよしと撫でていた。
その後もハジメ達は時々休憩を挟みながらも順調にグリューエン大火山を攻略していった。十分な量の静因石を確保した後は神羅も戦闘に参加。マグマの中の魔物を粉砕していってくれたので、攻略スピードは劇的に上昇した。
そして、グリューエン大火山の入り口からちょうど50階層目、ハジメ達の眼前にこれまでにない広大な空間が広がった。
そこはライセン大迷宮の最終試練の部屋よりも広く、直径3キロメートル以上はある。地面はほとんどマグマで満たされており、所々に岩石が飛び出して僅かな足場となっている。周囲の壁も歪に歪んでおり、空中には無数のマグマの川が交差しており、マグマの海と繋がっている。
まさに地獄の釜と言った光景の中心に、小さな島が浮かんでいた。その島の上はマグマのドームで覆われており、小型の太陽のように見える。
「……あそこが解放者の隠れ家?」
ユエがマグマのドームを見据えながら呟く。
「階層の深さ的にもそう考えるのが妥当だろうな。だがそうなると……」
「最後のガーディアンがいるはず……じゃな?」
「ならば、間違いなくここにいるだろうよ。目的地の眼前に守護者を置くのは基本だ」
神羅の言葉にハジメ達は小さく頷くと、それぞれ足場やマグマの海を経由しながらドームに近づいていく。そしてドームまであと半分と言ったところで宙を流れるマグマからマグマそのものが弾丸のようにハジメたち目掛けて放たれる。
「任せよ!」
ティオが魔法を発動させると、マグマの海から炎塊が放たれ、マグマの塊を相殺する。
しかし、間髪入れずに頭上のマグマの川やマグマの海から炎塊がマシンガンのように連続で撃ち放たれる。
ハジメ達はそれぞれ足場の上でマグマの塊を迎撃していくが、その攻撃に終わりはなく、ハジメ達は憎々しげな表情を浮かべる。
それを見た神羅はマグマの海から片腕を出すと、ぐっ!と軽く指を曲げる。
その瞬間、頭上に重力場が出現、それがマグマの川ごと弾幕を押しつぶす。
その光景にハジメ達は軽く目を見張る。神羅が行ったのは重力場を発生させるという、ある意味においては魔法とすら呼べない所業だ。だが、その制御は絶妙であり、周囲やハジメ達には影響を与えず、頭上のマグマの塊だけを押しつぶしているのだ。
海からは変わらず塊が放たれているが、、一気に弾幕が薄まったことで、ハジメ達は素早く動き出す。目指しているのは中央の島だ。
頭上のマグマ塊は変わらず神羅が迎撃し、海からの攻撃はハジメ達が撃ち落としていく。
そしてハジメが最後の跳躍で中央の島に飛び移ろうとした瞬間、腹の底まで響くような咆哮と共にハジメの真下から何かが飛び出してくる。
それはマグマを纏った巨大な蛇だ。マグマの大蛇がハジメを飲み込もうと大口を開けて迫ってくる。
ハジメは軽く息を詰まらせるが即座に体を捻ってその攻撃を回避し、そのまま近くの足場に着地する。
大蛇は間髪入れずにハジメに襲い掛かろうとするが、その全身がぐしゃりと押しつぶされる。神羅が重力魔法を使ったのだ。
「ほう、そう言う事か……」
神羅は納得したように目を細める。いかにマグマの中とは言え、神羅の感覚ならばこれほどの大きさの生物がいれば見逃すはずがない。だが、神羅は出現するまで大蛇に気付けなかった。その疑問が解消される。
大蛇は潰したが、そこには肉体はなく、あるのはマグマだけ。この大蛇はマグマのみで構成されているのだ。
それと同時に周囲のマグマの海から次々とマグマの大蛇が出現し、ハジメ達を睥睨する。
「やはり中央の島が終着点のようじゃの。通りたければ我らを倒して行けと言わんばかりじゃ」
「どうやらバチュラム系の魔物と同じで核となる魔石があるのだろう。流石にマグマの海が奴らの本体ではないようだ」
ティオの近くの岩場に昇りながら神羅が呟く。流石にそんな展開は勘弁してほしいとハジメ達は口をへの字に曲げる。
「ハジメ、見て。岩壁が光ってる」
ユエが中央の島を指さし、ハジメが目を向ければ、確かに、岩壁の一部が拳大の光を放っている。
注意深く見て見れば岩壁にはかなりの数の鉱石が規則正しく埋め込まれている。光を放っているのはその鉱石の一つだ。鉱石が並ぶ間隔と中央の島の外周を考えると大体百個の鉱石が埋め込まれていることになる。そして、今光を放っているのは一つ。
「なるほど……このマグマ蛇を百体倒すのがクリア条件って事か」
「この暑さであれを百体相手にする。迷宮のコンセプトにもあってる」
「ならば、やることが決まったのならば、さっさとやるぞ。これは前哨戦なのだからな」
神羅の言葉をきっかけにマグマ蛇が一斉にハジメ達に襲い掛かるが、
「久しぶりの一撃じゃ!存分に味わうがよい!」
ティオが突き出した両手からブレスを放ち、正面のマグマ蛇を吹き飛ばし、更に横薙ぎに振るう事でマグマ蛇をまとめて薙ぎ払う。その隙に神羅は再びマグマの中に潜水する。
シアは軽く跳躍し、ドリュッケンの柄を伸ばすと一体のマグマ蛇目掛けて振り下ろす。魔石の位置が分からないなら全身を潰せばいいじゃないと言わんばかりに繰り出された一撃はマグマ蛇の全身を文字通り叩き潰す。
そのシアの背後からマグマ塊が迫るが、シアは空力が付与されたブーツの底から淡青色の波紋を広げると、それを踏みしめて跳躍し、その一撃を回避してそのままドリュッケンをしたから掬い上げるような一撃でマグマ蛇を粉砕する。
ユエは風の魔法で生み出された龍、嵐龍でマグマ蛇を次々と飲み込み、魔石を砕いていく。
順調、と思った瞬間、ハジメはん?と首を傾げる。マグマ蛇を倒しているから中央の島の鉱石が光を放っているのだが、その数が明らかに合わない。具体的には多いのだ。光っている数が。それどころか、ユエ達がマグマ蛇を倒すよりも早く鉱石が光を放っていっている。
どう言う事か、とハジメは訝し気な表情を浮かべるが、すぐに先ほど神羅がマグマの海に潜っていったのを思い出し、
「ああ……兄貴がマグマの中の個体を蹂躙してんのか………」
あまりにも反則なその攻略法にハジメは思わず苦笑を浮かべる。これにはこの大迷宮を作った解放者も浮かばれないだろう。いや、案外予想していた可能性もあるが。
ハジメはふう、と息を吐くと突っ込んできたマグマ蛇の攻撃を回避しながらドンナーとシュラークから雷弾を放つ。
雷弾はマグマ蛇を捕らえると轟音と共に炸裂し、雷撃が巨体を蹂躙するが、動きが止まるだけでマグマ蛇を倒すには至らない。
バチュラムのようにはいかないか、とハジメは息を吐きながらレールガンでマグマ蛇を吹き飛ばしながら意識を集中する。
マグマ蛇は全身を魔力を纏ったマグマで構成されている。そのため、ハジメの熱源感知や魔力感知はほとんど意味をなさず、結果魔石の位置も判別しない………いいや、そんな事はない。
魔石は言ってしまえば高純度の魔力の塊だ。そしてマグマ蛇はそれが核となっている。ならば、相手がどれほど魔力を纏っていようとも魔力の流れを感じ取れればおのずと魔石の位置は判別できるはずだ。
ハジメは瞬光も使って猛攻をさばきながら魔力感知を研ぎ澄ませる。すると、目の前のマグマ蛇の体にうっすらとした流れのような物が見えてくる。ハジメは意識を更に研ぎ澄ませてその流れを辿っていく。そして……
「そこか」
魔力の流れが最も濃い一点目掛けてレールガンを放つ。その一撃は狙い通り魔石を撃ち抜き、マグマ蛇が崩れていく。
よし、と頷くとハジメは次々と他のマグマ蛇を同じように魔石を撃ち抜いて撃破する。
気がつけば、中央の島の発行する鉱石はそのほとんどが発光しており、残り八個と言ったところだ。戦闘開始から5分ほどしか経っていない。
ティオのブレスがマグマ蛇をまとめて薙ぎ払い、残り六体。
シアのドリュッケンの連撃がマグマ蛇を続けて粉砕する。残り4体。
ユエの真下から襲い掛かってきたマグマ蛇と真上から挟撃を仕掛けてきたマグマ蛇をユエは重力魔法での高速移動で回避し、嵐龍で一体を喰らい付くし、もう一体をマグマの海から飛び出した神羅の一撃が粉砕する。残り2体。
ハジメに急速接近してきたマグマ蛇がマグマの塊を散弾のようにまき散らすがハジメはその攻撃の隙間を縫うように駆け抜け、魔石を撃ち抜く。
最後の一体がハジメの直下のマグマの海から奇襲を仕掛けるが、神羅が投げつけた投槍がマグマ蛇を吹き飛ばし、零れ落ちた魔石にハジメはドンナーを構え、レールガンを放つ。
刹那。
頭上より、ハジメ目掛けて巨大な光の柱の如き極光が降り注ぐが、
「させん」
いつの間にかハジメの傍に現れた神羅が跳躍と共に青白い魔力を放つ拳を極光に叩きつけ、轟音と共に消滅させる。
出来れば年内にもう一話行きたいなぁ……