今年の目標はできる限り更新を早くする事です!
では、新年一発目、どうぞ!
「兄貴!?」
自分を守ってくれた兄を見て驚いたようにハジメが声を上げた瞬間、今度は上空から無数の閃光が豪雨のごとく周囲一帯に降り注ぐ。その範囲にはユエ、シア、ティオも入っている。
縮小版とはいえ、一発一発が神羅以外の身を滅ぼす死の光だが、神羅はハジメの傍に着地すると宝物庫からタワーシールドを取り出してハジメと自分の頭上に掲げ、ユエは黒盾を取り出すと表面のゲートを起動させて自身の頭上に展開、ティオは自身とシアを覆う形で逆巻く風のシールドを展開させる。神羅が飛び出したと言うのもあるが、元々獣級試練を想定していたおかげで即座に動くことができたのだ。
次の瞬間、破壊の奔流がハジメ達に殺到、周囲のマグマの海にも着弾、その余波で荒れ狂い、岩場が破壊されていくが、神羅の盾はその猛攻を前に微動だにせず、ユエの黒盾は極光を飲み込んでは逆に吐き返して相殺させていき、ティオの風のシールドは極光の軌道を逸らし続ける。
「……ふん、頭上で妙な感じがしたとは思ったが………」
一分ほどが経過したころ、極光の嵐は最後にひときわ激しく降り注ぎ、ようやく終わりを見せた。周囲は破壊し尽くされ、あちこちから白煙が上がっている。だが、ハジメ達は無傷で耐え凌いだ。
「助かった、兄貴」
ハジメが神羅に礼を言うと同時に感嘆半分、呆れ半分の男の声が頭上から降ってくる。
「……看過できない実力だ。やはりここで待ち伏せて正解だった。お前たちは危険すぎる。特にその男は……」
ユエ達が天井付近を見上げれば、そこにはいつのまにか夥しい数の竜と、周囲の竜とは比較にならない巨体を誇る純白の竜が飛んでおり、その白竜の背に赤い髪に浅黒い肌、僅かに尖った耳をした魔人族の男がいた。
「まさか私のウラノスのブレスを殴って相殺するとは……おまけに強力な未知の武器……それに女共もだ。まさか総数50体の灰竜の掃射を耐え切るなどあり得ん事だ。貴様等、一体何者だ?いくつの神代魔法を習得している?」
黄金の瞳を剣呑に細め、魔人族の男はこちらを睥睨する。どうやら神羅達の力を神代魔法によるものだと考えているようだ。
「質問する前にまずは名乗ったらどうだ?それが礼儀だぜ」
神羅がタワーシールドを宝物庫にしまう隣でハジメはそう言いながら魔人族を睨みつける。
「……これから死にゆく者に名乗りが必要とは思えんな」
「テンプレだな、おい……そう言えば、オルクスで倒した魔人族も結局名乗らなかったが、魔人族には本当に名乗るって文化がないのか?」
その言葉に魔人族の男の眉が一瞬動き、先ほどよりも幾分か低くなった声色で答える。
「気が変わった。貴様は、骨身に私の名を刻め。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」
「現地人でもいいんじゃねえか神の使徒……ま、それも神代魔法を手に入れてそう名乗ることを許されたって所か……魔物を使役する力じゃねえな。それなら闇魔法で十分だ。恐らく……魔物を作れる魔法って所だろう。それならあの威力の極光を放てる魔物がいることも説明がつく」
「察しがいいようだな。神代の力を手に入れた私にあの方は直接語り掛けてくださった。我が使徒と。故に、私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障害となり得る貴様らの存在を、私は全力で否定する」
イシュタルに似た狂信的な光を宿した目を向けながらフリードは真っ向からハジメ達を否定する。
それに対しハジメは小さく息を吐き、
「そうかい。それじゃあ、俺たちは生き残るために全力で抗わせてもらうが……この場に限って言えば、俺達に注力するのは悪手だぜ」
ハジメがそう言った瞬間、空間内に声が響く。
『規定時間内の試練の突破を確認………獣級試練、開始………』
「ん……?なんだこの声は……」
その声にフリードは困惑したような声を漏らす。
次の瞬間、マグマの海が激しくうねり出す。それどころか、蠢きながら一か所に集まりはじめ、巨大な塊がマグマの海に生み出されていく。
「な、なんだこれは!?」
その現象にフリードが狼狽えている間にマグマの海の一角に中央の小島よりも巨大なマグマの塊が形成されると、それはぐにゃりと形状を変え、咆哮を上げながらゆっくりと鎌首を持ち上げる。
それは形状だけで言えば先ほどまで戦っていたマグマ蛇だ。ただし、その大きさは桁外れだ。全長は間違いなく数百メートルはあり、胴体の太さは電車とほぼ同じという特大サイズだ。
「こ、これは一体……」
「あの様子だと、あいつは獣級試練に挑めていないようだな……」
ハジメが小さく息を吐いていると、マグマ大蛇は上空のフリードを睨みつけ、口からマグマの奔流を放つ。
攻撃の規模もまた先ほどとは次元が違う。それはマグマ大蛇の口からマグマ蛇が飛び出したと錯覚するような一撃だ。
その一撃の前に灰竜が数頭立ちふさがる。よく見ればその背には亀形の魔物が張り付いている。その亀形の魔物の甲羅が赤黒く発光すると、赤黒い障壁が展開され、マグマの一撃を受け止めようとするが、凄まじい威力に受け止めきれず、そのまま飲み込まれてしまう。
だが、その隙にフリードはウラノスを駆ってマグマ大蛇の射線から退避する。そしてウラノスの口内に膨大な魔力が収束・圧縮されていくと、マグマ大蛇目掛けて極光のブレスが放たれる。
ブレスは容赦なくマグマ大蛇を直撃、その巨体の大部分を吹き飛ばし、マグマの海に着弾、盛大に周囲を吹き飛ばし、一時的に海の底をさらけ出す。
が、フリードがマグマ大蛇に気を取られた瞬間には神羅達は動いていた。
「「嵐空!」」
ユエとティオが二人係で上空に向かって嵐空を放つ。凄まじい突風が空間内で吹き荒れ、無数の風の刃が灰竜の群れを襲う。
亀の魔物の障壁がその全てを受け止めようとするが、一部は受け止めきれずにそのまま切り裂かれ、他は盛大な乱気流にもてあそばれ、態勢を大きく崩す。
そこにハジメのオルカンの一斉掃射が殺到。体制を崩した灰竜と亀の魔物にそれを避け、防ぐことはできず、半分以上の個体が肉塊へと変り果て、マグマの海に落下して焼き尽くされる。そして生き残った群れの中にシアが飛び込み、雄たけびと共に柄を伸ばしたドリュッケンを振り回し、障壁ごと亀の魔物と灰竜を叩き潰す。
更にシアはドリュッケンのスラスターを起動させると、その勢いで一瞬で別の灰竜の元に移動し、粉砕してしまう。
更にシアは止まらず、宝物庫から拳大の鉄球をいくつも取り出すと、見事な制御力で宙に投げたそれをドリュッケンで殴り飛ばし、灰竜を次々と撃ち落としていく。
「こうなれば……!」
一方的にやられていく灰竜を見てフリードは忌々し気に顔を歪めると、その場にとどまり、極度の集中状態となり、詠唱を始める。恐らく、ここで手に入れた神代魔法を使おうとしているのだろう。
だが、まるでその時を待っていたかのように、マグマの海から吹き飛ばされたはずのマグマ大蛇が飛び出し、ウラノスに食らいつこうと突き進む。
「ルゥォ!?」
とっさと言わんばかりにウラノスは羽ばたいてその場から距離を取り、その一撃を回避する。だが、その急旋回が仇となり、フリードは集中力を切らしてしまい、魔法の構築が無効化されてしまう。
諦めずにマグマ蛇は追撃を仕掛けようとするが、次の瞬間、驚愕の声とともにマグマの海に沈む。いや、その様は沈むというよりも引きずり込まれたと言ったほうが的確だろう。
すると、マグマの海が攪拌されるように激しくうねり出し、海面が激しく泡立ち始める。
「っとと!」
ハジメは慌てて別の高い足場に退避し、ユエ、シア、ティオも近くの別の足場に移動し、荒れ狂う海面を見つめる。周囲を見れば、いつの間にか神羅が見当たらない。
「これは……獣級試練は神羅殿に任せた方がいいかもしれんのう」
「情けないがそうだな。流石にこの状況じゃそうするしかない」
ハジメは小さくため息を吐きながら上空のフリードを睨みつける。それと同時にユエ達も同様に構える。
対しフリードは忌々し気にハジメ達を見下ろし、
「……恐るべき戦闘力だ。侍らしている女共も尋常ではないな。無詠唱無陣の魔法の使い手にそれと同格の魔法の使い手。人外の膂力を持つ兎人族……よもや神代の力を使ってなお、ここまで一方的に追い詰められるとは……」
何かを押し殺したような声色でフリードはハジメと視線を交わす。ハジメは小さく肩をすくめ、
「獣級試練に挑めてない時点で言うほど大したもんじゃないがな」
その言葉にフリードは眉を顰めるが、一度目を伏せると、再び決然とした表情でハジメを睨みつける。
「この手は使いたくなかったが、貴様らほどの強敵を殺せるなら必要な対価と割り切ろう」
「何を言っている?」
フリードはハジメの問いに答えず、いつの間にか肩に留まっていた小鳥の魔物に何かを伝えた。
その直後、空間全体、否、グリューエン大火山全体に激震が走り、凄まじい轟音とともにマグマの海全体が荒れ狂い始めた。
「うおっ!?」
「んぁ!?」
「きゃあ!?」
「ぬおっ!?」
下から突き上げるような衝撃に襲われながらもハジメ達はどうにかバランスを取る。激震は激しさを増していき、マグマの海からは神羅とマグマ大蛇が起こした物よりも激しくマグマ柱が立ち昇り、更にマグマの海全体の水位も上がってきているように思える。
「何をした?」
ハジメがこの異常事態の犯人であろうフリードを睨みながら聞くと、彼は中央の島の直上に移動しながら答える。
「要石を破壊しただけだ」
「要石?」
「このマグマを見ておかしいと思わなかったのか?グリューエン大火山は明らかに活火山だ。にも拘らず今まで一度も噴火したという記録がない。それはつまり、地下のマグマ溜まりからの噴出をコントロールしている要因があると言う事」
「それが要石……って、まさか……!」
「貴様が想像した通りだ。マグマ溜まりを鎮めている巨大な要石を破壊させてもらった。まもなくこの大迷宮は破壊される。神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが……貴様らをここで仕留められるなら惜しくない代償だ。大迷宮と共に……」
そこでフリードは訝しげに眉を寄せる。なぜなら今まで強烈な闘争心を見せていたハジメたちの顔が呆然とした様子でこちらを見ていたからだ。だが、次の瞬間、それは愕然とした表情となり、顔色は蒼白となり、
「ばっっっっっか野郎がぁっっっっっっっっっ!!!」
ハジメが叫んだ瞬間、マグマの海から神羅が飛び出してくるが、その表情には彼には珍しく焦りが浮かんでいる。
「ハジメ!これは一体何が!?」
「あのバカ野郎が火山を噴火させようとしてるんだよ!」
「っんだと……!?知らないとはいえやり過ぎだ!」
神羅の顔が引きつった瞬間、マグマの海からマグマ大蛇が飛び出してくる。マグマ大蛇は荒れ狂うマグマの海にもひるまず唸り声をあげ、ハジメ達に襲い掛かろうとした瞬間、
ォォォォォォォォォォォォォォォォォォン………
低い鳴き声のような物が響き渡る。その瞬間、マグマ大蛇がその動きを止め、怯えるように体を震わせる。
「次から次へと…………今度は一体……!」
首から下げていたペンダントを取り出したフリードは忌々しげに顔を歪める。それと同時に天上に亀裂が走り、左右に開き始める。天井の穴はそのまま頂上までいくつかの扉を開いて直通した。恐らく攻略の証によるショートカットだ。
それを見た瞬間、ハジメ達は即座に動いた。
「ティオ、頼む!」
「承知!」
神羅の声と共にティオはその姿を黒竜へと変貌させ、更にユエが大量の水を神羅にぶっかけ、付着していたマグマを強制的に冷やす。
「バカな、黒竜だと!?」
竜に変身したティオを見てフリードが驚愕している間にハジメ達はティオの背中に乗る。
神羅が乗り込むと同時にティオは翼を羽ばたかせ、天井の穴目掛けて飛翔する。
「させん!ウラノっ!?」
フリードがウラノスに攻撃を指示しようとするが、それはできなかった。そのウラノスがティオに並ぶように天井の穴に向かって飛翔したからだ。
「何をしているウラノス!」
フリードが激昂したように叫ぶがウラノスはそれを無視して飛翔する。見れば、灰竜たちも慌てた様子で上に向かってきており、マグマ大蛇はマグマの海の中に潜っていく。
ショートカットの通路に飛び込んだ後もティオ達は無我夢中で突き進み、遥か彼方の地上の光を目指す。
「おのれ……ならば!」
フリードがペンダントを握りしめると、ショートカット内の通路が閉まり始める。どうやら是が非でもフリードは自分たちを逃がさないつもりらしい。
ハジメ達がギリっと奥歯を噛み締めながらフリードを睨みつけた瞬間、神羅の背中に背ビレが生え、口元が変異し、背ビレと喉元、そして目が青白い光を放つ。更にそれと同時にティオの口内に黒い魔力が、ウラノスの口内に白い魔力が収束し、次の瞬間、黒、白、水色の閃光が放たれ、閉まり始めた扉を次々と吹き飛ばしていく。
神羅達と協力するような姿勢を見せたウラノスにフリードが信じられないという表情を浮かべた瞬間、一行は最後の扉を潜り抜け、巨大な砂嵐に囲まれながらも太陽の光が注ぐ天空に飛び出す。それと同時に最後の扉が閉まる。
「ウラノス……なぜだ……なぜ……」
『是が非でもお主を守りたかったのじゃ。慕われとるのう』
無我夢中で散っていく灰竜たちを見ながらティオが呟く。ハジメ達はグリューエン大火山を見下ろしている。
何を、とフリードが憤怒の形相でハジメ達を睨みつけた瞬間、グリューエン大火山のショートカット付近の岩場に亀裂が走る。その亀裂は見る見ると広がっていき、黒い煙を吐き出していくと、次の瞬間、凄まじい爆音と共にグリューエン大火山が爆発する。
砂嵐を大きく揺るがすほどの衝撃が放たれ、ハジメ達がとっさに顔を覆う。
無数の火山岩が弾き飛ばされ、盛大に黒い噴煙をまき散らし、マグマが噴出する火口から何かがぬっと伸ばされる。
それは翼だ。片翼だけで100メートルは超えているいくつかの指を残した巨大な翼が現れ、火口の縁に指を突き立てる。それだけで火口が砕け散り、更にもう一翼が伸ばされ、同様に火口に指を突き立てる。
そして火口から、噴火をものともせずに凄まじい巨体が現れる。
その全体像はハジメの良く知る翼竜と非常に酷似している。いや、全体のシルエットだけ見れば全く同じだろう。冷え固まったマグマのような皮膚に短めの嘴のような口をし、頭には後ろに向かって伸びる二本の角を持っている。翼の縁はまるで燃えているようにまばらに赤い光を放っている。そして、よく見ればその口にはあのマグマ大蛇が咥えられている。だが、その大きさはかなり縮んでしまっており、50メートルぐらいになっており、力なく身を震わせる。
怪獣は完全に外に身をさらけ出すと、巨体をブルりと震わせる。すると、咥えていたマグマ大蛇の全身が冷えたマグマのように固まっていき、遂には完全に岩の塊へと変り果ててしまう。怪獣はマグマ大蛇の残骸をかみ砕き、破片がまき散らされる。
そして、かつて炎の悪魔と呼ばれた怪獣、ラドンは翼を大きく広げると甲高い咆哮を上げる。
獣級試練のマグマ大蛇、実は悪食と似た性質を持っていて、体全部が魔石であり、損傷してもマグマを取り込むことで再生することができるという厄介な性質を持っていました。