咆哮を上げたゴジラはラドンを睨みつけると、軽く唸り声を発する。
ラドンは小さく体を震わせると、ゆっくりと体を起こし、翼を羽ばたかせて静かに空に舞い上がる。そしてそのまま砂嵐に向かっていき、そのまま消えて行ってしまう。恐らく、グリューエン火山に戻っていったのだろう。
それを見届けたゴジラは視線を空に向け、ハジメ達を見上げる。
思わず彼らが身体を固くすると、ゴジラは不機嫌そうに鼻を鳴らしてから視線を切り、自分も砂嵐の中へと消えていく。
「………怒られるのは避けられない……かなぁ……」
ユエがげんなりとした様子で呟くとハジメも同意するように頷く。
「だろうな……あんな目にあって怒られるのは割に合わない気もするが、しょうがないか……」
ハジメ達はそのまま砂漠の上を飛行し、比較的砂嵐が穏やかな場所を見つけるとそこに着地し、ユエが即座に聖絶を展開する。
ティオは竜化を解除すると、全員が大きく息を吐きながらその場に崩れ落ちるように座り込んでしまい、全身からドッと冷や汗が噴き出す。
「………思ってた以上に消耗してた……」
ハジメが思わず呟くとユエ達も同意するように頷いている。
初めての怪獣との戦闘だったが、ユエを含めた全員が想像以上に疲労していた。肉体的、と言うよりも精神的な物なのだろうが、それでもかなりの負担だったようだ。
情けねぇ、とハジメがため息をついていると、ドンドン、と聖絶が叩かれる。
全員が顔を向ければ、そこには仏頂面の神羅が腕を組みながら砂嵐をものともせずに立っていた。
ユエが聖絶の一部を解除すると、神羅は聖絶の中に入り、ハジメたちの元に歩いてくる。その背後で聖絶が閉じる。
ハジメ達の前に立った神羅は苦虫を百単位で嚙み潰したような顔で彼らを睨みつけていたが、しばらくして深い深いため息を吐きながら頭をガリガリと掻きむしり、
「………何の冗談でもなく何を言えばいいのか分からん………怒ればいいのか呆れればいいのか感謝すればいいのか………本当にお前らは…………」
まったく、と神羅はしかめっ面でハジメ達を睨みつけ、ハジメ達もまた自分たちが無茶をしたという自覚があるからか思わず視線を逸らすが、ハジメは小さく頭を振ると神羅と視線を合わせる。
神羅はむう、と小さく唸りながら腕を組んでハジメを見据え、
「とりあえず理由を聞いておこう………どうして手を出した。俺がやると言ったはずだ」
「…………助けようと思ったからだ」
それに対し、ハジメは大きく息を吐くと視線を逸らさずに毅然と答える。神羅はスッと目を細めるが口を開かない。そしてハジメは止まらない。それがきっかけになったように言葉が出てくる。
「オルクス大迷宮で、俺は兄貴がいなくても強くなろうと誓った。それは今も変わらない。兄貴が戦うなら、俺も一緒に戦う。一人で戦わせないって。でも、世界は俺が思ってた以上に強くて、俺は自分が驕ってたって思い知った。でも、それでも戦うと決めた………なのに、ここまでずっと、俺は兄貴にだけ戦わせてきた。樹海じゃ動くこともできなくて、ウルの町じゃ逃げる事しかできなくて、ホルアドじゃ助けに行こうとしたのにできなかった。ここでまた逃げたら俺はもう兄貴と一緒に戦う事はできない。これからずっと逃げ続ける。そう思った。だから俺は戦った…………兄貴と一緒に戦って、帰るために」
ずっとずっと、肝心な時に自分たちは戦えていなかった。その理由も今なら分かる。それは神羅が怪獣の相手を引き受けてくれていたから。彼が
だが今回、自分は戦場に、兄と同じ場所に立っていた。もしもここで逃げてしまったら自分は何があっても彼と共に戦う事なんてできない。ミレディに対し宣言した覚悟を自分で捨てることになる。だからこそ戦う事を選んだのだ。
ユエ達はハジメの言葉に呆けたように目を丸くしていたが、すぐに同意するように頷く。
「……そうだね。難しい理屈はない。ただ神羅を助けたかっただけ」
「はい。その通りです。一緒に戦うと言ったんです。いつまでもお荷物ではいられません。」
「うむ、そうじゃな」
神羅はむう、と小さくうめき声を上げ、目頭を揉み解し、
「………やれやれ、こうまで言われては何も言えん………」
そう呟くと神羅は小さくため息を吐き、
「分かった。お前たちが
その言葉にハジメ達は静かに頷く。今この瞬間から自分たちはそこに足を踏み入れた。これまで以上に危険な道のりとなるだろう…………正直に言えば、怖くないと言ったら嘘になる。ラドンと正対した時の、コングを始めてみた時の圧倒的なプレッシャーを思い出し、恐怖で体が震えそうになる。だがそれでも、これは自分たちで選んだ道だ。後悔なんてない。
「まあ、それはそれとしてだ………今回の事前通知無しの無茶へのお仕置きぐらいはしなければならんな?」
えっ、とハジメ達が顔を上げると、そこにはデコピンの構えを取る神羅がいて、ハジメ達は愕然とした表情と共に恐怖で体を震わせる。
アンカジ公国は騒然としていた。
数刻前、グリューエン大火山から遠めでも分かるほどの巨体を持った巨大魔物が二匹現れ、激しく争う姿が確認され、アンカジはその対応に大慌てだ。
ただでさえオアシスの汚染で存亡に危機に瀕していたところに各地で目撃されていた巨大魔物の出現は公国に致命的な混乱をもたらした。
すでに争いは終結し、二匹とも砂嵐の向こうに消えて行き、その事はランズィ含めた国の上層部は把握しているのだが、彼らがどれほど尽力しようと、パニック状態は簡単には収まらない。
動ける人間は悲嘆にくれる、慌てて避難の準備を始める、泣き崩れる、領主の館に説明を求めるために押し寄せるなどなど完全なパニック状態で、それを諫める兵士達も混乱したように怒声ばかりを張り上げる。治療院では何とか患者たちを搬送しようと必死だった。
「香織お姉ちゃん……」
「大丈夫だよ、ミュウちゃん。何も怖い事なんてないからね」
腕の中で不安げに見上げてくるミュウを香織は頭を撫でながら安心させるように言う。今、彼女たちがいるのは領主の館の一室だ。怪獣発見の報が入った瞬間治療院はパニックになってしまったのだが、香織が鎖魔法や神の使徒と言う立場を駆使してなんとか静める事は出来た。だが、すでに外は暴動と言っても過言ではない状況に陥り、このままでは流石にミュウが危険すぎると言う事で彼女たちは一時兵士の護衛の下領主の館に避難したのだ。
だが、それは悪手だった。館には説明や対応を求める民衆が押し寄せ、その怒声のせいでミュウはすっかり怯えてしまっている。
(……このままじゃダメ。何とかしないとミュウちゃんが危険にさらされる……)
今は兵士やビィズたちの頑張りのおかげで何とかなっているが、このままでは門をぶち破って民が一斉に館内部に雪崩れ込んでくるかもしれない。そうなったら何がどうなるのか香織には見当もつかないが、碌でもないことになるのは目に見えている。
そうなる前に何とかしないと、と香織が必死に頭を巡らせていると、不意に尋常ではないプレッシャーが解き放たれ、香織が驚いたように顔を上げると同時にぴたりと怒声が収まる。
香織とミュウは困惑したように顔を見合わせていたが、少しすると部屋にランズィが入ってきて、ハジメ達が戻ってきたと伝えると、二人は即座に部屋を飛び出し、館の外に向かって駆け出す。
外に出た香織たちの目に異様な光景が広がる。館の前には多数の人々が詰め寄せているのだが、その全員が恐怖に身を震わせながらへたり込んでおり、その間を5つの人影が縫うように歩いてくる。
それが神羅達と確信すると香織とミュウは慌てて彼らの元に駆け寄る。
「神羅君、みんな!無事だったん………」
近づいてきた神羅達を見て香織は困惑した表情を浮かべる。ミュウはお構いなしに彼らの元に駆け寄り、神羅に飛びついていた。
どういう訳かハジメ、シア、ティオの3人の額が真っ赤にしながらも香織に向かって手を上げているが、ユエは気まずそうに体を小さくし、ミュウを抱き上げた神羅は呆れた表情を浮かべている。
「え、えっと………みんな………どうしたの?」
何だか異様な雰囲気の5人に香織がおずおずと問うと、
「なんて事はない。4人が無茶をしたからその仕置きをしただけだ。で、ユエだけ自動再生のおかげですぐそこから立ち直り、いたたまれなくなっているというだけだ」
その言葉にハジメ達は苦笑を浮かべ、ユエは更に体を小さくする。
「そ、そうなんだ………で、その………周りの状況は一体………」
「あまりにも騒ぎがすごかったからな。褒められた手段ではないが、威圧して無理やり大人しくさせたのだ。とりあえず、国の暴動は防げたとみていいだろう」
「そっか………えっと、うん……分かった。とりあえず、みんなお帰り。怪獣が出たって話だったけど、無事でよかった」
「まあ、何とかな………」
ハジメが頭を掻きながらはあ、と大きくため息を吐く。
「予想はしてたとはいえ、やっぱり暴動が起きてたな……」
「うん。でも、神羅君たちのおかげで収まったし………それで、静因石は?」
「それなら十分な量確保してきた。これだけあれば「ハジメ殿!!」っと、来たか……」
ハジメが香織に静因石を渡そうとした時、その場にランズィたちが血相を変えながら走ってくる。
「は、ハジメ殿、無事だったのか!?グリューエン大火山の方角から恐ろしく巨大な魔物が出現したと報告があったのだが!?」
「ああ、いたよ。実際に遭遇もした。まさに規格外の化け物、おとぎ話の炎の悪魔そのものだったよ」
その言葉に彼らは愕然とした表情を浮かべる。
「そんな………そんな恐ろしい存在が………」
「ああ、確かにいた。と言っても安心しろ。あいつが暴れ出す可能性は低い」
「な、なぜそんな事が言えるのか!?グリューエン大火山に潜んでいる可能性もあるんだぞ!?」
「そうだとしても大丈夫だ。炎の悪魔は………報告があるのなら知ってるだろ?神獣が撃破したからだよ」
その言葉にランズィ達はえ、と目を丸くする。
「そ、そう言えば確かに、魔物は二体現れ、激しく争ったと報告にあったが………」
「ああ、ウルの町でも同じような事があったって話ぐらいは聞いてるだろ?その時の神獣と今回現れた魔物は似通っていた。つまり、同じ神獣だって事じゃないか?」
もちろん、これはハジメ達が移動中に考えた作り話だ。怪獣が人目にさらされた以上、どうしたってそう言う話は必要になってくる。だったら神獣伝説を徹底的に利用しようという話になったのだ。結局、怪獣とやり合うならゴジラの姿をさらすのは必定と言っていい。そして、ウルの一件から教会ではゴジラを神獣として調査しているだろう。ならば、
「た、確かに神獣復活の報は教会から伝えられているが………まさかここにもいたとは……」
「そうだな……他にもいるのかどうかは定かじゃないが……とにもかくにも、魔物はそのままどこかに飛び去って、グリューエン大火山には神獣が入り込んだ。しばらくは大丈夫だろ」
ハジメの言葉にランズィたちはようやく安堵したように大きく息を吐く。
「それじゃあ、香織。後は任せていいか?流石に疲れたから休みたいんだが……」
「あ、うん。分かった。後は任せて」
香織はハジメから静因石が入った宝物庫を受け取ると、すぐさま治療院へと向かう。ランズィ達も住民に怪獣の事を報告するために慌ただしく動き出す。
それを眺めながらハジメは大きく息を吐く。迷宮攻略ができていない以上自分たちはもう一度大迷宮に挑まなければならない。敗北したとはいえ、目覚めたばかりの怪獣が住まう大迷宮に。その事を考え、手が震えるが、唇を噛み締め、ぎゅっと拳を握って震えを抑える。
怖い。だがそれでも、帰るためにも挑まないわけにはいかない。
ハジメはそう決意を固めるが、ふとユエ達はどうなのだろうと視線を彼女達に向ければ、彼女たちもハジメと同じように唇を引き結んでいる。
同じことを考えてくれている仲間がいる。その事実に少し安心を覚えながらハジメはよしっ、と大きく頷く。
今期は面白いアニメが沢山あっただけに、延期が沢山と言うのはショックです……