ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 今回は短めですいません。正直に言えば……今日からやりたいゲームがどんどん増えるので執筆時間が減ると思うので今のうちにと。でもまあ、何とか早め早めに更新していきます。中盤の山場が近いので。


第74話 海の上にて

 見渡す限りの青。

 空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽は燦々と降り注ぐ。しかし、決して暑すぎるということはなく、気候は穏やかで過ごしやすい。時折優しく吹く風は何とも心地よい。

 ただ、周囲をどれだけ見渡しても何一つ物がないのが寂しいのは人間だからでしょうか、とシアは青空を見上げながらぼんやりと思った。

 シアは今、大海原のど真ん中にいた。と言っても身一つでいるわけでは当然ない。シアがいるのは波間をゆらゆらと漂う一隻の船の上だ。もっとも、この世界の住人にそれを船と認識することはできないだろう。

 黒い光沢のある流線型のボディの左右に小さな翼がVの字型についており、後部にはスクリューと尾に見せかけた舵がついている。船と言うより新種の魔物と言われたほうがトータスの人間は納得できるだろう。

 その正体はハジメが作り上げた潜水艇だ。大迷宮の一つであるメリュジーヌ大迷宮は海中にあるとミレディが言っていたので、作っておいたのだ。

 今、ユエ達はそれに乗ってエリセンの町に向かっていた。ハジメ達は潜水艇の中で色々と作業をしているが、特にやることがなく、手持ち無沙汰になったシアは外に出て見張り(・・・)をしているのだ。

 

 「はぁ………なんだか……随分とのんびりしてる気がしますねぇ……」

 

 吹き抜けていく風に目を細めながらシアはここまでの道のりを思い出していた。

 アンカジ公国の混乱は神獣が悪魔を倒したという報告によって一応の終息を迎えた。その後はハジメ達は香織の主導の元、毒に侵された患者の治療に奔走した。

 その次の日、ハジメ達はグリューエン大火山の様子を確認しに行ったのだが、その時にはあれほど苛烈だった噴火がすでに沈静化していた。それこそ、大迷宮に挑もうと思えば挑めるぐらいに。

 これを見て、神羅は怪獣が火山の噴火を鎮めたのだろうと言っていた。幾らマグマに耐性のある奴でも、寝床とするならば噴火していてはうるさくてかならないだろうからと。

 噴火を騒音扱いする神羅にハジメ達は心底呆れたが、とにかく大迷宮に挑めるのならば、早めに再挑戦しておこうとなり、一度戻って残りの患者の治療と準備を整えた翌日、ハジメ達はミュウをランズィ達に預け、新たに香織を加えて再びグリューエン大火山に挑戦した。

 迷宮の内部は破壊の痕跡がまだ残っていたが、神羅の助けもあってかハジメ達はスムーズに攻略を進めていき、最終試練に到達した。

 最終試練のマグマ蛇も復活していたがサクッと撃破し、残るは獣級試練となったのだが予想外の事が起こった。流石に獣級試練級の魔物は即座に復活できなかったのか、獣級試練は始まらず、そのまま中央の島のマグマのドームは消え、そこに立っていた漆黒の建築物にハジメ達は入って行った。

 そこで手に入れた神代魔法は空間魔法。その名の通り空間に干渉する神代魔法にふさわしい力を持った魔法だ。恐らく、フリードが突然現れたのもこの魔法を使っての物だったのだろう。

 無事、大迷宮に挑んだ全員、今回初挑戦の香織も無事に手に入れることができたのだが、それだけでハジメ達は獣級試練突破のご褒美の類は手に入れられなかった。最初からなかったのか、それとも再挑戦したせいでリセットされたのかは定かではないが、ハジメ達はどこかやるせない気持ちになった。曲がりなりにも獣級試練に挑み、更には怪獣とやり合ったのにこれは割に合わないのでは。せめて前回の挑戦の結果を引き継いでほしかったと思わなくもない。

 まあ、神代魔法を手に入れられるだけ儲けものと考えようとハジメ達は意識を切り替えた。下手したらまた怪獣に襲われかねない。ハジメ達はさっさとショートカットを利用して大迷宮を脱出し、アンカジ公国に戻ってミュウと合流したのち、アンカジ公国を後にした。

 そのまま砂漠を横断してエリセンと交易をしている港町に着いたハジメ達は物資の調達を手早く済ませ、エリセンの位置などの情報を仕入れた後、潜水艇に乗り込んで大海原へと出港したのだ。

 それから数日。海の魔物の相手をしながら進み続け、距離的にはもうそろそろエリセンの町が見えてきてもおかしくはないところまで来ているはずだ。

 だが、立ち上がって周囲を見渡してみても、それっぽい物は見えない。もう少し先なのだろうか、とシアが首を傾げていると、不意に海面が大きく盛り上がり、それを突き破る様にして黒い巨体が顔を出す。ゴジラだ。だが、シアはたいして驚かず、軽く声をかける。

 別に怪獣がいたわけではない。それどころか何かに襲われていたわけでも、戦っていたわけでもない。ゴジラはただただ、泳いでいたのだ。

 ハジメがどこか悩まし気な神羅の様子に気づいたのは出港してすぐの事だった。理由を聞いてみれば、ただ思いっきり海を泳ぎたいというあまりにも小さな願いに彼は悩んでいたようだ。だが、ハジメ達はすぐに気付いた。彼は人としてではなく、ゴジラとして泳ぎたいのだと。確かにそれは軽々とできる事ではないだろう。もしかしたら、地球でたまに海に行った時もそんな事を考えていたのかもしれない。

 だったら叶えてもいいじゃないかと全員が神羅の背中を押した。これまでずっと彼には世話になりっぱなしだったのだ。少しでもいいから恩は返したいと思うのは当然だ。

 流石に怪獣の近くや他の船がいるときはダメだが、それ以外だったら短時間ゴジラとして自由に過ごしても大丈夫だろう。最初は遠慮していた神羅も最終的には厚意に甘える事にして、周囲への影響を考えながらこうしてゴジラとして過ごしているのだ。

 軽く身震いして水気をきりながらゴジラは小さく唸りながらシアの方に頭を近づける。すると、その頭から小柄な影が飛び降りてくる。

 

 「シアおねぇちゃーーん!」

 

 満面の笑みを浮かべて飛び込んでくるミュウをシアは苦も無く受け止める。

 

 「おかえりなさい、ミュウちゃん。楽しかったですか?」

 「うん!すっごく楽しかったの!」

 

 無邪気にはしゃぐミュウを見てシアはよかったですねぇ、とミュウの言葉にうなずく。

 始めてゴジラの姿を見た時、ミュウは当然ながら怯えたのだが、危険がないと分かると好奇心を爆発させてじゃれつき、今ではゴジラと一緒に泳ぎ回るまでになっていた。さすがに動いているときは近くで泳がせてはいないが。

 ゴジラはそのまま神羅へと戻るとふう、息を吐きながら潜水艇の上に上がってくる。

 

 「すまんな、シア」

 「いえいえ。中じゃ魔法や練成に関する議論が白熱してる頃でしょうし、私じゃちんぷんかんぷんですから」

 「そうやって勉強から逃げてばかりではいられまい」

 「そうは言いましても、ユエさんのあの擬音乱舞の説明について行けるのは神羅さんと香織さんだけですぅ……」

 

 その言葉に神羅は困ったように苦笑を浮かべる。。

 魔法の天才足るユエだが、彼女は良くも悪くも感覚派であり、彼女の魔法講座は擬音だらけの難解過ぎる物だ。

 ハジメ、シア、ティオが脱落する中、それについて行けたのは神羅と香織の二人だった。

 元々怪獣だからこそ本能で動くことの多かった神羅は直感的にユエの言葉の意味を汲み取ることに成功し、血のにじむような訓練と執念で魔法を練り上げてきた香織も強くなるのに繋がるならと執念でユエの発言の意図を汲み取ることに成功していた。今も潜水艇内ではユエと香織が擬音マシマシで意見を交わしている事だろう。

 

 「まあいい。もうそろそろエリセンの町が見える頃合いだ。飯を食ったら一気に距離を稼ごう」

 

 神羅の言葉にシアは頷くとハッチを開けてハジメ達に声をかけるとハジメ達はすぐさま潜水艇の上に上がってくる。そのままテキパキと昼食の準備を整え、そのまま波に揺られながら食事とする。

 今日のメニューは当然海で取った魚を使ったムニエルだ。神羅の腕は今日も冴え渡っており、ハジメ達は和気あいあいと食事を続けていた。

 が、突如としてシアのうさ耳が大きく跳ねたかと思うとせわしなく動き始める。それと同時にハジメと神羅も何かの気配を感じたように視線を動かす。

 その直後、潜水艇を取り囲むようにして複数の人影が海の中から現れた。総数は20人ほど。先が三股になった槍を突き出してハジメ達を威嚇している。

 その誰もがエメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を持っ此方を見下ろの目はいずれも警戒心に溢れ、剣呑に細められている。その内、ハジメの正面に位置する海人族の男が槍を突き出しながらハジメに問いかけた。

 

 「お前たちは何者だ?なぜここにいる?その乗っている物はなんだ?」

 

 ハジメと神羅はちらりとアイコンタクトで意思を交わす。ハジメは口の中の者を即座に飲み込んで立ち上がると素早く潜水艇の側面に練成で足場を形成してそこに着地、男の正面に立つ。

 こちらを見下ろすハジメを警戒してか男が見上げるようにハジメを見上げていると、

 

 「俺は南雲ハジメ。冒険者だ。ある依頼を果たすためにエリセンの町に向かってる。こいつは俺が作り上げた船だ。さっき見た通り、俺は練成師だからな。材料さえあれば船ぐらいは作れるって事だ。ほら、これが俺のステータスプレート」

 

 そう言いながらハジメは宝物庫からステータスプレートを取り出して男に差し出す。男は訝しげな表情を浮かべながらステータスプレートを受け取り、

 

 「き、金ランクだと!?」

 「これで身分は保証されたな。で、肝心の依頼なんだが……ミュウって言う海人族の女の子をエリセンまで送り届けるって奴でな。これが依頼書」

 

 続けて出した依頼書を男は驚愕しながらも受け取り、今度は支部長指名依頼と言う点で驚きながらも男は依頼書に目を通していき、

 

 「……なるほど、確かに。それで、ミュウちゃんは?」

 「船の上にいるよ。兄貴!ミュウを」

 

 ハジメが声を上げると、神羅がミュウを肩車しながら顔を出し、ミュウが海人族たちを見て顔を輝かせる。

 それを見て、海人族の男はほっと相互を崩して槍を下ろす。周りの男たちもそれに倣うように槍を下ろしていく。

 

 「槍を向けた事、すまない。南雲殿」

 「まあ、これぐらい別にいいが……やっぱり、殺気立ってたのはあれか?ミュウが攫われたから……」

 「ああ。おまけにあの子の母親まであんな目に……」

 「あんなって……何かあったのか?」

 「ああ……とりあえずエリセンの町まで案内しよう。依頼の正式な達成報告も必要だしな」

 「ああ、分かった」

 

 海人族の男たちが先導するように泳ぎ始めると、潜水艇もゆっくりとした速度でその後を追いかけていく。




 ライザのアトリエがアニメ化しましたね。いろいろ言われてますがアトリエシリーズでは好きなシリーズなので素直に嬉しいです。

 で……公式で太ももを押す姿勢、嫌いじゃないです。やっぱりいいよね、ライザの太もも。

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