ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

86 / 111
第77話 船の墓場

 やはりというべきか、道中の魔物はこれまでの迷宮の魔物と比べても弱かった。それこそ香織でも対処しようと思えば十分対処できるぐらいに。そうなると、あのクリオネのような魔物はかなりの力を持っていたように思える。

 神羅の手であっさりと撃退されていたが、彼の言葉を信じれば、あの空間を丸ごと覆い尽くせるほどの質量を有していたという事。そして神羅の炎でも倒しきれなかった時点で、あの魔物はかなりの力を持っているという事になる。

 もしかしたら、今ここにいる魔物は本当にただの魔物で、あのクリオネの食料になっていたのかもしれない。

 そんな事を考えながらハジメ達は海底洞窟のような通路を進んでいくが、遂にその終わりが見えてくる。前方に広い空間が見え、そこから眩い光が見えている。

 よし、と気合を入れてハジメ達が空間に足を踏み入れると、視界が一気に広がり、目の前に真っ白な砂浜が広がる。ハジメ達が通ってきた通路は鬱蒼とした雑木林の中にあり、頭上一面には水面が揺蕩っている。結界のような物で海水の侵入を防いでいるようだ。かなり広い空間である。

 

 「ここからが迷宮の本番って事か?」

 「かもしれんな……しかし、これでは本格的に我は動けんな。下手したら結界が壊れて水に沈む」

 

 さらりと恐ろしい事を言う神羅にハジメ達は顔を引きつらせる。幾らなんでも天井のあの水が全て落ちてきたら対処する間もなく押しつぶされてしまう。

 そうならないように祈ってるよと呟きながらハジメ達は砂浜沿いに歩みを進めていき、砂浜の終点に辿り着く。そこに広がっていたのは……

 

 「これは……船の墓場って奴か?」

 「すごい。帆船なのになんて大きさ……」

 

 その先は岩石地帯となっており、そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。そのどれもが最低でも百メートルはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は三百メートルくらいありそうだ。

 神羅を除く全員が思わず足を止めてその一種異様な光景に見入ってしまった。神羅はここにもこれぐらいのはあったのか、と軽く感心するように腕を組んでいた。しかし、いつまでもそうしているわけにも行かず、ハジメ達は気を取り直すと、船の墓場へと足を踏み入れた。

 岩場の隙間を通り抜け、あるいは乗り越えて、時折、船の上も歩いて先へと進む。

 どの船も朽ちてはいるが、触っただけで崩壊するほどではない、一体いつからあるのか判断が難しかった。

 

 「それにしても……戦艦ばっかり」

 「そうなんですか?じゃあ、あの一番大きな船も……」

 「いや、恐らくあれは客船じゃな。装飾が他と比べて豪華じゃし……」

 

 墓場にある船には、どれも地球の戦艦や帆船のように横腹に砲門が付いているわけではなかった。しかし、それでもユエが戦艦と断定したのは、どの船も激しい戦闘跡が残っていたからだ。見た目から言って、魔法による攻撃を受けたものだろう。スッパリ切断されたマストや、焼け焦げた甲板、石化したロープや網など残っていた。

 そしてその推測はハジメ達が船の墓場のちょうど中腹に来た辺りで事実であると証明されることになった。

 

 ――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

 ――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 「ッ!? なんだ!?」

 「ハジメくん! 周りがっ!」

 

 突然、大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。驚いて足を止めたハジメ達が何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり――気が付けば、ハジメ達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。

 そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。

 

 「な、なんだこりゃ……」

 「ハ、ハ、ハジメさん? 私、夢でも見ているのでしょうか? 皆さん、ちゃんとここにいますよね? ね?」

 

 全員が度肝を抜かれてしまい、混乱しないよう必死に落ち着こうとする中、神羅は目を細めながら周囲を見渡す。

 空に大きな火花が上がり、弾けると同時に花火のような音を立てると、何百隻という船が一斉に進み出した。ハジメ達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。

 そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。

 

 「なるほど……この船たちの記憶のような物か……」

 

 神羅は無感動に呟きながら周囲の光景を眺める。その言葉にハジメ達は目を丸くする。

 

 「それってつまり……この船の墓場が出来上がった時の光景を見せているって事?」

 「恐らくな」

 

 轟音と共に火炎弾が飛び交い船体に穴を穿ち、巨大な竜巻がマストを狙って突き進み、海面が凍りついて航行を止め、着弾した灰色の球が即座に帆を石化させていく。

 ハジメ達が乗る船の甲板にも炎弾が着弾し、盛大に燃え上がり始めた。船員が直ちに、魔法を使って海水を汲み上げ消火にかかっていく。

 正に戦場。このおびただしい船団と人々は戦争をしているのだ。放たれる魔法に込められた殺意の風が、ぬるりと肌を撫でる。

 ハジメ達がその光景を呆然と見ていると、背後から再び炎弾が飛来した。放っておけば直撃コースだが、所詮は映像のような物だ。無視して……

 そう考えたハジメだが、炎弾を見た瞬間、本能が警鐘を鳴らし、咄嗟にドンナーを抜いて発砲するが、レールガンは炎弾を迎撃するどころかすり抜けてそのまま空の彼方に消えていく。

 

 「なにぃ!?」

 

 驚愕の声を上げるハジメにユエ達はすぐに炎弾に視線を向けるが、すでにユエであっても迎撃も防御も間に合わない所にまで迫り、

 神羅が炎を纏った右腕で炎弾をかき消す。

 

 「ぼぅっとするな。ここは敵地だぞ。構えないでどうする」

 

 そう言われ、ユエ達は小さく呻きながらもすぐさま臨戦態勢となる。

 そこに再び炎弾が飛来するが、今度はユエがすぐさま炎弾を放ち、相殺させる。

 

 「映像みたいなものなのに、どうして………」

 「もしかしたら……これはただ幻覚ってわけじゃないが、現実ってわけでもない。実体のある攻撃は効かないが、魔力を纏った攻撃は効くみたいだな。全く、どうなってんだか……」

 

 厄介だな、とハジメが溜息を吐いていると、すぐ後ろで苦悶の声が上がる。全員が振り返ると、年若い男がカットラスを片手に腹部を抑えて蹲っていた。見れば、足元に血だまりが出来ており、傍らには血濡れの氷柱が転がっている。おそらく、攻撃を受けたのだろう。

 咄嗟に、香織は、「大丈夫ですか!」と声を掛けながら近寄り、回復魔法を行使した。彼女の放つ純白の光が青年を包み込む。すると青年は、傷が治るどころか淡い光となって霧散してしまった。

 

 「え? えっ? ど、どうして……」

 「……もしかしたら、魔力を伴っていたら属性や効果なんて関係ないのかも」

 

 混乱する香織に、ユエが自身の推測を話すと、香織は不快げに顔をしかめる。

 

 「何ですかそれ………悪趣味すぎません?」

 「確かにのう……」

 

 シアとティオが嫌悪感も露に呟く中、神羅は香織に視線を向ける。

 

 「白崎。大丈夫か?」

 「………うん、大丈夫。やれるよ。こんなふざけた事をした人の顔、拝みたくなっただけ」

 

 静かに告げるその声音には隠し切れない怒りが滲んでいる。

 神羅は静かに頷くと周囲に視線を向ける。

 いつの間にか、周囲を不穏な気配が満たしていた。いつの間にか、かなりの数の男達が暗く澱んだ目でハジメ達の方を見ていた。

 ユエ達もその視線に気がつき同じように視線を巡らせた直後、彼等はハジメ達に向かって一斉に襲いかかってきた。

 

 「全ては神の御為にぃ!」

 「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」

 「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」

 

 そこにあったのは狂気だ。血走った眼に、唾液を撒き散らしながら絶叫を上げる口元。まともに見れたものではない。

 どうやらこの戦争は宗教戦争のようだ。怒声に交じってエヒトとは別の神の名前も聞こえてくる。

 ハジメ達は即座に動く。ハジメはドンナーとシュラークから雷弾を連射し、ユエも魔弾を乱射、ティオも風魔法を放ち、神羅は手足に炎を纏わせて躍りかかる。

 そしてシアはすいません!と断ってから香織を抱えると勢いよく跳躍し、4本あるマストの内の一つの物見台に着地する。シアは未だ神羅のように手足に魔力を纏わせて強化するという事ができないのだ。

 二人が下を覗き込めば、神羅達が群がる兵士たちを手当たり次第に殲滅している。未だ周囲では戦争が継続中だが、一部の兵士がハジメ達を標的にしたようだ。それも敵味方関係なしに、その数は増えていく。

 

 「ど、どうすればいいんですかこれ……」

 「出口を探そうにもこれじゃあ探しようがない………せめて戦争が終われば……」

 「そうは言っても、この数じゃあ、神羅さんがゴジラになって蹂躙するしかないのでは……」

 

 そう言ってシアは青い顔で周囲を見渡し、釣られるように香織も周囲を見渡す。

 そこかしこで相手の船に乗り込み敵味方混じり合って殺し合いが行われていた。こちらが攻撃した場合と異なり、幻想同士の殺し合いでは、きっちり流血するらしい。

 甲板の上には、誰の物とも知れない臓物や欠損した手足、あるいは頭部が撒き散らされ、かなりスプラッタな状態になっていた。どいつもこいつも、〝神のため〟〝異教徒〟〝神罰〟を連呼し、眼に狂気を宿して殺意を撒き散らしている。

 狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者や、死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神に捧げようと天にかかげる者、ハジメ達を殺すために弟ごと刺し貫こうとした兄と、それを誇らしげに笑う弟。戦争は狂気が満ちる場所というが、それにしても余りに凄惨だ。

 その光景を見つめる香織は拳を握りしめながら唇を噛み、

 

 「……シアさん、魔力を分けて。私が………全部終わらせる」

 「か、香織さん……?」

 

 かつてないほど激情を宿した言葉にシアが目を丸くしていると、香織は杖を強く握りしめながらシアに左手を伸ばすと、廻聖を発動させ、シアから魔力を分けてもらう。

 その上で香織は魔晶石からも魔力を補給しながら魔力を練り上げ、更に詠唱を行う事で更に更に魔力を制御し、練り上げて、その魔力は加速度的に高まっていく。

 そのこと気に気づいた神羅達は兵士たちがマストに近づかないように立ち回る。

 そして香織の詠唱が完了し、彼女の最上級魔法が発動する。

 

 「……せめて………安らかに。――もの皆、その(かいな)に抱きて、ここに聖母は微笑む。聖典!」

 

 直後、香織を中心に光の波紋が一気に戦場を駆け抜けた。

 波紋は、脈動を打つように何度も何度も広がり、その範囲は半径一キロ、いや、練りに練り上げた魔力を糧に、波紋はさらに広がっていき、戦場の3分の1にまで及んだ。そして、その波紋に触れた敵の一人一人が光で包み込まれていく。

 光系最上級回復魔法〝聖典〟

 それは、超広範囲型の回復魔法で、領域内にいる者を全員まとめて回復させる効果を持つ。範囲は、術者の魔力量や技量にもよるが、最低でも半径五百メートル以内の者に効果がある魔法だ。また、あらかじめ〝目印〟を持たせておけば、領域内で対象を指定して回復させることも出来る。当然、普通は数十人掛りで行使する魔法であるし、長時間の詠唱と馬鹿デカイ魔法陣も必要だ。それをたった一、二分で、しかも一人で行使し、そしてこれほどの範囲に効果を及ぼせるなど、もはやチートどころではない。異常だ。

 香織の放った〝聖典〟の光が戦場を包み込むと同時に、領域内の兵士達は敵味方の区別なく全てが体を霧散させて消え去った。その光景をハジメ達が呆然と眺めるが、全ての敵が消えたところではっ、とすると、即座に香織たちが逃げ込んだマストを登っていく。

 物見台には魔力枯渇で気を失っている香織と、顔を青くしながらへたり込んでいるシアがいた。

 シアの魔力量はハジメ達の中では少ない方だが、それでもその値は3000から4000にまで上がっている。そのシアが魔力枯渇でへばるとは……

 

 「全く………どいつもこいつも無茶をする」

 

 そう言いながら、神羅は小さく苦笑を浮かべながら、香織の頭を優しく撫でる。

 

 「そんじゃあ、残りは……俺達で踏ん張るか」

 

 そう言ってハジメは未だ殺意を衰えさせずこちらに向かってくる兵士たちを眺め、ドンナーをガンスピンさせる。




 香織やりすぎたかな?でも後悔はしていない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。