ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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第79話 再生魔法

 淡い光が海面を照らし、それが天井にゆらゆらと波を作る。

 その空間の中央には神殿のような建造物があり、四本の巨大な支柱に支えられていた。支柱の間に壁はなく、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。また、周囲を海水で満たされたその神殿からは、海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。

 その四つある魔法陣の内の一つが、にわかに輝き出す。そして、一瞬の爆発するような光のあと、そこには複数の人影が立っていた。神羅達だ。

 

 「……ここは……あれって魔法陣?まさか、攻略したんでしょうか?」

 「いやいや、ちょっと簡単すぎないか?獣級試練はおろか最終試練だって……」

 「……あのバチュラムっぽい魔物との再戦ぐらいはあると思ってた……」

 「確かに……あの船の中もさして危険などなかったしな……」

 

 そう言いながら神羅は顎に手を添える。

 あの後、ハジメ達は神羅達の後を追って共に船の中を進んでいったのだが、船の中には幽霊型の敵がちらほらと確認されるだけだった。恐らく、本当はそれなりの数の幽霊がいたのだろうが、先の神羅の魔力砲によって多くが吹き飛ばされてしまったのだろう。実際、出てきても神羅達の魔力による攻撃で次々と消滅していた。

 まあ、幽霊が苦手らしい香織にとってはかなり辛い場所だったようで、悲鳴を上げながら神羅にしがみついていた。一応あの船の墓場の兵士たちも幽霊みたいなものだったはずだが……

 

 「……あのね、みんな。十分大変な場所だったよ。最初の海底洞窟だって、普通は潜水艇なんて持ってないんだから、ずっと沢山の魔力を消費し続けるし、下手をすれば、そのまま溺死だよ。クリオネみたいなのは、どれ程強いのかは分からないけど、間違いなくかなり強い部類だったと思うし、亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないから、また魔力頼りになる。それで、大軍と戦って突破しなきゃならないんだよ? 十分、おかしな難易度だよ」

 「あ~~~、そう言えばそうですね……」

 「まして、この世界の人なら信仰心が強いだろうし……あんな狂気を見せられたら……」

 「余計、精神的にキツいか……」

 「……獣級試練は………もしかしたらこの迷宮には最初からなかったのかもしれないな………流石に全ての迷宮に怪獣を想定した魔物を配備するのは辛かろうし」

 

 そう言う神羅を見上げ、ユエは小さく息を吐く。どうやら完全に神羅は落ち着いたようだ。

 合流した時、ユエは神羅にイラついてた理由を聞いてみたが、やはりというべきか、ユエの予想通りだった。ならば唐突に彼が苛立ったのも納得だ。そのイラつきも船の中を進んでいく内に収まったようだ……もしくは、ただ押し込んだだけか……

 祭壇に到着したハジメ達は、全員で魔法陣へと足を踏み入れる。いつもの通り、脳内を精査され、記憶が読み取られ、無事に全員が攻略者であると認められ、ハジメ達は新たな神代魔法を獲得する。

 

 「ここでこの魔法か……大陸の端と端じゃねぇか。解放者め」

 「……見つけた〝再生の力〟」

 

 思わずハジメが悪態をついたのは、手に入れた神代魔法が再生魔法だったからだ。

 ハルツィナ樹海の大樹の下にあった石版の石板には進むには確かに再生の力が必要だと書かれていた。つまり、東の果てにある大迷宮を攻略するには、西の果てにまで行かなければならなかったということである。場合によっては恐ろしくめんどくさい事になる。事実、ハジメ達はかなり遠回りをさせられた。ブリーゼ等がなかったらもっと面倒だっただろう。

 ハジメが解放者の嫌らしさに眉をしかめていると、魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から小さな祭壇のような物がせり出てきた。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光人型となり、最終的には一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ。

 彼女は、オスカーと同じく、自己紹介後、解放者の真実を語った。おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている。やがて、オスカーの告げたのと同じ語りを終えると、

 

 「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

 そう締め括り、メイル・メルジーネは再び淡い光となって霧散した。直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

 

 「証の数も四つですね、ハジメさん、神羅さん。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」

 

 シアが、懐かしそうに故郷と家族に思いを馳せ、神羅は樹海に住まう怪獣の事を思い出したのか、軽く鼻を鳴らす。

 その様子を見て、ハジメは改めてゴジラとあの怪獣の関係が気になった。神羅は二匹とも自分の敵のように語っていたが、抱いている感情は全く違うように思える。

 

 と、ハジメが宝物庫に証をしまった途端、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。

 

 「うおっ!? チッ、強制排出ってか」

 「全員、我に摑まれ。酸素ボンベは忘れずにな」

 「……んっ」

 「わわっ、乱暴すぎるよ!」

 「あんなに優しそうだったのに~~!」

 「人は外見によらんと言う事じゃのう………」

 

 凄まじい勢いで増加する海水に、ハジメ達は潜水艇を出して乗り込む暇もなく、あっという間に水没していく。神羅が手足を変化させ、背びれと尾を展開すると、全員が神羅にしがみつき、神羅も全員をしっかりと抱きこむ。そしてハジメ達は宝物庫から酸素ボンベ取り出して口に装着した。

 天井部分がグリューエン大火山のショートカットのように開き、猛烈な勢いで海水が流れ込む。神羅達もその竪穴に流れ込み、神羅は下からの水の流れに乗って一気に上昇する。

 おそらく、メルジーネ海底遺跡のショートカットなのだろうが、おっとりしていて優しいお姉さんといった雰囲気のメイル・メルジーネとは思えない滅茶苦茶乱暴なショートカットだった。

 海中に放り出されたハジメは急いで宝物庫から潜水艇を取り出し、中に入ろうとしたが、不意に神羅がぐるりと視線を巡らし、口から青白い魔力のブレスを放ち、勢い良く伸ばされた無数の触手を撃墜する。

 ハジメ達が慌てて視線を向ければ、そこにはあの巨大クリオネが苦しむように身をよじっていた。

 

 『お前等、今すぐ潜水艇に入れ!』

 

 神羅がそう言うと、ハジメ達は即座に潜水艇に入っていく。水中じゃハジメ達はほとんど無力だ。

 ハジメ達が潜水艇に入ったのを確認すると、神羅は海中にも拘らず咆哮を響かせながらクリオネに向かって突き進む。

 クリオネは触手を伸ばして攻撃するが、神羅は海中を自在に泳いで回避して距離を詰める。

 そして、神羅は背びれと目と喉元を青白く光らせる。それが何の予兆なのか知っているハジメ達は潜水艇でぎょっ!?と目を見開き、

 

 「全員掴まれ!」

 

 ハジメが叫んだ瞬間、神羅の口から熱線が放たれる。が、それは海中でありながら水蒸気爆発などは起こさず、容赦なくクリオネを直撃し、貫く。

 それと同時にクリオネの身体がボロボロと崩れていき、遂にはその身体は完全に崩壊してしまう。

 神羅は崩れ落ちたクリオネを後目に周囲を警戒するように見渡す。

 そして何も起こらないことを確認すると、警戒を緩めるように口を開き、泡を吐く。

 その様子をハジメ達は呆然と眺めていた。あの魔物をあっさりと倒したこともそうだが、まさか海中でも熱線が使えるとは………

 

 「とりあえず……これで終わり……と見ていいじゃろ」

 

 ティオの言葉にハジメ達はそうだな、と言うように小さく頷いた。




 悪食戦があまりにも簡単すぎない?と思われるかもしれませんが、描写を見るに悪食は全身が魔石とでもいうべき存在で、神羅は他者の魔力を破壊する能力を持っていて、おまけに水中戦が得意。文字通りのワンサイドゲームです。

 熱線が使えた事は………ゴジラに対し今更ですよ、マジで。
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