ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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第80話 出立、知らせ

 エリセンという町は、木で編まれた巨大な人工の浮島だ。広大な海そのものが無限の土地となっているので、町中は、通りにしろ建築物にしろ基本的にゆとりのある作りになっている。その町から数百メートルほど離れた沖合に何かが浮かんでいた。黒い人工物なのだが恐ろしくでかい。全長百メートルを超える平べったいそれは船と言うよりも小島と呼んだ方がいいかもしれない。

 その小島の上でハジメは何かを作っている。周りには幾つもの鉱石と作られた部品が並べられており、ハジメは練成を駆使して部品をくみ上げていく。その大きさはかなりの物で、平屋の家屋ほどもある。

 そうして組み上がった物をハジメは小島に組み込んでいく。それが終われば、その場で軽く動作テストを行っていく。展開、格納、チャージ、発射機構。それらのチェックが終わり、問題なしと判断すると、ハジメは大きく満足げに頷く。

 

 「………ようやく……ようやく完成だ」

 

 万感の思いを込めてハジメはつぶやく。これは神羅から怪獣の話を聞いて以来、少しずつ開発を進めていた物だ。ハジメだけでなく、オスカーやかつてのトータスの人類が生み出した魔道具の技術も組み込んだまさに技術の結晶。

 これを使っても、きっと自分達だけではまだ怪獣には及ばないだろう。だが、それでもようやく自分たちはその土俵に立ち入る準備が整ったのだ。

 ふう、とハジメは大きく息を吐くと視線を小島の周囲に向ける。そこでは、ハジメの仲間たちが思い思いに過ごしていた。

 ユエとティオ、香織はミュウと一緒に水中鬼ごっこをして戯れている。海人族の特性を存分に発揮してミュウはチートの権化たちから逃げ回っている。あのミュウを捕まえられるのは神羅だけだろう。

 その神羅はと言うと、小島の上でシアと組み手を行っていた。片や怪獣、片や怪獣に及ばないまでも数トンのハンマーを振り回す化け物。さぞかし苛烈な組み手かと思われるが、そんな事はなかった。

 神羅とシアの拳を振るう速度は常人でも見える速度で、拳と拳がぶつかり合っても普通の打撃音が響くだけ。尋常ではない力の衝突による衝撃は起きていない。

 当然だ。今彼らはただの人間としての能力で組み手を行っている。身体強化や怪獣の力は一切使っていない。うっかりこれを壊したらそれこそハジメが激昂する。それに、組み手の目的も違う。

 シアの両手足はほのかな光を纏っており、振るわれるたびに光の軌跡が走る。

 シアは今、神羅が使っているような打撃に魔力を纏わせる攻撃、便宜上魔撃と呼んでいる攻撃方法の鍛錬をしているのだ。現状、シアは身体強化と魔撃の同時併用はできない。違うタイプの魔力運用の同時起動ができないのだ。だからまず、魔撃をものにするためにそちらに集中している。これから先、メルジーネの時のような魔力による攻撃しか効かない敵が出てくるかもしれないし、純粋に攻撃力を強化することもできるのでシアとしてはぜひとも物にしておきたい。

 何度目かの拳の打ちつけ合いの後、二人は同時に距離を取ると、神羅は小さく息を吐き、

 

 「だいぶ安定してきたな。今日はこの辺りにするか」

 「はい。ありがとうございました」

 

 シアは大きく息を吐くと宝物庫からタオルを取り出して汗を拭いていると、ハジメが神羅の元に歩いていく。

 

 「兄貴、こっちの準備はできた」

 「む、そうか。ならば……それそろ出発せねばならんな」

 

 ハジメ達がメルジーネ海底遺跡を攻略し、エリセンに帰還してから8日が経っていた。その間、ハジメ達はレミアとミュウの家に世話になりながら新たに手に入れた神代魔法の習熟と装備品の充実、己の鍛錬に時間をあてていた。エリセンは海鮮系料理が充実しており、波風も心地よく、中々に居心地がよかった。

 だが、こうして物が完成した以上、そろそろ出発をしなければならない。

 だが、それにはある問題がある。それはミュウの存在だ。

 当然だがミュウをこの先の旅に連れて行くことは出来ない。四歳の何の力もない女の子を東の果ての大迷宮に連れて行くなどもってのほかだ。

 まして、残り二つの大迷宮は更に厄介な場所にある。一つは魔人族の領土にあるシュネー雪原の氷結洞窟。そしてもう一つは、あの神山なのである。どちらも、大勢力の懐に入り込まねばならないのだ。そんな場所に、ミュウを連れて行くなど絶対に出来ない。

 なので、この町でお別れをしなければならないのだが、何となくそれを察しているのか、ハジメ達がその話を出そうとすると、ミュウは決まって超甘えん坊モードになり、ハジメ達に「必殺! 幼女、無言の懇願!」を発動するので中々言い出せずにいた。その様子を神羅は呆れたように眺めていたが。

 結局、ズルズルと神代魔法の鍛錬やら新装備の充実化やら、言い訳をしつつ8日も滞在してしまった。

 

 「どうしたもんか……」

 「……兄として言っておくが、甘えているのはミュウではなくお前だぞ、ハジメ」

 

 神羅の言葉にハジメは小さくうめき声を上げる。

 

 「俺から見て、あの子はそう柔ではない。我らをこれ以上引き留めてはならないと理解している。ちゃんと言えば泣きはするが、納得する。ちゃんと見送れる強さを持っている。それにだ。これが今生の別れではないのだ。またいつか、会いに来ればいいだろう」

 「………そうだな。これ以上妹に甘えてちゃ、兄貴失格だな」

 

 そう言うとハジメはふう、と小さく息を吐きながら天を仰ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の晩、夕食前にハジメ達はミュウにお別れを告げた。それを聞いたミュウは、着ているワンピースの裾を両手でギュッと握り締め、懸命に泣くのを堪えていた。しばらく沈黙が続く中、それを破ったのはミュウだった。

 

 「……もう、会えないの?」

 「……」

 「我はこっちに残るから会おうと思えば会えるが、ハジメ達は………何とも言えんな」

 

 ハジメの目的は故郷たる日本に帰ること。しかし、その具体的な方法はまだ分かっておらず、どのような形でどのタイミングで帰ることになるのか分からない。流石に神代魔法を手に入れてすぐに、という訳はなく、最後に会いに来ることぐらいはできるだろうが、これが今生の別れになる可能性もゼロではない。

 

 「お兄ちゃんたちは……ずっとミュウのお兄ちゃんでいてくれるの?」

 「ああ。兄ちゃんはいつだって、ミュウの兄ちゃんだ」

 

 神羅もその通りと言うように頷く。すると、ミュウは涙をこらえて食いしばっていた口元を緩めて笑う。まるでハジメ達を安心させるように。

 

 「なら、いってらっしゃいするの。それで………今度はミュウがお兄ちゃんたちに会いに行くの」

 「会いに……ミュウ。俺は、凄く遠いところに行くつもりなんだ。だから……」

 「でも、お兄ちゃんたちが行けるなら、ミュウも行けるの。だって……ミュウはお兄ちゃんの妹だから」

 

 現実的に考えてまず不可能な、だが、何よりも尊いその宣言に神羅は小さく笑みを浮かべる。そしてハジメもまた、何かを決意したように頷くとミュウを真っ直ぐに見つめ、

 

 「ミュウ、待っていてくれ」

 「お兄ちゃん?

 「全部終わらせたら。必ず、ミュウのところに戻ってくる。みんな連れて、ミュウに会いに来る」

 「……ホント?」

 「ああ、本当だ。前に言ったろ。兄ちゃんは嘘をつかないって」

 

 ハジメの言葉に、ミュウは小さく頷く。ハジメは、そんなミュウの髪を優しく撫でる。

 

 「戻ってきたら今度は、ミュウも連れて行ってやる。それで、俺の故郷、生まれたところを見せてやるよ。きっと、びっくりするぞ。」

 「!お兄ちゃんたちの生まれたところ?みたいの!」

 「楽しみか?」

 「すっごく!」

 

 ピョンピョンと飛び跳ねながら喜びを表現するミュウ。そんなミュウに、ハジメは優しげに目を細める。

 

 「そう言う話ならばちょうどいい。ミュウ、一つ頼まれてはくれないか?」

 

 不意に呟いた神羅にハジメ達が顔を向けると、彼は宝物庫から音楽再生機を取り出し、

 

 「これを暫く預かってほしい?自由に歌を聞いていいと言いたいが、使うこと自体ができぬ故、そう言うわけにはいかんがな」

 

 その行動にハジメ達は驚いたように目を見開き、ミュウもまたきょとん、と目を丸くする。

 

 「これから先、苛烈な戦いが待っている。その中で壊れてはたまらん。だから、これは信頼できる者に預けたい。必ず取りに戻る故、ちゃんと持っててくれ」

 

 その言葉に、ミュウは一転、真剣な表情を浮かべると神羅の手から音楽再生機を受け取り、大事そうに抱きしめ、

 

 「任せてなの、神羅お兄ちゃん。絶対、絶対壊したりしないの」

 「ああ、任せた」

 

 神羅は笑みを浮かべながら小さく頷く。

 その光景をハジメが少し羨ましそうに見ていると、ユエが近づいてきて、

 

 「……連れて行くの?」

 「反対か?」

 「……別に。反対する理由はない。でも、いいの?場合によっては、ミュウに有無を言わさずに故郷を捨てさせることになる」

 

 そう言うユエは真っ直ぐにハジメを見つめている。優しくはある、だが、安易な言葉は許さないという厳しさもその目には宿っている。

 

 「どうとでもする。何があってもミュウの所には戻ってくるし、日本も見せてやるし、必ずエリセンに帰してやる。日本に戻っちまったら、何が何でもまたここに戻ってくる。兄貴を連れ戻す必要もあるしな」

 「……ならいい」

 

 ハジメの覚悟を感じ取り、ユエは小さく笑みを浮かべながら頷き、さりげなくハジメとの距離を詰める。ハジメもそれに気づき、そっとユエの頭を撫でる。

 それに気づいたシアが私も私も!と騒ぎ出し、ティオと香織は呆れた表情を浮かべ、神羅はミュウを肩車して笑っていた。

 その翌日、神羅達はミュウとレミアに見送られ、エリセンを旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリューエン大砂漠に突入して一日半。ハジメ達はブリーゼに乗ってアンカジ公国を目指していた。出立前にできる限り治療を施し、オアシスの浄化も済み、大丈夫ではあるが、念のため様子を見ることにしたのだ。

 神代魔法、再生魔法は文字通りあらゆるものを元に戻す効果がある。まだ倒れている者を治す事もできるだろう。

 そして、現在、アンカジの入場門が見え始めたところなのだが、何やら前回来た時と違って随分と行列が出来ていた。大きな荷馬車が数多く並んでおり、雰囲気からして、どうも商人の行列のようだ。

 

 「随分と大規模な隊商だな……」

 「……ん、時間かかりそう」

 「多分、物資を運び込んでいるんじゃないかな?」

 

 香織の推測通り、長蛇の列を作っているのは、アンカジ公国がハイリヒ王国に救援依頼をし、要請に応えてやって来た救援物資運搬部隊に便乗した商人達である。

 しばらく待つしかないか、とハジメ達が腕を組んだ瞬間、ぴー、と上空から鳴き声が聞こえてくる。

 ハジメ達が顔を上げれば、真っ青な空に小さな影がぽつんと浮いている。その影は一回旋回した後、そのままハジメ達目掛けて接近し、それと同時にその輪郭もはっきりしてくる。

 

 「あれって………」

 

 それは鳥だ。一羽の鳥が真っ直ぐにこちらに向かってきている。神羅が目を細めて腕を差し出せば、鳥はそのまま神羅の腕に留まり、ぴっ、と鳴く。

 

 「神羅さん、その鳥ってもしかして………」

 「ふむ………優花に預けた鳥じゃな」

 

 それは紛れもなく、ウルの町で神羅が優花に伝書鳩として預けた鳥だ。よく見れば鳥の脚には手紙がくくり付けられている。

 神羅は手紙を受け取ると中に目を通していき、

 

 「…………ほう、ようやく動き出したか。むしろ遅いまであるが………」

 「兄貴………園部は何って?」

 

 ハジメ達が緊張した様子で問いかけてくる。なにせ、この鳥は優花たちの方で無視できない問題が起こった時に使用される連絡手段だ。それが来たという事は………

 

 「まず、我らが異端認定されたらしい。まあ、そこは予想通りなのだが、気になるのは………畑山教諭が居なくなったという所だな」




 最近、ツイッターでゴジラのカウントダウンのような物が行われていますよね………
 
 ついに山崎ゴジラの情報開示が来るのでしょうか……?

 もう公開まで半年切ってるから早く情報をプリーズ。
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