「畑山先生がいなくなったって………どう言う事だ?」
神羅の言葉にハジメが訝しげな声を上げると、神羅はハジメ達を制するように片手を上げる。
「待て、まずは一から説明していったほうがいい」
そう言うと神羅は手紙の内容を語っていく。
まず、最初に書かれていたのは優花たち愛ちゃん親衛隊の現状だった。彼らは全員欠けることなく各地の農地改善の依頼を達成し、無事王城に帰還した。また、自分たちは全員、愛子からこの世界の真実、狂った神の話を聞いているらしい。
そして神羅が魔力を破壊した清水だが、神の真実もあってか彼は完全に心が折れてしまい、ひたすらに夢だ夢だと呟きながら部屋に引きこもるようになったようで、最初は食事もほとんど手を付けられない状態だったようだ。だが、最近は優花が力尽くで世話を焼いてきた結果か少し持ち直してきたようだ。食事もきちんと完食できるようになったらしい。まあ、光輝が清水の状態を聞いて神羅への怒りをあらわにしていたが気にしなくていいとも書かれている。
そして次に書かれていたのが檜山の処罰だ。優花たちよりも早く王城に戻った勇者パーティだが、メルドは約束通り檜山のあの同士討ちの件を上層部に掛け合ったらしい。だが、すでに勇者が許してしまった事と、王国や教会が今更だろうと勇者の仲間に仲間殺しがいるという噂が流れる事を嫌い、結局有耶無耶に終わってしまったらしい。
とは言えだ。勇者の仲間に仲間殺しがいることは間違いなく、放置する事ができないのもまた事実。結果、檜山は謹慎処分となったらしい。
何とも消化不良な展開だ、とハジメと香織は小さく顔をしかめている。
そしてここからが手紙のメインだ。まず、神羅達が異端者認定を受けた事についてだが、あまりにも突然の事だったらしい。当時、神殿は各地で確認された神獣や悪魔と言った超巨大魔物の対処に追われていたようだ。この辺りは雫から聞いたらしい。だがある日を境にそれがぴたりとやみ、逆にそこからあれよあれよという間に神羅達の異端者認定が進んでいったようだ。
その頃に王城に戻り、話を聞いた愛子は雫に重要な話があると言っていたようだ。
だが、その話をする時間になっても愛子は現れなかった。代わりにやって来た教皇イシュタルによれば、神羅達の異端者認定について覆す事ができるかもしれないと、急遽本山に入ったのだという。審議や手続きですぐには戻れないが、二、三日もすれば顔を見せるだろうと説明を受けた。
だが、それを優花たちは怪しんだ。事前に愛子と接触していた雫から愛子から重要な話があると聞いていたのもあり、とりあえず愛子の所に行こうと本山入りを訴えたのだが、異端者認定の対象である人物と親交のある者をこのタイミングで入山させるわけにはいかないと断られた。
これを以て、何かあると判断した優花はこうして鳥を使って神羅達と連絡を取った。現在の近況、判明したこと、何でもいいから教えてほしいという言葉で締めくくられている。
「さて………どう思う?」
神羅が仲間たちを見渡しながら問うと、彼らは一斉に腕を組んで難しげにうなる。
「愛ちゃん先生は無事なの?」
香織の問いかけに神羅は小さく頭を振り、
「何とも言えん。だが、少なくとも殺すつもりならばもっと別のやり方があるはずだ。今や豊穣の女神の名声は確固たる物となっている。それを秘密裏に殺したとあっては反発もあろう……ま、あくまでも俺の希望だがな」
その言葉に香織は顔を青ざめさせ、ハジメ達もまた顔をしかめる。愛子の豊穣の女神の名声はエリセンでも耳にしていた。もしもその彼女が邪魔になり排除しようとしたのなら、確かにもっと他にやり方があるはずだ。そう考えれば愛子は攫われた可能性があるが、あくまでもそれはこちらの希望だ。もしかしたら……
「俺としては早急に園部達と合流し、状況を確認して動きたい。ようやく奴らが見せた尻尾だ。このまま逃がしたくない。どうする?」
そう神羅が問うと、ハジメ達は一瞬顔を見合わせた後、
「やるよ。奴らが動いたって事は俺達は目的に近づいてるって事だ。遅かれ早かれ奴らは俺達の邪魔をするだろう。だったら、今ここで叩き潰す」
そう言ってハジメは好戦的な笑みを浮かべる。
「……いい加減後手に回るのもうんざり。ここからは私たちが攻める」
ユエはむん、と気合を入れるように鼻息を荒くする。
「やってやりますよ神羅さん!どんな奴が来ても私がぶっ飛ばしてやります!」
気合を入れるようにシアは右拳を左の掌に打ち付ける。
「ようやく……ようやく、皆の仇とでも言える者が現れた。このまま逃げることなどできんよ」
ティオがその目に昏い、だが確固たる光を宿しながら頷く。
「行かせて、神羅君。王城で何か起きているのなら雫ちゃんたちも危険に巻き込まれてるかもしれない。助けに行きたい」
香織もまた杖を握りしめながら迷いのない目をしている。
それを見て、神羅は重々しく頷く。
「よし、ならば行くとしよう。一先ず、アンカジ公国はスルーして……」
「それなんですけど、神羅さん。私がこっそり忍び込んで領主さんに事情の説明、そして何か必要な物がないか聞いてきましょうか?で、それをやったらさっさと出発で」
シアの申し出に神羅はふむ、と顎に手をやり、
「できるのか?」
「こう見えても……は変な言い方ですね。私は兎人族ですよ?気配遮断の訓練だって重ねてます。あの人込みなら忍び込むことぐらいできますよ」
「……いや、入国に関しては堂々と行ったほうが問題もないだろう。だが、結局はスピード勝負だ。ここは列を無視したほうがよさそうだ」
神羅の方針にシアは特に文句はないようだ。あくまでも選択肢の一つとして掲示したのだろう。
「とりあえず園部には返信をしたためる。すこし………ああ、そうだ。他にも気になる事が書いてあったな」
「気になる事じゃと?」
「ああ。何でも王城内で親しくなった騎士やメイドが姿を消しているらしい。それも中々の数のようだ。更に言えば王女リリアーナも姿を見ないと書いてあったな」
「リリィが!?」
香織が驚愕したように目を見開き、ハジメ達は益々顔をしかめる。これは思った以上にきな臭くなっているようだ。
「戻ってから一日だ。園部はさほど気にしていないようだが、念の為であろうな」
「………メルドは?」
「こちらも確認はできていないようだ………」
神羅が首を横に振ると、ユエがふむ、と顎に手を当て、
「……ちょっと楽観が過ぎる。そんなに大勢の人が城からいなくなるなんておかしい。例え用事が重なったとしても不自然すぎる」
「ふむ、となると……」
神羅とユエが盛んに意見を交わすのを眺めながらハジメはふむ、と顎に手をやり、
「それじゃあ、俺は練成師の本分を果たしますか……」
そう言ってハジメは宝物庫を弄る。
その日のうちに彼らは動いた。諸々の準備を終えて鳥を飛び立たせた後、ハジメ達はアンカジ公国に入国。領主ランズィから前回浄化しきれなかったオアシスの土壌、そして毒素に汚染された作物の浄化を頼まれ、素早くそれを済ませた後はハジメ達は歓待したいというランズィに事情を説明して素早くアンカジ公国を後にし、王都に向かって進路を取った。
標高8千メートル。神山の山頂にそびえたつ鋼鉄の塔。その最上階の牢獄に一人の女性が捕らえられていた。畑山愛子だ。
愛子は指先から滴る血で床に魔法陣を描き、何度も呪文を唱えるが、魔法は発動しない。手首の枷が魔力の流れを妨げているからだ。
「無駄だと分かってもやらずにはいられない……人間と言うのは何とも不可解ですね」
突然かけられた言葉に愛子はびくりと肩を震わせ、視線を向ければそこにはいつのまにかフードを目深にかぶった修道女が立っていた。
愛子がこの修道女に攫われたのは数日前の事。王城で生徒たちに神の真実を話そうとした時に突然彼女は現れ、愛子はなす術もなく攫われ、ここに幽閉されたのだ。
無感動な視線に愛子は怯えるように体を震わせるが、気丈に言葉を投げかける。
「こ、ここから出してください。私を閉じ込めて、生徒たちに、何をする気ですか!」
「貴方は餌です」
その言葉に愛子はえ、と小さく声を漏らす。
「貴方は餌です。すでに撒き餌も幾らか蒔いています。時期に食いつくでしょう」
「な、何を言って………」
「全ては主の御心のままに」
そう言うと、修道女は踵を返して扉から出ていく。
「待って、待ってください!せめて生徒の様子をっ」
縋りつくように問いかける愛子だったが、無情にも扉は閉められてしまう。
膝立ちのまま愛子は己の無力に唇を噛み締める。
外に出た修道女は空の月を見上げ、
「それでは………主の為にも、仕込みの仕上げを済ませてしましょうか」
頭上から太陽の光が差し込む洞窟の中にそれはあった。
それは一言で言えば、蛹だろうか。見上げるほどに巨大な蛹が微かに光を発しながらそこに鎮座していた。
蛹は微かに身じろぎをしながら光を放つ。それがどれほどで羽化するのかは分からないが、そう遠い事ではないことは確かだろう。
本当なら今すぐに羽化し、王の元へと飛んでいきたい。だが、ダメだ。今も彼はどこかで頑張っている。ならば自分も万全を期するべきだ。だからまだ羽化はしない。その時、彼を助けられるように。
そのために、彼女は静かに座して待つ。己が万全となるその時を。
ゴジラ2023の事は活動報告に書いてあるのでそちらで思いっきりぶちまけましょう。