ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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 すいません、よくよく考えたらハジメがおんぶは少しらしくないと思い書き直しました。

 冷静になったらなんであれで行こうと思ったんだろう、俺。ってなった………


第82話 意外な再会

 最初に、その騒動に気がついたのはシアだった。

 

 「あれ? ハジメさん、あれって……何か襲われてません?」

 

 その言葉にハジメ達が前方を注視すると、シアの言う通り、どうやら何処かの隊商が襲われているようで、相対する二組の集団が激しい攻防を繰り返していた。近づくにつれ、シアのウサミミには人々の怒号と悲鳴が聞こえ、ハジメの〝遠見〟にもはっきりと事態の詳細が見て取れた。

 

 「相手は賊みたいだな。……小汚ない格好した男が約四十人……対して隊商の護衛は十五人ってところか。あの戦力差で拮抗しているのがすげぇな」

 「……ん、あの結界は中々」

 「ふむ、さながら城壁の役割じゃな。あれを崩さんと本丸の隊商に接近できん。結界越しに魔法を撃たれては、賊もたまらんじゃろう」

 「それにあの結界の中のあの隻腕のフードの男。あいつも中々やるようだ。戦ってはいないがあいつが指揮官として指揮を執っているのだろう。護衛の動きも良い」

 「でも、一向に引く気配がありませんよ?」

 「そりゃあ、あんな隊商全体を覆うような結界、異世界組でもなけりゃあ、そう長くは持たないだろう。多少時間は掛かるが、待っていれば勝手に解ける」

 

 最初に奇襲でもされたのだろう。重傷を負って蹲る者が数人、既に賊に殺られたようで血の海に沈んでいる者も数人いる。ハジメ達のいう強固な結界により何とか持ち堪えているようだが、ただでさえ人数差があるのにこのままではじり貧となる。

 そしてハジメの推測通り、ハジメ達の会話が途切れた直後、結界は効力を失い溶けるように虚空へと消えていった。待ってましたと言わんばかりに、雄叫びを上げた賊達が隊商へとなだれ込んだ。賊達の頭の中は既に戦利品で一杯なのか一様に下卑た笑みを浮かべている。護衛隊が必死に応戦するが、多勢に無勢だ。一人また一人と傷つき倒れていく。

 

 「ハジメ君、お願い。彼らを……」

 「言われるまでもないって!」

 

 そう言ってハジメはブリーゼを加速させると同時に神羅とシアがブリーゼの外に出て、屋根の上に飛び乗る。

 見る見るうちに賊とブリーゼの距離が縮まっていくと、ブリーゼに気づいた賊たちが狼狽えるようにどよめく。

 その瞬間、神羅とシアは同時にブリーゼの背を蹴って宙に身を躍らせると、そのまま賊たちの中心に着地、ついでに数人を踏み潰す。

 賊が動揺したように動きを止める間に2人は立ち上がり、

 

 「俺達で半分はやるぞ」

 「了解です」

 

 瞬間、二人はバラバラに飛び出し、賊に躍りかかる。

 

 「このくそ野郎共がぁ!死ねぇ!」

 

 その頃になって正気に戻った賊たちが怒声を上げながら二人に襲い掛かる。

 だが、神羅への攻撃は悉く弾かれ、逆に拳や蹴りの一撃で身体は爆散し、その光景に彼らは悲鳴を上げ、中には腰を抜かす者もいる。

 対しシアは両手両足に魔力を纏うと、振り下ろされる剣を回避して的確に急所に一撃必殺の一撃を撃ち込んで賊を倒していく。

 それは神羅のような桁外れな腕力と耐久に任せた戦い方ではなく、確かな研鑽を感じさせる格闘家の戦い方だ。

 更にそこにハジメ達からの援護射撃が届き、賊の数は見る見るうちに減っていく。

 残りの10人ほどになってようやく逃げに入る賊たちだったが、逃がす筈もなくハジメの射撃によって後頭部をあっさりと撃ち抜かれる。

 香織は、回天を連続使用して、一気に傷ついた冒険者達や隊商の人々を治癒していく。しかし残念ながら、ハジメ達が来る前に倒れていた護衛の冒険者達は、既に事切れていたらしく、いくら再生魔法であっても死者の蘇生までは出来ないので彼等は助ける事が出来なかった。

 そんな彼等を見て歯噛みする香織に、突如、人影が猛然と駆け寄った。小柄で目深にフードを被っており、一見すると物凄く怪しい。だが、実は先程の結界を張って必死に隊商を守っていたのがその人物であると、魔力の流れと色で既に確認していたので、ハジメ達は特に止める事もなく素通りさせた。

 

 「香織!」

 

 フードの人物は、そのままの勢いで香織に飛び付き、ギュッと抱き着く。香織もまたその声で推測が確信に変わり、驚いたように口を開く。

 

 「リリィ! やっぱり、リリィなのね? あの結界、見覚えが有ると思ったの。まさか、こんなところにいるとは思わなかったから、半信半疑だったのだけど……」

 

 香織がリリィと呼んだフードの相手、それは、ハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒその人だった。

 リリアーナは、心底ホッとした様子で、ずれたフードの奥から煌く金髪碧眼とその美貌を覗かせた。そして、感じ入るように細めた目で香織を見つめながら呟く。

 

 「私も、こんなところで香織に会えるとは思いませんでした。……僥倖です。私の運もまだまだ尽きてはいないようですね」

 「リリィ? それはどういう……」

 「香織、治療は済んだか?」

 

 そこに神羅が近づき、そう声をかける。その声にリリアーナはフード越しに神羅を見上げ、すぐに何かに気づいたようにあっ、と声を漏らし、神羅に挨拶をする。

 

 「……南雲さん……ですね? お久しぶりです。雫達から貴方や弟さんの生存は聞いていました。お二人の生き抜く強さに心から敬意を。本当によかった。……貴方がいない間の香織は見ていられませんでしたよ?」

 「もうっ、リリィ! 今は、そんな事いいでしょ!」

 「ふふ、香織の一大告白の話も雫から聞いていますよ? あとで詳しく聞かせて下さいね?」

 「……以外に余裕そうだな、王女よ」

 

 その様子に神羅はやれやれと言わんばかりにため息を吐く。

 

 「それで、ハジメさんは?」

 「ふむ、ブリーゼの近くにいるはずだが……」

 「俺がなんだって?」

 

 そこにハジメが近づいてきて、リリアーナを見やる。

 

 「本当にリリアーナ姫だよ。どうしたってこんな所に?園部から姿が見えないって連絡はあったが……」

 「優花が?それは………いえ、今はそれはいいでしょう。どうやら優花にも心配をかけてしまったようですね」

 「しかし、一体どう言う事だ?なぜ王女がこんな所で供も連れずにいる?」

 

 神羅がポリポリと首を掻きながら呟いていると、

 

 「いいや、供なら俺がいる。と言っても、ほとんど役に立たないだろうがな」

 

 そう言いながら近づいてきたのは隻腕の男だ。だが、その声を聴いた瞬間、ハジメ、香織は驚愕したように目を丸くし、神羅は小さく唸り声をあげる。

 男がフードを外して露になったのは……

 

 「メルドさん!?」

 「おいおい……こいつは本当にどう言う事だ?」

 

 ハイリヒ王国騎士団団長、メルド・ロギンスだった。

 

 「南雲ハジメ、南雲神羅。それに白崎も。こんな形で再会することになるとはな……」

 「いや、それはいいけど、本当にどういう………」

 

 困惑を強くしているハジメたちの元に、ユエ達と、見覚えのある人物が寄ってくる。

 

 「お久しぶりですな、息災……どころか随分とご活躍のようで」

 「栄養ドリンクの人……」

 「は? 何です? 栄養ドリンク? 確かに、我が商会でも扱っていますが……代名詞になるほど有名では……」

 「あ~、いや、何でもない。確か、モットーで良かったよな?」

 「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。貴方方とは何かと縁がある」

 

 握手を求めながらにこやかに笑う男は、かつて、ブルックの町からフューレンまでの護衛を務めた隊商のリーダー、ユンケル商会のモットー・ユンケルだった。

 彼の話を聞くと、彼等は、ホルアド経由でアンカジ公国に向かうつもりだったようだ。アンカジの窮状は既に商人間にも知れ渡っており、今が稼ぎ時だと、こぞって商人が集まっているらしい。モットーも既に一度商売を終えており、王都で仕入れをして今回が二度目らしい。ホクホク顔を見れば、かなりの儲けを出せたようだ。

 

 「さて、それでだ……なぜ王女と騎士団長が商隊と一緒にいる?それにメルドの腕はどうした?」

 

 神羅が説明を求めるようにリリアーナとメルドに視線を向けると、二人は沈痛な表情を浮かべるが、口を開かず、ちらりとモットーたちに視線を向ける。

 

 「彼女たちは私の隊商に同行してホルアドに向かおうとしていたのですよ」

 

 すると、リリアーナたちの代わりにモットーが口を開く。

 彼の話を要約すると、モットーたちがアンカジに向かおうとした時、その隊商にホルアドまで同乗させてほしいと頼んできたのだという。

 

 「さて……それでは、我々はそろそろ出発させてもらいます。お二方はどうしますか?このままホルアドに?」

 「あ、いえ……ここまでで結構です。もちろん、ホルアドまでの料金は支払わせていただきます」

 「そうですか……いえ、お役に立てたなら何より。お金は結構ですよ」

 「えっ? いえ、そういうわけには……」

 

 リリアーナが困惑しているとメルドはリリアーナの肩に手を置く。

 

 「姫……彼は我々の正体に最初から気付いておられました」

 「え?それじゃあ………」

 

 リリアーナがモットーに視線を向ければ、彼は困ったような笑みを向け、

 

 「どのような事情かは存じませんが、貴女様ともあろうお方が、忍ばなければならない程の重大事なのでしょう。更には騎士団長殿までも負傷なさって身を隠している……そんな危急の時に、役の一つにも立てないなら、今後は商人どころか、胸を張ってこの国の人間を名乗れますまい」

 「ならば尚更、感謝の印にお受け取り下さい。貴方方のおかげで、私達は、王都を出ることが出来たのです」

 「ふむ……突然ですが、商人にとって、もっとも仕入れ難く、同時に喉から手が出るほど欲しいものが何かご存知ですか?」

 「え? ……いいえ、わかりません」

 「それはですな、信頼です」

 「信頼?」

 「ええ、商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりません。逆にそれさえあれば、大抵の状況は何とかなるものです。さてさて、果たして貴女様にとって、我がユンケル商会は信頼に値するものでしたかな? もしそうだというのなら、既に、これ以上ない報酬を受け取っていることになりますが……」

 

 リリアーナは上手い言い方だと内心で苦笑いした。これでは無理に金銭を渡せば、貴方を信頼していないというのと同義だ。お礼をしたい気持ちと反してしまう。リリアーナは、諦めたように、その場でフードを取り、その隣でメルドもまたフードを取り、真っ直ぐモットーに向き合った。

 

 「貴方方は真に信頼に値する商会です。ハイリヒ王国王女リリアーナは、貴方方の厚意と献身を決して忘れません。ありがとう……」

 「俺からも感謝を。貴方達のおかげで姫様の恩身を守る事ができた」

 「勿体無いお言葉です」

 

 モットーは、部下共々、その場に傅き深々と頭を垂れる。

 その後、リリアーナとハジメ達をその場に残し、去り際に異端者認定の件を匂わせながら王都の雰囲気が悪いと忠告をしながらモットー達は予定通りホルアドへと続く街道を進んでいった。

 

 「さて……それで、改めて聞くが、何があったのだ?」

 

 すると、リリアーナは焦燥感と緊張感が入り混じった表情を浮かべ、メルドもまた硬い表情を浮かべる。それでも誰も焦らせるような事はせず、静かに待っていると、遂にリリアーナが口を開く。

 

 「愛子さんが……攫われました」

 

 そこからメルドとリリアーナは何が起こったのか話始める。

 最近、王宮内の空気が何処かおかしく、リリアーナはずっと違和感を覚えていたらしい。

 父親であるエリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたようにエヒト様を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。

 それだけなら、各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、リリアーナは、半ば自分に言い聞かせていたのだが……

 違和感はそれだけにとどまらなかった。妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。

 その事はメルドも把握しており、副団長のホセと共に内密に調査していたらしい。だが、そのせいでリリアーナとのすれ違いが起きてしまったようだ。

 そうこうしている内に、愛子が王都に帰還し、ウルの町での詳細が報告された。その席にはリリアーナも同席したらしい。そして、普段からは考えられない強行採決でハジメと神羅の異端者認定が通った。ウルの町や勇者一行を救った功績も、豊穣の女神として大変な知名度と人気を誇る愛子の異議・意見も全てを無視して決定されてしまった。

 有り得ない決議に、当然、リリアーナは父であるエリヒドに猛抗議をしたが、何を言ってもハジメ達を神敵とする考えを変える気はないようだった。まるで、強迫観念に囚われているかのように頑なだった。むしろ、抗議するリリアーナに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始める始末。

 恐ろしくなったリリアーナは、咄嗟に理解した振りをして逃げ出し、愛子に相談したところ、彼女から、ハジメ達が奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ。

 そして約束の時間となり、リリアーナは愛子達が食事をとる部屋に向かうその途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、愛子が銀髪と金髪の修道女に気絶させられ担がれているところだった。

 リリアーナは、その女に底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にすぐ近くの客室に入り込み、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。

 女が探しに来たが、結局、リリアーナを見つけることなく去っていった。リリアーナは、あの女が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった。

 ただ、愛子を待ち伏せていた事からすれば、生徒達は見張られていると考えるのが妥当であるし、頼りのメルドは行方知れずだ。悩んだ末、リリアーナは、今、唯一王都にいない頼りになる友人、香織と、その傍にいるであろう南雲ハジメと南雲神羅。この三人しか頼れないと、リリアーナは隠し通路から王都に出て、一路、アンカジ公国を目指したのである。

 アンカジであれば、王都の異変が届かないゼンゲン公の助力を得られるかもしれないし、タイミング的に、ハジメ達と会うことが出来る可能性が高いと踏んだからだ。

 

 「そしてユンケル商会の隊商に便乗させてもらおうとしたところで、私は腕を失ったメルド団長と出会ったのです。

 「ここからは俺に何があったのか説明しよう」

 

 リリアーナの時も言ったが、メルドは王城内部覇気のない者ー騎士団関係者は虚ろと呼んでいるーの調査をしていたのだ。

 だが、愛子が帰還する数日前、メルドは腹心であるホセ副団長の襲撃を受けた。そのホセにも虚ろの症状が出ており、更には同じ虚ろの兵士にも襲われ、メルドは命からがらその襲撃を凌ぎ切ったのだが、そこで彼は相対したのだ。空にたたずむ銀色の翼を携えた銀と金の髪をした女を。

 その女と相対してメルドは即座に悟った。相手は自分など足元にも及ばない絶対的強者であると。助かる術など、これっぽっちも存在していないと。

 だが、メルドは諦めなかった。それは神羅とハジメの影響か、それとも、オルクスで怪獣と相対した経験か。

 その女の攻撃をメルドは必死に回避した。結果、メルドは右腕を引き換えにどうにか攻撃を回避し、そのまま逃げおおせることができた。

 その後は王都のスラムに身を潜め、どうにかこの事態を解決しようと考え、結果神羅とハジメを頼る道を選んだようだ。そのためにアンカジ公国に向かおうとしたところで、リリアーナとばったり合流したらしい。

 

 「少し前までなら〝神のご加護だ〟と思うところです。……しかし……私は……今は……教会が怖い……一体、何が起きているのでしょう。……あの修道女は……お父様達は……」

 

 自分の体を抱きしめて恐怖に震えるリリアーナを香織はギュッと抱きしめた。その様子を見て、メルドは数舜迷いを見せた後、覚悟したように小さく頷き、

 

 「ハジメ、神羅。俺が出会った修道女と愛子を攫った修道女は恐らくだが同一人物だ。そして………あれほどの実力を持った輩が俺をみすみす取り逃がすとは到底思えん」

 「メルド?それはどういう……「なるほど。奴はメルドに逃げられたんじゃなくて、メルドを逃がしたって事か……」そ、それは……」

 「そうなると……存外リリアーナ姫も、気づいた上で逃がしたと考えられるな。目的は…………俺たちをおびき寄せる事か?」

 

 神羅の言葉にリリアーナは愕然とした表情を浮かべる。一縷の望みをかけて動いたというのに、それすらも敵の掌の上の行動だったなんて……

 メルドもまた沈痛な表情を浮かべるが次の瞬間、その場に尋常ではない圧が降りかかり、その場の全員の身体が凍り付く。

 そのもとは神羅だ。神羅は低いうなり声を上げながら口元を静かに釣り上げる。ハジメ達でさえ見たことがない、好戦的で、嗜虐的な笑みが浮かび、両目に獰猛な光が宿り、その身の圧がドンドン高まっていく。

 

 「そうか……なら好都合だ。誘いに乗ってやろうじゃねぇか」

 

 普段の神羅から考えられない言葉にハジメ達は目を見開く。

 

 「ちょ、待てよ兄貴。間違いなく、そいつの狙いは俺達だ。だったら絶対何かしかけて……」

 「いいじゃないか。折角おもてなしの準備をしてくれたんだ。残さず平らげなければ失礼に当たるという物だ」

 

 ハジメの制止も聞かず神羅は荒々しく鼻を鳴らす。明らかに今までの神羅と違い、恐ろしく好戦的になっている。人質となっているであろう愛子の事すら頭から抜け落ちているかもしれない。

 

 「ようやく……ようやく尻尾を見せたのだ。ここで逃がすつもりはない。このまま全て引きずり出して、殲滅するぞ………!」

 

 これまずいんじゃ、とユエ達が思った瞬間、香織は神羅の背中に回り込むと、そのままおんぶされるようにしがみつく。

 

 「落ち着いて神羅君!ちょっと短絡的になりすぎてる!らしくないって!」

 

 神羅は香織に気づき、小さく唸り声を漏らすが、少しするとその目に理性的な光が宿り、圧が弱まる。

 

 「その修道女はきっと、メルジーネでみた修道女何だと思う。戦ったら、神羅君ならなら勝てるだろうけど、大暴れしたら王都含めて全滅しちゃう。だから落ち着いて」

 「む………むぅ………そうだな、その通りだ。すまん。頭に血が上っていたようだ」

 

 小さく息を吐くと同時に圧が無くなり、ユエ達はほっ、と息を吐き、メルドは大きく息を吐き、リリアーナはその場に崩れ落ちてしまう。

 

 「……すまん、リリアーナ王女。その修道女は恐らく、俺と因縁がある可能性がある。それで少し、感情的になってしまった」

 

 香織を下ろした神羅は申し訳なさそうにリリアーナに手を差し出す。リリアーナは困惑したように神羅を見つめていたが、少しして躊躇いがちにその手を取り、立ち上がる。

 

 「さて……それで、どう動く?」

 「うん、そうだな………まあ、先生は助けるとして……でも園部達の方も気にかかるし……」

 「だったら………」

 

 彼らは顔を突き合わせ、盛んに意見を交わし合う。

 それを後目に神羅は視線を神山があるであろう方向に向け、小さく唸り声を発しながら睨みつけていた。

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