咆哮を上げた神羅は荒々しく鼻を鳴らしながらノイントを睨みつけると、いきなり口から熱線を放つ。
ノイントは即座に翼を羽ばたかせて急加速してその一撃を回避する。が、神羅は諦めずにノイント目掛けて熱線を放ち続ける。
ノイントは高速で飛行し熱線を回避し続け、狙いが外れた熱線は神山を吹き飛ばし、吹き上がる炎が山肌を舐める。
教会のあちこちから悲鳴や怒声が上がるが、神羅の耳には届いていない。苛立たしげにうなりながら熱線の放射をやめ、ノイントを睨むが、不意にちらりと視線をティオと愛子に向け、
「ティオ、畑山を連れてハジメ達と合流しろ。こいつは俺の獲物だ………!」
しゃがれた声でそう言うと、ティオは僅かに巨体を震わせながらも静かに頷く。
『あい分かった。神羅殿、ご武運を』
「あ、ティ、ティオさん、待って……くださ………」
弱々しくも愛子が何か言おうとするが、ティオはそれを無視してその場を離脱していく。
その間、神羅はノイントを睨み続ける。二人を逃がしたのは彼女たちが人質になってしまったら面倒だからだ。それを防ぐために神羅はノイントから視線を逸らさずにいたが、以外にもノイントはティオを追いかけるそぶりは見せず、また神羅を攻撃しようともせず、同じように神羅を見つめ続ける。
その様子にかすかに眉を寄せると、ノイントはふん、と鼻を鳴らし、
「人質なぞ無意味です。そんなものに僅かにでも意識を割いた瞬間に私は死ぬ。ならばない方がマシです」
存外頭が回るようだ、と神羅は唸り声を発し、再び熱線を放つ。ノイントは急上昇で熱線を回避し、更に連続で放たれる熱線を飛び回りながら回避し続ける。
そして熱線の切れ目に勢いよく翼を羽ばたかせると、無数の銀羽が空に散らばり、それは魔弾となり、神羅目掛けて降り注ぐ。
それに気づいた神羅は熱線を吐くのをやめると両腕を前にかざす。そして両手の間に黒球を生み出すと、それを弾幕目掛けて撃ち出す。そして魔弾と黒球が触れ合った瞬間、黒球が爆発的に広がり、夜空を銀色に染め上げるほどの密度の弾幕の全てが飲み込まれ、消滅する。
「ちっ、やっぱり魔法は性に合わんな」
ふん、と鼻を鳴らし、神羅は再びノイント目掛けて熱線を放つが、それも回避される。
苛立たし気に舌打ちをすると神羅は腰を落とし、足に力を込め、
ズガンッ!と言う轟音と共に足元の塔を粉砕しながら神羅は跳躍、一気にノイントとの距離を詰め、炎を纏った腕を叩きつけようとするが、ノイントは素早く距離を取って回避する。
靴に付与された空力で作られた足場に着地すると同時に神羅目掛けて雷光を纏った銀色の砲撃が放たれる。が、神羅はそれを熱線で一方的に吹き飛ばしてしまう。
「その雷撃……やはり奴の力か………!」
吐き捨てるように告げると、ノイントは小さく頷いて肯定する。
「その通りです。私は主から力を与えられた唯一の存在。他の使徒と同じだと思わない事ですね」
そう告げるとノイントは虚空に無数の魔法陣を生み出すと、そこからさまざまな属性の魔法を放つ。そのどれもが最上級魔法であり、まさに壁のように神羅に迫りくる。
が、神羅の両目と背びれが青白く輝いた瞬間、口から放たれた熱線が、魔法を次々と撃ち落としていく。瞬く間に魔法の壁は跡形もなく焼き尽くされ、ノイントは忌々し気にその様子を見ていた。
神羅は真っ向からその視線を睨み返すが、不意に視線をちらりとよそに向ける。それはティオが飛び去って行った方角だ。
「………それなりに離れたな。なら、もっと派手に暴れてもよさそうだ」
何を、とノイントが訝しげに眉を寄せた瞬間、神羅の両腕が青白い炎に包まれ、勢いよく振るわれる。すると、その軌跡に沿って炎がノイント目掛けて放たれる。
ノイントは即座にその炎撃を回避するが、神羅はその場で次々と腕を振るい、炎撃を乱射する。
先ほどから一転、今度はノイントに炎の嵐が牙を剥く。熱線に比べれば集中していないため威力は劣るがそれでも直撃すればタウル鉱石程度なら溶かすほどの炎。
ならば当たらなければいい、と言わんばかりにノイントは迫りくる嵐の僅かな隙間を見抜き、ためらないなくそこに飛び込む。全身を熱から守る風が、背中の魔力の翼が焼き壊され、熱波が全身をあぶり、焼け爛れる。だが、逆に言えばそれだけ。ノイントは嵐を突破し、神羅が追撃をかける前に彼目掛けて分解の砲撃を撃ち出す。
それは見事神羅の体を直撃し、銀色の閃光が彼を飲み込む。だが、神羅はブルりと体を震わせるだけ。その身体には傷なんてついていない。身体どころか身に着けた服すら碌に分解できていない。
「………効きませんか。今までは流れ弾が彼女たちに向かないように撃墜していたのですね」
翼を再度展開させ、火傷を癒して態勢を整えたノイントが眉を顰めていると、神羅は再び炎撃の嵐を繰り出す。
ノイントは即座に夜空に舞い上がると高速で飛びまわって回避しながら銀羽の雨を放つ。
だが、その悉くが炎撃によって撃墜され、運よく撃墜を回避し、神羅に直撃したとしても傷一つつけられない。
完全に状況は神羅の優勢に傾いているが、神羅は苛立たし気に鼻を鳴らす。
どうにも仕留めきれない。機動力では相手の方が勝っている。だから自分の攻撃を回避できるのは分かる。だが、どうにも攻め切れない。
だがそれ以上に、ほとんどダメージがないのにぺちぺちと体に当たる銀羽が鬱陶しくて仕方がない。
イラついた様に神羅の顔が歪み、唸り声が漏れた瞬間、突如神山全体に響くような歌が聞こえ始めた。
何だ?と神羅が歌声のする方へ視線を向ければ、そこには、イシュタル率いる聖教教会の司祭達が集まり、手を組んで祈りのポーズを取りながら歌を歌っている光景が目に入った。どこか荘厳さを感じさせる司祭百人からなる合唱は所謂聖歌というやつだろう。
一体なんだと神羅がイシュタルたちを睨みつけていると、光の粒子みたいなものが神羅にまとわりつき始める。低く唸りながら神羅は自分の体に視線を落とす。恐らくだが、何らかの魔法なのだろう。それも、自分を害する類と思われる。
実際、それは覇堕の聖歌という魔法であり、相対する敵を拘束しつつ衰弱させていくという凶悪な魔法で、司祭複数人による合唱という形で歌い続ける間だけ発動するという変則的な魔法だ。
だが、そんな凶悪な魔法も神羅には何の痛痒も与えはしなかった。動きを止めることも、衰弱させることも叶わず、ただ魔力を消費して歌っているだけと言う結果になってしまっている。
その聖歌を歌っているイシュタルを始めとした司祭たち一心不乱に歌いながらその目をノイントに向けている。だが、そこには狂信者特有の狂気の類は一切ない。あるのはただ一つ、自分たちを救って欲しいという懇願だ。
イシュタルたちの神への狂的な盲信も、先ほどの人知を超えた憤怒の前に吹き飛んでしまっていた。彼らはただただ生存本能に従い、自分達の脅威を排除してくれるかもしれない者を全力で支援している。
だが、ノイントはそれを無視して再び銀羽を飛ばす。だが、今度は神羅に殺到したりせず重なり合い、魔法陣を構成し、
「劫火浪」
天空を焦がす津波の如き大火を放つが、神羅はちらりと視線を向けると、熱線を放つ。熱線は大火を正面からぶち破り、それと同時に炎その物が青白い炎で焼き尽くされる。
熱線を回避したノイントを睨む神羅だが、不意に視線をイシュタルたちに向ける。
すると、彼らは恐怖を振り払うかのように更に声量を上げて歌い続ける。更に、教会のあちこちから新たな司祭たちが合流、合唱に加わり、覇堕の聖歌の効果を高めていく。
神羅にまとわりつく光の粒子の密度が上がるが、変わらず神羅には何の効果も及ぼさない。彼の魔懐が聖歌の効果を打ち消しているのだ。
それでも彼らは喉を潰さんばかりに歌い上げる。すでに教会の聖職者全員が集まっていると錯覚するほどの人数が集い、大合唱が響き渡る。
それを神羅は忌々しげに睨みつける。苛立たし気に奥歯を鳴らし、ゴキリと指が鳴り、両目が凶暴な光を宿す。
何の痛痒も与えられない魔法など、どれ程必死に歌おうと何の意味もない。だが、あまりにも、響き渡る歌が、纏わりつく光が、ノイントの銀羽による攻撃が、全てが、
鬱陶しい
少し前、ティオは愛子を気遣うように比較的ゆっくりと王都を目指して飛んでいた。
それなりに離れたはずなのに、未だ背後からは炎の炸裂音が響き、夜空が青白く染め上がる。
『先生殿よ。大丈夫か?大丈夫そうなら少し速度を上げるのじゃが……』
「え、ええ……大丈夫です。それでティオさん、これからどうするのですか?」
『王都に行ってハジメ殿たちと合流する。その後、先生殿は生徒たちと合流してほしい。妾は魔人族の相手をする』
「え、それって……神羅君はどうするんですか?」
『神羅殿なら一人でも問題ない。妾達がいては足手まといじゃ』
その言葉に愛子は小さく息を呑むが、少しすると決然とした表情を浮かべ、
「いえ、ティオさん。戻ってください。神羅君の援護を行いましょう」
『……何を言っているのじゃ。そんなものは無用と言ったはずじゃ』
「確かに神羅君は強いかもしれません。ですが、あの修道女は私を餌と言いました。それはつまり、彼女は最初から神羅君たちをおびき寄せるつもりだったのではありませんか?だったら、神羅君を倒すための何かを用意していると考えられるのでは?」
『いや、それはそうかもしれんが……だからと言って其方を連れて戻るなんて論外じゃ。先生殿に何ができる?魔法陣も戦闘経験もなかろう?』
愛子は、ティオの尤もな意見にぐっと歯を食いしばると、おもむろに自分の指を口に含んだ。そして、ギュッと目を瞑ると一気に指の腹を噛み切り、指先から滴る血を反対の手の甲に塗り付け即席の魔法陣を描き出す。
「私、こう見えて魔力だけなら勇者である天之河君並なんです。戦闘経験はないけれど……ティオさんの援護くらいはしてみせます! 人と戦うのは……正直怖いですが、やるしかないんです。これから先、皆で生き残って日本に帰るためには、誰よりも私が逃げちゃダメなんです!」
王国は侵攻を受け、国王も司祭達も狂信者と成り果てた。当初予定していた神を頼っての帰還はもう有り得ないだろう。この異世界で寄る辺なく愛子達は前に進まねばならないのだ。
ならば、先生である自分こそが、たとえ忌避するべきことでも、それがすべき事ならやらねばならない。
そんな決意を固める愛子を見て、ティオは小さく息を吐くと
『………先生殿。正直に言おう。妾はハジメ殿との合流を目指しているのではない。逃げておるのじゃよ』
「え?逃げるって………?」
『あの場において、もっとも危険な存在は神の使徒でも教会でも、まして神羅殿を想定した何かではない………神羅殿じゃ』
何を言って、と愛子が目を瞬かせた瞬間、後方から轟音が轟く。
何事かとティオと愛子が振り返ってみた光景は……どす黒い煙を吐き出しながら炎に呑み込まれ、崩壊していく聖教教会そのものだった。
「な、何が……!?」
『……神羅殿………また派手にやったのう………』
「派手にやったって………まさか……あれを神羅君が!?」
『そうじゃ。恐らく、教会の連中が何か神羅殿にちょっかいをかけたのじゃろう。それで邪魔になって吹き飛ばしたのじゃろうな。あの様子では、腐れ坊主たちは全滅じゃろうな』
「全滅って……そんな………」
愛子が青い顔をしていると、ティオは静かに愛子に視線を向け、
『何を言っておる。神羅殿がやったことは其方がやろうとしていた事ではないか』
「そ、それは……確かに、そうなんですが……でも、邪魔と言うだけでみんな吹き飛ばすなんて……」
『それが戦いという物じゃよ。己の意思一つで他の命を理不尽に奪う。どれほど高潔な志を持とうと、掲げようと、その本質は変わらん。』
そう告げるティオを後目に愛子は顔を真っ青にして震えている。神羅の所業はそれほどにショックだったらしい。
『とにかく、このまま王都にいき、ハジメ殿たちと合流する。それでよいな?』
ティオの言葉に愛子は答えられない。それを勝手に肯定と受け取ってティオは王都目指して加速する。
燃え上がる。聖教教会が。この世界で最も力を持っていた組織が、前身も含めれば、相応の時を積み重ね、紡がれてきた歴史が、なすすべなく全て灰に変わっていく。
神羅が放った特大の熱線は教会の結界を何の抵抗もなく打ち破り、教会を直撃した。
膨大な熱が一瞬でイシュタルたち聖職者たちをこの世から蒸発させ、教会の建物を吹き飛ばしても余りある莫大な熱エネルギーはそのまま神山の一角を崩壊させ、火山のように吹きあがる爆炎によって溶けた岩が溶岩となって流れ落ちていく。
それを見下ろしながら空力で空に立っていた神羅は天を仰ぎながら咆哮を上げる。
「………なるほど。凄まじいですね」
ノイントは静かに呟きながら火山と化した神山を見下ろす。
崩壊を起こす神山だが、その中に一点、不自然に崩壊を免れている場所がある。すでに崩落と溶岩に呑み込まれているが、あの破壊の影響を受けていないと言うのは明らかに異常だ。
「そこが迷宮ですか。対策は万全と言う事ですね」
恐らく、そこがかつて神に抗った解放者たちが作り上げ、今まで使徒たちが見つけられなかった大迷宮だろう。もっとも、これは自分だからこそ気付くことができた。他の使徒では荒れ狂う炎と魔力によって見つけることはできなかっただろう。
そこでノイントは、大迷宮への興味を
邪魔者を片付けた神羅は再びノイントに視線を向け、唸り声を発する。
厄介ですね、とため息を吐きながらノイントは翼を羽ばたかせる。
遅くなりましたが、ゴジラ、-1の予告を見た感想……マジ容赦ねぇ。あれ下手したらGMKゴジラよりエグくないか?
ネットじゃぁ感動路線に行くんじゃないかって心配の声が上がってますが、あれなら問題ないでしょう。むしろあそこから感動路線に行ったら逆にすごいわ。