ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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第85話 戦闘開始

 突然の結界の消失と早くも伝わった魔人族の襲撃に、王都は大混乱に陥っていた。

 人々は家から飛び出しては砕け散った大結界の残滓を呆然と眺め、そんな彼等に警邏隊の者達が「家から出るな!」と怒声を上げながら駆け回っている。決断の早い人間は、既に最小限の荷物だけ持って王都からの脱出を試みており、また王宮内に避難しようとかなりの数の住人達が門前に集まって中に入れろ! と叫んでいた。

 夜も遅い時間であることから、まだこの程度の騒ぎで済んでいるが、もうしばらくすれば暴徒と化す人々が出てもおかしくないだろう。王宮側もしばらくは都内の混乱には対処できないはずなので尚更だ。なにせ、今、一番混乱しているのは王宮なのだ。全くもって青天の霹靂とはこの事で、目が覚めたら喉元に剣を突きつけられたような状態だ。無理もないだろう。

 現在、魔人族の進行は最後の結界の前で止まっている。本来であれば、すでに結界を破っているはずだったのだが、進行の要である魔物の軍勢が突如として怯えたように動きを止めてしまっていた。それならばまだいい方で、恐慌状態に陥ったように激しく暴れる魔物もいる始末で、魔人族軍は混乱の只中にあった。

 そんな内外が混乱状態の王都の最後の壁である防壁の上からユエはシアと共に防壁の一角から外の魔人族の軍勢を眺めていた。

 

 「……分かった、気を付けて。ティオから連絡があった。やっぱりあっちに奴の力を宿した使徒が現れたって。神羅が相手をしていて、ティオは先生を連れて逃げてるところ」

 「そうですか……まぁ、あの状態の神羅さんに助太刀と言うのは中々に難しいですよね……」

 「うん。せめてあれ(・・)じゃないとね」

 

 先程の噴火の如き圧を思い出し、二人はブルりと体を震わせるが、すぐに鋭く息を吐いて意識を切り替える。

 

 「……それじゃあ、私達は結界が直って、神羅が戻ってくるまで魔人族の相手をする。理想としては神羅みたいに威嚇で撤退させることだけど……」

 「無理ですよねぇ、そんな事。魔物たちも持ち直してきたみたいですし」

 

 そう言うシアの眼前では先ほどまで委縮して動けなかった魔物たちが徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。混乱による暴走で多少は同士討ちが起こったようだが、誤差の範囲に収まっているのは生み出された魔物がそれだけ優秀と言う事か。

 

 「それじゃあ……シア、準備はいい?」

 「はい、いつでも行けます」

 「そう。それじゃあ………覚悟はいい?」

 

 そう言うと同時にじっとこちらを見つめるユエの視線に、

 

 「……はい、覚悟はできています。私は……守るために奪う側になります」

 

 そう言うシアの瞳は静かだ。まるで凪いだ湖面のように真っ直ぐに目の前の魔人族の軍勢で見つめている。

 その様子を見て、大丈夫そうだ、と判断したユエは頷くと結界の外に出て、地面に着地。シアもそれに続く。

 それと同時に落ち着いた魔物の一部がのこのこと結界の外に出てきた二人を見つけ、雄たけびを上げながら襲い掛かる。

 だが、シアは宝物庫からドリュッケンを取り出すと柄を思いっきり伸ばしながら振るい、ユエはフィンガースナップするだけで風の刃を一つ放ち、それぞれ襲い掛かってきた黒い鷲のような魔物を撃破する。

 黒鷲が絶命させられたことでユエとシアの存在に気がついた飛行型の魔物達が二人の周囲を旋回し始めた。よく見れば、その三分の一には魔人族が乗っているようだ。彼等は、黒鷲を落とされたことで警戒して上空を旋回しながら様子を見ていたようだが、その相手が兎人族と小柄な少女であるとわかると、馬鹿にするように鼻を鳴らしユエ達向かって、魔法の詠唱を始めた。

 

 「シア、地上をお願い。私は空をやる」

 「分かりました」

 

 そう言うと同時にシアは宝物庫を光らせて何かを取り出す。それは恐ろしく肉厚な片刃の刃だ。シアがドリュッケンの打撃面を刃の反対に備えられた接続面に叩きつけると、両者は強固に接続、固定され、ドリュッケンは戦槌から巨大な戦斧へと変わる。

 それと同時にユエは蒼龍を発動。同時に現れた6匹の蒼い炎の竜は咆哮を上げながら半分は上空の魔人族に牙を剥き、次々と食い散らかしていき、もう半分は地上の魔物たちを蹂躙する。

 その光景に、あり得べからざる事態に呆然とする魔人族達の隙をつき、シアは勢いよく地面を蹴る。

 地面が爆散すると同時に尋常ならざる加速を得たシアは眼前の魔物の群れの風穴に突っ込み、戦斧と化したドリュッケンを渾身の力で横薙ぎに振るう。

 肉厚の刃が触れると、魔物が一体切り裂かれ、だが次の瞬間にその肉体が砕け散る。

 そして振り切った時には何体もの魔物が切り砕き、遅れて発生した衝撃波が魔物を吹き飛ばす。

 そこでシアは止まらず魔物の群れに斬り込み、ドリュッケンを豪快に振り回し、次々と魔物を切り砕いていく。

 

 「それ以上させるかァァァァァァァァ!」

 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 ようやく復帰した魔人族たちがシア目掛けて上級魔法を放とうとするが、そうはさせないと蒼龍が牙を剥き、飲み込んでいく。

 頭上を一切に気にせずシアはドリュッケンのブースターを起動。加速を得た一撃は魔物を一瞬で砕き散らし、更にまき散らされる炎が隙を突こうと襲い掛かってきた魔物を焼き尽くす。

 と、4mを超える巨体のサイクロプスモドキが地響きを上げ、他の魔物を蹴散らしながらシアに向かい、巨大なメイスを振りかぶる。それに気づいたシアはドリュッケンを掬い上げるように振るう。すると、ブースターの勢いを受け、シアの身体が炎の軌跡と共に舞い上がり、振り上げられたドリュッケンが振り下ろされたメイスを一撃で粉砕する。

 それでもなお止まらず上昇したシアはサイクロプスモドキの頭上を取ると、態勢を切り替え、逆にサイクロプスモドキ目掛けて急降下、その勢いを乗せてドリュッケンを叩きつける。

 その一撃でサイクロプスモドキは頭から一刀両断され、そのままシアは渾身の力でドリュッケンを地面に叩きつける。

 瞬間、文字通り地面が割れ、絶大な衝撃波が刃のように放たれ、魔物をまとめて粉砕する。

 

 「小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!殺してやるぅぅぅぅ!」

 

 頭上の声に顔を上げれば、ユエが相手をしていた魔人族の最後の一人が死に物狂いで特攻している。蒼龍を引き戻す時間はない。だが、ユエは宝物庫から黒盾を取り出すと、弾丸のように射出する。ハジメの改造で黒盾は重力魔法による加速を得ている。結果、黒盾は凶悪な鈍器となって魔人族を直撃。頭部が砕け散り、絶命する。

 ふう、とハジメが息を吐いていると、シアが空力で跳び上がってきて、隣に立つ。

 

 「完全に目を付けられましたね」

 「それでいい。少なくともハジメが結界を直す時間が稼げれば「ユエさん!」!」

 

 ユエの言葉を遮る様にシアが叫ぶとユエは即座にその場から飛び退く。

 直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たかと思うと、そこから特大の極光が迸り、結界を掠める。それだけで結界はビリビリと揺れ、全体に罅が走る。

 

 「やはり、予知の類か。忌々しい……」

 

 男の声が響くと同時に、楕円形の膜から白竜に乗ったフリード・バグアーが現れた。その表情には、渾身の不意打ちが簡単に回避されたことに対する苛立ちが見て取れる。

 白竜が完全にゲートから現れると、タイミングを合わせたように黒鷲や灰竜に乗った魔人族が数百単位で集まり、ユエとシアを包囲した。どうやらユエとシアをここで確実に始末するつもりらしい。

 

 「あの魔物から生き延びたか………やはりお前たちは危険すぎる。まずは貴様らから仕留めさせてもらおう」

 

 フリードの憎しみすら宿っていそうな言葉を向けられて、しかし、ユエとシアはふう、と小さく息を吐いて真っ直ぐにフリードと魔人族を睨みつけ、同時に口を開く。

 

 「「やれるものならやってみて(下さい)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユエとシアが魔人族と戦い始めたころ、屋根から屋根へと飛びながら移動する影があった。ハジメだ。

 彼は気配遮断で気配を消しながら猛スピードで街をかけていく。目指す場所はこの王都の大結界の要だ。壊れた結界を修復してしまえば後ろを気にせずに思いっきり暴れられる。

 

 「あそこか」

 

 戦闘音を聞きながらしばらく走り続けていたハジメの視界が大理石のような白い石で作られた空間を見つける。中央に紋様と魔法陣の描かれた円筒形のアーティファクトが安置されていた。そのアーティファクトは本来なら全長二メートルくらいあったのだろうが、今は半ばからへし折られて残骸が散乱している。

 アーティファクトの周囲に人は見当たらない。見張りの兵士ぐらいいると思ったのだが、壊れたアーティファクトにかまけてる暇はないのか、あるいは………

 

 「いや、それはいいか。今は直すのが先決だな」

 

 そう呟くとハジメはアーティファクトの残骸に手を当て、鉱物鑑定を発動させる。

 

 「へぇ、なるほど……そりゃあ、強力なはずだ」

 

 そう呟くとハジメは練成を行使する。紅いスパークがハジメを中心に広がり、その手元にあるアーティファクトの残骸が次々と元の位置に融合されていく。

 僅か数十秒で神代のアーティファクトを修繕し終えたハジメは、魔力を注ぎ込み大結界を発動させてみた。

 円筒形のアーティファクトは、その天辺から光の粒子を天へと登らせていく。

 完全に直ったことを確認したハジメは次のポイントに向かって走り出そうとした瞬間、ハジメの脳裏に警鐘が鳴り響き、それに従ってハジメはその場から即座に離脱する。

 瞬間、ハジメがいた場所を銀色の砲撃が吹き飛ばす。その余波でアーティファクトが損傷したのか、結界が揺らぐ。

 

 「ちっ、折角直したのにまた壊しやがって………」

 

 呟きながらハジメは視線を上に向ける。そこにいたのは銀色の髪に銀光の翼を携え、双大剣を構えた一人の少女が一人浮いていた。

 

 「今のを避けますか。奴ほどではないとはいえ、侮れませんね」

 「そうかい……そう言うお前は神の一派だな?」

 「そうです。主の命により、盤上からあなたを排除します」

 

 そう言い、双大剣を構える使徒を見て、ハジメは小さく息を吐いてドンナーとシュラークを抜き構え、

 

 「あいにくとこっちは予定が詰まってんだ。あんまり時間は欠けてやれねぇ。だから………速攻で終わらせる」

 

 その言葉に使徒はピクリと眉を動かし、忌々し気にハジメを睨む。

 

 「速攻とは………随分と舐めた口を叩く。私を簡単にやれるとでも……」

 

 瞬間、ハジメの姿がふわりと掻き消えると同時に使徒の眼前に現れ、右手のドンナーの銃剣が風爪を纏いながら首を斬り飛ばさんと繰り出される。

 

 「!?」

 

 驚愕に目を見開きながらも使徒は即座に双大剣の一振りを繰り出し、迎え撃つ。

 銃剣と大剣が真っ向から激突、火花が散った瞬間、大剣が一方的に弾き飛ばされる。

 

 (この膂力は!?)

 

 自分を圧倒するハジメのステータスに使徒は目を見開く。

 だが、実を言えばハジメのステータスは使徒より勝ってはいるだろうが、さほど大きな差はない。ここまで一方的に競り勝つは事はないのだ・……普通ならば。

 ハジメがやったことはあまりに単純。自身につけていた重枷を外しただけだ。重枷によってハジメは常に数トンレベルの圧を受けながら過ごしていた。その圧に耐えられるよう常に魔力で強化し続けてきたハジメの身体は魔力運用を徹底的に最適化させた。より早く、より精密に、より深く魔力は全身を巡り、強化している。さながら限界突破のように。結果、ハジメは身体強化に近い魔力運用を会得したのだ。

 大剣を弾き飛ばしたハジメは即座にシュラークを構えるが、使徒は即座にもう一本の大剣を眼前に掲げる。

 次の瞬間、朱い雷光を纏ったレールガンが放たれ、大剣を直撃、甲高い音が鳴り響くと同時に使徒は後ろに吹っ飛ぶ。

 が、不意にガクンっ!と何かに引っ張られるように急制動がかけられ、使徒は大きくつんのめる。

 

 「何っ…!?」

 

 何事かと目を向ければ、使徒の左の手首をいつの間にかドンナーを手放したハジメが剛腕を発動させた右手でがっちりと掴んでいた。とっさに振りほどこうとするがうまく力が入らず、振りほどけない。その隙にハジメは左の義手による掌底を使徒の左肘に克ちあげるようにぶち込む。

 振動破砕と剛腕を発動しながら撃ち込まれた掌底は使徒の左肘を完膚なきまでに粉砕、圧し折れた骨が腕を突き破る。

 ぎっ、と使徒が声にならない声を上げた瞬間、ドパンッ!と言う音と共に使徒の右足が膝から千切れ飛び、体がガクン、と傾ぐ。

 訳が分からず混乱する使徒だったが、再びドパンッ!と言う音が響いた瞬間、彼女の額に小さな穴が空く。そして即座に後頭部が勢いよく弾け飛び、赤い花が咲き乱れる。

 額を撃ち抜かれた使徒はそのまま力なく崩れ落ち、動かなくなる。

 完全に死んだことを確認すると、ハジメはふう、と息を吐きながら宙に浮いている(・・・・・・・)ドンナーとシュラークに手を伸ばす。すると、二丁の相棒は吸い寄せられるようにハジメの手に収まる。

 これはハジメがドンナーとシュラークに追加した機能、空間固定と遠隔操作によるものだ。

 空間魔法を利用した物を空間そのものに固定する能力、感応石、重力魔法、そして纏雷を組み込むことで、ドンナーとシュラークはハジメの手を離れても遠隔操作でレールガンを正確に撃てるようになっている。

 

 「ま、うまくいったかな」

 

 そう呟くと、ハジメは使徒の大剣と身に着けている防具を見やり、おもむろに触れると、鉱物鑑定を使用する。

 

 「………なるほどね」

 

 そう呟いてハジメはもう一度結界を直そうと、アーティファクトに視線を向ける。

 その瞬間、背後から豪速で鈍色の閃光がハジメの首目掛けて振るわれる。

 が、ハジメは即座に振り返り、ドンナーでその一撃を受け止める。

 空気が弾け飛ぶ音が響き渡るが、ハジメは大剣の一撃を受けきっていた。

 

 「もう一人いたか……油断できねぇな」

 

 小さく舌打ちをしながらハジメはこちらを睨みつけている使徒を睨み返す。

 

 「仲間が殺されているのを黙って眺めているとか、酷いもんだな」

 「勘違いしないでいただきたい。我らはみな主の駒。主の望みを叶えるためならば喜んで命を捧げましょう」

 「狂信もなくそう言うのは恐ろしく気持ち悪い……な!」

 

 ハジメは使徒の大剣を弾き飛ばし、シュラークからレールガンを放つが、使徒はもう一本の大剣でそれを防ぐ。

 甲高い音が鳴り響くが使徒はその一撃を受け止めきり衝撃を受け流す。距離を取られれば先ほどの使徒のようになると考えたようだ。

 使徒は素早くハジメ目掛けて大剣を繰り出し、ハジメはドンナーの銃剣でそれを迎え撃つ。

 赤い雷光を纏った銃剣と大剣がぶつかり合い…………使徒の大剣がぐにゃりと崩れ落ちる。

 

 「何っ!?」

 

 そのあり得ざる光景に使徒が目を見開いている間に大剣はそのまま溶けていき使徒の右手にかかったところで止まり、そのまま固まってしまう。

 使徒はとっさに手放そうとするが、残骸がかかった右手は使徒のステータスでも開くことができない。

 その隙をハジメは見逃さず、先ほどと同じように振動破砕、剛腕を乗せた義手による拳撃を繰り出す。使徒は即座に無事なほうの大剣でそれを受け止め………大剣は砂糖菓子のように軽く圧し折れ、そのまま拳は使徒の左手を直撃、完膚なきまでに粉砕し、使徒を吹き飛ばす。

 両手を潰された使徒の顔が激情に染まり、銀翼を羽ばたかせて態勢を整えた瞬間、ドパンッ!と言う音共に放たれたレールガンが使徒の腹を貫く。

 両断はされなかったが腹をごっそりと抉られ、激しく血を吐き出した使徒の額を、とどめと言わんばかりに放たれたレールガンが吹き飛ばす。

 倒れる使徒を眺め、ハジメは小さく呟く。

 

 「俺に武器を解析されたのは痛かったな。俺は練成師だぜ?」

 

 使徒の大剣がどれほどの凶悪な強度、凄まじい切れ味、強力な能力を秘めていようとそれは武器だ。現実に存在する鉱物を利用して作り上げられた武器なのだ。ならば、練成でどうとでもなる。

 武器を構成する素材さえ判明すれば、後は練成で幾らでもいじれるのだ。先ほどのように大剣の形を崩す事も、脆くすることもできる。仮にアーティファクトであろうと、だったらその魔力を狂わせてやればそれだけでアーティファクトは無力化される。

 勿論、これはハジメの卓越した練成の腕と生成魔法、そして魔力操作があっての事だが。

 

 「…………今ので最後か」

 

 まだいるのではないかと警戒するように周囲を見渡し、感知技能をフル活用したハジメだが、もう敵がいないと分かると、ふう、と息を吐くと結界の要に視線を向ける。




 最近どうにも人と人の戦いがうまく書けないんですよね……
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