ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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第87話 裏切り

 時間は少し戻り、ちょうど、リリアーナ達が王宮内に到着した頃。ガラスが砕かれるような不快な騒音にが響き渡る。

 

 「ッ!? 一体なにっ!?」

 

 その音に自室で就寝中だった八重樫雫は、シーツを跳ね除けて枕元の黒刀を手に取ると一瞬で臨戦態勢を取った。明らかに、普段から気を休めず警戒し続けている者の動きだ。

 

 「……」

 

 しばらくの間、抜刀態勢で険しい表情をしながら息を潜めていた雫だったが、室内に異常がないと分かると僅かに安堵の吐息を漏らした。

 雫が、ここまで警戒心を強めているのは、ここ数日、顔を合わせることの出来ないリリアーナと愛子、そしてメルドの事が引っかかっているからだ。彼女も優花達親衛隊と同じように愛子がいなくなったことを訝しんでいたのだ。

 雫は音もなくベッドから降りると素早く身支度を整え、部屋から出て、向かいの光輝達の部屋をノックする。

 扉はすぐに開き、光輝が姿を見せた。部屋の奥には龍太郎もいて既に起きているようだ。どうやら、先程の大音響で雫と同じく目が覚めたらしい。

 

 「光輝、あなた、もうちょっと警戒しなさいよ。いきなり扉開けるとか……誰何するくらい手間じゃないでしょ?」

 

 何の警戒心もなく普通に扉を開けた光輝に眉を潜めて注意する雫。それに対して光輝は、キョトンとした表情だ。破砕音は聞こえていたが、王宮内の、それも直ぐ外の廊下に危機があるかもしれないとは考えつかなかったらしい。まだ、完全に覚醒していないというのもありそうだ。

 ここ数日、雫が王宮内の違和感や愛子達のことで、「何かがおかしい、警戒するべきだ」と忠告をし続けているのだが、光輝も龍太郎も考えすぎだろうと余り真剣に受け取っていなかった。

 

 「そんな事より、雫。さっきのは何だ? 何か割れたような音だったけど……」

 「……わからないわ。とにかく、皆を起こして情報を貰いに行きましょう。何だか、嫌な予感がする「八重樫さん!」園部さん?」

 

 雫がそう言った直後、はり上げられた声に顔を向ければ、優花がこちらに向かって走ってきていた。その首には、最近身に着けるようになったバンダナが巻き付けてある。

 

 「さっきの音って……!」

 「私達にも分からない。それで、城の人たちに話を聞きに行こうと思って……」

 「そう………今、妙子たちがほかのみんなを起こして回ってるわ。すぐにみんな集まると思う」

 

 その言葉通り他の生徒たちは淳史、昇、明人、妙子、奈々に先導される形で他の生徒たちも集まってきた。その中には謹慎中の檜山と引きこもっていた清水もおり、檜山は無言でついてくるが、清水は挙動不審な様子で卑屈そうな目で周囲を睨みつけている。

 と、そこに雫の侍女であるニアが駆け込んでくる。

 

 「雫様……」

 「ニア!」

 

 こちらに駆け寄ってくるニアの表情はどことなく覇気がない。その事に雫は疑問を覚えるが、ニアが口にした情報で、その違和感は吹き飛んでしまっていた。

 

 「大結界が一つ破られました」

 「……なんですって?」

 

 思わず聞き返した雫に、ニアは淡々と事実を告げる。

 

 「魔人族の侵攻です。大軍が王都近郊に展開されており、彼等の攻撃により大結界が破られました」

 「……そんな、一体どうやって……」

 

 衝撃的な内容に流石の雫も呆然としてしまう。他のクラスメイト達もざわざわと喧騒が広がっていく。だが、優花はじっと何かを訝しむようにニアを見つめる。無意識のうちに手は首に巻いてあるバンダナの裾を握りしめていた。

 

 「な、なんだよ……な、何が……何が起こってんだよ………」

 

 そんな中状況が把握できないように狼狽えているのは清水だ。彼は言語理解を失っている為、ニアの言葉が分からないのだ。

 

 「魔人族が王都に攻めてきたんだと。結界も一枚破られてるって」

 

 彼を部屋から引っ張り出した明人が教えてやると、清水はびくりと肩を震わせ、そのままぶつぶつと何かを呟き始める。

 

 「ほらな……やっぱりだ……あんな奴じゃ無理だったんだ……俺だったらもっとうまくできたんだ……勇者の力さえあれば……」

 

 その呟きに明人は小さく嘆息しながら頭を振る。あれ以来、清水はずっとこの調子だ。最近こそ話ができるようになったが、事あるごとに自分ならもっとうまくやれた。力があれば、と繰り返している。

 どうしたもんか、と明人が頭を掻いていると、

 

 「……大結界は第一障壁だけかい?」

 

 険しい表情をした光輝がニアに尋ねる。

 

 「はい。今のところは……ですが、第一障壁は一撃で破られました。全て突破されるのも時間の問題かと……」

 

 ニアの回答に、光輝は頷くと自分達の方から討って出ようと提案した。

 

 「俺達で少しでも時間を稼ぐんだ。その間に王都の人達を避難させて、兵団や騎士団が態勢を整えてくれれば……」

 

 光輝の言葉に決然とした表情を見せたのはほんの僅か。雫や龍太郎、鈴、永山のパーティーなど前線組だけ。他のクラスメイトは目を逸らすだけで暗い表情をしている。彼等は、前線に立つ意欲を失った者達だ。大群相手に挑むことなどできはしない。

 ならば俺達だけでもと、より一層心を滾らせる光輝に、優花が慌てて待ったをかけようとした瞬間、代わりに恵里が待ったをかける。

 

 「待って、光輝くん。勝手に戦うより、早く騎士団の人たちと合流するべきだと思う」

 「恵里……だけど」

 「ニアさん、大軍って……どれくらいかわかりますか?」

 「……ざっとですが十万ほどかと」

 

 その数に、生徒達は息を呑む。

 

 「光輝くん。とても私達だけじゃ抑えきれないよ。……数には数で対抗しないと。私達は普通の人より強いから、一番必要な時に必要な場所にいるべきだと思う。それには、騎士団の人たちときちんと連携をとって動くべきじゃないかな……」

 

 大人しい恵里らしく控えめな言い方ではあるが、瞳に宿る光の強さは光輝達にも決して引けを取らない。そして、その意見ももっともなものだった。

 

 「うん、鈴もエリリンに賛成かな。さっすが鈴のエリリンだよ! 眼鏡は伊達じゃないね!」

 「眼鏡は関係ないよぉ……鈴ぅ」

 「ふふ、私も恵里に賛成するわ。少し、冷静さを欠いていたみたい。光輝は?」

 

 女子三人の意見に、光輝は逡巡する。しかし、普段は大人しく一歩引いて物事を見ている恵里の判断を、光輝は結構信頼している事もあり、結局、恵里の言う通りメルド達騎士団や兵団と合流することにした。

 

 「ちょ、ちょっと待って!その前にみんなに伝えたいことが……」

 

 優花が慌てた様子で声を上げるが、光輝達は、そのまま出動時における兵や騎士達の集合場所に向けて走り出してしまう。遠ざかっていく背中を見ながら優花は失敗した、と言うように唇を噛む。だが、すぐに頭を振ると、視線を親衛隊の面子に向ける。

 優花の視線に気づいた彼らは一様に青い顔をしながらも小さく頷く。

 それを見た優花も小さく息を吐きながら頷くと、ちらりと窓の外を見やり、バンダナの下に手を差し込むと光輝達の後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謹慎中だった檜山も連れだした光輝達が、屋外の集合場所に訪れたとき、既にそこには多くの兵士と騎士が整然と並び、前の壇上にはハイリヒ王国騎士団副団長のホセ・ランカイドが声高に状況説明を行っているところだった。月光を浴びながら、兵士達は、みな青ざめた表情で呆然と立ち尽くし、覇気のない様子でホセを見つめていた。

 と、広場に入ってきた光輝達に気がついたホセが言葉を止めて光輝達を手招きする。

 

 「……よく来てくれた。状況は理解しているか?」

 「はい、ニアから聞きました……メルドさんは?」

 「団長は、少し、やる事がある………さぁ、我らの中心へ。勇者が我らのリーダーなのだから……」

 

 ホセは、そう言って光輝達を整列する兵士達の中央へ案内した。居残り組のクラスメイトが、「えっ? 俺達も?」といった風に戸惑った様子を見せたが、無言の兵達がひしめく場所で何か言い出せるはずもなく流されるままに光輝達について行った。

 無言を通し、表情もほとんど変わらない周囲の兵士、騎士達の様子に、雫の中の違和感が膨れ上がっていく。それは、起きた時からずっと感じている嫌な予感と相まって、雫の心を騒がせた。無意識の内に、黒刀を握る手に力が入る。

 それは優花たちも同様だった。彼らは緊張した面持ちで顔を見合わせ、小さく頷き合う。そして、彼らは誘導されながらもゆっくりばらけていく。

 そして、光輝達がちょうど周囲の全てを兵士と騎士に囲まれたとき、ホセが演説を再開した。

 

 「みな、状況は切迫している。しかし、恐れることは何もない。我々に敵はない。我々に敗北はない。死が我々を襲うことなど有りはしないのだ。さぁ、みな、我らが勇者を歓迎しよう。今日、この日のために我々は存在するのだ。さぁ、剣をとれ」

 

 「始まりの狼煙だ。注視せよ」

 

 ホセが 懐から取り出した何かを頭上に掲げた。彼の言葉に従い、兵士達だけでなく光輝達も思わず注目する。

 そして、それがまばゆい光をまき散らす。

 無防備に注目していた光輝達はまともに見てしてしまったことで視界が光に塗りつぶされる。

 そして、次の瞬間……

 ドンドンドン!と無数の炸裂音が鳴り響き、勢いよく何かが放たれる音と共に水飛沫が飛び散り、生徒たちを濡らす。

 視界が潰されたうえに突如として響き渡った謎の炸裂音と水飛沫に生徒たちは混乱したように声を上げる。

 

 「な、なによこれ………」

 

 ようやく視力が回復し、生徒たちが周囲を見渡せば、異様な光景が広がっていた。

 生徒たちと最前列で向かい合っていた騎士や兵士たちが、全身ずぶ濡れの状態で大きな網にからめとられ、もしくは白いトリモチのような物体に引っかかって倒れ、もがいていたのだ。

 目の前の光景に生徒たちが動揺していると、不意に声が響く。

 

 「雫様! 助けて……」

 「ニア!」

 

 そこには、騎士に押し倒され馬乗りの状態から、今まさに剣を突き立てられようとしているニアの姿があった。

 雫がとっさに助けようとした瞬間、ピィ!!と頭上から鋭い声と共に何かが勢いよく降下してきて、そのまま騎士に襲い掛かる。

 それは一匹の鳥だ。鳥はそのまま爪を振るい、騎士が振りほどこうと剣を振り回すと鳥が素早く離れ、今度は一転、倒れているニアに襲い掛かる。すると、ニアは不自然な勢いで起き上がって懐から懐剣を取り出して鳥を切り裂こうとする。鳥はすぐに高度を上げてその剣を回避する。

 

 「ニア!大丈夫「八重樫さんダメ!」え?」

 

 雫が駆け寄ろうとした瞬間、優花が彼女の手を掴んで引き留め、代わりにニアの頭上に何かを投げつける。それは長い柄がついた大ぶりの缶のような物だ。

 それが炸裂すると中から巨大な網が飛び出してきて、そのままニアを飲み込んでしまう。

 

 「園部さん、何を!?」

 「ごめん、八重樫さん!でも、ダメなの!多分だけど、彼女は………!」

 

 優花が悔し気に唇を噛んだ瞬間、無事だった騎士や兵士たちが倒れた者達を踏みつけながら生徒たちに襲い掛かってくる。

 その光景に生徒たちが動揺した瞬間、淳史、昇、明人は雄たけびを上げながらいつの間にか手に持っていた物を構える。

 それは何とも不格好な銃だった。ショットガンの様なフォルムをしているが、銃口がかなり大きく、二つのグリップを持ち、銃床に当たる部分は丸く膨らんでいる。

 次の瞬間、三つの銃口から勢いよく水が放たれる。地球の消火栓からの放水に匹敵する勢いで放たれた水は、襲い掛かってきた騎士や兵士たちをなぎ倒す。

 そして倒れた騎士と兵士たちの頭上に何かが幾つも投げつけられる。一つは先ほどの長柄手榴弾。一つは小ぶりな手榴弾。一つはもう一つはバスケットボールサイズの球体。

 それらが炸裂した瞬間、まず、小振りな手榴弾がまき散らした衝撃で騎士や兵士たちは転倒、そこに長柄手榴弾から飛び出した巨大な網が覆いかぶさり、球体からはトリモチのような物が飛び散ると、兵士や騎士達はそれにくっついてしまい、身動きが取れなくなる。

 瞬く間に第2陣の大半が無力化され、そこで兵士と騎士達は突撃をやめ、警戒するように生徒たちを取り囲む。

 これは、と生徒たちが呆然としていると、、直後に生徒たちの中から短い悲鳴が上がる。

 驚いたように彼らが悲鳴の方向に目を向ければ、先ほど空に逃げた鳥が今度は恵理に襲い掛かっていた。

 

 「なっ!?恵理から離れろ!」

 

 それを見た光輝が聖剣を手に鳥を追い払おうとする。

 が、鳥はすぐさま恵理から離れるとそのまま飛び去ると同時にピィピィ!と鳴く。

 それを聞いた優花はハッと目を見開くと、

 

 「みんな、私のところに集まって!妙子、奈々、放水銃を!」

 

 そう叫ぶと当時に彼女の目の前に先ほどの長柄の手榴弾が現れ、優花はそれを手に取る。

 混乱していた生徒たちは思わずその言葉通りに優花の元に集まり、それと同時に親衛隊の面々が慌てて前に出る。そして、妙子、奈々の二人は虚空から現れた男子たちが持っているのと同じデザインの銃を手にする。

 

 「恵理、大丈夫か!?さあ、早くこっちに……」

 

 顔を抑えている恵理を光輝が案内しようとした瞬間、

 

 「………くそ、くそくそくそくそ、くそがぁっ!」

 

 荒々しく恵理が吠えた瞬間、光輝の脇腹に鈍い衝撃が襲い掛かる。

 なんだ、と光輝が視線を向ければ、脇腹に恵理が手にしたナイフが刺さっていた。

 なっ、と光輝がよろめくと、恵理は傷がついた顔に歪んだ笑みを浮かべながら懐から首輪のような物を取り出し、光輝にさらに迫るが、そこに猛烈な勢いの水流が襲い掛かり、恵理が派手に吹き飛ばされる。

 すかさず雫が光輝に駆け寄り、そのまま生徒たちの元へと引き摺って行く。他の生徒たちは事態が把握できず、完全に混乱してしまっている。

 その中で妙子は尻もちを搗きながら大きく目を見開き、荒く息を吐いている。次第にその呼吸は過呼吸のように不自然に早くなっていき、水を滴らせる銃を握る指は力を込め過ぎて真っ白になり、全身が激しく震え始める。

 

 「おい、菅原、落ち着け!大丈夫だ!中村は無事だ!これは放水銃だから人は死なない!南雲の説明にもそうあっただろ!?」

 

 その彼女に淳史が肩を掴みながらそう言うと同時に、

 

 「何なんだよ……本当に何なんだよお前等はさぁ………!」

 

 普段の大人しい姿からは想像もできない低く、怒りと憎悪に塗れた声を上げながらずぶ濡れの恵理が立ち上がる。それを見て、安堵したように妙子の呼吸は落ち着いていき、少しずつ体の震えが収まっていく。

 

 「折角うまくいくはずだったのに邪魔しやがって!ゴミ共がさぁ!何なのさそのアーティファクト!」

 「……一体どう言う事よ……中村さん……まさかとは思うけど……これって全部……」

 「うるさい!何なんだよ!何なんだよその鳥は!?僕の、僕の顔に傷をつけやがって!おかげで全部台無しだ!!」

 

 優花が鋭い視線を投げかけながら問いかけるも、恵理は聞く耳を持たないと言うように喚き散らしている。

 

 「………そう………そう言う事なのね…………貴方が王宮の異変の犯人だったって事なのね」

 

 優花が静かに問いかけると、荒く息を切らしていた恵理は忌々し気に優花を睨みつける。だが、次の瞬間、はぁああああああ、と深い深いため息を吐き、

 

 「こうなったらしょうがないか。ああ、そうだよ。これは全部僕がやった事さ。ここにいる騎士達も、大結界もね」

 「な、なんで………そんな事を………」

 

 雫が問いかけると、恵理はため息交じりに首を振ると雫の傍にいる光輝を見やる。その目には粘つくような執着心が宿っていた。

 

 「僕はね、ずっと光輝くんが欲しかったんだ。だから、そのために必要な事をした。それだけの事だよ」

 「……光輝が好きなら…告白でもすれば…こんな事…」

 

 雫の反論に、恵里は一瞬、無表情になるが、すぐに蔑むような笑みを浮かべると再び語りだした。

 

 「そんなのダメだよ。ダメもダメ。意味がない。光輝くんは優しいから特別を作れないんだ。周りに何の価値もないゴミしかいなくても、優しすぎて放っておけないんだ。だから、僕だけの光輝くんにするためには、僕が頑張ってゴミ掃除をしないといけないんだよ」

 

 あまりの豹変ぶりにに生徒たちは戸惑いを隠せず、狼狽える。その中で親衛隊たちは必死に手にした放水銃を構え続ける。

 優花はじっと恵理を見つめながら口を開く。

 

 「まさか……このタイミングで魔人族が来たのは……」

 「勿論僕だよ。君達を殺しちゃったら、もう王国にいられないし……だから、魔人族とコンタクトをとって、王都への手引きと異世界人の殺害、お人形にした騎士団の献上を材料に魔人領に入れてもらって、僕と光輝くんだけ放っておいてもらうことにしたんだよ」

 「馬鹿な…魔人族と連絡なんて…」

 

 光輝が信じられないと言った様子で呟く。ずっと王宮にいた恵理が魔人族とコンタクトを取る事なんて不可能だったはずだ。

 

 「オルクス大迷宮で襲ってきた魔人族の女の人。帰り際に降霊術でね? 予想通り、魔人族が回収に来て、そこで使わせてもらったんだ。あの事件は、流石に肝が冷えたね。何とか殺されないように迎合しようとしたら却下されちゃうし……思わず、降霊術も使っちゃったし……怪しまれたくないから降霊術は使えないっていう印象を持たせておきたかったんだけどねぇ……まぁ、結果オーライって感じだったけど……」

 「降霊術は使えないって話だったけど、隠してたのね……っ、それじゃあ、ここにいる騎士の人たちはみんな………!」

 「そうだよ。みんな降霊術で操ってる。みんなとっくに死んでるよ。でもさ、隠し事してたのはそっちも同じでしょ?何さ、その装備。そんなの宝物殿になかったよね?」

 

 恵理が忌々し気に優花達を睨みつけながら吐き捨てるように問うと、親衛隊たちはびくりと肩を震わせるが、それでも銃口を向け続ける。

 優花は小さく息を吐きながら口を開く。

 

 「ええ、そうよ。これはウルの町で会った南雲たちがもしもの為にって作ってくれたアーティファクトよ。あの鳥もアーティファクトの力で使役しているのよ」

 

 そう言って優花はバンダナの下から宝石がついたネックレスを取り出す。

 それはハジメが作り上げた宝物庫だ。内容量はそれほどでもないが、魔力操作を持たない優花たちでも使えるように調整がされており、親衛隊全員に配られている。そして、その中には先ほどの装備が満載されている。

 一つは捕獲用のネットを広げる捕獲手榴弾。ネットは鉱物を使って作られた強靭なワイヤーを使っている為、ちょっとやそっとの力では破る事はできない。

 一つはハジメ達が見つけたトリモチのような物をぶちまけるトリモチ手榴弾。かなりの粘着力を持っており、捕らわれれば簡単には抜け出せない。

 一つは炸裂すると衝撃をまき散らす衝撃手榴弾。

 そしてもう一つが親衛隊たちが持っている放水銃だ。これは銃床の部分に水を満載した宝物庫が取り付けられており、銃身には水を勢いよく放つ魔法が刻み込まれている。これによって宝物庫の水を地球の消火詮の放水匹敵する勢いで放つことができるのだ。

 その全てが人を傷つけずに無力化できるように作られている。優花たちが気兼ねなく使えるように。

 

 「な、なんだよそれ……どうしてそんなのを南雲たちが………」

 

 生徒の一人が困惑したように呟く。自分たちが彼らにした仕打ちを考えればそんな事をしてもらえる義理はないはずだ。

 

 「………彼らも犠牲は出したくないって事でしょ。それよりもどうして降霊術でそんな事ができるの。確か降霊術じゃ受け答えはできないはずじゃ……」

 

 優花の問いかけに、恵理は顔には先ほどまではなかったニヤニヤとした笑みが浮かべながら口を開く。恐らく、落ち着きを取り戻したことで自分が圧倒的な優位に立っている事を思い出したのだろう………

 それは間違ってはいない。とりあえず怪我をした人は光輝だけだが、他のクラスメイトはほとんどが狼狽えており、動けるのは自分を含めて6人だけ。対し相手はこの場にいる数百人の兵士と騎士。あまりにも圧倒的過ぎる。だが、それならばむしろ好都合(・・・)だ。

 

 「そこは僕の実力って奴かな?降霊術に、生前の記憶と思考パターンを付加してある程度だけど受け答えが出来るようにしたんだよ。僕流オリジナル降霊術、縛魂ってところかな? ああ、それでも違和感はありありだよね~。一日でやりきれる事じゃなかったし、そこは僕もどうしたものかと悩んでいたんだけどぉ……ある日、協力を申し出てくれた人がいてね。銀髪と金髪の綺麗な人。計画がバレているのは驚いたし、一瞬、色々覚悟も決めたんだけど……その時点で告発してないのは確かだったし、信用はできないけど取り敢えず利用はできるかなぁ~って」

 

 銀髪と金髪、と聞いて優花たちは一斉に顔をしかめる。それはハジメ達から聞いていた要注意人物の特徴だからだ。

 

 「実際、国王まで側近の異変をスルーしてくれたんだから凄いよね? 代わりに危ない薬でもキメてる人みたいになってたけど。まぁ、そのおかげで一気に計画を早める事ができたんだ。ああ、みんなこれから死ぬけど安心してよ。死体はちゃんと魔人族の人たちに再利用してもらえるようにしてあげるから」

 

 にやにやとした笑みと共に放たれた言葉に生徒たちは顔を青くする。

 

 「止めるんだ、恵里! そんな事をすれば……俺は……」

 

 辻の治癒魔法で傷が癒えた光輝がそう言いながら立ち上がるも、恵理は笑みを崩さない。

 

 「僕を許さない? アハハ、そう言うと思ったよ。光輝くんは優しいからね。それに、ゴミは掃除してもいくらでも出てくるし……だから、光輝くんもちゃんと縛魂して、僕だけの光輝くんにしてあげるからね? 他の誰も見ない、僕だけを見つめて、僕の望んだ通りの言葉をくれる! 僕だけの光輝くん! あぁ、あぁ! 想像するだけでイってしまいそうだよ!」

 「嘘だ……嘘だよ! …エリリンが、恵里が……こんなことするわけない! ……きっと…何か…そう…操られているだけなんだよ!…目を覚まして恵里!」

 

 恵里の親友である鈴が信じられないと言うように声を張り上げた。

 

 「ねぇ、鈴? ありがとね? 日本でもこっちでも、光輝くんの傍にいるのに君はとっても便利だったよ?」

 「……え?」

 「参るよね? 光輝くんの傍にいるのは雫と香織って空気が蔓延しちゃってさ。不用意に近づくと、他の女共に目付けられちゃうし……向こうじゃ何の力もなかったから、嵌めたり自滅させたりするのは時間かかるんだよ。その点、鈴の存在はありがたかったよ。馬鹿丸出しで何しても微笑ましく思ってもらえるもんね? 光輝くん達の輪に入っても誰も咎めないもの。だから、〝谷村鈴の親友〟っていうポジションは、ホントに便利だったよ。おかげで、向こうでも自然と光輝くんの傍に居られたし、異世界に来ても同じパーティーにも入れたし……うん、ほ~んと鈴って便利だった! だから、ありがと!」

 「……あ、う、あ……」

 

 衝撃的な恵里の告白に、鈴の中で何かがガラガラと崩れる音が響いた。彼女の瞳から光が消えようとした瞬間、

 

 「……哀れね」

 「…………は?」

 

 ぽつりと呟かれた言葉に恵理の笑みが固まり、視線をそちらに向ける。そこには、優花は哀れむような眼差しを向けていた。

 

 「哀れ?ああ、鈴が?本当滑稽だよね。騙されているとも知らずにさぁ」

 「違うわよ………哀れなのは貴女よ。中村さん………」

 

 恵理の額に青筋が浮かび、瞳に激情が浮かぶが、不思議と優花はそれを静かに受け止める。

 

 「僕のどこが哀れだって?ちょっと予定は狂ったけど、全部僕の望むように動いてる。幾ら君たちが妙な装備を持っていても、この人数を全員倒せるわけないでしょ?君たち全員を殺せば光輝君は僕だけの物になる。ようやく僕は幸せになるんだ。そのどこが哀れだって?」

 「………さぁ、分からないわ。自分でもね」

 

 優花は苦笑を浮かべながら首を横に振る。だが、どうしてか、そう思ったのだ。好きな人と結ばれる、幸せになると言っているのに、幸せそうな表情を浮かべず、恍惚とした顔しか浮かべない彼女を見ていたら。

 恵理の顔から表情が消え、能面のような無機質な瞳で優花を睨みつける。

 

 「……兵士に使おうと思ったけど、気が変わった。優花は殺さないで上げるよ。代わりに、手足をもいで、魔人族に生きたまま差し出すよ。身動きの取れない女の子に、あいつらはどんな仕打ちをするのかなぁ?」

 

 恵理の言葉と共にに騎士達が剣を構え、生徒たちが愕然とする中、優花は妙に落ち着いた様子で手を掲げる。その手にいつの間にか戻ってきていた鳥が止まり、ピィ、と鳴く。

 

 「突然だけど、恵理。紹介するわ。この子はルーク。ウルの町で南雲たちから譲ってもらったアーティファクトで仲間になった子。この子には上から怪しい奴がいないか、見張ってもらっていたの。おかげでみんなを守る事ができたわ。それでね、少し前にこの子を使って、南雲たちと連絡を取ったの」

 

 その言葉に恵理はは?と口を半開きにする。

 

 「数日前に戻ってきたルークはこの装備と、手紙を持ってたわ。そして、手紙にはこう書いてあった………数日以内に合流する。動くのはそれからだ。それまでは様子のおかしい人間には近づくな、そいつと二人きりになるな、いざとなったら中に入ってる装備を使って時間を稼げ、ってね。まあ、時間がギリギリになっちゃったせいで、他のみんなには相談できなかったけどね」

 

 その言葉の意味を恵理は一瞬で理解した。理解したからこそ、優花の本当の目的に気づき、先ほどまでの余裕が一瞬で消えうせ、顔が強張る。

 

 「やれぇ!全員殺せぇ!」

 

 恵理が叫ぶと同時に騎士と兵士たちが一斉にクラスメイト達に襲い掛かる。親衛隊の面子が一斉に放水銃を構えた瞬間、彼らを守るように光の障壁が展開され、騎士と兵士の攻撃を防ぐ。

 

 「みなさん!一体、どうしたのですか!正気に戻って!恵里!これは一体どういうことです!?」

 「っ……まさか……」

 

 何が起きたのかと呆然としていたクラスメイト達の元に現れたのは困惑しながらも騎士たちに呼びかけるリリアーナと悔しげに歯を食いしばるメルド。

 

 「間に合った………って事で……いいんだよね……!?」

 

 そして、安堵のため息を吐く、香織だった。




 ゴジラ、-1.0。良かったです……本当に良かったです………
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