ありふれた職業で世界最強 魔王の兄は怪獣王   作:夜叉竜

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第88話 好きと言う想い

 「か、香織………!」

 「雫ちゃん……よかった……みんなも無事みたいだね」

 

 香織は周囲を見渡して怪我人がいないことを確認すると、ほっとしたように表情を緩める。

 

 「優花ちゃん……みんな、ありがとう」

 「間に合ってよかったわ……」

 

 香織の言葉に優花は安堵のため息とともに苦笑を浮かべる。

 すでに神羅達が合流しようと動いているのならば、優花たちがなすべきことは襲われたとき、少しでも長く合流までの時間を稼ぐことだ。だからこそ、優花は恵理に質問を続け、聞かれてもいないことを教えたりしたのだ。

 

 「玉井……騎士達は…………」

 

 メルドが静かに淳史に問いかけると、彼は顔を歪めながら首を横に振る。それだけで全てを察したメルドはそうか、とだけ小さく呟き、悔し気に唇を噛む。しかし、すぐに頭を振って意識を切り替えると、生徒たちの前に出て大剣を構える。

 

 「中村……これは全て………お前がやった事なのだな………」

 

 それに対し、恵理の反応はメルドの想像とは違っていた。言い訳も、開き直りもせず、恵理はどういう訳か信じられないものを目にしたと言わんばかりに目を丸くしたまま硬直している。

 その様子をメルドが訝しんでいると、恵理は再起動を果たしたように喚き散らす。

 

 「ど、どう言う事だよ!?なんで、何であんたが生きてるんだよ!?あの女、殺したって!死体は跡形も残らなかったけど間違いなく殺したって言ってたのに、何で!?」

 

 その言葉にメルドは更に困惑を強くした。あの女、と言うのは恐らくだがメルドを襲った修道女だ。恐らく恵理はその修道女と繋がっているのだろう。

 だがそうだとしたらおかしい。メルドたちはあの女はメルドを神羅達をおびき寄せる餌に引き寄せる撒き餌として生かしたと見ている。

 だというのに、修道女は恵理にメルドは殺したと嘘の報告をしたようだ。曲がりなりにも手を組んでいるにしては妙な話だ。協力関係ではないのか?

 

 「生憎と、簡単には死ねない立場なのでな。足掻かせてもらった……中村、今回の件、全て洗いざらい吐いてもらうぞ!」

 

 メルドの言葉に恵理は憎々し気に顔を歪めるが、ふと何かに気づいたように目を瞬かせ、次の瞬間、口元ににやついた笑みを浮かべる。

 

 「あ~~あ、助っ人登場で形勢逆転?何とも王道だねぇ………だけどさぁ、香織。なんか人数足りなくない?君の大好きな人とかそのさえない中二病弟君とかさ?」

 

 そこでようやくクラスメイト達は駆けつけてくれたのが香織、メルド、リリアーナの3人だけと気付き、小さく困惑の声を上げる。

 

 「香織ちゃん、他のみんなは?」

 「みんな、別行動中。神羅君とティオさんは先生の救出。ハジメ君、ユエちゃん、シアちゃんは魔人族の対処と結界の修復に向かってる」

 「そ、それって……」

 「うん。ここに来たのは私達3人だけ」

 

 その言葉にクラスメイト達、特に前衛組は分かりやすく動揺を示し、反対に恵理は一転、晴れやかな笑みを浮かべる。

 

 「な~~んだ、心配して損したよ。一番厄介な連中がいなくて、来たのは騎士団長様一人に治癒師にお姫様だけ?アハハハハハハハハハ!とんだ援軍だね!」

 

 馬鹿にしたように笑いながら恵理は周囲の騎士と兵士に障壁を攻撃させる。

 リリアーナは術師としても相当優秀な部類に入る。モットーの隊商を全て覆い尽くす障壁を張り、賊四十人以上の攻撃を凌ぎ切れる程度には。だが、これだけの数の騎士達がリミッターの外れた猛烈な攻撃を行い続ければ、いずれ限界を迎えてしまう。

 本来ならばメルドが斬り込むところだが、あまりにも数の差が有りすぎる。うかつに飛び込めばあっという間に物量で押しつぶされる。それは優花たちも同じだ。最初の襲撃はどうにかできたが、もしも物量に任せて突っ込んでこられたら間違いなく押し切られてしまう。

 

 「いくらそいつらが援護したって、騎士団長様でこれだけの数の騎士を一人で相手するのは無理でしょ。それに、そこにいつまでもこもってるわけにはいかないよねぇ!」

 

 恵理が吠えた瞬間、後方の騎士達が魔法による攻撃を放ち始める。次々と飛来する魔法が障壁を軋ませ、リリアーナの顔が苦し気にゆがむ。

 それを見た香織は即座に宝物庫から魔晶石を取り出すと、それをリリアーナに押し付ける。

 

 「リリィ、少しでいい。堪えて。私がやる」

 「私がやるって……無茶です、白崎さん!あなたは治癒師で……」

 

 リリアーナが叫ぶがそれを無視して香織は杖を構える。

 

 「し、白崎!傷を負ったんだ!助けてくれ!」

 

 その香織の元に檜山が叫びながら近づいていく。剣を握る右腕には確かに血がついており、傷を抑えているのか強く左手が添えられている。

 

 「っ、白崎、頼む!」

 

 それを見たメルドがそう言った瞬間、クラスメイト達は思わず檜山が香織の元に辿り着けるように身を避ける。そうしてできた道を檜山は這う這うの体で近づいていき……

 

 「っ!」

 

 瞬間、雫が振り抜いた黒刀が香織を貫かんとした剣を勢い良く弾き飛ばす。弾き飛ばされた反動で檜山はそのまま転倒してしまい、周囲の生徒たちは驚いたように目を見開く。

 檜山も愕然とした様子で雫を見上げるが、雫は真っ直ぐに彼を睨みつけ、

 

 「いつまでも狼狽えてばかりだと思った?あなたの行動は不自然すぎるわ」

 

 雫が檜山の行動を不審に思ったのは最初からだ。仮に檜山が本当に怪我をしたとするならば、それは一番最初の襲撃の時意外考えられない。それ以外では優花たち親衛隊たちが守ってくれていたし、騎士達は此方を警戒してか攻撃して来なかったのだから。だが、そうなると檜山は今の今までその事を周囲のみんなや治癒師の辻に伝えたりせず、香織が来た所で彼女に怪我をしているから治せと詰め寄ったと言うことになる。不自然にもほどがある。

 不審に思って警戒していれば、案の定檜山は剣を香織に突き立てようとしたのだ。未だ狼狽えているクラスメイトでは対応できなかっただろうが、警戒していた雫ならば対応することは容易だ。

 

 「檜山………まさか、お前まで……!?」

 

 メルドの問いに檜山の顔がぎりっ、と歪むと、ヘドロのように粘ついた狂的な光を目に宿し、

 

 「香織ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 狂ったように叫びながら懐から短剣を取り出し、香織目掛けて再び肉薄する。

 雫が再び手にした黒刀を振るおうとした瞬間、

 

 「どけ、二人とも!」

 

 その声と共に晃が放った放水が横殴りに檜山を襲い、彼はなす術もなく吹き飛ばされる。

 水流が収まっても檜山はすぐに起き上がろうとするが、そこに頭上からネットが降り注ぎ、あっという間に檜山は捕らわれてしまう。

 

 「何だよ!何なんだよこれは!?邪魔すんじゃねぇ!もう少しで、もう少しで香織は俺の物になるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 激しく喚きながら檜山はネットを破ろうともがくが、もがけばもがくほどさらにネットは絡まってしまう。

 

 「あ~~らら、うまくいかなかったからって、ちょっと考えれば無茶だって分かるだろうに……これだから馬鹿は嫌なんだよね」

 

 やれやれ、と哀れむように首を横に振る恵理を香織は静かに見つめる。

 

 「恵理ちゃん………どうしてこんな事をしたの?」

 

 静かに問いかけると、恵理は忌々し気に香織を睨みつけ、

 

 「何度も説明させないでほしいなぁ。僕は光輝君の事が好きなんだよ。だから光輝君を手に入れるために動いてるだけさ。君があの化け物を手に入れるために僕たちから離れていったようにね」

 「………」

 「で、どうなのさ。無様について行って、ちょっとは仲は進展した?あ、もしかして無理だった?あれだけ必死になってついて行って結局進展しなかったってオチ?あはははは、滑稽だね!僕とは全然違うじゃん!僕はもうすぐ光輝君を手に入れられる!光輝君はずっと僕の王子様でいてくれるんだ!ずっと僕の味方でいてくれて、僕の聞きたい言葉だけをくれるんだ!」

 「……ずっと味方でいてくれるって……その騎士の人たちみたいに?」

 

 生気を感じない、まさに生きる屍と成り果てた騎士達を見つめながら香織が問うと、恵理はその通りと言わんばかりに手を広げた後、彼女はにんまりとした笑みを香織に向け、

 

 「そうだ。香織。いっそのこと僕と組まない?今ここでそいつらを殺すのに手を貸してくれたら、君だけは見逃してあげるよ。それだけじゃない。どうにかしてあの化け物を殺して、香織の物にしてあげるよ。悪くないでしょ?あれを君の好きなようにできるんだからさ」

 

 親友の想いを踏みにじるかのような言葉に雫の顔が怒りで歪み、ふざけるな!と叫ぼうとした瞬間、

 

 「お人形遊びで満足?恵理ちゃん」

 「…………なに?」

 

 香織から放たれた涼やかな声に雫は思わず気勢が逸れ、彼女に視線を向ける。恵理もまたニタニタとした笑みのまま固まってしまう。

 周りの生徒たちの視線も集まる中、香織はどこまでも静かに、穏やかに、言葉を続ける。

 

 「だってお人形遊びでしょ?自分の考えた言葉だけを話して、自分が思った行動だけをとって、自分の思い通りの展開しか起きない。そんなの、お人形遊びと何ら変わらないよ。恵理ちゃんの好きって、そんな事で満たされる程度なの?」

 「何だって……!?」

 

 逆に自分の想いをバカにされたと思ったのか恵理の顔が激情に染まるが、構わず香織は言葉を続ける。

 

 「私は神羅君の事が好き。だからこそ、私はいろんな事を考えるよ。神羅君は何が好きなのかな、何が嫌いなのかな、どうしたら私を好きになってくれるのかな、嫌われちゃうのかなって。一緒にどこに行こうかなとも、こう言ったらなんて言うのかな、どんな反応するのかなともね……まあ、最初の頃はちょっと都合のいい考えで動き過ぎてたけどね」

 

 香織は自嘲するような笑みをこぼしながらさらに言葉を続ける。

 

 「そうやって、いろんなことを考えるから不安になるし、怖くもなる。でもさ、好きって、そう言う物じゃないの?怖くて、不安で、だからこそ、通じ合った時、嬉しくなって、幸せになれる。そしてもっともっとって欲しくなっちゃう。もっと好きになりたい、もっと好きになってほしいって。でもさ、恵理ちゃんのはさ、そうはならないよね。だって全部恵理ちゃんが言わせて、やらせてるんだから。だからどんなに頑張ってもどこにも行けない一人遊び(・・・・・・・・・・・・)でしかない。そんな終わった関係(・・・・・・)で、恵理ちゃんは本当に幸せになれるの?」

 「んっ………だ………と………!」

 

 どこか恵理を案じるような眼差しで問いかける香織に恵理の顔が激情に染まるが、構わず香織は続ける。

 

 「たとえどうなろうとも、私は神羅君を都合のいい人形になんかしたくない。それは神羅君の事が好きなんじゃないから。だから私は、どんな選択であろうと、それは神羅君の意思で選んでほしい。それは全て、神羅君が私だけにくれたものだから。だから貴女の提案を私は許さない。そして、貴女のやったことも許す事はできない。」

 「……そんなの………負け犬の遠吠えだ………」

 「そうかもね。でも、それも悪くないよ?だって、もしも神羅君が私を振ったら私は傷つく。その傷は神羅君が私と向き合って、私だけにつけてくれた傷だしね。そして、神羅君も初めて振った女の子として私を覚えてくれるかもしれない。それは私が、神羅君に傷をつけたのと同じだしね」

 

 そう言って微笑む香織を見て、周りの生徒たちの顔は引きつってしまう。

 

 「か、香織っち……結構、愛が重いんだね………」

 「髪を切った時から何となくそんな気はしてたけどね……ま、相手は怪獣よ。それぐらいじゃないと足りないのかもしれないけど」

 

 優花が苦笑を浮かべながら肩をすくめる前で、恵理の顔は激情のあまり顔色は赤を通り越して白く染まり、言葉にならない唸り声が漏れる。だが、彼女は奥歯を砕こうとするほどに噛み締めてそれを押さえつけると、香織を見下すような視線を向け、

 

 「………あ~、あ~、そうかい。折角誘ってあげたのに、そうやって僕の想いをバカにして、下に見るんだ……………だったら今ここでその想いをぐちゃぐちゃにしてやる!!死体たちで見る影もなく弄んで、檜山のオモチャにしてやるよ!!」

 

 恵理が吠えると同時に騎士達の攻撃が激しさを増し、結界が激しく軋みを上げ、リリアーナが苦悶の声を漏らす。

 それでも香織は取り乱さず、杖の石突で地面をたたく。その瞬間、広がった魔法陣から無数の菫色の鎖が現れ、ジャラジャラと音を立てる。更に、虚空から次々と先端が矢じりのようになった黒い鎖が現れると地面に打ち付けられ、蛇のように鎌首を持ち上げる。

 無詠唱で魔法を使った香織を生徒たちが驚いたように見つめる中、香織は真っ直ぐに恵理を見やり、

 

 「行くよ、恵理ちゃん……!」




 本当は戦闘シーンまで行きたかったけど、キリがいいのでここまでにします。
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